本当は15000字ぐらいは伸びそうだったのですが、長すぎるのもどうかと思い前後編に分けることにしました。一気に読みたいって思った方がいたらごめんなさい。
さてここでひとつ今更な前置きなのですが、この作品は超かぐや姫映画本編及び小説版と公式ガイドブックの情報を元にして、そこから更に作者の妄想や多少の時系列の組み換えなどを加えながら書いています。
作品タグにもあるように基本原作に沿った流れで書くことに変わりはありませんが、多少改変されてる部分があることをご理解いただければと思います。
前書きが長くなりましたが、それでは本編をお楽しみください。
感想、評価などいたただけると励みになりますのでよろしくお願いします。
「あ"ー……あっちぃなぁ……」
時刻は午前9時、俺はある人との待ち合わせのために立川駅に来ていた。
この日はかぐやが酒寄先輩と芦花さん、真実さんと海水浴に出かけており、珍しく完全フリーな1日だったのだが、そこで珍しく今日の待ち人からお声がかかったのだ。
「悪い、待たせたか?」
「いやいや時間ピッタリですよ。
やってきたのは酒寄朝日さん。俺がプロゲーマーになる前からお世話になってる人で、あの帝アキラのいわゆる中の人である。
「朝日さんなんか雰囲気変わりました? 前より明らかにオシャレになってる気がするんですけど」
「最近は乃依のやつが服にも気をつかえってうるさくてさ。今日の服も全部あいつが選んで買ったやつなんだよ」
「あー、目に浮かびますね」
さすがは黒鬼アイドル活動の発起人、現実でのメンバーのプロデュースにも余念が無いと見える。
「そういえば、今日ってこの後どうするんですか? 朝っぱらから呼び出した割には目的も行先も教えてくれませんでしたけど」
「どうしても付き合って欲しい場所があってな。とりあえず行こうぜ」
「はぁ……」
せめて行先くらいは教えて欲しいもんですがね、そんな言葉を飲み込んで歩き出した朝日さんに続く。
普段インドア派のはずのこの人がわざわざ人を付き合わせてまで行きたい場所。まるで検討がつかないが、今は大人しく着いていくしかないだろう。
はてさて、一体どんな場所なのやら。
***
「いらっしゃいませー! 2名様ですね、こちらのお席へどうぞ!」
「思ったよりすんなり入れたな。さて、何から頼んだものか」
「……あの、朝日さん、ここは一体?」
あれから電車を乗り継ぎ、やってきたのは秋葉原のとある商業施設、その一角にあるカフェに俺たちはいた。
ここでは定期的にアニメ作品を始めとするサブカルチャーとのコラボカフェが開催されている。
それは俺もよく理解しているのだが──
「ふっ、今このカフェでは人気急上昇中の新人ライバーかぐやのコラボが行われている。今日はその限定グッズを手に入れるためにお前を呼び出したのさ」
コラボ対象が見知った顔すぎる!
配信を開始してからしばらく経ち、かぐやはツクヨミ内外でもかなりの人気を博するライバーとなっていた。
その影響でこのコラボカフェやグッズ展開などが行われているのはもちろん知っていたが、まさか朝日さんまでかぐやを推していたとは思わなかった。
というか──いやまさかな、そんなはずはないだろう。今はとにかく当たり障りのない会話をしておけば問題ないはずだ。
「最近人気ですよねこのかぐやって子。俺もちょいちょい配信見てますよ」
「おいおい何他人事みたいに言ってんだよ。かぐやちゃんの人気と魅力はお前が一番よくわかってんだろ」
「……なんのことでしょう?」
「まだとぼけんのか。ならこう言った方が早いか、
バレてんじゃねぇか!
まさかとは思ったが、この人やっぱぽこべぇの正体気づいた上でここに連れてきやがったな。
「……ちなみにバレた原因は?」
「かぐやちゃんの初KASSEN配信。見るやつが見ればあの連続パリィで気づくって」
あれかぁ。確かにかぐやがいた手前カッコつける意味も込めてやったが、あのワンアクションでバレるとまでは思ってなかったな。
しかし百歩譲ってそれはいいとして、何が目的でここに連れてきたんだ?
