Fate/stay night[Endless Stardust]   作:おーたまー

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3日目-同盟Ⅱ

「藤ねえ、そんなとこで何やってんだ。風邪引くぞ」

 

 努めてなんでもないことのように声を掛ける。藤ねえは背中から伸ばした鬼みたいなオーラを迸らせたままだ。

 こうなった時点でどう切り出したって展開は変わらない。それなら、平常を装って雰囲気で誤魔化す一縷の望みにかける。

 

「……」

 

 藤ねえは黙って引き戸を開き、俺達を中に促す。検問所でも通ってるみたいな緊張感だ。ここ、俺ん家なんだけど。

 で、藤ねえはゆっくりと閉め──

 

「なにをしとるんじゃあんたたちはー!!!」

 

 まあ、藤ねえにしちゃ我慢したかな、と思う。

 外で怒鳴っちゃ近所迷惑だし。

 

「落ち着け藤ねえ。あのーあれだ。慎二のうちに泊まってたんだよ。もし疑うってんなら桜に聞いてみてくれ。な、桜」

 

 エプロン姿の桜は既に玄関で立っていた。

 俺は必死でアイコンタクトを送り、桜は困ったような顔で俺と藤ねえの顔を交互に見て、恐る恐る頷く。

 

「えっと……はい。先輩の言う通りです」

「えー? じゃあなんで一緒に来なかったのよ。桜ちゃんだけ先に送って朝ごはん作らせて、友奈ちゃんと二人で後から帰ってくるなんてそんなの桜ちゃんに失礼だと思わないの?」

「あー……それはあれだよ、ちょっと慎二と話すことがあったというかなんというか」

 

 藤ねえはしどろもどろになった俺をじとりと睨む。

 こりゃ分が悪いか、と長期戦を覚悟する。

 

「ふうん。ま、間桐君と仲直り出来たんならいっか。じゃ早く居間に来て〜私もうお腹ペッコペコ。二人のこと待ってたんだからねーまったく朝帰りなんて学生が大概にしなさいよね〜ほんとも〜」

 

 あれ。意外とあっさり。

 桜はまだ訝しげに俺を見ているが、後で説明すると口パクで伝える。いやしかし、珍しいこともあるもんだ。

 

 

「でさあ友奈ちゃんはなんで急に切嗣さんに会いに来たの? そもそもどういう関係なのよ」

「えっとお……」

 

 切嗣さんって誰ですか。

 茶碗を持ちながら友奈は俺を縋るような目で見つめてくる。そういや、親父を頼ってきた設定にしてたんだっけ。

 

「うんと、こいつ身寄りがなくてさ。親父が俺みたいに引き取ろうとしてたんだけど、ほら、突然逝っちまっただろ。それで色々予定が狂ったらしくて。んで、たまたま先に拾われた俺としちゃちょっと負い目を感じるとこもあったし、引き取り手ともあんまし上手くいってないらしくて。高校卒業するまでの間だけってことで、俺が面倒見るのが筋じゃないかなって考えたんだけど」

 

 うーん。

 ちょっと無理があるだろうか。

 とはいえ、センシティブな立場にある中学二年生という線なれば、ずいずい問い詰めづらくもなろう。出来れば腫れ物みたいな感じにはしたくなかったけど、口から出た言い訳がこんなものしか無かった。咄嗟の嘘ってのは中々難しいな。

 

「……大変でしたね、友奈さん」

「ぁえ。あーへへ。まあ、その。あはは……」

 

 手を握られる友奈は、冷や汗を流しながら笑っている。

 めちゃくちゃ気まずそうだが、頑張って誤魔化してくれ。

 

 

 藤ねえがテストの採点があるとかで家を飛び出し、俺達も少しして家を後にする。

 藤ねえの用意した穂群原学園の制服に着替えた友奈、桜と並んで学校へと向かう。友奈の制服姿が中々似合うとか、授業についていけるかとか、そんな他愛ない話をしていると、校舎が見えてくる。

 

「それで先輩、さっきの話ですけど、兄さんとは仲直りされたんですか?」

「別に喧嘩してたって訳でもないけどな。まあ、色々あってアイツに助けて貰ってさ。ちょっと見直したよ」

 

 桜は心底驚いて目を丸くし、顎に手を当てて考え込んでしまった。

 その反応を見て、慎二が少し気の毒になった。いやまあ、桜の反応は何もおかしくはないんだけども。

 

「おはよう衛宮。今日は……って、ん? 桜? ……お前、まだ衛宮んとこに行ってたのか」

 

 噂をすればなんとやら、慎二のご登場である。

 けどなんだ、この険悪な空気は。

 

「あれ。桜お前言ってなかったのか」

「……」

 

 桜は俯いて黙ってしまう。

 半端に返事をするよりも雄弁というか。まあ、元々桜に手を上げた慎二を俺が殴って事が拗れたってこともあるかもしれんし、ここはひとつ俺が場を取り持つべきか。

 

「あー、心配かけて悪かった慎二。けど桜を責めないでやってくれ。俺も大分甘えちまってたとこあるから」

「ふうん。まあ衛宮がそう言うならいいよ。けど、黙ってたってのは頂けないな。次からはそこんとこちゃんとしとけよ桜」

 

 そう言って、慎二はさっさと校内に歩いていってしまう。

 俺は桜と顔を見合わせる。あっけなさすぎて困惑だ。

 藤ねえといい慎二といい、頑固者達の聞き分けが良すぎて不気味ったらありゃしない。

 いや、そりゃ良いことではあるんだけど。なんだか、嵐の前触れみたいで不安になってくるくらいだ。

 

 

 昼休みになった。

 友奈は数学のノートを見て頭を抱えている。中学生なんだからついていける訳ないけど、ちゃんと授業受けててなんというか、素直に感心してしまった。

 

「衛宮!」

 

 と、分厚い本を抱え、廊下に親指を向けている慎二から声が届く。

 そうそう、遠坂と話をしなくちゃいけない。

 俺は教室を後にし、友奈を連れて慎二と並ぶ。ふと慎二は友奈を見て眉を顰める。

 

「衛宮さあ。なんでそいつ霊体化させないんだ? 気配遮断があるのかもしれないけど、魔力の無駄じゃないの」

 

 小声でそう尋ねてくる。魔術師しか知らないことは一般人には漏らしちゃいけないからな。とはいえ、慎二の言ってること全部ちんぷんかんぷんなんだけど。

 

「あー、霊体化って、なんだ」

「はあ? そんなことも知らないの? 全く、それじゃ遠坂に舐められるだろ。サーヴァントは普段は身体を霊体にして魔力消費を抑えることが出来るんだよ。ライダーだってそこにいるんだぜ」

「へえ……友奈、出来るのか? それ」

「実は……」

 

 友奈は気まずそうに首を振る。

 まあ出来ないもんは仕方ない。

 

「ふーんそう。まあ偶然巻き込まれたわけだし、不具合か何かがあったのかもね。良かったじゃん、たまたまそいつが気配遮断持っててさ」

 

 慎二は片手を広げて笑う。当然かもだけど、俺なんかより色々知ってるんだな。やっぱり知り合いがマスターだったのは幸運だった。

 と、教室を出る遠坂が視界に入る。

 

「やあ、遠坂!」

 

 なんて、数段高くなった慎二の声。

 振り向く遠坂は、俺を見て不吉に目を細めるのだった。

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