この狩猟生活に祝福を!   作:how-kyou

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だーれっかなだーれっかな!
ヒント

僕これこの段階で討伐って言われたら……nokです。


第五話・前半『この未知なる痕跡を調査開始!』

 

 

 ポッケ村の朝は、相変わらず寒い。

 …だが、昨日までと違うことが一つあーる!

 

…俺とアクアの二人だけではない、ということだ!!これで勝つる!!!

 

 集会所の前へ向かうと、村長はいつもの場所で湯気立つ湯呑みを片手に座っていた。

 その少し横に、昨日出会った女ハンター――ダクネスさんが立っている。

 

 朝の白い息の中で、背筋を伸ばして立つその姿は、やっぱり絵になっていた。

 

「おはよう、二人とも」

 

「お、おはようございます」

 

「おはよう、ダクネス!昨日ぶりね!」

 

 アクアが元気に返す。

 あれ?昨日知り合った仲だよな??

 

 俺は思わずギョッとした目でアクアを見てしまった。

 

 そんな俺たちを見て、ダクネスさんは少しだけ微笑んだ。

 

「改めて名乗らせてもらう。私はダクネス。基本的に、この村を拠点にしているハンターだ」

 

「この子には、前にも村を助けてもらったことがあってね」

 

 村長が、何でもないことのように言った。

 

「へえ……村を?」

 

「そうさ。危ない依頼を何度か引き受けてくれてね。見た目通り、責任感の強い良きハンターなんだが…たまに」

 

「そ、村長! その話は……!」

 

 ダクネスが慌てたように声を上げる。

 俺とアクアは、思わず顔を見合わせた。

 

「……今の、なんだろう?」

 

「……何か、急に隠した感じだったわねぇ」

 

「な、なんでもないぞ!」

 

 ダクネスは咳払いを一つして、無理やり話を戻すように背筋を伸ばした。

 

「…と、とにかくだ!今日は私も同行する。君たちをしっかり守ってみせよう!!」

 

僅かばかり赤面しながら、そういうことを言われると…、凛々しい女騎士みたいな感じで…こう、グッと来るものがある。

 

「顔、緩んでるわよ?」

 

「え?うそ??」

 

思わず自分の顔に手を触れる。

 

「やっぱりねぇ…?ダクネス、モンスターよりも気を付けた方がいいわ」

 

しまった、鎌かけだったか!

 

…アクアの目がじっとりしてくる。

そんな目で俺を見るな。

そしていらんことを言うな。

 

村長はそんな俺たちを見て、からからと笑った。

 

「それから、ダクネスは二つの武器を使い分けて狩猟してる…見習えるところもあるだろう」

 

 その言葉に、

 俺は思わず聞き返した。

 

「武器って一個だけじゃないのか?」

 

 そもそも二個武器を持ち込める…となったら、ゲームシステムが崩壊するだろう。

 

「普通は一つだよ。けれど、慣れたハンターの中には、状況に応じて二種類の武器を持ち替える者もおる」

 

 村長は、ダクネスのそばに置かれた武器を示した。

 

「「うそぉ…でっかぁ…」」

 

ダクネスさんの使う武器を見て。

俺とアクアの声が重なる。

 

 一つはランス。

 長く、重く、頑丈そうな槍と盾。

 生半可な筋力だと動かすのも一苦労だろう。

 

 そしてもう一つは大剣。

 それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。

 大きく ぶ厚く 重く そして大雑把すぎる。

 俺の片手剣が玩具に見えるほど、分厚く大きい刃。

 

2種類の武器を背負うにしても、もう少し軽い武器を選ぶだろう…!?

