異世界でカドショ開いたけど、常連客がヤバいヤツばっか   作:イカド

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4 王女様だって(店長さんの店で)カードをしばきたい

 俺の店には一つの種族のトップとか普通に遊びに来るが、中でも一番印象深いのはこの国の王女様だろう。

 第三王女イレナシア様。

 うちに来る時は、最初に名乗った偽名であるレナーシャと呼ばれることの多いその少女は、ヤバい連中が寄ってくる以前からの常連である。

 というか、うちの店に初めてやってきたお客さんでもあった。

 そもそも俺の店がやべーやつ博覧会になって、レナーシャが正体を明かしてもいいよね……となったのは、開店から結構経ってのこと。

 Sランクの英雄が店にやってくるまでに、半年の時間が経過しているのだ。

 だからまぁ、レナーシャが他のヤバい奴らと同じカテゴリかというと、少し疑問が残る。

 後まぁ単純に――レナーシャとしての彼女は、別にそこまで王女様って感じはしない。

 

「おじゃましまーす、もうやってる?」

 

 そう言って入ってきたのは、癖のある黒い髪をむりやりポニテにまとめた少女だった。

 所々に入った赤いメッシュが特徴的だが、目元はほとんど隠れっぱなしで、どこか芋い少女に見える。

 服装も、一言で言えば魔道士のローブって感じなんだけど、装飾がなさすぎて寝間着のようでもあった。

 ただ一つ言えるのは、そのボサボサの黒髪の奥に息を呑むほどの美貌が隠れているということ。

 

「いらっしゃい、もうやってるよレナーシャ」

「やった。じゃあお邪魔しよー」

 

 彼女こそ、この国の第三王女にして俺の店の常連。

 レナーシャだ。

 まぁ、そこにいるのはどう見てもダウナー系芋オタク少女なのだけど。

 現在時刻は十時、開店時間だ。

 今日は土日なので、店には多くの客がやってくるだろう。

 その中でレナーシャは、店にやってこれる日は一番乗りで店にやってくることが多い。

 やることと言えば――

 

「うわー、手札最悪」

 

 一人回しなんだけど。

 慣れた手つきでデッキをテーブルに広げ、カードを展開させていく。

 たまに思いついたようにカードをテーブルに投げ出しては、再び集めてシャッフル。

 適度にファローシャッフルをしてから、最後にヒンズーシャッフルをするのが本人的なルーチンらしい。

 んで、もう一回手札を引いて、また難しい顔。

 

「このデッキ事故りすぎじゃない?」

「それは構築段階の問題じゃないか?」

「いやいや、確率的には完璧なんだって。……またダメ、これほんとに確率合ってる?」

「一瞬で手のひらを返し始めた……」

 

 いいながら、慣れた手つきでカードを動かしていくレナーシャ。

 どうでもいいけど、レナーシャはシャカパチをしない。

 レナーシャみたいなオタクは前世では全員シャカパチを嗜んでいるというのが俺の勝手な考えだけど、この世界だとそうじゃないのだ。

 なにせカードは神聖なものだから。

 創造神が作ってるものだからね。

 変わりに、デッキからカードをサーチした時のような、手札シャッフルをするのが適切なタイミングのシャッフルは淀みがないのも特徴。

 

「店主さん、ちょっと店主さんがやってみてよ。こんなハズじゃないんだからさ、今日のデッキ」

「いやいや、人にカードをそう簡単に触らせるもんじゃないぞ?」

「店主さんならいいでしょ、なんならアタシよりカードの扱いが丁寧だ」

「それはそれでどうなんだ王女様……」

 

 それはそれでどうなんだ、みたいな言説で俺にデッキを渡そうとしてくるレナーシャ。

 カードが神聖で大事な物である以上、人にカードを触らせるというのは結構なことである。

 バトル中にカードのテキストを確認する際も、この世界だとバトル用魔法陣が作動してる時はDCGみたいに、カードに意識を向ければテキストが視界に表示されるから触れる必要はないし。

 何にしても、人に自分のカードを触れさせるというのは相当な信頼がないとできないことだ。

 俺も普段は自分のデッキ以外にふれるデッキは、プレイのデッキくらいである。

 

「というか店長にしか頼めないんだよ。頼むよー、御礼に昨日当てたオーダーホリシクの<混沌と終焉の魔術師>見せてあげるからさー」

「マジか、アレ世界に百枚しかないのによく当てたな」

「カートンめっちゃ買った。余ったカードは孤児院に寄付だよ、やったね」

「はぁ……実際オーダーホリシクのカードの実物興味あるから、いいけどさ」

 

