異世界でカドショ開いたけど、常連客がヤバいヤツばっか 作:イカド
アタシ、イレナシアにとって王宮は居場所ではない。
別に政争とかで兄弟姉妹と血みどろの関係だったり、悪い貴族が父様を傀儡にしようとしているわけではないよ。
むしろ父様はすっごい賢王って言われてるし、兄弟姉妹も仲が良い。
王太子である第一王子の兄様もすごい優秀だから、国は安泰だって評判だ。
だから単純に、これはアタシが馴染めていないだけの問題。
兄弟姉妹の中でアタシだけが庶子だったのだ。
しかもアタシの小さい頃に母様は病気でなくなってしまっていて、アタシは疎外感を覚えながら育ったことを今でも覚えている。
それでも兄様や姉様はアタシにやさしくしてくれた。
カードだって一緒に遊んでくれたし、仲間外れにすることなんて絶対になかったのだ。
でも、ちょっとずつみんな大人になっていく中で、アタシだけが取り残された。
アタシはカードが好きなんだ。
セイント・オーダーだけをして生きていければいいと本気で思ってる。
だけど兄様や姉様は、それぞれの分野で才覚を発揮していた。
兄様達は勉強や武勇に優れ、姉様達は社交界でその美貌をいつも褒め称えられている。
多分アタシも、やろうと思えばできる方なんだろう。
カードの確率計算は得意だし、顔だって悪くない。
それでも、アタシがやりたいことはカードだったんだ。
それだって、別に悪くはないと思う。
カードはこの世界において信仰の対象にもなっているし、神殿での公務も嫌いじゃない。
ただ、兄様姉様から、イレナシアは将来神殿でプレイスフィール様へ信仰を捧げるために頑張っているんだね……と言われると「そうじゃない」と思ってしまう。
私はカードが好きだからカードに関わっていたくて、体面が保てるから神殿に関わっているんだ。
なんていうんだろう、兄様達は決してカードを適当に遊んでいるわけじゃない。
むしろ、本気で遊んでいる。
だけど常にずっとカードの事を考えている私と比べると、切り替えがはっきりしていて食事中に新弾のカードの話で盛り上がったりはしないのだ。
店長さんなら「できる人間は遊びも本気で遊ぶ」とかいいそうだけど。
要するに、アタシと兄様達じゃ生きる世界が違うんだ。
だからずっと、疎外感を感じてた。
「――カードって不思議だよな、人によって好きなデッキってぜんぜん違って、勝つためにカードをする人もいれば、自分の好きを追求するためにカードをする人もいる」
ある時、そんな事をいう人にアタシは出会った。
店長さんだ。
この話をした時は、まだ店長さんじゃなくて行商人さんだったけど。
神殿で公務をしている時に、彼もまた神殿で仕事をしに来たのである。
プレイスフィール神殿。
一般的にただ神殿とだけ呼ばれるその場所は、創造神プレイスフィール様を信仰する場所にして、カードを製造する場所。
プレイスフィール様が毎月考えたカードを、実際に発行して販売するのが役目だ。
だから、自然とカードを販売する商人達も神殿に商談へ訪れる。
特にカードショップを開くには神殿の許可が必要だから、ショップを開きたい熱心な商人は、足繁く神殿に通うことがほとんど。
店長さんも、そんな熱心な商人の一人だった。
ただ不思議なのは――店長さんにカードショップを開きたいという強い意思はあるけれど、商人としての熱意はあまり感じられなかったこと。
カードショップ店長っていうのは、一般的に商人にとって最も栄誉ある地位。
商人として熱意があって、高みに上り詰めたいと思えば自然と目指す選択肢。
だけど店長さんはそんなことお構い無しに、そもそもカードショップを開くことが目的みたいで、商人という立場にしがらみはないようだった。
――ようするに、似てるんだ、アタシ達は。
「俺はどんな楽しみ方も好きだよ。勝つために全力を追いかけたいときもあるし、好きなカードを好きに運用するために時間を使いたいときもある」
「アタシは……アタシも同じかも。そのうえで、誰かとゲームをしてる時より、一人でデッキを考えてるときのほうが好き」
「なんとなくわかる」
神殿でのアタシは、一時的に王女という立場から解放される。
そもそも神殿が権力という立場とは無縁だし。
