Fate/stay night[Endless Stardust]   作:おーたまー

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2日目-天ノ逆手

「やっちゃえ、バーサーカー!」

 

 幼女の号令に応え、巨人の足元が砕け弾ける。

 瞬きした時には既に、柱のような極大の剣が俺達をまとめて薙ぎ払わんと迫っていて──

 

「……っ!?」

 

 何が起こったのか。

 衝撃で巻き上げられた砂塵で視界が埋まる。

 少しして瞼を開くと、友奈は初めて会った時の鎧姿に変わっていて、桃色のシールドを展開する、牛を模した謎の生物がその眼前で浮遊していた。

 シールドはエネルギーをバチバチと発散させ、バーサーカーの握る大剣はそれに阻まれ小刻みに振動している。

 

「先輩、下がって!」

 

 俺は呆然としたまま後ずさりする。

 やがて牛の妖精とシールドは消失し、行き場を失った得物が空を裂き地面を抉った。

 前髪が巻き上がり、目を細めて風圧に耐える。奴の口元から吹きだす白い息が、仕損じた彼の怒りを示していた。

 

「へえ、面白い使い魔がいるのね。暗殺者(アサシン)だと思ってたけど、魔術師(キャスター)の線もあるのかしら」

 

 白髪の幼女は余裕の笑みで俺たちを観察している。

 当然だが、自分達の敗北をこれっぽっちも信じていないのだ。その気になればいつでも殺せる、そんな強者の立場故の当然の慢心。

 嫌な汗が滴る。あの子がこの戦いに飽きた時点で、俺達はまとめて肉塊にされてしまう。それまでに何かしらの手段を打たなければならない。

 

「先輩、使っていいかな」

「使うっていうのは、えっとつまり」

「宝具。まだ魔力には余裕があるし、それに──」

 

 友奈はごくりと唾を飲み込み、俺を見て、震える声で言うのだ。

 

「私、多分、()()()()()()()と思う」

「──」

 

 少しだけ、思考が止まった。

 要するに、驚いたというか。

 それは、あの化け物を人と呼んだことと、それから、この少女の奇妙な確信と、なにより──この優しさの塊みたいな声が紡ぐ、殺す、という言葉の鋭さに対して。

 

「……ふうん。バーサーカーを見てそんなことが言えるなんて、恐怖で頭がおかしくなったか、力量の測れないおばかさんか、それとも、本当に何か勝機があるかのどれかね。まあ、そこまで言うなら受けて立とうかな」

 

 イリヤスフィールはニヤリと笑い、バーサーカーは剣を手放し、重さで地面に突き刺さった。

 撃ってこい、そう言わんばかりの不動の構えだ。

 どっちにしたって、こうなった以上やるかやられるか。だったら、これはきっと最初で最後のチャンスだ。

 俺はマスターとして、友奈を信じることしか、出来ることなんてないんだから。

 

「分かった。頼んだ、友奈」

「うん」

 

 友奈は頷いて目を閉じ、直後に激しい桃色の光の渦が周囲を駆け巡る。花吹雪のような独特の魔力を発散させ、それらが彼女の右手の手甲に収束していく。

 

 ここで気付いたことがある。

 友奈の手甲には、桜の花弁を模した紋様が刻まれている。そのうち、四つが色濃く、うち一つは色褪せている。

 観察していると、また三つが色を喪い、残りは一つとなった。恐らく、あれを消費することで、友奈は大技を放たんとしている。

 

「ごめんなさい、大男さん」

 

 拳が光り輝き、腰を据えて引き絞られる。

 まさか、この子の宝具というのは──

 

 

「──天ノ逆手(勇者パンチ)──!!!

 

 

 発動と共に、極光が全てを覆い尽くす。

 そう、友奈の宝具というのは、ありったけの魔力を込めた拳撃だった。

 宝具というのは、その英雄の持つ逸話を濃縮したもの。

 それはつまり、結城友奈という少女が、拳ひとつで戦い抜いてきたということを意味する。

 

 はっきりいって、歪だった。

 中学二年生である少女が、どうしても戦わなければならない状況になったとして、その武器が、己自身だというのは。

 銃や剣ではない。彼女は、文字通り自分自身を賭けて、敵と対峙してきたのだ──

 

 

「……」

 

