超かぐや姫を視聴して以降色んな曲を聴いてはかぐやの物語に重ねて心にダメージを負っています。
ちなみにこの二次創作にイメージソングをつけるならじんft.メイリアの「daze」かBUMP OF CHICKENの「Hello,world!」かなと思っています。
それでは本編です、感想評価など励みになりますのでよろしければお願いします。
「輝ー! あそこの卓の料理どうだ!?」
「あと焼き上がり待ちです! もうそろそろなんでオーブンから持ってってください!」
「輝君ごめん! こっちのパフェは?」
「完成しました! 配膳お願いします!」
「ごめんなさ〜い! パスタひっくり返しちゃいました〜!」
「反省は後! 東さんは酒寄先輩とお客さんに謝ってきて! 店長、今のお客さんお詫びに1品サービス付けときますね!」
「まかせたよ月村君!」
夏休みシーズン到来。
普段いるはずのない時間帯に学生客が訪れるようになったBAMBOO cafeで俺は今日も厨房を回し続けている。
いや本当にキツイ、最低でも普段の倍は忙しい。忙しすぎて逆に笑えてきた。
なんでこんなクソ暑い時にハンバーグとかパスタとか頼むんだよ、頼むからパフェとか期間限定のかき氷とかを注文してくれ、ガスコンロの熱気と向き合わずに済むから。
そんな厨房担当特有の呪詛をホールに送りながら勤務を乗り切る。
部活にも所属してないのでバイトと宿題が俺の夏休みを彩ると思われたが、そんな生活にもあるひとつの変化があった。
「かぐやっほー! 月からやってきたかぐやだよー!」
「どうも、アシスタントのぽこべぇです」
「今日はぽこべぇと一緒にこのゲームで遊んでくよー!」
そう、かぐやのライバー活動の手伝いである。
ヤチヨのライブ後、宣言通りかぐやはライバー活動を開始し、毎日精力的に配信を行っている。
そしては酒寄先輩はプロデューサーとしてかぐやのための楽曲の作成、俺はアシスタントとして配信の手伝いをすることになった。
「あっ、そのタイミングで隠れたら──」
「ぎゃあああ!! なにこいつ! タンスの扉こじ開けてきたんですけど!?」
画面の中ではブルーベリー色の化け物にかぐやの操作するキャラクターが襲われてゲームオーバーを迎えていた。
うんうん、初見だと結構怖いよねあのシーン。
「あははは! タンスに隠れる前に部屋に入られるとそうなるんだよ。ドンマイ!」
「先に言ってよ! マジ許せねーあの化け物! もう1回!」
かぐやの配信に軸となるジャンルは存在しない。
そのかわり、自分が面白そうと思ったものにはためらいなく挑戦し、それがリスナーたちを惹きつける魅力となっている。
「今日はいろPに作ってもらった新曲歌いまーす! いろP、伴奏よろしくぅ!」
「もう、1曲だけだからね」
ある時はツクヨミ内で先輩との路上ライブ。
「かぐやシェフ、本日のお料理はなんでしょうか?」
「今日はいつも頑張ってるいろPのために、最強のビーフシチューを作るよ!」
「あのー、かぐやシェフ? 食材の量が想定より多いんですけどこれは?」
「デミグラスソースから作るんだ! まずは元になるエスパニョールソースから!」
「耐久配信始まったなぁ……」
ある時は現実で俺を巻き込んでの超手の込んだ料理動画。
最近では美容系インフルエンサーのROKAこと芦花さんや、グルメインフルエンサーまみまみこと真実さんともコラボ活動を行っている。
そんな友人たちの後押しを受け、ヤチヨカップ8000位から始まったはずのかぐや・いろPチャンネルはあっという間に500位に急上昇を遂げていた。
「うおー! 優勝までまだまだたりなーい!」
しかし無名の新人からのスタートと考えれば快進撃もいいところなのだが、当のかぐや姫はまるで満足していない。
毎日優勝のためにどうすればいいのかと頭を悩ませては狭いアパートの中をのたうち回っているのがここ数日の見慣れた光景だ。
そうして人生で一番賑やかで慌ただし夏休みを過ごすうち、とうとうその日はやってきたのだった。
