Fate/stay night[Endless Stardust] 作:おーたまー
「やっちゃえ、バーサーカー!」
幼女の号令に応え、巨人の足元が砕け弾ける。
瞬きした時には既に、柱のような極大の剣が俺達をまとめて薙ぎ払わんと迫っていて──
「……っ!?」
何が起こったのか。
衝撃で巻き上げられた砂塵で視界が埋まる。
少しして瞼を開くと、友奈は初めて会った時の鎧姿に変わっていて、桃色のシールドを展開する、牛を模した謎の生物がその眼前で浮遊していた。
シールドはエネルギーをバチバチと発散させ、バーサーカーの握る大剣はそれに阻まれ小刻みに振動している。
「先輩、下がって!」
俺は呆然としたまま後ずさりする。
やがて牛の妖精とシールドは消失し、行き場を失った得物が空を裂き地面を抉った。
前髪が巻き上がり、目を細めて風圧に耐える。奴の口元から吹きだす白い息が、仕損じた彼の怒りを示していた。
「へえ、面白い使い魔がいるのね。
白髪の幼女は余裕の笑みで俺たちを観察している。
当然だが、自分達の敗北をこれっぽっちも信じていないのだ。その気になればいつでも殺せる、そんな強者の立場故の当然の慢心。
嫌な汗が滴る。あの子がこの戦いに飽きた時点で、俺達はまとめて肉塊にされてしまう。それまでに何かしらの手段を打たなければならない。
「先輩、使っていいかな」
「使うっていうのは、えっとつまり」
「宝具。まだ魔力には余裕があるし、それに──」
友奈はごくりと唾を飲み込み、俺を見て、震える声で言うのだ。
「私、多分、
「──」
少しだけ、思考が止まった。
要するに、驚いたというか。
それは、あの化け物を人と呼んだことと、それから、この少女の奇妙な確信と、なにより──この優しさの塊みたいな声が紡ぐ、殺す、という言葉の鋭さに対して。
「……ふうん。バーサーカーを見てそんなことが言えるなんて、恐怖で頭がおかしくなったか、力量の測れないおばかさんか、それとも、本当に何か勝機があるかのどれかね。まあ、そこまで言うなら受けて立とうかな」
イリヤスフィールはニヤリと笑い、バーサーカーは剣を手放し、重さで地面に突き刺さった。
撃ってこい、そう言わんばかりの不動の構えだ。
どっちにしたって、こうなった以上やるかやられるか。だったら、これはきっと最初で最後のチャンスだ。
俺はマスターとして、友奈を信じることしか、出来ることなんてないんだから。
「分かった。頼んだ、友奈」
「うん」
友奈は頷いて目を閉じ、直後に激しい桃色の光の渦が周囲を駆け巡る。花吹雪のような独特の魔力を発散させ、それらが彼女の右手の手甲に収束していく。
ここで気付いたことがある。
友奈の手甲には、桜の花弁を模した紋様が刻まれている。そのうち、四つが色濃く、うち一つは色褪せている。
観察していると、また三つが色を喪い、残りは一つとなった。恐らく、あれを消費することで、友奈は大技を放たんとしている。
「ごめんなさい、大男さん」
拳が光り輝き、腰を据えて引き絞られる。
まさか、この子の宝具というのは──
発動と共に、極光が全てを覆い尽くす。
そう、友奈の宝具というのは、ありったけの魔力を込めた拳撃だった。
宝具というのは、その英雄の持つ逸話を濃縮したもの。
それはつまり、結城友奈という少女が、拳ひとつで戦い抜いてきたということを意味する。
はっきりいって、歪だった。
中学二年生である少女が、どうしても戦わなければならない状況になったとして、その武器が、己自身だというのは。
銃や剣ではない。彼女は、文字通り自分自身を賭けて、敵と対峙してきたのだ──
