Fate/stay night[Endless Stardust] 作:おーたまー
「セ……じゃなくて友奈。どうかな、街を周ってみた感想は」
「私が住んでたとこより、ちょっと都会っぽいかもです」
「へえ、そうなのか」
未来から来たっていうからには、近未来的な都市に住んでいることもあるかもな、なんて思っていたけど。まあ、未来っていっても、隔たりは数年くらいのものなのかもしれないな。
「お、学校が見えてきたぞ」
校門を潜り、道場に二人で足を踏み入れる。
練習の真っ只中のようで、射に入っている者がちらほら。
「よう、衛宮。藤村先生に餌やりか?」
なんて気さくに声を掛けてくるのは、美綴綾子。
弓道部の主将である。
「そんなとこ。あれ。今日は慎二いないのか」
「そ。あれでも副主将だってのに、まるで自覚ないんだから。衛宮、あんたからも言ってやってよ」
「うーん。俺はもうあれこれ言える立場じゃないしな」
「そう言わずにさ。アタシから言っても跳ねっ返りが凄くて。衛宮から言えば、いくらか違うと思うんだよね」
そう嘯く美綴の顔には、ほんの少し疲労の色が見える。
豪胆なこいつをここまで困らせるとは、慎二のやつ、相当やりたい放題やってるみたいだな、こりゃ。
「ところでさ、その子は?」
「ああ、ええと、遠い親戚っていうか」
「結城友奈です、よろしくお願いします」
そう言って友奈はぺこりと頭を下げる。
「ふうん。見たとこ中学生とか?」
「いやいや。こいつはこう見えて俺達と同学年なんだよ。まあほら、成長のスピードって人それぞれっていうか、な?」
慌てて目配せして、友奈はこくこくと頷く。
危ない危ない。美綴はあまり気にしてないようだったけど、いくらなんでも焦りすぎだぞ、俺。
「あ、士郎ー! 待っ・て・た・ぜ!」
「待ってたのは俺じゃなくて飯の方だろ。桜、お疲れ様」
弁当を突き出しながら、藤ねえの横に立つ桜に軽く挨拶。桜は微笑みながら、友奈に気付いて少し不思議そうな顔をする。
まあ、どうせ夜に説明することになるだろうし、桜には悪いが後回しだ。今は、藤ねえに話をつけないと。
藤ねえは弁当に手を伸ばすが、俺はひょい、とそれを持ち上げる。藤ねえは少し怒ってこちらを見るが、約束は約束。
「等価交換だ。まずはこっちの頼みを聞いてもらうぞ」
「えー? 頼みって何よう」
「電話で言っただろ。この子、学校に通わせたいんだ。話通して貰えると助かるんだが」
「えー? そんな急に言われてもすぐにどうこう出来ないわよ。大体、その子士郎の何?」
「色々あって、
なんて言った途端、場の空気が凍りつく。
あれ、俺なんか変なこと言ったかな。
止まった時間が動き出したと思えば、開口一番、虎が大声で吠え始める。
「ちょっとちょっと! そんな話聞いてないわよ!」
「そ、そうですよ先輩、一体いつから」
「いつからって、昨日からだよ。俺だって突然だったんだ」
果てには美綴まで茶々入れてきて、場はなんだかてんやわんやに。
くそ。もっとマシな言い訳考えときゃ良かった。
「……まあ、切嗣さんのお客さんなら無下には出来ないか。とりあえず言っておくけど、すぐに籍を置けるとは思わないでよー。まあ、ひとまず一緒に授業受けるくらいは、出来るかもだけど」
「ああ、とりあえずそれでいい。な、友奈」
「は、はい。ありがとうございます」
話はついた。
その場の奴らには細かいことは後日となだめ、弁当を押し付けるや否や、俺達は逃げるように道場を立ち去る。
やれやれ、なんだかどっと疲れてしまった。
大橋で夕焼けを見ながら、二人並んでホットココアを啜る。
ちらりと横を見ると、友奈は不安そうに目を細めて、鬼灯色の川を眺めていた。
考えてみれば、中学生で見知らぬ土地の、違う時間軸にやってきて、通ったことのない高校に通うことになったわけだ。
サーヴァントってことで、自分とは少し距離を置いて考えていたところもあっただろうけど、この子はまだ俺より年下なんだ。
