異世界でカドショ開いたけど、常連客がヤバいヤツばっか 作:イカド
俺の人生はバニラに近い。
バニラとは、TCG用語で特殊な能力とかを持たないカードのこと。
特殊な経歴はほとんどないし、ごくごく普通の生活を送ってきたと思う。
前世に関しては言うに及ばず、カードが好きなだけの普通の社畜だった。
いつの間にか死んだと思ったら異世界に転生していて、前世の記憶があったこと以外に特別なところなんてなにもない。
そんな俺をバニラと呼ばず、なんというのか。
転生後の生まれは片田舎の開拓村、この世界にはよくある辺鄙な村で、人々は魔物を狩ったり作物を育てたりして生活している。
俺はと言えば、そんな村で狩りのいろはをある程度叩き込まれて育った。
と言っても他の子どもたちと違ってビビリだったから、後方から弓を使ってズドンってやってばっかりだったけど。
魔物と戦うとか危険じゃないか、と思うけどこの世界の人間は総じて筋肉がすごい。
クマ型魔物を1頭伏せてターンエンドとか、ごくごく普通の光景だ。
俺だってそこそこ筋肉はある方だけど、やっぱり怖いので後ろから弓を使ってますね……
ともあれ、そんな愉快で豪快でパワフルな開拓村で育った俺は、十五歳の頃に村を出た。
元々三男坊だから家を継ぐって感じじゃなかったし、外の世界を見てみたかったからな。
魔物との格闘とカードバトルしか娯楽がなかったのも大きい。
そうして外に出た俺は、異世界転生者らしく冒険者――にはならなかった。
狩りの技術があるから冒険者としてやっていくこともできたんだろうけど、やっぱり戦うのは怖い。
それに、俺の最終目標は既にこの時点でカドショ店長だったから、自然と進路も決まっていたのだ。
何をするかと言えば、行商人である。
各地を旅しながら、カードや食料などを商いするのだ。
各地のカードの相場を知ったり、カードを発行している創造神様の神殿に足を運んで繋がりを持ったり。
各地のショップ大会を荒らし回ったり、カードで世界の危機が発生している横で主人公っぽい青年に「カードが君のところに行きたがっている」して遊んだり。
まぁ、色々した。
でも、冒険者として世界を救ったり、国の偉い人とお近づきになったりはしていない。
本当になんてことのない、普通の人生だったんだ。
で、それから俺はプレイと知り合ってカードショップを開いた。
故郷の村がある国の王都に、慎ましやかなショップを。
別に俺は、自分がバニラであることを悪いことだとは思っていない。
だって世界の命運を賭けて戦うとか、あまりにも荷が重いのだ。
むしろ、バニラバンザイって感じだな。
だってそうだろ? バニラはどんな効果も持ってないんだ。
カード名がカテゴリに属してなければ、デッキにはいることはほとんどないだろう。
カードゲーム的にはデッキに入らないのは残念なことかもしれない。
しかし、人生という無限の手札が存在する世界においては、必ずしもデッキに入ることだけがすべてじゃないと思うんだよな。
□
この世界にも平日と週末の概念はあって、平日にカードショップを訪れる人間は少ない。
夜になれば仕事を終えた冒険者とか、学校――この世界では創造神の神殿で初等教育のようなものが行われている――を終えた子どもたちが店に訪れたりするが、昼間は殆ど客はこないのだ。
そもそも俺もプレイも留守にして店を閉めている場合もそこそこあるし、やってくるのは暇を潰せればいいっていう奇特な人ばかり。
「じゃからのう? こないだも森が焼けてのう、その後処理で大変なのじゃ」
「エルフの森は良く焼けるから大変ぞえね。あ、<マキシマムドラゴンズ・バハムート>をプレイするぞえ」
「させんぞ、<デストラクション・チェーン>をプレイじゃ。<バハムート>を破壊してそのアタック分のダメージをお互い受けるのじゃ」
「ちょ、たんまたんまぞえ!」
「ダメに決まっておるじゃろう! おんしがそういう事をするから、娘のドラコまで待ったを覚えるのじゃぞ、恥をしれ恥を!」
バトルしているのは、エルフの森を統べる長のティオネさんと、ドラゴン族の王であるドラーナさん。
ドラーナさんは、先日ショップ大会に参加していたドラゴン幼女ことドラコの母親である。
脳筋ドラゴンデッキと、フィオナの森並に良く燃えるエルフの森の相手をさせられているせいで、デッキタイプすらバーンデッキになってしまった悲しきエルフの戦いだ。
「くう……負けたぞえ!」
「ふふ、勝ったのじゃ。どうじゃ店長さん、わしはすごいじゃろう」
「ああ、見事な火力捌きだったよ、ティオネさん」
客が二人しかいない上に、店もあんまりやることがないので、俺はそれを横からのんびり観戦していた。
白熱のバトルは、ティオネさんの勝利。
エルフの里の長らしく、かなり年長(迂遠な表現)のティオネさんだが、カードで勝った時の態度は見た目相応だ。
まぁ、見た目相応ではないドラーナさんも泣いて机にふせって悔しがっているのだが。
