異世界でカドショ開いたけど、常連客がヤバいヤツばっか   作:イカド

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3 新弾は英雄だってムキムキしたい

 セイント・オーダーはカードゲームだから、当然ながら新弾が発売する。

 二十年に一度スタン落ちが発生し、その都度環境を入れ替えながら、常に新しいカードを提供し続けるのだ。

 特に年四回の新弾発売は、まさに世界的な祝祭とも言える日。

 当然のごとくこの日は祝日ということになっていて、多くの人々は多かれ少なかれパックを剥く。

 素晴らしいのは、この世界にカードが浸透()()()()()()ということ。

 あまりにも多くの人がパックを剥くわけだから、流通量は前世の比ではない。

 すなわち――転売ヤーが発生しない!

 なんて素晴らしい、最高の世界!

 人々が剥きたいだけパックを剥いて楽しめるのだ!

 

「まぁもし仮に出現しても、うちの常連がまとめて押し寄せそうだけど……慈悲はないな」

「どーしたんだ、店長さん。そんなことよりほら、新弾開封だぞ新弾開封! 今回は俺の【大英雄】デッキと相性のいいカードはあるかねぇ」

「むほほー! 狙っていたバーンカードを当てるのじゃ! ホーリーシークレット仕様で当てるのじゃ! これでまたデッキが光り輝くのう!」

 

 なんて俺の独り言は、店の喧騒に掻き消えていく。

 店には多くの客が集まっていた。

 先日のティオネさんとドラーナさんだけの店とは対照的だ。

 現在、彼らはこれから送られてくる新弾のボックスを今か今かと待ちわびているのだ。

 時刻は十時、基本的にこの世界の新弾は発売日の解禁時刻である十時きっかりに、各種店舗へと神殿から送られてくる。

 さながらそれは、禁止改定が二十一時に発表されるかのごとく。

 皆が今か今かと待ちわびているのだ。

 そして――時は来た。

 

 店のカウンター裏に、輸送用の転移魔法陣が記された魔道具が設置されている。

 その魔法陣がバチバチと光って、新弾のボックスが入ったカートンが送られてきた。

 

「というわけで、新弾発売だー!」

「おー!」

 

 俺の掛け声に、客は歓声を挙げる。

 やはり、何度やっても新弾発売の日は心が踊るというものだ。

 ここにいる連中の多くが、この世界でも有数の実力者であることを除けば、非常に微笑ましい光景だと思う。

 なにはともあれ、輸送魔法陣と呼ばれる魔道具から送られてくるのは、一回に一カートン。

 さっさと移動させないと次がやってきてしまう。

 

「では、配っていきますね。うふふ、皆さんのお顔をこうして見れて……わたくしはなんだかとっても満足です」

 

 俺が輸送魔法陣から送られてきたカートンを移動させ、プレイがそれを予約した人から順に配っていく。

 中には一カートンまるっと予約した猛者も結構いて、そういう人は店で開封するための1ボックスだけを取り出すと、残りはアイテムボックスにしまい込んでいた。

 うーん、ファンタジー。

 

「店長さん、予約のボックスは配り終えました」

「ありがとうプレイ、じゃあ残りは一般販売だな」

 

 ほくほくとした笑顔で報告してくるプレイに答えて、輸送魔法陣の方を見る。

 注文した数は予定通り来たので、もう魔法陣が光ることはないはずなのだが、さっきからうっすらと光を帯びているのだ。

 何かまた変なことでも起きるんじゃないか、と視線を向けていたが……直ぐには起きそうになかった。

 

「ドラドラー! 仕事で来れない母上の分まで、がっつりカードを引いてやるドラ!」

 

 お客達は、各々にカードパックを向いている。

 興味深いのは、その開け方。

 ドラコはシュリンクをその長い爪で器用に割いているし、魔術師の少女は風魔術でスパスパとパックの上の方を切り落としていた。

 中でも大英雄のおっさんことムキルスは、その筋骨隆々な体を限界まで縮こまらせて、そーっとそーっとパックを後ろから開封していた。

 あの素手で開けられるようにちょっと切り込みが入ってるやつね。

 カードに傷がつかないか、と思うかも知れないが、この世界のカードはちょっとやそっとのことじゃ傷つかない。

 変わりに、ムキルスはあまりにパワーがありすぎてハサミを使おうとするとハサミがひしゃげるのだ。

 なのでこうして、カードの頑丈さを頼りに、素手でそっとパックを開ける以外の開封手段を彼は持たない。

 

「カードパックの開け方って、人それぞれで興味深いですよね」

「まぁそうだなぁ。プレイはやっぱり魔術で開けるのか? 俺はハサミ派なんだけど」

「そうですね、パック開封用の風魔術はとても便利です、今度お教えしましょうか?」

「そうだなぁ、気が向いたらな」

「はい、ふふふ」

 

 そんな彼らを眺めつつ、俺とプレイは楽しげに言葉を交わす。

 俺達はパックを開封しないのかって言えば……するとも言えるし、しないとも言える。

 店のショーケースに並べるためのカードは、買取だけじゃとてもじゃないけど足りないし、業務用に開封は行うのだ。

 加えて、自前でも店を閉めたら剥くことになるだろう。

 でも、仕事中は決して剥かない。

 別に仕事を真面目にやっているから……とかそういうわけじゃないぞ。

 客がパックを開封している時は、カウンターに人は来ないから時間だってある。

 それでもやらないのは――

 

