とりあえずこんな感じのタイトルを考えていきたい。
最初の部分は、もう見慣れているでしょうということで色々端折る。
――眩しい。
目を開けた瞬間、まずそう思った。
視界いっぱいに広がるのは、白い、というより、柔らかく光るなんとも言いがたい空間だった。
床も天井も分からない。上下の感覚すら曖昧で、夢の中にしては妙に意識がはっきりしている。
そして、そんな得体の知れない場所の真ん中で、場違いなほどの青髪の持ち主が、いかにも偉そうに椅子へ座って足を組んでいた。
「ようこそ、佐藤和真くん。あなたは不幸にも命を落とし――」
「ちょっと待ってもらえます?」
ふー、と息を吐く。
こめかみを抑える。
「なぜか分からないんですけど、お前にそんなに偉そうにされるとムカつく」
「第一声がそれ!? もっとこう…あるでしょ!? 『ここはどこですかー?』とか『あなたは女神ですかー?』とか!」
「いや見た目だけはすげえ女神っぽいけど、話し方に違和感しかない」
「さっきから失礼ね! 私は実際に女神よ! 水を司り、導きを与え、迷える魂を正しき道へ導く高貴な存在!はい、アクア様とは私のことです!あんだーすたん!?」
「はいはいちょーすごいアクア様ー。んで、なんの用?」
「雑ぅッ!?」
青いのは、「私は女神のアクア様なのよー!」って言いながら机を叩いた。
机あったのか。
今初めて気づいたわ。
……っていうか、待て。
俺は。
確か俺は、さっき家を出て、たまたま見かけた女の子が――
「そう、その顔。どうやら…思い出してきたわね?」
アクアと名乗った女神が、やけににやにやしながら顎に手を当てる。
「あなたは若い娘さんを救おうとして、尊い自己犠牲の末に死んだ……と思ったでしょ?」
「え」
「残念。あなたが見たの、あれトラックじゃなくてただの低速走行してた農耕車だったのよねー」
「は?」
「しかも娘さん、あなたに助けられてないし。普通に避けてたし。何ならあなたが飛び出してきたせいで『何あの人』って顔してたわ」
「……」
「死因は恐怖と勘違いによる急性ショック。要するに、ひとりで勝手に『うわあああ轢かれるううう!』ってなって、そのままぽっくり」
「やめろ」
「病院ではお医者さんも看護師さんも、ご遺族も気まずそうだったし、ついでに搬送されたときなぜかパンツ丸見えで――」
「やめろって言ってんだろ!!」
穴があったら入りたいっていうのはこういうことを言うんだな。
しかも死んでから穴に入りたいと思うの、なかなか惨めだぞ。
もう死んでるのに。
アクアは腹を抱えてげらげら笑っている。
女神だとしたら品がない。
いや、女神だからこそ品があると思ってた俺が悪かったのか。
「っ!ふふっ!……あーもう!あははははっ! ごめ、ごめんなさいね? でも、だって! あまりにも間抜けで!」
「お前なあ……」
「だって、普通こういうのって『勇敢な死』とか『悲劇的な事故』とか、そういうの期待するじゃない! それがまさか、農耕車にびっくりして心臓止まるとか!前代未聞よ?」
「その情報をそんな嬉しそうに語る女神がいてたまるか!」
俺の叫びに、アクアはふう、と笑いすぎて浮いた涙を指でぬぐった。
「……まあ、笑いすぎたのは悪かったわ。少しだけね」
「少しで済ますな」
「でも安心しなさい。死んじゃったものは仕方ないし、その後の処遇についてはちゃんと選ばせてあげる」
「処遇?」
「ええ。普通なら天界行き。穏やかで平和で、何も起こらない世界で永遠にのんびり過ごすコース」
「何も起こらないの?」
「起こらないわよ。刺激も苦労もないわ。心穏やかに、安らかに、ただ永遠に」
「それ、引きこもりが死後まで延長されるだけじゃね?」
「まあ言い方は悪いけど、そんな感じね」
嫌すぎる。
確かに俺は家でゲームしてだらだらする生活に何の不満もなかった。なかったけど、それは“いつでも外に出られる”って選択肢があるから成立していたのであって…。
「ちなみに刺激っていうのは、ゲームや雑誌なんかもないわよ?」
あれ?
永遠にイベントゼロですって言われると急に地獄っぽいな??