だから一介の神殿職員として、アタシはレナーシャと名乗り店長さんと話をした。
カードについて、こんなに正面からがっつり話をしたのは初めてかも知れない。
「カードじゃなくてもそうだよな、好みってのは人それぞれで、本気になれるものも人それぞれだ。だから別に、何を本気になってもいいんじゃないか? 少なくとも俺は、商人じゃなくてカードへ本気になることを選んだ」
「そんなものかな」
「そんなものだよ」
――それが普通だと、店長さんは言った。
だからこそ、店長さんには夢があるのだ、と。
「俺はさ、どんな人でも楽しくカードを遊べる店を作りたい。カード以外に本気な人も、人生全部に本気な人も、カードを遊んでる時は楽しく遊んでほしいんだ」
「それって……?」
「
なんだか、すっごい綺麗事。
それだと世界に、正しい人しかいないみたい。
アタシは別に、そんな真面目な人間じゃないと思う。
ラクして、適当に生きれればそれでいいのだ。
そのうえで、カードをしばければそれでいい……って。
だから言った、自分の弱みを吐露するようで、嫌だったけど。
しかし、帰ってきた答えは――ちょっと意外なものだったんだ。
「……アタシは、カードさえできれば真面目に生きたくなんてないよ、面倒だし」
「ああ、
「…………店長さんも?」
「そりゃそうだろ、カードは遊びだ。遊びに心惹かれる人間が真面目に仕事とか、したくないに決まってる」
それから、店長さんは当時感じていた愚痴を色々と語ってくれた。
神殿の店長資格のための講義が面倒とか、行商人同士で飲みニケーションしないとハブられるけどしんどいとか、その飲みの場でカードの話をしたいのにぜんぜんできないとか。
最後は完全にアタシと同じ悩みで、少し笑ってしまった。
なんだ、店長さんもそうやって普通に悩んで、普通に迷ってる一人の人間だったんだ。
――そうして、店長さんはカードショップを開店した。
名前は「プレイフィールド」。
創造神プレイスフィール様から名前を取るというのは、カドショ的には普通のことなので、名前自体はそこまで不思議な名前ではない。
でもその上で、なんとなく店長さんらしいな……とも感じたんだ。
最初のウチ、アタシは正体を隠してた。
だって王女様がやってきてるって知られたら、色々店長さんに迷惑かけそうだし。
でも、気がつけば段々とあの店には、やたらとすごい人が集まるようになってきていて――
私は最初、疑問だったんだ。
彼らも私や店長さんの同類で、それを隠してたのかな? って。
でも、そうじゃない。
むしろ、普段は兄様や姉様みたいに、すごく真面目でできる人って感じの人たち。
でも店長さんの店に行くと、アタシと同じように童心に帰って遊んでいる。
それは多分――彼らも抑えていたんだ。
ある時、王宮で姉様の一人から相談された。
「私ももっとカードで遊びたいんだけど、どうすればいいかわからないの」
きっと、姉様が声をかけてきたのは店長さんのことを知ったからだ。
あの店に、姉様みたいにカードをもっと遊びたいけど、遊びにくい立場の人がいっぱいいると知ったから。
それから姉様とアタシは、時折二人でカードの話をするようになった。
ちょっとだけ、王宮での疎外感が薄れたような、そんな気がした。
きっと店長さんのお店の人たちと同じだろう。
真面目で、人生を前向きに生きている人たちの中にも、アタシ達と同じことを思う人はいた。
ただ単純に、彼らはそれを表に出せていなかっただけなのだ。
気恥ずかしかったり、忙しかったり、どうやって”遊べば”いいのかわからなかったり。
店長さんの店には、そういう人が集まって、心の底から楽しんでいる。
楽しんでいい場所を、店長さんはつくった。
それはアタシにとっても心地よい場所で――アタシが、生まれてからずっと探し求めていた場所だったのだ。
だから、アタシの居場所はここしかない。
きっと店長さんが、彼らにとって自分がどれほど救いになっているかは気付いていない。
楽しむことを店長は普通だと思っているから。
でもその普通こそが、きっと店長らしいのだとアタシは思う。
だからアタシも、本気でカードを遊びたい者として、店長さんの店に通うのだ。
どうして店長さんの店にやばいのが集まるのか、回