Fate/stay night[Endless Stardust] 作:おーたまー
「あなたが、私のマスター……ですよね?」
「は……?」
マスター?
いきなり出てきて俺をマスターだなんて呼ぶこの少女は、俺に不思議そうな顔で手を伸ばしている。
状況的に、あの化け物二体を倒しちまったのはこの子だ。けど、一体どうやって?
よく分からないまま、俺はセイバーとかなんとかいうこの子の手を取って、口を開いた。
「助けてくれてありがとう。けど俺はマスターなんて名前じゃない。衛宮士郎って名前があるんだ」
「ああ、えと……じゃあ、衛宮先輩」
「先輩? なんでそうなる」
「だって、衛宮先輩は高校生ですよね?」
「──」
ああ、なるほど。
要するに、この子はよりにもよって俺より年下ってわけだ。
変わった鎧に気を取られていたけど、顔立ちや背丈を見ると、平均的な女子中学生そのもの。
俺は、まさか年下の女子に命を救われたっていうのか。
「……あ。待ってください。他のサーヴァントが、ここに近付いてきているみたいです」
「サー……ヴァント?」
「えと……もしかしてって思ってましたけど、先輩って……っと、とにかく、先輩はここに隠れていて下さい。考えがあるんです」
そう言うやいなや、セイバーは土蔵を出て、光の礫を撒き散らしながら姿を……変えた。
どう変わったかといえば、桃色の髪は赤く染まり、鎧は消え、代わりに見慣れないどこかの学校の制服姿になっていた。こうなったら、どこからどう見てもその辺の女子中学生にしか見えない。
もしかして、一般人のフリをしてやり過ごすつもりなのか。
「!」
庭に、人影が伸びてくる。
さっきまでの気配は、二人だったような。けれど、実際に足を踏み入ってきたのは一人だけ。
「あなた、見慣れない制服ね。こんな夜更けにどうしたの」
「っ、遠坂……!」
学校一の秀才にしてマドンナである、穂群原学園の高嶺の花、遠坂凛。なんだってあいつが、こんな所に、こんな時間に現れるんだ?
「さっき、なんだか騒がしかったわね。窓も割れてる。何か見たっていうなら、話してくれない?」
「いえ……私も、不思議に思って立ち寄ってみたんです。どうしましょう。警察とか、呼んだ方がいいんでしょうか」
「……」
遠坂は表情を変えず、しかしその視線はどこか苛立っているように見える。
セイバーは確か、サーヴァントとかなんとかってのが近付いているって言っていた。んじゃあ、遠坂がそのサーヴァントってことになるのか。
大体、サーヴァントって、一体なんだっていうんだ?
「……最近物騒なの、知ってるでしょ。見たところ、中学生かそこらじゃない? ここは私に任せて、家に帰んなさい」
「は、はい……」
セイバーは縮こまりながら、敷地から立ち去っていく。
遠坂はそれを確認して、黙って屋敷周辺を眺めながら、ぶつぶつと独り言を言い始めた。俺はそれを聴き逃したくなくて、影に隠れながら耳をそちらに傾ける。
「アーチャー。さっきの、この辺りだったわよね」
呼び掛けに答えるように、蜃気楼から何かが姿を表す。
それは、学校で見た赤い外套の男だった。俺は目を丸くして、息を潜める。
「ああ。少し前、立ち去っていくランサーの姿も見えた。ここに侵入していく、白い異形も」
「考えられるのは、ここでサーヴァントが召喚されて、マスター共々どこかへ逃げていったか、あるいは、その直後にランサーか化物に仕留められたか。けど、もし後者だとしたら、サーヴァントの消滅が早すぎる」
「ふむ。いずれにせよ、あの小僧はもう生きてはいまい。ランサーは仕事を終えここを立ち去ったはずだ。君にとっても、余計なことに気を回す必要はなくなったということさ」
「……ええ、そうね。帰りましょう、アーチャー」
直後、地を蹴るような音と共に、二つの赤い影が飛び去っていく。
……なんてこった。詰まりきった息を吐き出して、俺は頭を抱える。思い出すのは、最近あった付近の強盗事件のことだ。
一家四人、まとめて殺された凄惨な出来事だった。凶器は日本刀や槍のような長物。点と点が繋がったような感覚。あいつは、遠坂は、一連の何かに関わっているかもしれないんだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
「あ、セイ、バー?」
セイバーが視界にひょっこり現れて、俺は胸を撫で下ろす。理由はよく分からないけど、この子を見ていると少し安心する。まあ、今この極限の状況を共有できるのはこの子しかいないわけだから、ある意味当然なのかもしれないが。
「アーチャーとマスターはもう行ったみたいです。とりあえず、中に入って色々話しましょう、先輩」
促されるまま、俺は居間に戻り、ちゃぶ台の前でセイバーと向き合う。どこから話したものかと、セイバーは顎に手を当てて難しい顔をしている。
「えっとですね先輩。あなたは、聖杯戦争という……聖杯を手に入れる人を決める、そんな戦争の……戦う人になったわけです。つまり、マスターです」
「? お、おう」
「それで、マスターにはサーヴァントがついてきます。サーヴァントはとっても強いですが、サーヴァントはマスターがいないと消えてしまいます。だから、マスターとサーヴァントは協力しあわなければいけないんです」
「ああ」
「だから、頑張って協力して、聖杯をゲットです! どうですか」
「うん。分からん」
「なんでよー!」
セイバーは目をぐるぐるさせて抗議する。
多分、説明が上手い方じゃないんだろう。
まあ、中学生だし。そこは仕方ない。
「大体、俺はそんな戦争に参加するなんて言った覚えはない。それに、聖杯ってのがなんなのかもよく分からない」
「ええー? 先輩が私を呼んだんですよ? それって、聖杯で何か叶えたい願いがあったからじゃないんですか?」
「……てことは、聖杯ってのは、願いが叶うアイテムかなんかなのか?」
セイバーは湯呑を置いて、厳かに頷く。
「そうです。けど、手に入れる為には他のサーヴァントを全て倒して、最後の一人にならなきゃいけません。ですから、これは戦争なんです」
「……」
俺は無言で、茶に映る自分の顔を見つめる。
遠坂凛。あいつも、何か叶えたい願いがあって、サーヴァントと協力してこの殺し合いのゲームに加担してるわけだ。
でも、何か理由があるんじゃないのか? それに、このおかしな戦争について、きっと俺よりずっと多くのことを知っているはず。
明日、あいつと話さないと。話はそれからだ。
「セイバー。悪いけど、その戦争とやらをどうするか、今すぐ決めることはできない。まずは情報を集めたいんだ。だから、明日、さっきの赤い服のやつと学校で話してみようと思う」
「ええー!? ちょっと待ってください! あの人はマスターですよ! 敵です! 殺されちゃいますよ! 大体学校自体、先輩ひとりで行かせられるわけないじゃないですか!」
「だったら、セイバーも学校に来ればいい。藤ねえに頼めば、多分なんとかしてくれるだろ」
「え」
セイバーは顔を引き攣らせてひくひくさせてる。
なんだか、この歳になって妹が出来たみたいな気分だ。
しかし……やれやれ、これから色々大変そうだ。