 

「ランスは守りに向く。突進や大型の攻撃を受け止めるには頼りになる。大剣は取り回しこそ重いが、その一撃の威力は凄まじく高い。相手の隙に合わせられれば大きな力になる」

 

「何その便利仕様……」

 

「便利ではあるが、扱うのは簡単ではない」

 

 村長は湯呑みを置き、俺とアクアを見た。

 

「持ち替えには体力も判断力もいる。武器ごとの間合いや重さを分かっていないと、かえって危ない。…お前さんたち二人には、まだ少し難しいだろうね」

 

「そりゃそうでしょうね」

 

 俺は即答した。

 

「ちょっと! 何で即答なのよ!」

 

「お前、太刀一本でもいまだにたまに振り回されてるだろ」

 

「違うわ!私が太刀を振り回してるのよ!」

 

「そこは大事な違いなのか???」

 

 アクアはむっと頬を膨らませる。

 

 ダクネスはそんなやり取りを見て、穏やかに言った。

 

「足跡から察するに、今回の未確認モンスターも四足歩行だろう…そうであれば、今回の相手が何であれ、四足歩行の大型なら突進や踏みつけは警戒すべきだ。だから、私が前に出る。君たちは無理に正面へ出なくていい」

 

「……」

 

「しっかりと守ってみせよう」

 

 その言葉に、思わず胸が熱くなる。

 

 俺たちがファンゴ相手に散々苦労した“真正面から来る暴力”。

 それを、この人は前で受け止めてみせる、と言っているのだ。

 

「本当に頼もしいな……!」

 

「……まーたその顔」

 

「…お前もそんなに変わらない顔してるぞ、うん」

 

「ふーんだ」

 

 アクアが不満そうにそっぽを向く。

 

 するとダクネスは、今度はアクアへ視線を向けた。

 

「もちろん、アクアも頼りにしている」

 

「……えっ」

 

 アクアが一瞬で固まった。

 

「君の太刀筋は荒いところもあるらしいが、…それでも仲間を見捨てずに動ける者は、十分頼れる」

 

「…あ、あら…思ったよりも高評価ね?」

 

「ああ」

 

 アクアの顔が、みるみる緩む。

 

「まーあ? 私は女神だし? 頼られるのは当然というか…??」

 

「速攻絆されてるじゃねえか」

 

「うるさいわね! ちゃんと見てくれる人がいたら嬉しいのは普通でしょ!」

 

 否定はしない。

 

 村長は、三人を見回してから静かに言った。

 

「念を押すが、今日の目的は討伐じゃない。まず第一は足跡と影の正体を探ることだ。…だが、何が出るか分からない以上、無理はしない。危ないと思ったら必ず引くんだよ」

 

「……了解です」

 

「ええ。そこは大賛成よ」

 

 ダクネスも深く頷いた。

 

「任せてくれ。二人を無事に連れ帰る」

 

 

     ◇

 

 

 出発前に、三人で食事処へ寄ることになった。

 

 探索前のネコ飯。

 これはもう、この村での儀式みたいなものだ。

 

 席に着くと、アイルーたちが慣れた手つきで料理を運んでくる。

 湯気の立つスープ。焼いた肉。香ばしい魚。

 朝の寒さの中では、それだけでだいぶ救われる。

 

「三人で食べると、ちょっとパーティっぽいわね」

 

 アクアがパンをちぎりながら言う。

 

「今までも二人パーティだったろ?」

 

「二人だと…そうね、遭難仲間感が強かったのよ」

 

「やめろくださいませ。わりと当たってるから」

 

 ダクネスが小さく笑う。

 

「二人でここまでやってきたのなら、大したものだと思うが」

 

「いや、結構ギリギリの繰り返しで…」

 

「何度も泣きそうになったわ」

 

「お前はガチでしょっちゅう泣いてただろ」

 

「うるさいわね!」

 

 そんなやり取りをしながら食べていると、俺はふと気になっていたことを思い出した。

 

「そういえば、ダクネスさん」

 

「何だ?」

 

「二個目の武器って、どうやって持って…」

 

「あーそれ私も気になってたのよね!まさか自分で大剣とランス両方背負うわけじゃない?」

 

 唐突に遮られたが、その通りだ。

 2本を背負う…?