 というわけで、レナーシャのデッキをそっと持ち上げてファローシャッフルを何度かする。

 三重スリーブでガチガチになったデッキは、少しだけ他のデッキと比べて重厚感があるな。

 この世界にもスリーブはあるけど、カード自体の頑丈さも相まってスリーブは一重で済ませるものが多い。

 スリーブそのものに価値がある場合に二重とするのが普通。

 三重以上は、一部にレナーシャのような謎の愛好家(オタク)がいる。

 なんというか、オタク好みのガジェットみたいな扱いなんだよなぁ、この世界の三重スリーブ。

 

「んじゃドロー……っと」

「……普通に回りそうな手札だな」

「やっぱり。……ってこれじゃあアタシの運が悪いだけってだけじゃん、どうしてくれるの店長さん」

「とりあえず……これで終わりでいいか?」

「やだ。店長さんがデッキ回してるところ、みたい」

 

 そんなこと言われてもなぁ。

 そもそもこの状態を人に見られるだけでもまずいんだぞ?

 他人のデッキにふれるってことは、それだけ信頼関係が結ばれてるってことだ。

 中には、あることないこと触れ回る輩がでてきてもおかしくはない。

 もうそろそろ他の客もやってくるだろう状況で、更に隣からレナーシャが覗き込んでいる距離の近い状態を見られたら……

 

「……はぁ、しょうがないなぁ。まぁ確かにプレイに悪いし、アタシは反対側から見ててあげる」

「俺がデッキを回すのは譲らないのな……言っておくけど初見のデッキなんてそう簡単に回せるもんじゃないぞ?」

「いいからいいから」

 

 そしてこうなったレナーシャが、俺に譲歩を見せることはない。

 他の人にはちょっとダウナーで人見知りなだけで素直ないい奴なのに、どうして俺だけ王女様みたいなわがままを言うんだ。

 王女様だったわ……

 

「今回のデッキはコントロールデッキ、プレイするのにモンスターの触媒(リリース)が必要になる代わりに、プレイ時に効果を発揮する大型モンスターで相手の場を制圧するの」

「大王コントロールってやつか、触媒確保のギミックはどうしてるんだ?」

「こないだの新弾でトラッシュ利用のデッキが流行りそうだから、次元ゾーン系のギミック採用したんだ。いいよねこれ、性格悪くて」

 

 背もたれのある椅子を反転させて、背もたれに腕をもたれさせながらレナーシャが楽しそうに語る。

 その顔には、実に意地の悪い笑みが張り付いていた。

 

「レナーシャって、デッキビルダーだよな。いろんなデッキを組むことが楽しいってタイプ」

「なに? 店長さんも変わり者っていいたいの?」

「そういうわけじゃないけどさ」

「いいんだよ、普通はデッキって基本一つにこだわるものだもんね」

 

 この世界は、カードに関してはホビアニみたいな側面が多い。

 皆、自分と相性のいい、親近感を覚えるデッキを長く使い込むのだ。

 レナーシャのように、複数のデッキを組むタイプは少ない。

 中にはカードは信仰の証なんだから、一つのものにこだわるべきって人もいるな。

 そもそもカードをあまりプレイしない一般人も多いから、どうしたって複数のデッキを持とうって発想は稀有なものになる。

 それでも――

 

「俺はどんな形でもカードが好きならそれでいいと思うんだよ、なんならカードを集めるのが趣味で、コレクションして並べることはしてもプレイしてないって人でも、悪いことじゃないと俺は思うぞ」

「あ、もしかしてアタシを口説いてる? そうだよ、アタシもカードのコレクションは大好きだもんね」

「いや、そうじゃなくって……」

 

 俺はからかってくるレナーシャに、端的に伝えた。

 

 

「俺も好きだから、デッキ組むの」

 

 

 別に、何かいいことをいいたいわけじゃないんだよ。

 だって、俺だってデッキ組むの好きだし。

 でなきゃカドショ店長なんてやってないのだ。

 それにどこかレナーシャは眼を丸くしてから――

 

「店長さんらしいね」

 

 と、一言で返すのだった。

 

 

 ――なお、お客は全員外からそんな俺とレナーシャをこっそり眺めていた。

 

 

 いや尊いじゃないんですよ、来てるなら来てると言ってほしいんですよ。

 ドラゴンだったり筋肉モリモリマッチョマンだったり、濃い人が店の前で覗き込んでるから何事かと思って人だかりができてるじゃないか。

 仲睦まじいですね、じゃないんだよプレイ。

 かくして、休日一日目のショップは、なんともカオスな状況からスタートするのだった。




ダウナー芋系ナードプリンセス、猫被るといい感じになります。
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