大人げない、とは言ってはいけない。
「はぁー、このままここでずっとカードをしばいておりたいのう。仕事なんぞしたくないのう」
「仕事はちゃんとしたうえでカードをしばいたほうが、きっと楽しいよ。片付いてない仕事にやきもきしながらカードしたくないでしょ、ティオナさんも」
「くぅー、普通に正論が返ってくるのじゃ。店長さんは手厳しいのう」
それから、ドラーナさんが復帰するまで、適当に雑談をする。
ドラーナさんもそうだが、ティオネさんも忙しいのに時間を作って遊びに来ているから、話題の三割くらいは仕事の愚痴だ。
「今度ものう、焼けたエルフの森の犯人をどうするかで揉めておってのう。まず犯人を探すところから始めなくちゃいけないんじゃが……ああ、言っておくがエルフの森が焼けたことは機密じゃからの、話してはいけんぞ。森が焼けたなぞ他種族に知られれば、エルフの誇りに傷がつく。知ってよいのは国の重鎮とお主だけじゃ」
「話さないよ。っていうかティオネさんこそ、うっかり他のお客さんが入ってくるタイミングでそういう話しして、漏らさないようにね」
「ふん、わしを誰じゃとおもっとる、人が来るかどうかなぞ探知でちょちょいのちょいと探れるわい」
――そして、何故かその内容は国家機密レベルの話しちゃ行けない内容が含まれていることが多い。
いやなんでうちで話すんだ、としかいいようがないが、なんかうちは人がいない時なら非常に安全なんだとか。
まぁ、他国のスパイとかは偉い人や強い人が多すぎて、入ってこれないだろうしなぁ。
「ただ、わしとしてはいくらなんでも周りの若いもんが過激すぎると思うんじゃよね。森が焼けるなんて百年に一回は起こることなんじゃから。最近は百歳超えてない若造も頑張っとるけど、その分色々過激なんじゃよねぇ」
「うんうん、それは大変だなぁ」
「店長さんは、どうすれば良いと思うのじゃ?」
「え、俺に聞く?」
んで、何故か俺に解決策を聞いてくるのだ。
いやいやいや、俺はエルフの文化なんてほとんど知らないし、有効な解答は得られませんよティオネさん。
と思うんだけど、なーんでかみんな聞いてくる。
まぁ、こういう時の俺の答えは決まっているのだが。
「じゃあまぁ……とりあえずオーダーバトルしようよ」
オーダーバトルは、この世界におけるカードバトルの通称。
略してバトルと呼ばれることのほうが圧倒的に多いけど。
「むぅ、カード案件のように、カードで勝てば全部解決……と行けばいいんじゃけどな」
「いや、別にカードで全部解決しようってわけではないよ。カードをすれば、意見の対立している者同士の蟠りも解けるかもしれない」
「解けんかもしれんぞ、片方が陰湿メタビ使いだったらどうするんじゃ。一生和解できん」
「その場合でも――
ふむ、とティオネさんは俺の言葉に耳を傾ける。
「時間が稼げれば、若い人たちの感情も落ち着くかもしれない。時間を稼いでいる間に、冷静な人たちがいい感じの落とし所を見つけられるかもしれない。何より意識を一時的に別のことに反らせる。悪い話しじゃないでしょ?」
「一種のアイスブレーキングと考えるべきかの」
「そうそう」
――俺は、こういう相談には常にカードをしばこうと答えている。
そのうえで、それっぽいことを適当に理由として挙げるのだ。
俺はカドショ店長、ニワカ知識でエルフの内情に首を突っ込むより、自分の土台で話したほうが……なんかこう、重みが出るだろ?
どうでもいいけど、この世界はファンタジーだけど、アイスブレーキングみたいな現代っぽい用語が普通に出てくる。
カードをしばいてる過程でカード用語が醸成され、そこから派生していったらしい。
「さすがは店長さんじゃ、帰ったら早速やってみるのじゃ!」
「やる前に、理解を得られそうな人に相談するんだよ、俺はカドショ店長として見解を話してるだけなんだから」
「わかっとるのじゃー、さすがにこの店の外でまでこんな緩くはないのじゃ!」
今は緩い自覚があるんかい。
ともあれ、そうして気を取り直したティオネさん。
ドラーナさんもいい感じに復帰して、二人はまたカードをしばき始めた。
そのタイミングで、俺は一度バックヤードに入る。
そこではプレイが、のんびりとお茶を飲みながらアイスを楽しんでいた。
バニラ味のアイスだ。
「やはり人の世界の食べ物はよいですね」
「随分とグローバルな範囲だな……」
「ですが、一番好きなのがこのバニラのアイスなのです。アイスの中でもっとも王道で、基礎にあって、根底で、そして何者にも染まらない確固たる味。何年経っても、何万年たっても変わらない味なのですよ」
「随分と詩的な評価だこと」
「店長さんの分もありますよ? 如何ですか?」
そう言って、プレイが俺にアイスとスプーンを差し出してくる。
それを受け取って、俺も人心地つくことにするのだった。
時に面白い愛され方をするバニラってありますよね、みたいな。