 なんか、俺達がパックを開封すると、みんなして手を止めてこっちを見てくるから。

 

 いや、なんでそんな注目するんだよ。

 プレイはわかるよ? 見た目が周囲の注目を集めるし、あと単純に引き運もいい。

 彼女が個人で買ったボックスは、それとなーくいい感じの引きになることが多いのだ。

 贔屓を感じるってほどではないんだけど、周囲が見ていて見応えのある中身になる。

 そして俺は……普通、そこそこ運が良い気もするけど、一般人の範疇に収まる気がする。

 前世のパック開封でプリシクをそこそこ見かけることが人より多かったかな……という程度。

 なのに、滅茶苦茶見てくる。

 全員が一斉にこっちをガン見してくるものだから、俺は趣味でのパック開封をしなくなった。

 いや別にそんな見るものじゃないんですよ、マジで。

 全員にガン見されながら開けた箱も、普通に爆死してたし。

 

「うわああああ! またアタシが使わないシクレが出たドラぁあああ! 使う人と交換すればいいドラけど、それはそれとして自分のパックから当たりが出たほうが嬉しいドラぁああ!」

「ふう……ふう……よ、よかったカードに傷はついてな……うわああああホリシクだぁあああ!」

「楽しそうだなぁ……ん?」

 

 なんてことを思い返しつつも、皆のパック開封の悲喜こもごもを眺めていると、店の入口に気配を感じた。

 なんで感じたのかは、正直よくわからない。

 こういうのは、本当にちょっとした無意識的直感によるものだから。

 俺はあまり気配察知とか得意じゃないんだよな、戦闘だと狩人ビルドなのに。

 ともかく、寄っていって声を掛ける。

 どこか羨ましそうに、店を眺める少年がそこにいた。

 

「君、どうしたんだ?」

「えう!?」

 

 少年はびっくりした様子で、肩を震わせる。

 俺が声をかけてきたことに驚いたというよりも――俺が声をかけたことでお客の視線が集中したことに驚いたんだな。

 しまった、こういうことをするとまた俺が注目されるんだ。

 慌てて皆に気にしなくていいから、と身振りで伝えるとまた彼らはパック開封に戻っていった。

 でもなんか、さっきより神妙にパックを開封しているな……?

 人に見られているという意識が生まれたのかも知れない。

 

「もしかして……パックが欲しいのか?」

「あ、えっと……ご、ごめんなさい。お金は持って無くて……」

「うーんそれは……困ったな」

 

 少年は、どうもちょっと貧乏な所の子供らしい。

 たまたま店の近くを通った時に、ぞろぞろ店に入っていく人の波に引かれて近づいてきてしまったのだという。

 こういう子に優しくするのは、人によっては偽善と思うものもいるかもしれない。

 独りよがりだ……と。

 しかし俺としては、見過ごすってのも寝覚めが悪い。

 だから、何かしらいい落とし所があれば……と思いつつ、ふと後ろで音がした。

 バチッと、輸送魔法陣からパックが出現したのだ。

 

「あら、また誤作動でしょうか……相変わらず魔法陣さんは気まぐれですね」

 

 プレイが、そう言ってあらあらと頬に手を当てて苦笑する。

 魔法陣は時折こうして、変な作動の仕方をすることがあるのだ。

 このパックは、おそらく神殿が製造したものではない。

 この世界は神様がいて、不思議なことが当然のように起きる世界だからな、こういうことも、たまにある。

 あるいは――誰かが作為的に、もしくは運命的に仕組んだか。

 どちらにせよ、現れたパックを見て、俺はこれだと思った。

 早速それを回収すると子供に手渡す。

 

「なら、このパックを君に上げよう。君がいつかデッキを組むことになった時、その助けになってくれると嬉しい」

 

 こういうパックは、別に神殿に返品する必要はなく、見つけたものが自由にしていいと決められている。

 ダンジョンからパックやカードが出てくることもある世界だからな、基本的に神殿が製造していないパックは、見つけた人のものだ。

 そうして渡すと、少年は顔を輝かせてくれた。

 隣に立ったプレイが、にこりと微笑んでそのパックを開封魔術でスパっとする。

 そうして出てきたのは、今日発売の新弾に封入されたカード――()()()()()()

 

「これ……ユニークカードじゃないか?」

「ゆにー……く?」

「世界に一枚しかない、特別なカードってこと」

 

 出てきたカードの中に、一枚強そうなカードが混じっていたのだ。

 それはユニークカード、この世界は世界の危機をカードで解決する、いわゆるカード案件とよばれる案件が存在する。

 そういう案件に関わる、世界で一枚しかないカード。

 それをユニークカードと呼ぶのだ。

 きっと少年はいずれ、プレイヤーとして世界の命運を賭けて戦うことになるのだろう。

 その時、このカードが助けになればいいが。

 

「――大事にするんだぞ、そのカードは君が、君の運命を切り開いて手に入れたものなんだから」

 

 なんていいながら、ポンと頭を撫でる俺。

 腰をおろして視線を合わせると、少年は少しだけ泣きそうになりながら、笑みを浮かべるのだった。




ごくごく普通のTCGとホビアニ世界が両立する不思議な世界ですが、ファンタジーなのでそういうこともあると思います。
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