「……」
光の渦が霧散しそこに残ったのは、項垂れる桜色の戦士と、爆弾でも抱えていたみたいに胸に大穴を作った鉛色の怪物。
まるで内側から食い破られたような、奇妙なカタチをしていた。
俺は恐る恐る敵マスターである幼女を見る。どう見たって勝負は決した。だというのに、慌てるでも呆けるでもなく、その表情は酷く冷たく、自身の
「……そう。
イリヤスフィールは俺と友奈に向き直り、口角を引き上げた。
ゾッとした。
その瞬間、完全に理解してしまった。
俺達はきっと、
「あんな地味な宝具で三つももっていかれるなんて。あーあ。もうちょっとだけ弱かったら、見逃してあげても良かったんだけどな」
「……ッ、友奈!」
俺は叫ぶ。
なんてこった。
バーサーカーの胸は、最初からそうであったと言わんばかりに、傷一つない状態で塞がってしまっていた。
「……! 牛鬼!」
友奈は顔を上げ、牛の妖精がシールドを展開。しかし、衝撃を殺しきれず少女の全身は吹き飛ばされ、俺は慌てて受け止める。
「大丈夫か!?」
「うん、でももうやばい、ゲージがない、先輩、逃げて!」
「逃げろったって……!」
巨人がゆっくり、ゆっくりと白い息を吐きながら近付いてくる。奴が一歩進む度に地面は揺れ、心臓の音が一際激しく唸り警鐘を鳴らす。
どうしたらいい。どうしたらいい。
宝具を使えるほどの魔力はきっともう残ってない。牛のシールドだって電池切れだ。なら逃げる? 逃げ切れるか? 奴の俊敏さは半端じゃない。速度に関して友奈はあいつの足元にだって及ばない。なら友奈にもう一度戦ってもらう? ダメだ。シールドがなきゃ殺されるに決まってる。
……そもそも、友奈はまだ中学二年生だぞ。
「俺は──」
なんて間抜け。
俺は誓ったじゃないか。
正義の味方になるって。
俺が信じる正義の味方が、いつまでもこんな女の子に戦いを押し付けて、後ろで傍観なんかしてるはずがない。
だったら。
俺は──!
「逃げろ! 友奈!」
俺はただそう叫んで、友奈の前に身を乗り出した。
驚愕に口を開いて、友奈は手を伸ばす。それを無視して、俺は拳を握り固め、ただ目の前の敵に向かっていった。
──そこで、目の前の全てがはちゃめちゃに回転した。
早送りにしてビデオを進めているみたいに画面が揺れて、もう何もかもが分からなくなった。
自分が生きているのか死んでいるのか。
それさえも、知覚することが出来なかった。
全身の感覚が無い。自分の眼が開いているのかさえ。
ああ。
俺は、衛宮士郎は、何も出来ないまま、無意味に死んでしまったのか──?
サーヴァント:結城友奈
【クラス:セイヴァー】
【属性:秩序・善】
■ パラメータ
筋力:C
耐久:C
敏捷:C
魔力:B+
幸運:D
宝具:EX
■ クラススキル
大地の加護:EX
周囲の霊脈に自身への指向性を付与する。
救世主:EX
抑止力の自動補正を受ける。
■ 保有スキル
満開ゲージ:A
予備の魔力タンクを持つ。
精霊:EX
満開ゲージを消費し、精霊による障壁を展開する。
秘匿されし勇者:EX
霊体の表面に魔力を遮断する極薄の結界を展開する。発動時、他サーヴァントは自身を探知できない。
■ 宝具
1.
ランク:C〜EX/ 種別:対神宝具
自身の魔力を拳に集約して叩き込む一撃。天属性への特攻を持つ。
2. 満開
ランク:EX/ 種別:対身宝具
周囲の霊脈から魔力を限界まで吸い上げ、一時的に神霊級の霊器へと変貌する。圧倒的な出力を得るが、宝具使用後に「散華」が発生。霊器を損耗し、身体機能の喪失という形で表面化する。