Fate/stay night[Endless Stardust]   作:おーたまー

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決着をつける。


5日目-作戦

「これで十分だろ、慎二」

 

 一気に間合いを詰めて、慎二の喉元へ切っ先を突きつける。朝日が反射する冷たい刀身に、慎二の身体がびくりと跳ね上がった。

 

「……! もう一回、もう一回だ! 今のはまぐれさ。そうだ、そうに決まってる。だっておかしいだろ、あんな、あんな簡単にさあ。そんなの変だろ、なあ!」

 

 突きつけられた刃を睨みつけながら、慎二は狂ったように叫び散らす。その顔は激しく歪んでいた。

 

「慎二、いい加減にしろ。そんなんで俺に勝ってどうしたいんだお前は」

 

 諭すように言う。縁側に座った遠坂が心底呆れたような、冷ややかな溜息を漏らす。

 それに気づいた瞬間、慎二の顔が真っ赤に染まる。俺の剣を乱暴に払いのけると、地を蹴って居間から廊下へと走り去っていく。

 

「お、おい慎二!」

「放っておきなさいよ。少しはいい薬になるってもんじゃない」

 

 遠坂は立ち上がることもせず、退屈そうに爪を眺めながら言い放った。そのあまりに割り切った態度に、俺は思わず目を細める。

 

「……結構冷たいよな、遠坂って」

「そうよ。私冷たいの。でもそれ言ったら貴方だってそうじゃない? 少しは手を抜いてやるのかと思ったけど」

「そりゃ、男同士だしな。こういうのは理屈じゃないだろ」

 

 ふん、と鼻を鳴らして、遠坂がようやく縁側から立ち上がった。その瞳に、魔術師としての鋭い光が戻る。

 

「ま、そんな事どうでもいいのよ。これ以上キャスターの好きには出来ない。今日の夜に攻め込むわよ」

「攻め込むって、もう根城を掴んでるのか」

「ええ。奴は柳洞寺にいる。あそこは冬木で最も魔力が集中してる場所よ。放置すればするほど力をつけていくわ。けど、魔術師の拠点ってのは基本的に攻める方が不利なものだし、キャスターともなれば一筋縄じゃいかないでしょうね」

「そうか。なら少しは作戦を立てないと。やっぱり、慎二呼んでくる」

 

 

 流石にこのまま慎二を置いてけぼりにするわけにはいかない。俺は引き止める遠坂を置いて、慎二が閉じこもった寝室へと向かった。重苦しい空気の漂う襖越しに、声をかける。

 

「おい慎二、キャスターとやり合うのは今日ってことになったから、作戦を話しておきたいんだが」

「はあ? もう二人で決めちゃったわけ? まあそりゃそうか。僕みたいな足手まといの意見なんて聞く耳持たないよな」

 

 襖の向こうから返ってきたのは、やはりというか、皮肉の混じった声だった。

 

「そういうわけじゃない。お前の力だって必要なんだ。とにかく、居間に出てきてくれよ」

「僕の力? くだらないおべっかはやめろよ。必要なのはライダーだろ。だったら連れていけばいいじゃん。遠坂だってそっちの方がいいって言うに決まってるんだから」

「なんで遠坂が出てくるんだ。第一、それでここに敵が来たら」

「令呪でもなんでも使って呼び戻すさ。あのさ、もううるさいんだよお前。僕に勝ったからっていい気になってさ。その調子で遠坂とよろしくやってればいいだろ」

「……」

 

 これ以上何を言っても無駄か。

 まああの時の遠坂の反応はなあ……あれは俺でも凹む。

 完全に心を閉ざしてしまった友人に、俺は深い溜息をついてその場を離れた。居間へと戻る廊下で、今度は友奈と鉢合わせる。

 

「先輩、お身体は……えっと、お取り込み中でしたか」

「ああいや、ちょっとな。友奈も割と遅かったな」

「昨日のことがあったので、先……アーチャーさんに話を伺ってました。それでその……」

 

 友奈は何かを言いかけ、言いにくそうに口ごもる。昨日、俺を殺しかけたアーチャー。その真意を彼女なりに探ろうとしてくれたのだろうか。

 

「?」

「ああいえ、なんでもないです。それより、今日はどうするんですか」

「キャスターのとこに乗り込む。これから作戦を練るとこだ」

 

 俺の言葉に、友奈の表情がすっと真剣なものに変わる。

 

「おわっ」

 

 その時、俺たちの間の空間が不自然に歪み、魔力の粒子が形を成した。突然、霊体化を解除して姿を現したのは、ライダー。

 