「目的? 特に無いけど」
「何もないんですか? いや、万が一にもあなたが脅しなんかするとは思えませんけど」
「やる理由もないしな。ここに来たのは完全に推し活のためだし。ただ、お前とちゃんと話がしたかったってのはあるな」
「話ですか?」
「どうだ、今の生活は楽しいか?」
そう問われ、ふと今日までの日々を振り返ってみる。
ある日現れた謎の赤ん坊、3日間の必死の子育て、あれよという間に成長していったかぐや、そして始まったアシスタントとしての日々。
最初から今までずっと振り回されっぱなし、きつい、しんどいと思ったことも多々あった。
でも1つだけはっきりしていることは
「ええ、今は毎日が楽しいです。それこそプロをやってた頃と同じくらいには」
「……そうか。確かに、今のお前はいい顔してるよ」
「……注文しましょうか。限定グッズコンプリートまでお付き合いしますよ」
「言ったな、後で後悔すんなよ?」
「育ち盛りの胃袋舐めないでくださいよ。店員さーん、注文お願いします!」
今日のような突然の誘いも含め、プロを辞めたあの日から、ずっと朝日さんは俺のことを気にかけてくれていた。
だからせめて、推し活の手伝いくらいはしっかりお礼として返さないとな。
そんな思いを胸に、グッズ付きのメニューを片っ端から注文した。
余談だが、先に胃袋が限界を迎えたのは朝日さんの方で、頼んだ料理の7割は俺の胃に収まることとなった。
***
──とある匿名掲示板にて──
【告発】
かぐや・いろPチャンネルの「ぽこべぇ」元プロゲーマー〇〇〇だった
1:匿名 スレ主
ぽこべぇって去年引退したプロゲーマーの「宮本ジュウベイ」だろ
なんであいつがかぐやの隣に居座ってんの?
2:匿名
>1 適当乙
なんか証拠でもあんの?
3:匿名 スレ主
>2 証拠はかぐやの初KASSEN配信
槍のウルトを全部ジャスパで返すとかどう考えてもやってるだろ
4:匿名
宮本ジュウベイについて全く知らんから3行で説明してくれ
5:匿名
4> 2年前にKASSENプロゲーマーとしてデビュー
1年であの帝アキラを抑えて個人最強プレイヤーになる
去年やらかしてプロゲーマー引退
ちな当時まだ中学生やったらしいぞ
6:匿名
5> サンガツ
めちゃくちゃ天才やないかい
そんなやつが何やらかしたら1年でプロ引退するんや?
7:Yachi8000
3> 情弱乙
あの引退に関してジュウベイに落ち度はないから
公式からもちゃんと声明が出てる
そもそもぽこべぇ=ジュウベイの証拠がないだろカス
8:匿名 スレ主
7>信者乙w
ちな俺は元プロであいつと同じチームに所属してた
動きのクセとかも変わってないから間違えるわけない
9:匿名
よくわからんが結局何をやらかしたんや?
10:匿名 スレ主
9>決まってるだろ
公式大会でチート使ってたのがバレたんだよ
その影響で俺たちはプロを辞める羽目になった
そんなあいつが人気ライバーの隣でのうのうと楽しそうにしてるのが許せない
全部ぶっ壊して終わらせてやる
***
「彩葉、輝助けてー! このままじゃかぐや結婚しないといけないの!」
これが事の発端だった。
かぐやが突飛な事を言い出すのはもはや日常と化していたが、詳しく話をかぐやが俺たち聞いてみるとこうらしい。
いつも通りの雑談配信に求婚コメントが殺到する
↓
モデレーターいろP、該当コメントを消して回るも収集つかず
↓
ここで名案(迷案)を閃いたかぐや、『かぐや争奪KASSEN選手権』と題して企画をぶち上げる
↓
俺と酒寄先輩がかぐやを守るナイト役として駆り出される←今ココ
とまぁここまでならいつも通りかぐやが俺と先輩を振り回してるだけだった、だったのだが──
「先輩、このバカ騒ぎは一体なんなんですか?」
「知らん。私もここまで大規模な企画になるなんて聞いてないよ」
俺たちが今いるのはツクヨミ内にあるアリーナ、その控え室である。
室内には現在の観客席の様子が映し出されているが、ほとんど空席が見られないほどに人で埋まっている。
確実にかぐやだけの仕業じゃない。一体誰がこんなこと仕組んだんだ?