「もう一つは、別の世界で新しい人生をやり直す転生コース。赤ちゃんから出直しね」
「…それはそれで面倒だな……」
「でしょう? 夜泣きからやり直し、勉強し直し、人間関係だって作り直し。前世の記憶もぼやけることが多いし、お得感は薄いわ」
「死んだ後なのにやり直し要素が多すぎる」
「そ・こ・で!イヤだなーって思っているサトウカズマさんへのおすすめ転生先があります!!」
アクアがぱん、と手を打った。
「今、別の世界がちょっと困ってるのよ。モンスター…?っぽいなにかが世界のバグ?みたいなのの影響で暴れていて、人々は苦しみ、村々は脅かされ、強大な脅威が各地を荒らしている。そこで、異世界へ行って新生活を送りつつ、その世界を少し助けてもらえないかしら、というわけ!」
「…露骨に営業かけてきたな、しかも色々フワッとしてるし」
ジト目で睨んでやる。
「だって天界や赤ん坊よりかは楽しそうでしょう?」
いけしゃあしゃあと言ってくるが、
…それは、まあ、そうだ。
異世界。冒険。モンスター。新生活。
インドア派の俺でも、その単語には正直心が動く。
だって男の子だもん。
「ちなみに、その世界へ行くにあたって身体能力は標準まで引き上げられて…さらに追加で一つだけ強力な特典を持っていけるわ。チート能力でも、強力な武器でも、特別な加護でも――」
悩んでいる俺に対し、営業トークを続けて来やがる。
そこで俺は、にやにや笑う女神を見た。
馬鹿にした顔。
人の死に様を面白がった顔。
さっきから一貫して、俺を見下している顔。
そして、思った。
あ、こいつを連れて行こう。
「決めた」
「え、早いわね。何にする? 神器? 最強魔法?いまなら王の財宝だって…」
「お前」
「…はい?」
「お前を持っていく」
女神の笑顔が止まった。
「……は?」
「だから、お前だよ、アクア。女神なんだろ? じゃあそれ以上の当たりないじゃん。強いし便利だし、何ならそのまま戦力だろ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?評価は嬉しいけど…それは想定してないの! 女神本人を持っていくなんて…それこそ前代未聞なんだけど!?」
「でも一つだけ持っていけるんだろ?」
「そうだけどそういうことじゃなくて!」
「決定」
「決定じゃなーい!!」
アクアが机から身を乗り出す。
「却下! 却下よそんなの! 私はこの神聖な案内所で魂を導く役目があるの! あなたみたいな引きこもりと一緒に異世界で苦労するとか論外なんですけど!」
「へえーーー。女神なのに困ってる人たちを助けるのは嫌なんだ」
「うっ」
「しかも強大な脅威が暴れてるんだろ? 大変だなあ。でも女神様は安全圏から魂案内だけで、現地のことは誰かに丸投げかあ」
「ぐっ……!」
「いや、俺はいいよ? どうせ間抜けな死に方した引きこもりだし? でもあっちの人たちはかわいそうだよなあ。頼りになる女神様が来てくれたら助かるのになあ」
「う、うるさい! そのいやらしい言い方やめなさいよ!」
「で、来るの? 来ないの?」
「~~~~っ!」
青いのは顔を真っ赤にしたあと、歯を食いしばって指を突きつけてきた。
「いいわよ! この仕事は後輩にでも任せて行ってやるわよ!! 後で泣いても知らないんだからね! あなたみたいな小物、私の神力であっという間に一流冒険者……じゃなくて何でもいいわ、とにかくすごい存在にしてあげるんだから!」
「おう、その意気だ。頼むな」
「やっぱり腹立つわね……!」
そして次の瞬間、足元の床が淡く光り始めた。
「転移が始まるわ。向こうの世界へ魂を定着させて、そのまま肉体ごと――」
「おい、最後に一ついいか」
「なによ」
「行き先、安全だよな?」
「女神をなんだと思ってるのよ。完璧に決まってるでしょ」
その答えを聞いて、俺は少し安心した。
そして、安心した次の瞬間には、俺たちの体は光に包まれていた。
白い空間が遠ざかる。
視界が回る。
胃が浮く。
耳鳴りがする。
「ちょ、ちょっとアクア! 酔う! これ酔うやつだろ!」
「私だって直接行くのは初めてなのよ! きゃああああああああっ!?」
「お前初めてなのかよ!ベテランじゃねーのかよ!!それっぽく言うなよ!!!」
落ちる。
落ちる。
とにかく、ものすごく落ちる。
それから――
――冷たい!?