 いやいや、さすがにそれは無理がある。

 どちらも重そうだし、両方持ったら移動だけで体力が削られそうだ。

 

 ダクネスはスープを置き、食事処の外をちらりと見た。

 

「今回は、私についているアイルーに持ってもらっている。必要に応じて、現地で持ち替えるんだ」

 

「アイルーに?」

 

「ああ。ある程度慣れたハンターは、補助のアイルーと組むこともある。武器の運搬や簡単な支援を任せられるからな」

 

「何それ!いいじゃない!!」

 

 アクアが身を乗り出してきた。

 

「カズマ! 私たちも雇わない!?」

 

「落ち着け。ウチにはそんなお金ありません」

 

「でも便利じゃない! 武器持ってくれるのよ!? 荷物も持ってくれるのよ!? もしかしたら釣った魚だって運んでくれるかもしれないわ!」

 

「お前、最後が一番本音だろ」

 

 ちょうどその時、近くにいたアイルーが料理を置いてくれたので、俺は試しに聞いてみた。

 

「なあなあ、戦闘について来てくれるアイルーって雇うとどれくらいかかるんだ?」

 

「内容によるニャ。装備運搬、採集補助、戦闘支援、契約期間で変わるニャ」

 

「ざっくりでいい」

 

 アイルーが提示した額を聞いて、俺は静かにスープを飲んだ。

 

「ふー…」

 

「カズマ?」

 

「無⭐︎理」

 

「即答!?」

 

「いや、本気で今は無理だ。財布が死ぬ」

 

「でもほら、投資ってやつよ! 将来のために!」

 

「将来の前に今日の飯代がなくなる」

 

「ぐぬぬ……」

 

 アクアは本気で悔しそうにパンをかじる。

 

 ダクネスが少しだけ苦笑した。

 

「確かに便利だが、最初から無理に雇うものでもない。私も必要なときに依頼してついて来てもらっているくらいだしな…。とにかく今は、自分たちの装備と立ち回りを整える方が先だろう」

 

「ほら見ろ。ちゃんとした人もこう言ってる」

 

「ダクネスを盾にするのずるくない?」

 

「戦術だ」

 

「思う存分盾にしてくれていいぞ?」

 

「最低!ダクネスも乗らなくていいわ!」

 

 とはいえ、二つ目の武器。

 アイルーによる運搬。

 必要に応じた持ち替え。

 

 その仕組みを聞いていると、俺の知らなかった世界に、少しだけ胸が騒ぐ。

 

 ダクネスさんの言う通り、今はまだ準備期間だ。

 でも、いずれできるようになるのかもしれない。

 片手剣だけじゃなく、同時に別の武器を使う日が来るかもしれない。

 

 そう思うと、少しだけゲームをしていた頃のわくわくが戻ってくる。

 

「……何か楽しそうな顔してるわね」

 

 アクアが横から覗いてくる。

 

「いや、別に」

 

「その顔は別にじゃないでしょ。新しい玩具を見た子供みたいな顔してる」

 

 そう指摘されると恥ずかしい。

 

「お前に言われたくない」

 

「私は常に純粋な女神だからいいのよ」

 

「便利な言葉だな、女神」

 

 ダクネスは、そんな俺たちのやり取りを見て、静かに言った。

 

「武器は、持つだけでは意味がない。自分が何をしたいのか、何をパーティの役割として担うのか。それが分かって、初めて選ぶものだ」

 

「……なるほど」

 

「私は守りたいからランスを持つ。だが、それだけでは止まらない相手もいる。だから大剣も持つ」

 

 その言葉は、妙にすっと入ってきた。

 

 武器は役割。

 自分が何をするか。

 

 片手剣を持っている俺は、今のところ前で小回りを利かせる役だ。

 アクアは太刀で隙に一撃を入れる役。

 ダクネスさんは受け止め、守り、必要なら重い一撃を入れる役。

 

 三人になっただけで、少し見えるものが変わる。

 

「……いいな」

 

「何がだ?」

 

「いや。やることが分かってくる感じ」

 

「そうだな。戦いの中で、判断に迷う時間は短い方がいい」

 

「…耳が痛いわね」

 

 アクアが小さく呟く。

 

「お前、突っ込んでから迷うもんな」

 

「今それ言うの!?」

 

「今だから言う」

 

 アクアは不満そうに頬を膨らませたが、否定はしなかった。

 

 少しずつだが、俺たちは本当に変わってきているのかもしれない。

 

 ただ雪山に放り出された遭難者ではなく。

 村で飯を食い、装備を整え、仲間を増やし、役割を考えて進む。

 

 それは、ちゃんとハンターらしい一歩だった。

 

     ◇

 

 食事を終え、俺たちは雪山へ向かった。

 

「では、私は斥候として前を歩こう」

 

 先頭はダクネスさん。

 その後ろに俺とアクア。

 

