Fate/stay night[Endless Stardust]   作:おーたまー

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3日目
3日目-同盟


「マスター。気付いたようです」

 

 遠くから声がする。知らない女の声。まばたきを繰り返すと、水の底から浮かび上がるみたいに意識がゆっくり戻ってくる。

 見慣れない天井がぼやけて映り、しかし全く知らないでもないような。

 

「よう衛宮。まずは、何か僕に言うことがあるんじゃない?」

 

 聞き慣れた声音。

 皮肉っぽくて、どこか芝居がかったこの喋り方。首を傾けるとそこには制服姿の癖っ毛が。

 なんでか知らないが、どうやら慎二の家にいるみたいだ。

 

「あれ……」

 

 喉がひどく乾いている。広いリビングと、妙に整った内装が視界に入る。

 どうやらソファに寝かされていたらしい。隣を見ると友奈が緊張した面持ちでこちらを見ていた。体を起こす。鈍い痛みが遅れて全身を奔る。正直、頭が上手く回らなくて状況がまるで整理できない。

 

「悪い、俺なにがなんだか……って」

 

 言葉が止まる。

 視線の先。

 長髪のサーヴァントと、その横に佇む白い化け物。

 あの異形が、まるで何事もなかったかのように静止している。

 

 ……現実感が全然追いつかない。妙に落ち着いているこの場の空気も含め。

 

「ああ、あれ? ありゃライダーがペットにしたんだよ。こいつの口ん中に衛宮とお前のサーヴァントを放り込んでさあ、いやあ、ありゃ中々傑作だったねえ」

 

 慎二は肩を竦めて笑う。

 まるで記憶が無いが、慎二がそういうならそうなんだろう。大分荒っぽいやり方みたいだが、文句を言える立場でもなし。

 

「……そうか、助かった慎二。お前は命の恩人だ」

 

 自然と頭が下がる。

 慎二とは少し前から微妙な距離感だったこともある。それを抜きにしても、こいつが自分を救ってくれたのは素直に嬉しい。裏でフォローをしてくれることは過去にもあったけど、こうも表立って俺を助けてくれるとは思わなかった。

 

「なあ衛宮。感謝を述べるだけなら誰だって出来るんだよ。僕の言いたいこと分かるよね?」

「ああ、この借りは必ず返す。俺はどうすればいい?」

 

 すぐにそう返すが、迷いがなかったと言えば嘘になる。

 けど慎二はこれで根っこにはフェアな精神があると知っている。無理難題を要求されることはないだろう。

 

「なに、簡単なことだ。君にとっても悪い話じゃない。君、マスターになったんだろ? 僕と同盟を組もうよ。バーサーカーは強敵だし、僕に魔術師としての能力はない。聖杯戦争で生き残るんだったら、協力者の一人くらいはいて欲しいってわけ」

 

 うん、理にかなっている。

 あれと単独で渡り合うなんて現実的じゃない。実際こちらにとっても有難い申し出だ。

 

「ああ、命を救われたんだ。そんなことでいいなら構わない。けど、俺まだ聖杯戦争ってのよく分かってないんだ。これからどうするかも、まだよく決まってなくてな」

「ああなんだ、運悪く巻き込まれたってわけ? まあどっちにしろ、貸しを返すまでは僕に協力して貰うからね」

「はいよ。友奈、それでいいか」

 

 隣を見る。

 友奈は一瞬だけ迷って、それから小さく頷いた。

 

「うん、それで大丈夫です」

 

 その声は落ち着いていたが、完全に納得しているわけではないのは少し伝わる。

 それでも、ここで跳ね除けるほどの理由があるわけでもない。それは友奈も分かっていたのだろう。

 

「いいね、話が分かるようになってきたじゃないか衛宮。それでさ、もう一人協力者のアテがあるんだよね」

「それって、もしかして遠坂のことか?」

「なんだ知ってたの? なら話は早いね。あいつは生粋の魔術師だ。あいつの協力が得られれば、幾分やりやすくなるはずさ」

 

 

 *

 

 

 桜は魔術師ではないことを慎二から教えてもらう。慎二の口調はそこに関してはいつにも増してぶっきらぼうだった。

 自分に魔術の心得はほとんど無いことを伝えると、

 

「へえ、よくそれでここまで生きてたね」

 

 なんて軽口混じりに言われ、俺は苦笑した。実際死にかけたわけだしな。

 んで、その辺りでとりあえず学校もあるわけで、この場での会合はお開きにしようと申し出る。いつの間にか陽が昇り始めていたし。遠坂のこともあるということで、慎二も快諾してくれた。

 

「てか衛宮、サーヴァントを守ろうとするのはもうやめろよ。サーヴァントなんて要はマスターの肉の壁、すなわち下僕だ。第一、お前は僕の協力者になったんだからな。あんまり考え無しに動かれると、僕にも迷惑がかかる。それを肝に銘じておきなよ」

 

 と、最後に呆れたような口調で付け加えられる。

 色々言いたいことはあるが、恐らく慎二の言うことは、聖杯戦争において概ね正しいとされるセオリーなんだろう。ただ、それをそのまま受け入れられるほど割り切れやしないのも事実だった。

 

 

 帰路に立つ。疲労が抜けないままで、お互い口数は乏しい。

 家に近付いてきた辺りで、ようやく友奈の方がこう切り出した。

 

「あの人の言う通りです。先輩、サーヴァントとはマスターありきの存在です。優先順位を考えて下さい」

 

 慎二の言葉をそのままなぞるように、友奈が真面目な顔で俺を真っ直ぐ見てきている。

 ……まあ、なんというか、余りにも健気というか、ぎこちないというか。

 それを見て、思わず俺は吹き出してしまった。

 

「ちょ、笑うとこじゃないですよ!?」

「いや、友奈お前、怒り慣れて無いんだなって」

「……まったくもう」

 

 頬を膨らませる仕草が年相応で、見ていて肩の力が抜ける。けどそれ以上に、やっぱり俺の行動は間違ってないと感じさせる。

 

「心配かけてごめん。ただなあ。サーヴァントである前に、お前は一人の女の子だろ。あんな状況で戦わせるなんて、俺には出来ないよ」

 

 言いながら、あの光景が脳裏をよぎる。

 拳ひとつで、あの怪物に立ち向かった姿。

 あれが当たり前でいいはずがないんだ。

 

「はあ……まあ、その気持ちは分かりますけど……」

 

 友奈は萎むように呟き、腕を組んで唸る。俺は微笑んで、小さい頭をぽんぽん叩く。

 

「友奈なら分かってくれると思ってたよ」

「いえいえ、それとこれとは別です。先輩は私より弱いんですから、私より強くなるまでは戦っちゃダメです」

 

 友奈はぴしゃりと言い放ち、俺の手を頭からどかした。

 

「……む」

 

 ぐうの音も出ない。

 けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。

 その言葉は、いつか俺が自分よりも強くなるんだと、そうなったら俺に背中を預けてもいいと、暗に伝えているようなものだったから。

 

 

 *

 

 

「あっちゃあ……」

 

 屋敷に戻ると、玄関の前で藤ねえが待ち構えていた。

 腕を組み、仁王立ち。表情は野生の虎というより最早般若かなんかだ、あれ。

 友奈と顔を見合せては、溜息が漏れる。

 ああ俺、いつになったら気が休まるんだろう。

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