だからこそ、俺は喚びつけたマスターとして、この子のことを知っておかなきゃならないんじゃないのか。
「友奈、お前、なんで英霊になんかなったんだ?」
「え? ああ……うーんと……」
「いや、言いたくないならいい。でもほら、お前、まだ中学生なんだろ。戦争だなんだって、物騒なことは関わるべきじゃないんじゃないのか」
これに友奈は黙りこくって、缶を両手で握り合わせる。
これ以上は詮索になると思って、俺は視線を正面に戻す。
中学生で英霊になるくらいだ。きっと、俺じゃ想像もつかない役割と責任を負ってきたんだろう。
これから先の未来、こんな未熟な女の子が、人々を救う英雄にならなければならない世界がやってくるのだとしたら──俺みたいな半端者でも、少しは役に立てるのだろうか。
そう思うと、自分でも気付かないうちに、口を開いていた。
「俺さ。正義の味方になるって決めてるんだ」
「正義の味方、ですか?」
「ああ。どうやったらそうなれるのかは分からないけど、絶対になる。これは決定事項なんだ」
友奈がこっちを見て、俺は目線を合わせる。
その顔は少し寂しそうで、だけど、どこか嬉しそうにも見えた。
俺は、いや、きっと友奈も気づいただろう。
俺達は、どこか似ている。理屈じゃない。直感に近い何かが、確かにそう告げていた。
「いつの間にか日が落ちちまったな。そろそろ帰ろう、友奈」
「……待ってください。サーヴァントの気配がします」
「ほんとか、それ」
「はい。微かですが、かなり近い。新都の方だと思います」
顔を見合せて、俺達は駆け出す。
最近の辻斬りめいた殺人事件のせいもあるだろう。既に人出はほとんどなくなっている。
辿り着いた公園に、ベンチで携帯を触っている女性が一人。その背後に、ゆらりと現れた幽鬼の如き長髪の女──
「あの!」
声を掛けたのは友奈。
びくりと肩をはね上げてこちらを見る女性。瞬きした時には、既に長髪の女は消えている。
「あ、ごめんなさい。人違いでした」
友奈は頭を下げ、こちらを見る。
多分、友奈が感じたサーヴァントの気配は、今さっきの長髪の女のものに違いない。だとしたら、マスターもすぐ近くに──
「衛宮じゃん。こんな時間になにしてんの?」
「この声──」
振り向く。
間桐慎二。俺の悪友にして、桜の兄。何やら分厚い本を脇に挟んで、屈託のない笑顔をこちらに向けている。
「なあ、見た?」
「見たって、何をだよ」
間違いない。カマを掛けてきている。あの女のマスターは、慎二で確定したも同然だ。
けど、慎二とそのサーヴァントは、あの女性になにをしようとしていたのか。
「ふうん……まあいいや。それよりその子、衛宮のツレ? 衛宮にもようやく春が来たってことかな」
「いや、こいつはそういうんじゃない。それより、お前こそ何してるんだよ。部活にも来てなかったろ」
聞いて、慎二は分かりやすく顔を歪める。
「はあ? 衛宮には関係ないじゃん。それとも何? 今更部活に戻りたいとでも言うわけ?」
……ふむ。
慎二がマスターだっていうなら、部活に入り直して傍で情報を探るという手段も考えられる。
今までそんなつもりはなかったけど、一考の余地はあるかも。
「まあ、美綴の厚意もあるし、考え始めてはいる」
「……! へえ。そう。まあ、いいんじゃない? けど、副主将は僕。お前は平だからな。そこの立場はしっかり覚えておけよ」
なんだかしらないが、慎二は何やら満足気だ。
まあ、それならそれでいい。
しかし、遠坂に慎二と、学校に三人もマスターが集まってるってのはどういうわけなんだ。このままいくと、穂群原学園にマスターが全部集結してても驚かないぞ。
「悪いけど、こう見えて僕は忙しくてね。衛宮なんかに構ってる暇無いんだよね。じゃ、そういうわけだから」
そう言って、慎二は手を振りながら背中を見せて街灯の向こうへとさっさと歩いていってしまう。
あいつがマスターだと知った以上、俺が取るべき行動は──
選択肢①
-
慎二を尾行する。
-
大人しく帰る。