***
「輝、配信でKASSENやるから教えて!」
夏休みも2週間目に差しかかろうかというある日、俺の部屋に来るなり眩しい笑顔でかぐやは言った。
とうとうこの日が来てしまったか。
いや、初めからわかっていたことだ。ツクヨミで活動する以上かぐやもいずれKASSENに興味を持つだろうと。
わかってはいたのだが──
「あーうん、KASSENね。いいんじゃないかな。でも教えてもらうなら俺より先輩の方が……」
「彩葉も同じこと言ってたよ。『月村君は元プロだから私に教わるより絶対いい』って」
既に逃げ道が塞がれていた件について。あの人自分が面倒だからってこっちに丸投げしやがったな。
「プロってめちゃくちゃ上手い人のことでしょ。そんな輝に教えてもらえば、かぐやもたちまち上手くなってバズっちゃうかも!」
「いやぁどうかな、KASSENやってるライバーいっぱいいるしそんな簡単にいくかなぁ……」
「でもコメントで『かぐやちゃんのKASSEN配信みたい』ってオタクたちも言ってるよ!」
リスナーのことオタクって言うのやめんかい。
──正直人前でKASSENをプレイするのはまだ怖い。どうしてもあの時のことが頭をよぎるからだ。
変にフラッシュバックを起こして配信に迷惑をかけるわけにもいかない。かぐやには悪いが、今回ばかりは断らせて──
「ねぇ輝、おねがーい☆」
「……ま、まぁ、軽く教える程度なら」
「やったー! じゃあ明日、明日やろう! うっひょー楽しみー!」
断ろうとした、今回は手伝えないって。でも実際に口から出た言葉は、本来の思いとは真逆も真逆。
なんなんだよまじで、上目遣いでウインクとかやめろよ、かぐやのくせに無駄に美少女発揮しやがって。
だが引き受けてしまったものは仕方がない。腹を括れ月村輝。
あ、でもこれだけは先に言っておかなきゃな。
「かぐや、1つだけ条件がある。俺が元プロって話は絶対しないでくれ」
「え、なんで? すごいことなのに秘密にするの?」
「色々理由があるんだよ。ちなみに、約束守れなかったら色々あってヤチヨカップ優勝できなくなります」
「守る! 絶対守るから! だから一緒にやろっ!」
よし、最低限の釘は刺した。勢い任せなかぐやのことだからいつかは漏らすかもしれんが、その時はその時。
宮本ジュウベイの汚名でチャンネルの勢いを止めるわけにはいかない。最悪の場合配信から完全に身を引けばいいだけだ。
──なんだかんだ楽しんでやってたから、そうなりたくはないもんだがな。
***
「かぐやっほー! 今日はぽこべぇと一緒に初めてのKASSENプレイしていくよー!」
そして迎えた次の日、大勢のリスナーに見守られる中でのKASSEN配信がスタートした。
さすがに今一番人気のゲームをプレイするだけあって、リスナーの数も普段より割増に多いようだ。
いかん、トラウマとか関係なく緊張してきたかもしれん。
「実はぽこべぇってこのゲーム超上手いんだ! みんなビックリしちゃうかもよ〜」
「勝手にハードル上げんでくれ。初心者になら教えられる程度ってだけなんで、お手柔らかにお願いします」
ほんと下手に持ち上げるのやめてねかぐやさん。
いや、あまり難しく考えるのはよそう。今日やることはただの初心者講座だ。
今後かぐやが1人でプレイできるだけの知識さえ与えてやればいいだけなんだ。俺も肩肘張らず気楽にやろう。
「とりあえず、最初はどの武器使うかってところからだけど。まずは一通りの武器触ってみるか?」
「ふっふっふっ、実はお昼の配信でリスナーと一緒に武器作ってきたんだ! かぐやにピッタリだってお墨付きだよ」
そういえば昼間になんか配信してたな。バイト中だったから確認してなかったけど、どんなのを作ったのかね?
「じゃーん! かぐや特製ハンマーだよ! かっこよくない?」
「……なにこれ?」
竹の幹を束ねた槌部分から柄が伸びており、確かにハンマーに見えるが、なんだこれ、噴射口みたいなの付いてないか?
