Fate/stay night[Endless Stardust] 作:おーたまー
1日目-運命の夜桜
「んだコイツら気色の悪い。だが……ま、おかげで仕事が省けたぜ。あばよ小僧。恨むんなら、テメエの弱さを恨むんだな」
土蔵の外、地を蹴り空を裂く音と共に、槍兵の気配が遠ざかっていく。代わりに俺を追い詰めているのは、二体の白い怪物だった。
「う、うわああああああああ!!!」
強化したポスターを叩きつける。それは絶叫を掻き消すようにあっけなく叩き折れ、衝撃で俺は再び倒れ込んだ。
顔を上げる。十字の器官を左右に貼り付けた、人のように縦長の牙をもつ人より二回りも大きなミジンコ。俺はこれを知っている。俺の親だった誰かを、一瞬で食い荒らしたこいつらを知っている。
燃え盛る炎が視界をよぎる。喉を焼く黒煙を吸いながら、灰で粉になった人体の一部を踏んだ時の足の裏の感覚。酸化した内臓とガソリンが混じった匂い。自分の命が死の世界に引き摺られていくような、終わりのない孤独と恐怖を。
「──ざ、けんな」
煮えたぎる怒りで、声がどうしようもなく震える。終末そのものみたいな地獄の中、唯一救われた命があった。野草のように刈り取られた他の全ての人間達を差し置いて、ただ一人、存在をつなぎ止めたちっぽけな少年。
その運命が、無意味であってはならない。あの日充満した死が、絶望が、ただ『運が悪かった』で済ませられるものになんて、していいはずがないだろ。
なんの為に生き残ったのか。なんの為に救われたのか。
「
だから、絶対にお前らにだけは、殺されるわけには、いかない──!
「お前らの、エサじゃねえ──っ!?」
瞬間。
青い稲妻が迸り、怒号を遮るように閃光が視界を覆い尽くし、高鳴りと残響に聴覚を奪われた。
何が起こっているのか分からない。視覚と聴覚が役に立たない。けれど、鼻腔をくすぐる春のような香りだけは、まるでこの身を包むように柔らかく。
「──あ」
幻惑を越えて見開いたそこに映っていたのは、白桃の軽鎧に身を包んだ、桜を思わせる少女の姿だった。
奴らの姿はどこにもない。代わりに、虹の礫のような光の玉が、薄く大気を漂っている。
「セイヴァー、喚ばれて来ました! 怪我は無い……で……えっと……だいぶ怪我、してますね……」
──数時間前。
俺は、夢みたいな光景を。
いや、みたいというより、夢じゃないとおかしいような、そんな何かに目を奪われていた。
「なんだ、あれ」
呟く自分の声すら、なんだか嘘みたいに感じていた。
赤い外套に身を包んだ二刀の男、それから血液のように鮮やかな紅色の槍を振り回す青い男。
つまるところ殺し合いだった。
それだけでも現実離れしているのに、その二人の戦いは、およそ人間同士で繰り広げられるそれとはあまりにも乖離していた。
要するに、人間じゃないんだと思う。人間の形をした何かが、得体の知れない力で競い合っている。
だって、そうじゃないと説明がつかない。得物を振り回す速度、吹き荒れる衝撃、重力を感じさせない身のこなし。
俺は、見てはいけないものを見てしまっていた。
「──ッ!」
青い槍兵がふいにこちらを見る。
俺は、その時点で自分の運命をどこかで悟っていた。
「ッ、はあ、はあ、まずい、走れ、走れ──ッ!」
校舎に逃げ込み、俺は我武者羅に両足を回し続ける。三階まで駆け抜け、人気のない廊下に立ち尽くす。
そこで一度、まばたきをした。
瞼を開いた時には、足元が赤い何かでびちゃびちゃになっていた。
それが、自分の心臓から流れ出る血であったと気付いて、俺は膝を折り、頭が真っ白になって、そこで全てが途切れた。
「──は?」
眼を開く。
いや、眼を開くってのは、おかしい。
ひんやりと身を冷やす廊下。違和感を感じたまま上体を起こし、赤く染まった制服に触れる。
夢じゃない……?
いや、だとしたら、なんで俺は死んでいないのか。
何もかもがはっきりとしない。疲労でふらつく足を引き摺りながら、俺は自宅へと向かう。
正直、どうやって家に帰ったのかまるで覚えちゃいない。そこははっきり言ってどうだっていい。
問題は、自分の家でさえ、安全じゃなかったってことだ。
「また会ったな、小僧」
屏風を突き破り、青い槍兵がふてぶてしく俺を見下ろす。俺はとっさにすぐそばにあった鉄板入りのポスターに“強化”の魔術を施し、無造作に放たれた赤い槍の一刺しを寸前で受け流す。
「が──」
受け流したはずなのに、俺は正面から突き飛ばされたような衝撃で壁に打ち付けられる。
次元が違う。
俺は縁側から庭に転がるように逃げ込み、しかし、部屋にいたはずの槍兵が既に眼前で腰を下ろしていた。
「ったく、逃げられるものかよ。ここで死ぬと分かっているのなら、最期に気概ってやつで牙を向け。男だろう、が!」
「うご──!」
咄嗟に正中に構えたポスターが、肋骨にめり込む。まるで特急が線路の上に立つ俺に突進してくるような、そんな馬鹿みたいな錯覚。一瞬吹き飛んだ意識が戻った時には、俺は土蔵に叩き込まれていて、顔を上げると、あの二体の白い化物が俺を見つめていた。
──そして。
「あなたが、私のマスター……ですよね?」
この夜、俺は、運命に出会った。
需要を把握した上で展開を作りたいので、アンケートを置いておきます。
よろしくお願いします!
士郎とセイヴァーは恋仲にした方がいいですか?
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ぜったいダメ。
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しなさい。