「それについては!」
「僕たちから説明しよう!」
突然控え室の扉が勢いよく開き、2人分の声が部屋に飛び込んでくる。
振り返るとそこに居たのはツクヨミユーザーなら誰もが知る有名人、というかがっつり知り合いだった。
「オタ公さん、
「いろPは真面目だなー。さんなんてつけないでオタ公でいいって」
「僕のことも気軽にテルさんでいいいよ。ぶっちゃけ呼びづらいでしょ」
「あ、ありがとうございます。それで、なんでおふたりがここに?」
「かぐやがお願いしたんだ!」
オタ公とテルさんの後ろからひょこっと顔を覗かせたかぐや。お願いしたって、そもそもこの3人はどういう繋がりなんだ?
「かぐやとはこの前の『ヨミクイ』に出演してもらってからちょくちょく連絡取り合っててね。そしたら今回面白い企画をするって言うから、テル君も巻き込んで盛り上げちゃおうってなったわけ」
ヨミクイとはオタ公とテルさんがMCを務めるツクヨミの人気バラエティ企画だ。
その一度の機会で仲を深めるあたりさすがというかなんと言うか、かぐやの人を巻き込む力は天井知らずなんじゃないかとすら思えてきた。
「あと、オタ公さん……オタ公はかぐやの初めての路上ライブの時から見に来てくれてたんだよ」
「これでもかぐやの最古参勢を自認してるからね。MCとしてはご法度だけど、個人的にはかぐやのヤチヨカップ優勝に期待してるし、少しだけ肩入れしちゃったんだ」
「なるほど、そういう事だったんですね」
まさかの私情全開である。だがヤチヨカップ優勝を目指す上ではこの上ない追い風だ。アシスタントとしてはこの流れに乗らない理由はないだろう。
「本番15分前です。皆さんアリーナへ移動お願いします!」
「わかりました。じゃあ移動しよっか」
「あっ、ごめんねいろP、かぐやとテル君と一緒に先行っててくれる? 進行上のことでちょっとぽこべぇと話があってさ」
「じゃあ僕らは先に行ってようか」
「? わかりました。行こうかぐや」
「わかったー。2人も早く来てね!」
控え室から先に3人が出ていき、俺とオタ公だけが部屋に残される。
──そりゃこいつが気づいてないわけないよな。たった1年間とはいえずっと付き合いがあったわけだし。
そして3人の足音が遠ざかり、口を開いたのはオタ公だった。
「……今までずっと、どこに行ってたのさ」
「いやぁ、引きこもって大人しくしてたんだけどさ、かぐやのやつに引っ張り出されたと言いますか……」
「……とりあえずその着ぐるみ脱いで。ちゃんと顔見せて」
「はい……」
先程までの明るい表情はどこへやら、オタ公の声は明らかに怒っているのに今にも泣きそうな顔をしていた。
これに関しては全面的に俺が悪いので大人しく着ぐるみのスキンを解除する。
引退してからこの姿を見せるのはアキラさん以外では彼女がはじめてだった。
「みんな心配してたんだよ。私も、テル君も、黒鬼のみんなも、他にも沢山の人が」
「……」
「ジュウベイは何も悪くなかったのに、なんで誰にも頼らず、何も言わずに、独りでいなくなっちゃったの?」
「……みんなには本当に感謝してる。いなくなったのは、単に俺が弱かっただけだよ。ごめんなオタ公」
「……そろそろ時間だ。終わったら全部話してもらうから。今度は絶対に逃げないでよね」
オタ公が控え室を出る。誰もいなくなった部屋の中で深いため息をついた。
「……リスナーにバレるのも時間の問題かな。できればヤチヨカップが終わるまでは続けたいけど」
宮本ジュウベイの存在が明るみに出た時には潔く身を引く。アシスタントとして活動を始めた時から心に決めていたことだ。
そう、心に決めていたはずだった。
「いつの間にか大分未練ができちまったなぁ……辞めたくねぇなぁ……」
吐いた言葉を押し込めるように着ぐるみを着直す。アリーナに向かう足取りは、鉛のように重くなったような気がした。
***
『さぁ始まりました注目の企画! かぐや争奪KASSEN選手権! 本日実況を務めます忠犬オタ公と』
『解説の乙事照琴です!』
『企画の内容は至ってシンプル。かぐやのプロデューサーであるいろPと、アシスタントのぽこべぇ、2人とSETSUNAモードで対戦し勝利すれば、なんとかぐやと結婚する権利が与えられます!』