「あ、ぽこべぇ気づいたね。実はここからジェット噴射ができるのと、ロケットランチャーにも変形できるんだ!」
「昼間の配信に参加してたリスナーちょっと出てこい! 誰だこんなゲテモノ武器提案したやつは!」
『デカくて強い武器がいいって言うから……』
『良いっしょブーストハンマー、かぐやちゃんにピッタリじゃね?』
『ロケラン提案しました! 後悔はありません!』
「趣味とロマンに走りすぎだ! あんなもん初心者に扱えるわけ──」
「見てぽこべぇ、これジェット噴射で空飛べるんだけど! おもろー!」
「使いこなせるんかい!」
なんだそのハンマーにあるまじき機動力は。リスナーもここまでの使い方想定してなかったろ絶対に。
まぁ自作の武器を気に入ってるならそれに越したことはない。こういうのは性能より本人のモチベが大事だからな。
「じ、じゃあ後はルール説明だけど、今回のゲームモードのSETSUNAは至ってシンプル。1対1の戦いで制限時間内に相手の体力を削りきった方が勝ちってルールだ」
「おー、分かりやすい」
「細かいルールも色々あるが、後は実際にやってみるのがいいだろ。とりあえずCPUと戦ってみな」
ウインドウを操作して練習用のCPUを出現させる。最高レベル10まで設定できるが、とりあえず中間の5でいいだろ。
「ハンマーのコツってなんかないの?」
「とにかく攻めろ。守りに入ったハンマーは強みの全てを失う。相手の攻撃ごと叩き潰す気で行け」
「ほぇー、ぽこべぇちゃんと先生みたい」
「お前が先生役で呼んだんだろがい。はよ行け」
ラウンド開始の合図と同時にCPU戦が始まる。レベル5ならゲームに慣れてない初心者には少し手強い相手になるだろうが、正直試合結果の予想はついていた。
「おりゃー!!」
ジェット噴射を利用した振りの速い連撃がCPUをボコボコに打ちのめしていく。そうしてラウンド開始からわずか10秒程でCPUの体力は底をついていた。
「いぇーい、楽勝! かぐやちゃんやっぱ天才かもー!」
思った通り、KASSENにおけるかぐやのセンスは抜きん出たものがある。こりゃCPU戦じゃレベル10でも相手にはならんだろうな。
「実際初心者とは思えんくらい上手いから胸張っていいぞ」
「これはぽこべぇ先生に勝っちゃうのも時間の問題かな〜?」
「はいはい、すぐに調子に乗るんじゃないの。けどこっからどうするかな、思った以上に飲み込みいいし、何教えたもんか……」
いっその事ランク戦にでも放り込んでみようかなどと考えていると、あるコメントが目に入った。
『そもそもぽこべぇってどのくらい上手いの? 実際は下手なやつがかぐやに教えてるとかだったらやめてほしいんだけど』
「……なんか変なやつが湧いてきたな」
「いやいや、ぽこべぇは上手だよ。まぁ私も実際プレイしてるとこ見たことないんだけどさぁ……」
そして無意識に火に油を注いだよこのおてんば姫は。案の定コメントでは懐疑の嵐が巻き起こってやがる。
『見たことないって実際は下手なの隠してるんじゃない?』
『先生役なのにプレイを見たことない、妙だな……』
『教えるだけなら実力関係なくね?』
『これは審議が必要ですねぇ』
「あ〜、どうしよぽこべぇ、このままだとヤバいかも……」
「悪化させたのお前なんだけどな。ふむ……」
自分の推しが下手くそに、もっと言うなら自分以下の実力のやつに教わってるのが気に食わない。
KASSENプレイヤーのオタクなら大なり小なり考えそうなことだ。だからこそ収める方法も単純でわかりやすい。
「かぐや、少しだけ時間貰っていいか?」
「いいけど何するの?」
「最初にコメント送ってきたヤツ、ルーム解放するから入ってこい。対戦してやるよ」
至極簡単な話だ。実力に疑問を持たれたなら実際に示してやればいい。
程なくしてルームに1人のプレイヤーが現れる。ランクを確認してみれば、上位10%以内に属する実力者だった。