いや、冷たいなんてもんじゃない。
痛い。空気が痛い。鼻の奥が凍る。
肺に入る息が針みたいだ。
「ぶえっくしょい!!」
目を開けると、そこは真っ白な世界だった。
見渡す限りの雪。
切り立った岩壁。
吹きつける風。
空は青いのに、全部が凍りついている。
「……おい」
隣では自称女神:アクア様が、膝まで雪に埋まりながら固まっていた。
「……え、何ここ」
「それ俺の台詞なんだけど、取らないでくれる?」
「ちょっと待って、異世界って言っても色々あるじゃない!? もっとこう……草原とか、街とか、最初の村とか、そういう優しい導入は!?」
「スゥー…お前が完璧って言ったんだろうがぁぁぁ!!」
「お、落ち着きなさいよ! きっと近くに村があって――」
そのときだった。
大地が、どん、と鳴った。
「「……ん?」」
また、どん。
足元の雪が微かに震える。
これは風の音じゃない。
何か、重いものが近づいてくるような音だ。
俺たちはなんとか首を回した。
遠くの雪煙の向こうで、
白い世界を裂くように、
巨大な影が動いた。
四足。
地を這うような前傾姿勢。
岩のように分厚そうな頭。
むき出しの牙。
鞭のようにしなる尾。
そして、次の瞬間、その影の主が雪煙を吹き飛ばして全身を現した。
橙色の甲殻。
そこに走る黒い縞模様。
獲物を見つけたと言わんばかりの肉食獣の目。
心臓が、一層嫌な音を立てる。
「……おいアクア」
「な、なに、あれ!?」
「知ってる」
「え?」
「俺、知ってるぞ、アレ」
知っている。
見間違えるはずがない。
あの顔。
あの威圧感。
あの、初心者お断りみたいな理不尽さの塊。
「ティガレックスだ……!」
「ギアレ……何?」
「ちょっと違うな、それはっ!……ハァ、あーあ、終わっちゃった。開始五分針で終わっちゃった」
「ちょっと分かるように説明しなさいよ!?」
「分かりやすく言うとな、あれは“今の俺たちが絶対に遭っちゃいけないやつ”だ!」
「…何でそんなのがスタート地点にいるのよおおおおおぉぉぉ!?」
アクアが叫ぶのと同時に、
ティガレックスが、低く身を沈めた。
あの体勢は…まずいぞ!
その動きに、ゲームの記憶が警鐘みたいに頭の中で鳴る。
突進をする構えだ。
「伏せろっ!」
「ひゃっ!?」
一か八かだが、見つかってないことを祈り、
俺はアクアの頭を掴んで雪の中へ押し倒した。
直後、爆音みたいな咆哮と行き先が見えない突進が雪山を揺らした。
耳の奥が痺れる。
空気が震える。
寒さのせいではなく、身体が震えだす。
「な、な、なに今の!?今の音なに!?音で人殺せるタイプのやつなの!!?」
「静かにしろ、見つかるだろ!」
でないとアクアも音で人殺せるタイプに仲間入りだ。
「もう見つかってるんじゃないのこれ!?」
…一理あるかもしれない。
チラリとティガレックスの方を見る。
…雪が吹雪いているというのに、
突進中だというのに、
ティガレックスがめちゃくちゃ首を振っているからか、目が合ってしまった。
見つかってる。
たぶん、ものすごーーく見つかってる。
ティガレックスは速度を落とし鼻先を上げ、
雪原を嗅ぎ、こちらへ視線を向けた。
その一瞬で分かった。
あれは獲物を見つけた目だ。
「逃げるぞ!」
「どっちに!?」
「知らん! とにかくあいつのいない方だ!」
「ソレ雑すぎるんじゃないのぉ!?」
見捨てないだけありがたいと思え。
…嘘だ、連れてきた手前置いていくのは、流石に申し訳がない。
俺たちは雪を蹴って走り出した。
雪山、という環境に慣れてないせいか。
走る。
埋まる。
転ぶ。
起きる。
を何度か繰り返す。
後ろからは、地面を砕くような足音。
つまるところ、追いつかれ始めている。
「速い速い速い!?何で雪山なのにそんな速いのよ!」
「モンスターだからだよ!」
「説明になってないわよ!」
「俺だって納得してないさ!!」
ちらりと振り返ると、ティガレックスがもうすぐそこまで迫っていた。
近い。
近すぎる。
キミが怖いと叫びたい。
「アクア! 今更だけど何かないのか!?女神パワーとか!」
「あるにはあるけど、こんな極寒の中でいきなり実戦とか無茶よ! 第一、私だって心の準備が――」
「心の準備は今しろ! 一生分しろ!」
ティガレックスが飛びかかる。
