Fate/stay night[Endless Stardust]   作:おーたまー

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4日目-萌芽Ⅱ

「そう殺気立つな。私のマスターとお前は残念ながら同盟関係にある。今の時点で事を荒立てるつもりはない」

 

 赤い弓兵はさらりとそう言い流す。

 その開き直った態度がなんというかこう、とてつもなく頭に来た。こいつの神経、ねじ曲がってるなんてもんじゃない。

 

「気配を消して無防備なマスターの背後を取って、そんな舐めたことよく言えるなお前は! それが挑発でなくてなんだってんだ!」

「あの場で声を掛けていたら、お前は神経操作を狂わせ自滅していただろう。むしろ感謝して欲しいくらいだがね」

 

 ……まあ、確かにその可能性はあった。

 だからって許せるかってんだ。同盟関係になって一日だって経ってないってのに。

 明らかに俺を軽んじているというか、舐めているというか、舐め腐っているというか。そりゃマスターとしちゃ下の下であることは認めるけど、ろくに面識もない協力相手に対して底意地の悪さを隠そうともしないとは。

 

「用件を言え。あと、それ以上近付くな」

 

 鉄パイプを向けながら唸るように言い放つ。

 アーチャーは嘲るように苦笑するだけ。

 

「やれやれ。その用件だがな。お前のサーヴァントと、二人で少し話をしたいんだが」

「……?」

 

 なんだ、友奈と話? 

 突っぱねてやっても良かったけど、わざわざ俺に話を通さずとも友奈と会話するなんて、やろうと思えば出来たはず。

 もしかして、こいつなりの誠意というやつなのか。

 

「なに、大したことでは無い。ただ、彼女は化物を“バーテックス”と呼んだ。その意味が分かるか」

「……いや」

「凛はあれをキャスターの召喚した使い魔の類いであると考えている。その推測は自然なものだ。これが、“通常の聖杯戦争”であるならばな」

 

 通常の聖杯戦争。それの意味するところは、本来、聖杯戦争においてあの化物は存在しないということ。

 あれがキャスターの召喚したものではないというのは、俺だって分かっている。化物は前回の聖杯戦争にも存在していた。そして、前回の聖杯戦争で最後に残ったサーヴァントはキャスターではないはず。あの金色のアーチャーと魔術師では、まず勝負にすらならないからだ。

 

 そもそも、連続で同じサーヴァントが召喚されるとは考えにくい。前回の聖杯戦争の情報が残っているのなら、前例のあるサーヴァントを召喚するというのは情報戦において自ら不利を作るようなものだ。

 

「お前のサーヴァント、セイバークラスではないな。アサシンでも、ましてやキャスターでもない。何故ならセイバーは既に存在している。アサシンとキャスターもな。であれば、彼女は八騎目のサーヴァントということになる」

「お前、キャスターとアサシンを見たのか」

「ああ。お前達のバーサーカーとの戦いもな。凛は介入も考えていたが、その前に上手く逃げおおせたようだからな」

 

 そうか。こいつは弓兵のサーヴァント。

 索敵という点において他のクラスを凌駕するものがあるのか。

 まあ、友奈はセイバーって自分で言ってたはずだけど、わざわざ教えてやる必要は無いだろう。

 

「話を戻そう。これは既に真っ当なルールから逸脱している。あれがもしサーヴァントによるものではなくもっと別の何かであるのならば、これは聖杯を巡る争いには留まらんかもしれん」

 

 両眼を鋭く絞る弓兵。

 まあ、こいつの懸念は理解出来る。俺自身、サーヴァントよりもあの化け物の方が動きが読めなくて厄介なんじゃないかと思っていた。言峰のやつなんかはあれが無尽蔵に湧いてくると言っていたわけで、それが本当なら戦いどころではなくなるだろう。

 

「私はそれを確かめたいだけだ。あの子について詮索するつもりはない。ただ、これでも英霊の端くれだ。世界の危機であるのなら、優先順位というものを考えねばならないだろう」

 

 ……そう言われてしまっては断ることは出来ない。

 こいつと俺の目的は多分同じ。俺一人の力なんてたかが知れてるわけで、化け物から人々を護るにはサーヴァントの力がどうしても必要になってくるはずだ。

 ただ、俺の方からこいつに手を貸して欲しいと頼むことはないだろうけど。俺は俺で、こいつはこいつで化け物に対峙する。それなら別に構わない。

 

「分かった。けど二人でってのはナシだ。当たり前だろ」

「私は構わんが、彼女が拒否したらどうする。場合によっては、お前に彼女の過去を晒すことになるぞ。そこまでの信頼関係が、お前達にはあるのかね」

 

 口を噤む。

 ある、と即答したいところではあった。けど、一昨日の夕陽に照らされながら俯く寂しそうなあの顔を見て、俺は何も言えなかった。友奈は、俺に知られたくない何かがある。少なくとも、今はまだ。

 

「英霊同士だからこそ理解できることもある。今を生きる人間とサーヴァントでは、立場も視点も何もかもが異なるのだから」

 

 そう言う弓兵の口角は少し吊り上がっていた。

 ぶん殴ってやろうかと思ったけど、そんなことしたら、それこそ俺の負けになってしまう。

 同じ英霊には話せること。独りで溜め込むよりは、そっちの方が、友奈にとってはいい事なのかもしれない。

 ああくそ。なんでこんな悔しいんだ。

 

「……分かった。後で聞けばいい話だしな。呼んでくるから、そこで待ってろよ」

 

 怒鳴り気味にそう言って俺は踵を返す。

 あいつ、いつか絶対に足引っ掛けて転ばしてやる。

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