『実際は勝者にかぐやからの結婚シチュボが与えられるとの事です。さすがに本気の結婚は重いですからね! 勘違いしないように!』
『さぁ、事前募集によって集まった総勢20名のプレイヤーは見事この権利を手にすることができるのか! お前ら、気合い入れてけぇ!』
オタ公の煽りにつられて雄叫びをあげる挑戦者たち。何人か目が血走ってて怖いんですけど。
「いろP、ぽこべぇ頑張れー!」
「我らがかぐや姫は呑気なものですねぇ」
「なんで私がこんなこと……さっさと終わらせて帰りたい」
「そう言う割には随分真剣なご様子に見えますよ、いろP」
「宇宙人を野に放つわけにはいかないってだけ……別にかぐやのためとかじゃないから」
「何か言いました?」
「なんでもない! 私が先鋒で出でるから、負けた時はよろしくね」
「ではそのように。ご武運をお祈りしています」
「……さっきから何その喋り方? なんかのキャラの真似?」
「いやぁ一応ナイト役なんでそれっぽい口調にと思いまして」
「真面目にやって! 絶対勝つよ」
「うす!」
『かぐや陣営も気合い十分のようです。それでは、1人目の挑戦者の入場です!』
***
そうして始まりを告げた選手権はある意味予想外の展開を迎えていた。
『おおっといろP! これでまさかまさかの19連勝! 勢いが止まりません!』
『まさにプロ顔負け! いろP強スンギww』
気づけば先鋒の私だけで連勝を重ね、残す挑戦者もあと1人となっていた。
頭も冴えてるし、操作精度も抜群、今ならプロゲーマーにすら勝てるかも。
普段の私ならありえない考えが浮かぶくらいには、今の私は絶好調だった。
『それでは最後の挑戦者の入場です! いろPが全てを蹴散らすのか、挑戦者が一矢報いるのか、注目の1戦です!』
ステージに新たなプレイヤーが現れる。平安武者を思わせる鎧を纏って顔を能面で隠し、その手には太刀と短筒が握られていた。
「いやー本当に強いないろPは。企画に参加したのちょっと後悔してますよ」
「なら降参するって手もあるけど? 正直私もそっちの方が楽だし」
「いえいえ、降参だなんてとんでもない。最後まで頑張らせていただきますよ」
──構えを見ただけで何となくわかった。この人は今日集まった挑戦者の中で一番強い。
『勝負、始め!』
システムが開始の合図を告げると同時に相手の懐に詰め、双剣を連結。ブーメラン形態のリーチを利用して切りかかった。
「おっと! 危ない危ない」
「くっ……」
挑戦者は攻撃をひらりとかわし、牽制のために短筒を連射する。見た目は火縄式の銃だが、ハンドガンと同等の連射力は備えているらしい。
「今度はこっちから行きますよ!」
言葉と共に挑戦者が切りかかる。ブーメランを双剣へと戻し切り結ぼうとするが、的確に差し込まれる射撃で動きが阻害され、徐々に圧されるようになってきた。
「あれ、思ったより手応えがありませんね。連戦でお疲れなら降参する手もありますよ?」
「はぁ……はぁ……お気遣いドーモ」
ジリジリと、だが一方的にこちらの体力が削られていく。
戦ってみてようやく理解した。この人は恐らくプロ、もしくはそれと同等の実力者だ。
さっきまでの自惚れた自分を殴りたくなる。このままではまともなダメージを与えられないまま私は負けるだろう。
──それならそれで仕方がない。この人は確かに強いが、後ろに控えている月村君以上だとは思えない。
何も無理に勝ちに行く必要はない。そもそも最初から乗り気じゃなかったんだ。できる限り粘って後ろに繋げばそれで私の役割はおしまい──
『彩葉ぁ! 負けんな──!!!』
──実況席から、まとわりついた重い空気を切り裂くような声が聞こえた。
本当にいちいち大声で叫ばないでほしい。ただでさえ通りやすい綺麗な声してるんだから、余計に耳が痛くなる。
まぁ、それはそれとして──
「お、まだやりますか? 正直勝負は決まったように思えますが」
「いやいや、降参なんてとんでもない。最後まで頑張らせてもらうから」
──KASSENプレイヤーの端くれとして、やられっぱなしは気に食わない!
