第1話『天皇の啓示・東城洋介と西村美咲』
千葉県の住宅街の一軒家。そこに海上自衛隊一等海佐東城幸一の息子、東城洋介の家がある。
幼馴染の西村美咲によりピンポンとチャイムが鳴らされる。
「洋介、いるんでしょ」
「はーい」
TシャツにGパン、スニーカー姿の彼が出てきた。
「服が初期アバターじゃん」
美咲はころころと笑う。対照的に美咲はミニスカにニーハイ、パーカーといういかにも平成女児といういで立ちだ。
「この服が楽なんだよ」
時期は3月上旬、ふたりは小学校5年生である。卒業生でもないのにこの時間から会っているのは、風邪やインフルで学級閉鎖になっているからだ。
何して遊ぼうか、と話していた矢先、防災無線からびっくりするような放送が流れた。
『大地震が来ます! 大地震が来ます!』
「今日って避難訓練だっけ?」
「多分違うと思うけどな」
やがて遠くから地鳴りが響き、世界が揺らいだ。
美咲が洋介にしがみつき、洋介は美咲をかばう。
世界が揺れる。空も家も木も電柱も道路も。
西暦2011年3月11日、東日本大震災が発生した。
洋介の家に上がりこんだ美咲は、テレビの中継映像に衝撃を受けた。
東北の田畑や道路を、黒い禍々しい濁流が飲み込んでいく。
『何でここで中継を続けてるの、今到達してるよテレビ旭!』
津波だ。千葉県でテレビを見ている最中にも、数度の地鳴りが響き、また余震がやってくる。
洋介が大事にしていた宇宙戦艦のプラモデルが、床に落ち、細かい部品が飛散した。だが今そんなことどうでもよかった。
この世界にもしも神がいるのなら、東北の人たちを助けてあげてほしい。そう美咲は思う。
「これから、日本はどうなるんだ……?」
洋介は自然災害に畏怖の念を抱き、天を仰いだ……
《 令和日本神話 第一章「新世界秩序」 第1話『天皇の啓示・東城洋介と西村美咲』 》
時に西暦2011年。
世界的大恐慌の対応に追われた青梅一郎内閣総理大臣は衆議院解散総選挙の機を逃し、議席を失う。保守党は政権を追われた。
続く3年3ヶ月の民主党政権を保守党の元内閣総理大臣物部泰三は許せなかった。
天皇は天啓を受けた。
「多元宇宙全体に、危機が及ぼうとしています」
多元宇宙。マルチバースとも言うが、宇宙はひとつではない。様々な可能性が平行世界で描かれるのだ。
東日本大震災において、東北沖に時空の歪みが発生している。
天皇が語ったところによれば、日本神話の破壊神が神々のエレメントを求め、現代日本への攻撃を開始する兆候があるとのことである。
天皇がマルチバースの危機を察知したと言う情報は、宮内庁を通じて、親族に皇族がいる青梅一郎にリークされ、当時の内閣総理大臣船橋喜彦に対し、物部泰三は揺さぶりをかけた。
時に西暦2012年。
「17日に解散をします。やりましょうだから」
「総理それは約束ですね。よろしいんですね。よろしいんですね」
物部は、国会党首討論にて、船橋義彦に議員定数削減と引き換えの衆議院解散総選挙を迫り、解散を確約させ、議員定数削減を反故にした。
「日本を取り戻す!」
物部泰三は、衆議院解散総選挙に大勝。民主党から政権を奪い返した。
* *
第二次物部内閣の国土交通副大臣に秋津文彦衆議院議員がいるが、今の彼は、派閥の長老から利権の余りを受け取るだけの田舎議員に過ぎない。
関東で発生した豪雨災害から1週間、秋津文彦、国土交通副大臣は、官僚や自治体職員を引き連れ、氾濫地域の視察にあたっていた。
「ひどいものだ」
国土交通副大臣は忙しい。担当者に促され、黒塗りのワンボックスか乗り込もうとする。
