Fate/stay night[Endless Stardust] 作:おーたまー
5日目-魔術戦(選択肢②)
「ん……」
重い瞼を押し上げる。同時に朝日の眩しさに、少し顔を顰め。ふと腹の上に広がっていた掛け布団に首をかしげた。
……いつの間に眠ってたんだ?
昨日、道場でアーチャーと手合わせをして、それから──そこまで考えて、ひどく頭がぼんやりしていることに気づく。思考に靄がかかったような違和感を覚えながらも、体を起こして居間へと向かう。
「あれ、早いな二人とも」
居間の襖を開けると、そこにはすでに慎二と遠坂の姿があった。
声をかけると、遠坂が弾かれたように立ち上がり、なぜか居住まいを正して俺に深く頭を下げてきた。
「衛宮くん、昨日はその……本当に申し訳ないことをしたわ」
「え、何だ急に。俺謝られるようなことされたっ……け……」
きょとんとする俺の脳裏に、濁流のように昨日の記憶が蘇る。
アーチャーの容赦ない猛攻。砕け散る剣。皮膚を裂く寸前の黒い刃。死を覚悟したその瞬間、割って入った遠坂が令呪を解き放ち、叫んだ──
『協力者を殺すな、この馬鹿!』
と。そうだ、俺はあのあと、糸が切れるようにそのまま気を失ったんだ。
「私が言うのもなんだけど、緊張感ないのね、あなた」
呆れたようにため息をつく遠坂。その腰に据えられた右手の甲が視界に入る。
刻まれていたはずの赤い紋様──令呪が、残り一つになっていた。
「……令呪、使わせちまったのか」
「ええ。でも一画は残ってるから、心配しないで。アーチャーにはきつく言っておいたから」
すまん、と言いかける俺の言葉を遮るように、慎二がニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら遠坂の肩に手を置いた。
「自分のサーヴァントの手綱も握れないなんて、遠坂もまだまだだね」
「ええ……そうね」
遠坂は思いきり不快そうにその手を振り払いながら、ギリ、と奥歯を噛み締める。そんな態度を気にする風でもなく、慎二は楽しげに俺へと視線を巡らせた。
「それよりさ衛宮、昨日魔術使ってアーチャーとやり合ったんだって? ならさ、ちょっと僕と魔術戦やってみようよ」
「魔術戦?」
「魔術師同士の決闘みたいなものよ。でも衛宮くんはともかく、間桐くんはどうやって魔術使うつもりなわけ?」
遠坂のもっともな疑問に、慎二はフンと鼻を鳴らして懐から古びた一冊の本を取り出した。
「まあ見てなって。庭に来いよ衛宮」
慎二が親指で縁側を指し示す。
その尊大な態度に、俺は思わず眉をひそめる。
「いや、なんでお前と戦わないといけないんだよ。俺やだぞ」
「模擬戦みたいなもんだって。心配しなくても、手加減はしてやるからさ」
一度こうなったら、こいつは絶対に他人の言うことなんて聞きやしない。
俺は小さくため息をつき、諦めて立ち上がった。
「……ったく」
外に出ると、ひんやりとした空気が肌を刺す。遠坂は縁側に腰を下ろし、どこか冷ややかな、それでいて品定めするような視線でこちらを眺めていた。対峙する慎二は、手にした魔術書を仰々しく掲げている。
「先手は譲る、かかってきなよ」
「はいよ」
言われるがまま、俺はそっと目を閉じた。
思い浮かべるのは、昨日アーチャーと交わした、あの無銘の剣。脳裏に焼き付いた設計図を、一本の細い糸をたどるようにして一気に引きずり出す。
「──
バチ、と大気が鳴り、俺の手の中にずっしりとした鉄の質量が迸る。
瞼を開けると同時に握りしめていた剣に、縁側の遠坂が大きく目を見開いた。
「……! うそ」
驚愕に息を呑む遠坂の声。それを見た慎二の顔から一瞬で余裕が消え、わずかに狼狽の光が走る。だが、こいつはすぐにそれを隠すように、苦し紛れの笑みを顔に貼り付けた。
「……へえ。衛宮らしいっちゃらしいかな。でも、聖杯戦争向きじゃあないね。剣を作ったところで、サーヴァントに敵うわけじゃないんだから」
「ああそうだな。でも、マスター相手なら……!」
地面を蹴る。
一気に間合いを詰めるべく突貫する俺。だが、慎二は逃げ出そうとはせず、冷酷な笑みを浮かべたまま、こちらに向けてガッと手をかざした。
「かかったな、衛宮!」
直感的な悪寒。
慎二の背後、日の当たらない陰から、生き物のようにのたうつ二つの「影の刃」が、猛烈な勢いで俺の肉体へと襲いかかる。
あれが慎二の魔術なのか。どういった魔術なのか何も分からないが、今の俺には武器がある。
それなら──!
「うおおおおおおおお!!!」
影の刃の一柱に、鉄塊を叩き付ける。確かな手応えと共に影は千切れ霧散し、そのまま空いた空間に走り込む。
「そんな、う、うそだ──!」
慎二は後ずさり、まるで無防備に腰を竦めている。
標的まではたった数歩。
この剣を突きつければ、それで決着だ。
なら、俺は──
選択肢②
-
決着をつける。
-
わざと手を抜く。