異世界でカドショ開いたけど、常連客がヤバいヤツばっか 作:イカド
神殿での用事以外にも色々とやることはあるもので、それらを済ませていたらすっかり夜だ。
あんな忠告を受けたのに、夜一人で町中を歩くことになるとか、そんなのもうフラグを回収してくれと言わんばかりじゃないか。
まぁこの後の用事もあることは忠告を受けた時点で解っていたので、こうなることは想定内だ。
だからこそデッキも少し調整したしな。
そんな帰り道――”ヤツ”はやってきた。
「――”プレイフィールド”の店長だな」
「……そうだが」
如何にも悪いやつですよ、と言わんばかりに黒いローブを纏って顔を隠した男。
多分、男。
……が、現れた。
俺が答えると、男は懐からデッキを取り出して構える。
「オーダー・バトルを受けてもらうぞ!」
「……!」
男がそういった途端、怪しげな紫の光が足元を多い、魔法陣を形成した。
これは相手を逃さないために悪い奴らが使う違法魔術の一種。
解除に条件をつけることで、本来なら膨大な魔力を必要とする強力な魔術を、少ない魔力で使用できるようにしたとかいう、どっかで聞いたことあるような効果の魔術だ。
まぁ、そういう制約みたいなあれこれは、この魔術に限らないんだけど。
で、解除条件は言うまでもなく――
「バトルに勝てば、お前を解放してやる。お前が負ければ……お前の持つカードをいただくぞ!」
カードバトルでの勝利!
この世界で時折起きるカードを使った犯罪、あるいはカードによって世界が滅びかける案件。
通称カード案件は、こうして相手を逃さない魔術を使って強制的にカードバトルを行うことで発生する。
こういうカード案件を引き起こす悪役は悪のプレイヤーと呼ばれ、一般人から恐れられるのだ。
いやあほんと、カード案件は恐ろしいですなぁ。
「いいだろう……どこからでもかかってこい!」
「くくく……その威勢、いつまで持つかなぁ?」
いいながら俺もデッキを取り出し、かざした。
すると、デッキの周りに魔法陣が展開される。
この世界において外でバトルを行う場合、こうして魔法陣が展開されてそこにカードが設置できるのだ。
この世界特有のデュエルディスクみたいな感じだな。
「行くぞ!」
それにしてもいやぁ、用事が重なってしまったからなぁ。
こんな時間までかかってしまったからなぁ。
真夜中に一人になってしまったからなぁ。
これは仕方のないことなのだ。
というわけで――
「セット・オーダーッッッ!!」
「セット・オーダー! ……いや、テンション高いな?」
闇のカードバトルだ、ヒャッハー!
□
たとえ闇だろうとカードバトルはカードバトル。
しかも世界を滅ぼすかもしれないヤバい存在に繋がるバトル。
普通なら恐怖したりするのが筋だ。
でも、俺はカードバトルに関しては何も怖いとは思わない。
むしろ楽しいと思っている。
ワクワクする、最高だよねカードバトル!