駆け出すと同時に左手の剣を投擲、これはかわされて背後の壁に突き刺さる。
「やけくそですか? そんな雑な攻撃じゃ当たりませんよ」
「大きなお世話!」
勢いそのままに突貫、数合切り結んだ後にクナイ付きのピアノ線を射出、ワイヤーアクションで相手の背後に一度離脱し、再び切りかかる。
「一体何を……っ!?」
もう遅い。2つの剣を繋ぐピアノ線は巻き取りを開始した時点で、首筋に巻き付くように準備していた。
剣を防ごうとすればピアノ線により首が落ちる。ピアノ線を切ろうとすれば剣で斬られる。
短筒の射撃で私を倒すには最低でも3発は撃ち込む必要があるが、剣もピアノ線も3発目より速く相手に届く。
確実に獲った。これで私の──
「はぁ……うっざ。こんな雑魚に
──狙いは間違っていなかった。
ピアノ線と剣による二重の攻撃、攻撃が届くまでの速さと銃撃によるダメージ計算。そのどれもに狂いはなかった。
しかし、銃口が3度火を吹いた後、敗北していたのは私の方だった。
『け、決着! 勝者は挑戦者『
***
「あ"ー! 彩葉負けちゃった!? でもめちゃくちゃ惜しかったなー……あれ、どったのみんな?」
悔しさを露わにするかぐやとは対照的に、実況席には重苦しい空気が漂っていた。
最後のいろPと佐々木宗矩の攻防、あれは確実にいろPの攻撃が先に届くはずだった。
逆に言えば、佐々木宗矩があそこから銃撃で勝利を収めるなど、
実況者としてKASSENを多く見てきただけの私が気づいたのだ。元プロのテル君やあの腕前を持ついろPが気づかないわけがない。
何よりも──
「…………」
無言のまま、こちらの息が詰まりそうになるほどの怒気を放つ
深呼吸をひとつ、心を落ち着けから私は戸惑うかぐやに事情を話した。
「かぐや、落ち着いて聞いてほしいんだけど、今いろPと対戦した相手は多分チートを使ってる可能性がある」
「うぇ!? まじで!?」
「しかも使ってるのはおそらく、ツクヨミの自動検知に引っかからないハードウェアチートだね。ほぼ間違いなく黒と見ていい」
「何それ!? そんなんめっちゃ卑怯じゃん! あっ、そうだヤチヨ! ヤチヨを呼んで直接調べてもらおうよ!」
かぐやの言うことはもっともだ。ヤチヨならこの場で直接佐々木宗矩を調べ上げ、十中八九チートを検出することができるだろう。
ただ今は、今だけはそうすることができなかった。
「……ヤチヨは今動けない、と思う」
「思うってどういうこと!? こんな肝心な時に!」
「ヤチヨには活動限界時間があるんだ。52時間経つ毎に、自身のメンテナンスのために眠る必要がある。こんな状況で現れないってことは、おそらく彼女は今眠ってるんだと思う」
──少しだけ嘘をついた。
ヤチヨの活動限界についての情報は事実だが、私はとある事情から彼女の現在の状況を把握している。
今彼女は活動限界を迎えていない。でも、何度緊急コールを送ってもヤチヨは応えてくれない。
観客席も突然止まった進行にざわつき始めてきた。何かしらの決断を下さなければ企画そのものが破綻してしまう。
一体どうすれば──
「……もういいよ、オタ公。このまま試合を進めてくれ」
「ジュウベイ?」
「どのみちヤチヨを頼れない以上、アイツがチートを使ったっていう確たる証拠は見つけられない。だったらこのままあいつを倒して全部無かったことにするしかないだろ」
「それは……」
「いいのかい? この際はっきり言わせてもらうけど、全盛期の君ならともかく、ブランクのある今の君じゃかなり厳しい戦いになるよ?」
「承知の上ですよテルさん。それに、アイツは最初から俺に用があるみたいですから」
「……太刀と短筒、あの戦闘スタイルからまさかとは思ったけど、やっぱり彼の正体は──」
「……世間っていうのは本当に狭いですね。こんな所で、
「っ!?」
かつてのチームリーダー、ジュウベイは確かにそう言った。
だとしたらまずい、適当な理由をつけてでも今すぐに試合を中止すべきだ。
だってジュウベイにとって彼は──
「とにかくステージに行ってきます。オタ公、進行頼んだ」
──ジュウベイが心を壊すきっかけになった、最悪の人物だからだ。