「いらっしゃい。すげぇランク高いな。他人の実力にどうこう言うだけはあるよ」
「そういうお前はランクが低いな。というかログを見るに、ここ一年まともにプレイしていないようだが?」
「色々あってKASSEN休業中だったのをそこのお姫様に引っ張りだされたのよ。ほんと嫌んなるわ〜」
「ちっ……」
わざとらしくヘラヘラとした態度を取ると盛大な舌打ちをかまされた。多少煽りが強かったが、前置きとしちゃ十分だろう。
「こちらが勝ったらお前にはかぐやのKASSEN配信から降りてもらう」
「なんだよ案外欲のないやつだな。ならもう1つオマケだ。お前が勝ったら
「なっ!?」
「ちょっとぽこべぇ!?」
「あ、そうそう、こっちの見返りは気にすんな。どうせ負けねぇから」
相手の形相が怒りに歪み、そのまま臨戦態勢へ移るとカウントダウンが開始された。
手にした武器は槍、対してこちらは何の変哲もない打刀。武器相性だけで言うなら圧倒的にあちらの有利だ。
──だからどうしたという話ではあるのだが。
「さてかぐや、ここで1つ問題だ。こういう明らかに間合いで有利を取られている武器が相手の時はどう戦うのがいいと思う?」
「えっ、うーんそうだなぁ……」
「余所見とはいい度胸だな!」
気迫のこもった突きがこちらに向かう──が、これはフェイント。槍が動きを変え、本命の下段払いを最小限の足の動きで回避する。
「攻撃かわして、隙を見てドーン!」
「いいねぇ、100点満点の答えだ。けどな、実はどんな時にも通用する200点の答えがあるんだよ」
「はぁっ!」
繰り出される胴薙ぎは後ろに跳び、続く突きを半身になることでかわす。こちらの余裕な様子に相手は明らかな苛立ちを募らせていた。
「どんな武器が相手でも、どんなに相性が不利でも通用する200点の答え、それは──」
「さっきからごちゃごちゃと! 舐めるなァ!!」
「──相手の攻撃を全てパリィすればいい」
相手が
「──は?」
「お疲れ、やっぱりあんた強いよ」
渾身の一撃を防がれ、さらけ出された無防備な体に意趣返しの三段突きを放つ。
心臓、喉、脳天に叩き込まれた攻撃は、反撃の余地すら与えることなく相手の体力を削りきった。
「どうよ、ちったぁ先生のこと見直したか?」
「〜〜っ! ぽこべぇすごーい! 最強すぎ!」
惚けた状態から一転、興奮冷めやらぬといった様子のかぐやはしきりに俺の周囲を飛び跳ねて周った。
久しぶりのアキラさん以外の人との対戦に内心少し不安もあったが、先生としての威厳はなんとか保てたようだ。
「リスナーの中にまだ納得できないやつはいるか? あともう2、3人なら相手してやるけど」
『ごめんなさい許してください』
『ナマ言ってすんませんした!』
『俺は最初から気づいてたけどな。それはそうとこれからはぽこべぇさんと呼ばせてください』
『即 落 ち 2 コ マ』
「よーし、いい子だ」
派手にかましてやったおかげでリスナーも素直に受け入れてくれた。これで心置き無く先生役を続けられる。
こうして初回のKASSEN配信は想像以上の盛況で幕を閉じるのだった。
***
「ハハッぶっ壊れてんなぁ」
モニターと七色に光るゲーミング箸だけが光を放つ部屋の中、1人の青年が愉快そうに笑った。
画面に映るのはこの日行われたかぐやのKASSEN配信。
この日もここ最近推しになりつつある彼女の配信を青年は視聴していたのだが、この時注目していたのはかぐやではなくもう1人の存在だった。
「最速レベルの攻撃を3連ジャストパリィ、そんな芸当出来るやつがそうゴロゴロいてたまるかよ」
タヌキの着ぐるみというふざけた格好から繰り出された絶技、たったこれだけで青年には着ぐるみの正体がわかっていた。
「どういうきっかけかは知らねぇけど、戻ってくんのが遅すぎだ。なぁ、ジュウベイ」
そう言って青年──