「おい、そこのおっさん!」
怒鳴った少年は本田悠斗。父親こそ不明なれど、日本教職員組合の母親のもとで成績優秀として知られる中学1年生だ。
「お偉いさんを見てるだけでいいから楽ですね。少しは手伝ったらどうですか」
地域の年寄りが茶を吹き出す。
言ってしまった。年寄りが悠斗の幼い義憤を止めようとしたが遅かった。
警備担当者がじりじりと歩み寄ってくる。国家権力の前に少年の怒りは排除されるのか。
「待て」
秋津文彦が声をかける。
「その子の言う通りだな。実際に体験しないとわからないものだな」
社会に吠えた少年と副大臣。 2人は仲良く作業の泥にまみれた。
タオルで汗を拭く文彦に悠斗が正面から向き合う。
「秋津副大臣、弟子にしてください!」
「は、はあ??」
本田悠斗はのちに秋津悠斗と名を改める。彼こそが後の最年少内閣総理大臣である。
一方、悠斗とは異なるアプローチで政治に関心を持つ者がいた。
彼の名は玉川芳彦。政治団体を率いて物部政権と芸能界の癒着に異を唱える者である。
玉川芳彦は、驚くべきことに足利家の末裔、斯波氏の子孫である。彼こそ斯波高義と名を改め、秋津政権の副総理兼財務大臣となる少年だ。
* *
天皇の天啓により、国家機密漏洩防止のため、平和安全法制が施行されている。国家安全保障会議もその一つだ。
2015年のある日、内閣総理大臣物部泰三は国安全保障会議を開いていた。
出席者は物部と青梅に加えて、平和とお好み焼きを愛する外務大臣岸本勇雄、航空自衛隊戦闘機パイロット出身の荒垣健防衛大臣である。さらに羽賀信義内閣官房長官が加わる。もちろん関係各省庁官僚も出席する。
総理大臣が議長となり、会議は進む。
岸本勇雄外務大臣の地元では、戦時中に建造が途中で放棄された改大和型戦艦
の改修工事が極秘裏に進められている。
モジュールは船舶で横須賀に運び込まれ地中で偽装しながら海上自衛隊護衛艦やまととしてよみがえらせるという遠大な計画だ。
護衛艦やまとには、動力炉として神々のエレメント太陽因子で動く太陽炉、そして主砲にはレールガン、さらにはミサイル垂直発射機(VLS)が搭載される。
船の形はできているが、予定より3パーセント遅れている。
荒垣健防衛大臣には具体的な運用について検討するよう総理から指示があった。
現段階において、護衛艦やまとの初代艦長は、東城洋介の父親、東城幸一が予定されている。これもまた天皇の啓示である。
羽賀官房長官が慎重論を述べ、青梅一郎副総理兼財務大臣がまぜっかえし、国家安全保障会議は締めくくられた。
* *
物部総理大臣が首相官邸を後にしたあと、スマートフォンに着信があった。
曰く、アメリカの軍事、スペースシャトルベテルギウスがハッキングされ、軌道を外れていると。
物部はやっと帰宅したところ、呼び戻された形である。防衛大臣が総理大臣に負担をかけまいとして、ひとりで背負い込み、報告が期待したものと気づいてはいるが、責めないこととした。
既に夜である。物部は夕食を取ったが荒垣はどうだろうか。
荒垣は仕出しの弁当を取って部下と食べたと言った。
ついにこの時が来た。天皇の預言どおりだ。
「ヤマト計画の国民への発表は?」
「ベテルギウス迎撃後、ただちに」
【 国民保護に関する情報 】
【 警戒情報。警戒情報。スペースシャトル暴走、南関東に落下の可能性あり。 】
現代日本への神の攻撃が開始された。
その神こそカグツチ。日本神話の火の神である。
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