 たったそれだけで、昨日までと空気が違った。

 

 前を歩くダクネスさんの背中は安定している。

 足取りに無駄がない。

 雪を踏む音も、どこか落ち着いている。

 

「……ねえ、カズマさん?」

 

「何だ」

 

「頼れる人がいると違うわね」

 

「お前も認めるのか」

 

「認めるわよ。ちょっと悔しいけど」

 

「悔しいんだ」

 

「ほんのちょっとね」

 

 アクアは唇を尖らせる。

 

「…でも、私だって今日はちゃんとやるから」

 

「おう。期待してる」

 

「……素直ね?」

 

「こういう時は、素直に言った方がやる気出るだろ、お前」

 

「分かってきたじゃない」

 

 そんなことを言い合いながら、俺たちは昨日のファンゴ討伐地点へ向かう。

 

 雪山は静かだった。

 風の音だけが、白い斜面を流れていく。

 

 ギアノスの鳴き声も、ブランゴの気配も、今のところない。

 ティガレックスの暴音が鳴り響いていたとは思えないほど、静かすぎる。

 

「……静かだな?」

 

 俺が呟くと、ダクネスが小さく頷いた。

 

「…警戒した方がいい」

 

「ですよね」

 

「不安にさせるつもりはないが、強い大型モンスターが近くにいると、小型モンスターが姿を消すことがある」

 

「…十分不安になりましたね」

 

「…すまない」

 

 真面目に謝られると、逆に何も言えないぞ。

 

 しばらく進むと、昨日ファンゴたちと戦った開けた場所へ出た。

 

 そこにはまだ、戦いの痕跡が残っていた。

 雪が抉れた跡。

 ファンゴが岩にぶつかった跡。

 俺たちが踏み荒らした足跡。

 

 しかし、その中に――昨日はなかったものがあった。

 

「……」

 

 俺は足を止めた。

 

 ダクネスさんも黙る。

 アクアもすぐに気づいたらしく、ゆっくりと膝を折って雪面を見る。

 

 大きな足跡だった。

 

 昨日見たものより、さらに深い。

 ファンゴのものとは明らかに形が違う。

 横幅も、踏み込みの重さも、明らかに別物だった。

 

「……これ」

 

 アクアの声が、少し震える。

 

「昨日、こんなのあった?」

 

「なかったはずだ…」

 

 俺は即答した。

 

 昨日の足跡も大きかった。

 だが、これはそれよりはっきりと異質だ。

 

 ただ大きいだけじゃない。

 雪の下の硬い層まで押し潰すように、重さが残っている。

 

 ダクネスが、手袋越しに足跡の縁をなぞる。

 

「新しいな」

 

「分かるのか?」

 

「ああ。ふちの雪の崩れ方が浅い。つまり風で埋まりきっていない。…これが意味するところは、昨夜から今朝にかけて通った可能性が高い」

 

「……マジか」

 

 つまり、今も近くにいるかもしれない。

 

 そう思った瞬間、首の後ろがひやりとした。

 

 俺もアクアも、身震いしてしまう。

 

 遠くの斜面から、低い風の音が流れてくる。

 ただの風だ。

 …たぶん、ただの風だ。

 

 ……それでも、何か巨大なものの呼吸に聞こえてしまう。

 

「カズマ、アクア」

 

 ダクネスが静かに言った。

 

「ここから先は、気を引き締めて…さらに慎重に行こう」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 アクアがごくりと喉を鳴らす。

 

「……ね、ねえ、これって……本当に確認だけで済むのよね?」

 

「一戦交えるかもしれないな…」

 

「そこは嘘でも済むって言いなさいよ!心折れそうなんですけどー!!」

 

 二人の会話を尻目に、

 俺は足跡の先を見た。

 

 白い雪原の奥。

 昨日まではなかった、大きな痕跡が見える。

 鋭利なものではなく、もっと大きな何かで削り取られた印象を受ける。

 それは、大きな何かが…確かにここを通った証拠だった。

 

 そしてその何かは、俺たちが知っているファンゴでも、ドスファンゴでもない。

 

 たぶん、俺の知っている雪山にあるはずのないものだ。

 

 程なくして、俺たちは三人で、その巨大な足跡を追い始めた。




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