「……」

 

 音もなく現れた長身の美女は、無言のまま俺たちを見下ろしている。何をするでもなく、ただそこに佇む彼女のせいで、廊下に気まずい沈黙が流れた。

 友奈が困ったように眉を下げ、ライダーに視線を向ける。

 

「あー……一緒に行きますか?」

 

 おずおずとした友奈の問いかけに、ライダーは静かに、しかし確かに首を縦に振った。

 ……相変わらず何考えてるんだか分からない。

 

 

 その後居間に入り、俺たちは少し遅めの朝食を囲んでいた。

 今日のメニューは、遠坂が作ったフレンチトーストだ。外側はカリッと、中は驚くほどふわふわに仕上がっていて、正直めちゃくちゃ美味い。

 

「ふうん、慎二はやる気失くしたって? ま、いいんじゃない。ライダー貸してくれるなら言うことないし。実際、それが最善よ」

 

 フォークを器用に扱いながら、遠坂は事も無げに言った。

 

「遠坂、お前ってやつは……」

「なによ。いい、聖杯戦争は遊びじゃないの。素人の思い出作りに付き合ってちゃ、命が幾つあっても足んないっての。じゃ、作戦を説明するから、よく聞きなさい」

 

 少しは慎二のことも気遣ってやれよ、という言葉は、正論の前に飲み込むしかなかった。

 まあ状況が状況だし、今は慎二抜きでやるしかないか。それより、作戦を説明するってことはつまり。

 

「なんだ、もうその辺は固まってるのか」

「というより、はなから選択肢が無いのよ。柳洞寺の結界は強力すぎる。入るには山門を真正面から通るしかない。けど、こっちには三体もサーヴァントがいる。これだけ手駒が居れば、流石にこちらに分があるってもんよ」

 

 俺は腕を組み、首を傾げ、反芻する。

 作戦っていう割には、あまりにシンプルというか。

 

「色々言ってるけど、要は正面突破ってことか」

「そう。近接戦闘は友奈ちゃんとライダーに任せて、アーチャーは化物の掃討と援護に回す。キャスターは典型的な魔術師だし、切った張ったのステゴロ勝負ならこちらが有利なはず。二人がかりでキャスターを抑え込むの」

 

 淡々と戦術を組み立てていく遠坂の言葉を聞きながら、ちょっと聞き逃せない引っかかりが。

 

「あー……ちょっといいか」

「なに?」

「お前、友奈のこといつからそんな風に呼ぶようになった」

「え? 昨日だけど。なんか問題ある?」

 

 澄ました顔で返され、俺は言葉に詰まる。ちらりと友奈を見ると、なんでもないような顔で笑っているだけ。昨日、俺が気絶している間に、女子二人で何か通じ合うものでもあったのだろうか。でもそれにしたって、半日程度じゃないのか。

 ……一体何話してたんだ。ううむ。

 

「……まあ一旦置いておく。あと化物についてだけど、あれはキャスターの使い魔じゃなくて、もっと別のモノらしい。アーチャーも友奈も、同じ見立てだった」

「ああ、それは私も聞いた。だとしても、今は間違いなく魔術師の制御下にあるわ。衛宮君は気付かなかったかもしれないけど、あの化物の放つ魔力は明らかに操作されていたし、別のモノが混ざっているのよ。あのレベルの化物を大量に操れる魔術師なんて、キャスターくらいしか有り得ないわけ。直接生み出した訳ではなくても、あれはキャスターの使い魔と呼ぶべきなのよ」

 

 どこか険しさを帯びた遠坂の口調に、事態の深刻さが嫌でも伝わってくる。

 要するに、キャスターは得体の知れないものと分かっていてそれを捕え、自分の手駒にしているのだ。

 野生の猛獣は脅威だが、飼い慣らされ、その悪意のままに使役されるというのはもっと危険だ。

 

「なら、キャスターを倒せば、化物の襲撃はマシになるかもな」

「ええ。あんなのにいつ襲われるか分からない現状を考えれば、多少無茶してでも挑まないと」

 

 皿に残った最後のトーストを口に放り込み、俺は覚悟を固めるように深く頷く。

 いよいよ今夜、柳洞寺での決戦が始まろうとしていた。




今回も民意が明確。容赦ないですね。
ちなみに「わざと手を抜く」を選ぶと、慎二君は同盟そっちのけで行方をくらましてしまう予定でした。
はい。つまりどっちにしろ拗ねます。
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