理由は単純、カードバトルでは死人が出ないから。
これは非常に単純で、先程語った制約にはバトルに負けたら解除する、以外にももう一つ制約があるのだ。
死というのは不可逆で、非常に重い結果だ。
ゆえにこそ、制約として非常に大きく効果を発揮する。
そもそもこんな風にカードで襲いかからずに、直接奪いかかった方が早いだろうという話もあるだろう。
だけどそうすると、ユニークカードは
謎の方法で突然パックの中から現れたりするのだ、謎の方法で逃げたりすることも可能なのは当然の帰結。
しかし、カードバトルで勝った場合はそうはいかない。
ホビアニ的なお約束か、はたまたカード自身が”諦める”のか、カードは逃げ出さなくなる。
この二つの事情が相まって、襲うのではなくバトルで奪うのがこの世界におけるカード案件の常識となっていた。
いやはや全く、創造神様も巧いこと考えるもんだな。
「俺の先行だな。俺は<
さて、バトルは俺の先行で始まった。
俺のデッキは、一言で言えばトークンを生成してそのトークンをサポートすることで強くなるデッキ。
デッキ名はそのトークンの名を取って――
「<開拓者>トークンをプレイ!」
【開拓者】デッキと呼ばれている。
これがまた非常に拡張性が高く、使っていて楽しいデッキだ。
なんとなくお察しの通り、出張性能も高い。
おかげで味変も捗るというもの。
まぁ日常では他のデッキを使うことも多い俺だが、こういう一発勝負のカード案件では常に【開拓者】デッキを使う。
慣れているからな、握ってて安心感が違うのだ。
――それから、相手もカードをプレイする。
使うのは【闇夜の怪物】というモンスター郡。
如何にも悪いやつっぽくて、興奮してきたな。
とはいえ、バトル自体は俺の優勢で進んだ。
相手はおそらく下っ端も下っ端、この程度で負けてはいられない。
油断は禁物だが、警戒するべきは相手のエースくらいだろう。
「くっ……だが、こいつを前には貴様とて正気は保てまい! 我が切り札、いでよ! <闇夜の怪物 デス・ストーカー>!」
そして、来た。
相手のエース、禍々しい雰囲気のモンスター。
一般的に、悪のカードとよばれるそれ。
それを――
「……テキスト確認いいですか?」
「必要ない! こいつの攻撃力と貴様の精神を揺さぶる狂気の……」
「…………」
「…………」
あー。
「精神にダイレクトアタックしてくるから、効果とか持ってないタイプ?」
「……き、きさま…………なぜこのモンスターを前に平気に……している……?」
この世界には、時折プレイして場に出現させただけで相手の精神にダメージを与えるモンスターというのが存在する。
人を殺してはいけないという制約から外れなければ、悪のプレイヤーはなんだってしてくるのだ。
そしてそういうモンスターは、一般的には非常に厄介とされる。
だけど、俺はそうじゃない。
だって――
「だって――ただのカードだし……」
「ええ……」
その言葉に、悪のプレイヤーは引いた。
なんだ、お前らが使ったカードだぞ。
――そう、俺はこういった精神にダメージを与えるカードの影響を受けない。
理由は三つ。
前世の認識が今も生きていること。
一度死んだことで、死ぬより怖いことはないという理由で度胸がついたこと。
そして何より――こういうカードのことを、前世でホビアニを何度も見てきた経験から”よくある”と認識していること。
初めてこういうカードを相手した時「まぁそういうこともあるよね」で流したら、周囲に滅茶苦茶驚かれたことがある。
プレイなんか、「あなた本当にこの世界の人間ですか?」とか言ってきたくらいだ。
この世界の人間じゃないです……
「……で、俺のターンだが」
そして、下っ端の使う悪のカードは、効果を持たないバニラな事が多い。
打点は高いが、それだけだ。
結果――
「<開拓者>トークンに
「………………………………ないです」
勝った。
いやぁ……激しい戦いだった。
カード案件のバトルも俺は好きなんだが、たまにこういう消化不良が起こるのが難点だな。
ともあれ、俺は相手が負けて結界が解除されたタイミングで、”カウンター”を行う。
相手の制約が打ち破られたタイミングは、相手が最も無防備になる瞬間だ。
ここを狙って相手を捕縛するのが、できるプレイヤーというもの。
俺は狩猟用の縄で、ささっと悪のプレイヤーを縛り上げた。
「クソ、貴様のユニークカードさえ手に入れば……この世界は我々の……」
「なあ、一つだけ聞きたいんだが」
「……なんだ」
「そのユニークカードって、
「…………そうだ」
んで、ちょっと事情を聞いてみたんだが。
ええとようするにつまり……
「そのカード、俺もう持ってないが」
「えっ」
――こいつは、骨折り損をくらったということだ。
流れる沈黙。
少しだけ優しい生ぬるい空気。
俺達は互いに言葉を交わさず……俺は男を神殿に突き出した。
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