 光の渦が霧散しそこに残ったのは、項垂れる桜色の戦士と、爆弾でも抱えていたみたいに胸に大穴を作った鉛色の怪物。

 

 まるで内側から食い破られたような、奇妙なカタチをしていた。

 

 俺は恐る恐る敵マスターである幼女を見る。どう見たって勝負は決した。だというのに、慌てるでも呆けるでもなく、その表情は酷く冷たく、自身の(しもべ)を瞳に映していた。

 

「……そう。神殺し(ゴッズキラー)の宝具。あながち、大言壮語ってわけでもなかったのね」

 

 イリヤスフィールは俺と友奈に向き直り、口角を引き上げた。

 ゾッとした。

 その瞬間、完全に理解してしまった。

 俺達はきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「あんな地味な宝具で三つももっていかれるなんて。あーあ。もうちょっとだけ弱かったら、見逃してあげても良かったんだけどな」

「……ッ、友奈!」

 

 俺は叫ぶ。

 なんてこった。

 バーサーカーの胸は、最初からそうであったと言わんばかりに、傷一つない状態で塞がってしまっていた。

 

「……! 牛鬼!」

 

 友奈は顔を上げ、牛の妖精がシールドを展開。しかし、衝撃を殺しきれず少女の全身は吹き飛ばされ、俺は慌てて受け止める。

 

「大丈夫か!?」

「うん、でももうやばい、ゲージがない、先輩、逃げて!」

「逃げろったって……!」

 

 巨人がゆっくり、ゆっくりと白い息を吐きながら近付いてくる。奴が一歩進む度に地面は揺れ、心臓の音が一際激しく唸り警鐘を鳴らす。

 

 どうしたらいい。どうしたらいい。

 

 宝具を使えるほどの魔力はきっともう残ってない。牛のシールドだって電池切れだ。なら逃げる? 逃げ切れるか? 奴の俊敏さは半端じゃない。速度に関して友奈はあいつの足元にだって及ばない。なら友奈にもう一度戦ってもらう? ダメだ。シールドがなきゃ殺されるに決まってる。

 

 ……そもそも、友奈はまだ中学二年生だぞ。

 

 

──多分、あの人を殺せると思う──

 

 

「俺は──」

 

 なんて間抜け。

 俺は誓ったじゃないか。

 正義の味方になるって。

 

 俺が信じる正義の味方が、いつまでもこんな女の子に戦いを押し付けて、後ろで傍観なんかしてるはずがない。

 

 だったら。

 俺は──! 

 

「逃げろ! 友奈!」

 

 俺はただそう叫んで、友奈の前に身を乗り出した。

 驚愕に口を開いて、友奈は手を伸ばす。それを無視して、俺は拳を握り固め、ただ目の前の敵に向かっていった。

 

 ──そこで、目の前の全てがはちゃめちゃに回転した。

 早送りにしてビデオを進めているみたいに画面が揺れて、もう何もかもが分からなくなった。

 自分が生きているのか死んでいるのか。

 それさえも、知覚することが出来なかった。

 全身の感覚が無い。自分の眼が開いているのかさえ。

 

 ああ。

 俺は、衛宮士郎は、何も出来ないまま、無意味に死んでしまったのか──?




サーヴァント:結城友奈
【クラス:セイヴァー】
【属性:秩序・善】


■ パラメータ
筋力:C
耐久:C
敏捷:C
魔力:B+
幸運:D
宝具:EX


■ クラススキル

大地の加護:EX
周囲の霊脈に自身への指向性を付与する。

救世主:EX
抑止力の自動補正を受ける。


■ 保有スキル

満開ゲージ:A
予備の魔力タンクを持つ。

精霊:EX
満開ゲージを消費し、精霊による障壁を展開する。

秘匿されし勇者:EX
霊体の表面に魔力を遮断する極薄の結界を展開する。発動時、他サーヴァントは自身を探知できない。


■ 宝具

1. 天ノ逆手(勇者パンチ)
ランク:C〜EX/ 種別:対神宝具
自身の魔力を拳に集約して叩き込む一撃。天属性への特攻を持つ。

2. 満開
ランク:EX/ 種別:対身宝具
周囲の霊脈から魔力を限界まで吸い上げ、一時的に神霊級の霊器へと変貌する。圧倒的な出力を得るが、宝具使用後に「散華」が発生。霊器を損耗し、身体機能の喪失という形で表面化する。
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