Fate/stay night[Endless Stardust]   作:おーたまー

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Prologue 黒き泥と白き異形

 煙を上げる市民会館の屋上で、二人の英霊が対峙していた。黄金の甲冑を纏ったアーチャーと、黄金の剣を握りしめるセイバー。勝負は既に決しかけていたが、その瞳に宿る意志の火はまだ消えてはいない。

 

「悪足掻きはよせセイバー。貴様では(オレ)には勝てん」

 

 愉悦を湛えた声が、夜の静寂を切り裂く。対するセイバーは、満身創痍の体に鞭打ち、剣を正眼に構え直した。

 

「たとえそうであっても、大人しく引き下がる私ではない。侮るな、アーチャー」

「フン、威勢がいいな。よかろう。口で言って分からぬのなら、力によって威を示すのが王の役目よ。今こそお前の全てを打ち砕き、その誇りごと蹂躙してやろうではないか」

 

 背後に展開される無数の宝具が、黄金の輝きを放ち、獲物を狙う。一触即発の二人。いざ衝突、といったその時。

 

「「!?」」

 

 不意に、虚空から白い「異形」が這い出した。それは生命の躍動を感じさせない、無機質な殺戮兵器。それが意思を持たぬ刃となって二人の間に立ち塞がった瞬間、アーチャーの背後の空間が歪んだ。

 

 放たれた一筋の閃光。王の財宝(ゲート・オブ‪‪‪︎︎・バビロン)から射出された宝具が、問答無用でその白い塊を粉砕し、火花と共に散らした。

 

 直後、セイバーの剣先が即座にアーチャーへと向けられる。

 

「貴様の差し金か、アーチャー!」

「たわけ。この(オレ)がこのような無粋な真似をするものか。だが……ふむ。極東の神々が、今になって掃き掃除を始めたか。此度の小競り合いが引き金やもしれんな」

「何を言っている?」

 

 セイバーの問いに答える代わりに、アーチャーは天を仰いだ。

 上空から、夥しい数の星屑が宙を舞う。それは降りしきる雪のように、しかし破壊そのものの質量を持って地上へと降り注いだ。平穏だった家屋を容赦なく破壊し、遠くではさらなる火の手がたちのぼり始める。

 

 そこで、異変は極致に達した。

 空にどろりとした黒い「孔」が開き、そこから底知れぬ呪いを孕んだ黒い泥が放出された。溢れ出した泥は触手のように伸び、空を埋め尽くす異形を貫いていく。それらは負の感情に焼かれるように激しく炎上し、周囲の景色を地獄のような赤一色へと染め上げていく。

 

 やがて、執拗に増殖する白き群衆が、餌食を求めてアーチャーとセイバーに襲いかかった。だが、それよりも早く、天の孔から溢れた泥の層が、重苦しい津波となって地上を、星屑を、そして戦場の全てを押し潰していった。

 

 

 *

 

 

 視界が赤い。

 熱い。喉が焼ける。

 少年は、何が起きたのかも分からぬまま、炎上した街をさまよい歩いていた。

 

 周囲には瓦礫と、かつて隣人だったものたちの成れの果て。

 ふと、崩れた壁の向こうから、白い死神が音もなく姿を現す。感情の欠落したその刃が、幼い少年を仕留めんと迫っていく。驚いた彼は体勢を崩し、倒れたまま動けない。

 

 ──が、背後の闇から伸びた黒い泥が、一瞬でそれの核を貫いた。

 怪物は断末魔もなく霧散し、少年は九死に一生を得る。しかし、彼にはもう逃げる気力も、立ち上がる力も残ってはいない。

 

 薄れゆく意識の中、少年は全てを受け入れていた。もはや生よりも死の方が、彼には鮮明に見えていたから。

 心は既に伽藍堂。何も無くなった空っぽの器だけになって、その器さえもが、今まさに喪われようとしていた。

 

 その時、瓦礫を掻き分ける音が、灼けついた鼓膜を揺さぶる。

 

「──生きている。生きているぞ!」

 

 必死な声。涙を流し、まるで救われたのは自分の方だと言わんばかりの表情で、一人の男が、少年の手を強く握り締めた。

 降り注ぐ火の粉と、消えゆく白い怪物の残骸の中で、少年の物語は幕を開けるのだった。

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