「「ぎゃああああああっ!??」」
俺たちはほぼ同時に横へ飛んだ。
さっきまでいた場所に飛びかかって来たのか、巨大な爪が雪ごと岩を抉る。
衝撃で雪が舞い、視界が白く染まる。
「死ぬ! 本当に死ぬ! 今度こそちゃんと死ぬ!」
「二回目は笑えねえぞ!」
「一回目も笑えないわよ!」
いやお前は俺を笑ってただろ。
突っ込みを入れる余裕すら、もうほとんどない。
寒さで手足の感覚は鈍って、息は切れ、喉は焼ける。
「チクショウ…何か手は…!」
その時、風向きが変わった。
雪煙の向こう、雪原の斜面の下に、煙が見えた。
人の手で上がるような、細い煙。
「……村だ!村が見えた!」
「え?村?」
「あっちだ、走れ!人がいる!」
「本当!?じゃあ助かる!? 助かるのね!?」
「知らんけど今よりはマシだろ!」
俺たちは半ば転がるように斜面を下った。
背後では再びティガレックスが吠えた。
その咆哮に呼応するみたいに、下の方からも誰かの声が上がる。
「おーい! そっちに走ると足を取られて危ないぞー!」
人影。
毛皮をまとった誰かが、こっちへ向かって手を振っている。
「って、追われてるんじゃないか!?こっちに轟竜を連れてくるんじゃない!!」
「好きで連れてきたんじゃねえ!!助けてください!お願いします!なんでもしますからぁぁぁぁ!!!!」
俺の悲鳴混じりの返事の直後、雪原に何かが投げ込まれた。
白い煙が一気に広がる。
ティガレックスが一瞬速度を落とした。
「仕方ない…閃光玉を使う! 今のうちにこっちへ!」
ゲームで見たことのある名前が聞こえた。
「「眩しッ!!!?」」
「いいから真っ直ぐ走ってくれっ!!」
それを合図に、俺たちは最後の力を振り絞って走っていった。
まだ閃光玉の効果で視界が効かない。
腕を掴まれる。
引っ張られる。
暖かい――いや、暖かくはないけど、とにかく“死なない側”へ連れて行かれる感覚があった。
た、助かった…。
安心感からか、俺たちは気を失った。
・・・・・・・・・・
気がついた時には、俺とアクアは木造の建物の中に転がされていた。
焚き火の匂い。
煮込み料理の匂い。
毛皮や木の匂い。
「……生きてる……のか?」
俺が呟くと、隣でアクアが床に突っ伏したまま泣き始めた。
「ひっく……ひっく……死ぬかと思ったぁ……! 何なのよこの世界! 初手で殺意高すぎるでしょぉ……!」
「お前が連れてきたんだろ……」
「知らないわよぉ……! 聞いてないわよあんなのぉ……!」
「俺も聞いてなかったよ…」
すると、俺たちを見下ろしていた毛皮姿の老人が、呆れたように鼻を鳴らした。
「まったく、雪山の真ん中に何も持たず現れて、轟竜に追われてくるとは…大した命知らずだね?」
「命知らずっていうか、事情がありまして……」
「事情、ねえ」
老人の後ろでは、アイルーたちが忙しそうに動き回っている。
外からは、行き交っている人々の声が聞こえた。
「ここはポッケ村。雪山の麓にある、小さな狩人の村さ」
ポッケ村。
その名前を聞いた瞬間、頭の中で何かが繋がった。
雪山。
ティガレックス。
閃光玉。
ポッケ村。
――モンスターハンターポータブル2ndG。
俺の知っているゲームの舞台、そのものだ。
「……マジかよ」
「カズマ? 何がマジなのよ」
「いや、かなりまずいことになった」
「さっきからずっとまずいでしょ!」
「そういうまずいじゃない」
俺は焚き火の熱を感じながら、ゆっくりと息を吐いた。
知っている世界だ。
知っている、はずの世界だ。
でもモニター越しに見るのと、実際に雪山でティガレックスに追い回されるのとじゃ、話が違いすぎる。
そして、そんな俺の横で、青い女神は鼻をすすりながらこう言った。
「……ねえカズマさん?」
「何だ」
「ひとつだけ聞くんだけど」
「おう」
「さっきみたいなの、また出る?」
「出る」
「やだああああああああ!!」
静かなポッケ村に、女神の絶叫が響いた。
こうして俺とアクアの新生活は、
祝福どころか遭難と轟竜&女神の咆哮から始まったのだった。
良ければ感想なり書いていってもらえると嬉しいです。
あ、決してモン○トコラボで書きたくなったとかじゃないです。
嘘です全部引き当てました。このすば好きです。対よろです。