ヒント
僕これこの段階で討伐って言われたら……nokです。
ポッケ村の朝は、相変わらず寒い。
…だが、昨日までと違うことが一つあーる!
…俺とアクアの二人だけではない、ということだ!!これで勝つる!!!
集会所の前へ向かうと、村長はいつもの場所で湯気立つ湯呑みを片手に座っていた。
その少し横に、昨日出会った女ハンター――ダクネスさんが立っている。
朝の白い息の中で、背筋を伸ばして立つその姿は、やっぱり絵になっていた。
「おはよう、二人とも」
「お、おはようございます」
「おはよう、ダクネス!昨日ぶりね!」
アクアが元気に返す。
あれ?昨日知り合った仲だよな??
俺は思わずギョッとした目でアクアを見てしまった。
そんな俺たちを見て、ダクネスさんは少しだけ微笑んだ。
「改めて名乗らせてもらう。私はダクネス。基本的に、この村を拠点にしているハンターだ」
「この子には、前にも村を助けてもらったことがあってね」
村長が、何でもないことのように言った。
「へえ……村を?」
「そうさ。危ない依頼を何度か引き受けてくれてね。見た目通り、責任感の強い良きハンターなんだが…たまに」
「そ、村長! その話は……!」
ダクネスが慌てたように声を上げる。
俺とアクアは、思わず顔を見合わせた。
「……今の、なんだろう?」
「……何か、急に隠した感じだったわねぇ」
「な、なんでもないぞ!」
ダクネスは咳払いを一つして、無理やり話を戻すように背筋を伸ばした。
「…と、とにかくだ!今日は私も同行する。君たちをしっかり守ってみせよう!!」
僅かばかり赤面しながら、そういうことを言われると…、凛々しい女騎士みたいな感じで…こう、グッと来るものがある。
「顔、緩んでるわよ?」
「え?うそ??」
思わず自分の顔に手を触れる。
「やっぱりねぇ…?ダクネス、モンスターよりも気を付けた方がいいわ」
しまった、鎌かけだったか!
…アクアの目がじっとりしてくる。
そんな目で俺を見るな。
そしていらんことを言うな。
村長はそんな俺たちを見て、からからと笑った。
「それから、ダクネスは二つの武器を使い分けて狩猟してる…見習えるところもあるだろう」
その言葉に、
俺は思わず聞き返した。
「武器って一個だけじゃないのか?」
そもそも二個武器を持ち込める…となったら、ゲームシステムが崩壊するだろう。
「普通は一つだよ。けれど、慣れたハンターの中には、状況に応じて二種類の武器を持ち替える者もおる」
村長は、ダクネスのそばに置かれた武器を示した。
「「うそぉ…でっかぁ…」」
ダクネスさんの使う武器を見て。
俺とアクアの声が重なる。
一つはランス。
長く、重く、頑丈そうな槍と盾。
生半可な筋力だと動かすのも一苦労だろう。
そしてもう一つは大剣。
それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。
大きく ぶ厚く 重く そして大雑把すぎる。
俺の片手剣が玩具に見えるほど、分厚く大きい刃。
2種類の武器を背負うにしても、もう少し軽い武器を選ぶだろう…!?
「ランスは守りに向く。突進や大型の攻撃を受け止めるには頼りになる。大剣は取り回しこそ重いが、その一撃の威力は凄まじく高い。相手の隙に合わせられれば大きな力になる」
「何その便利仕様……」
「便利ではあるが、扱うのは簡単ではない」
村長は湯呑みを置き、俺とアクアを見た。
「持ち替えには体力も判断力もいる。武器ごとの間合いや重さを分かっていないと、かえって危ない。…お前さんたち二人には、まだ少し難しいだろうね」
「そりゃそうでしょうね」
俺は即答した。
「ちょっと! 何で即答なのよ!」
「お前、太刀一本でもいまだにたまに振り回されてるだろ」
「違うわ!私が太刀を振り回してるのよ!」
「そこは大事な違いなのか???」
アクアはむっと頬を膨らませる。
ダクネスはそんなやり取りを見て、穏やかに言った。
「足跡から察するに、今回の未確認モンスターも四足歩行だろう…そうであれば、今回の相手が何であれ、四足歩行の大型なら突進や踏みつけは警戒すべきだ。だから、私が前に出る。君たちは無理に正面へ出なくていい」
「……」
「しっかりと守ってみせよう」
その言葉に、思わず胸が熱くなる。
俺たちがファンゴ相手に散々苦労した“真正面から来る暴力”。
それを、この人は前で受け止めてみせる、と言っているのだ。
「本当に頼もしいな……!」
「……まーたその顔」
「…お前もそんなに変わらない顔してるぞ、うん」
「ふーんだ」
アクアが不満そうにそっぽを向く。
するとダクネスは、今度はアクアへ視線を向けた。
「もちろん、アクアも頼りにしている」
「……えっ」
アクアが一瞬で固まった。
「君の太刀筋は荒いところもあるらしいが、…それでも仲間を見捨てずに動ける者は、十分頼れる」
「…あ、あら…思ったよりも高評価ね?」
「ああ」
アクアの顔が、みるみる緩む。
「まーあ? 私は女神だし? 頼られるのは当然というか…??」
「速攻絆されてるじゃねえか」
「うるさいわね! ちゃんと見てくれる人がいたら嬉しいのは普通でしょ!」
否定はしない。
村長は、三人を見回してから静かに言った。
「念を押すが、今日の目的は討伐じゃない。まず第一は足跡と影の正体を探ることだ。…だが、何が出るか分からない以上、無理はしない。危ないと思ったら必ず引くんだよ」
「……了解です」
「ええ。そこは大賛成よ」
ダクネスも深く頷いた。
「任せてくれ。二人を無事に連れ帰る」
◇
出発前に、三人で食事処へ寄ることになった。
探索前のネコ飯。
これはもう、この村での儀式みたいなものだ。
席に着くと、アイルーたちが慣れた手つきで料理を運んでくる。
湯気の立つスープ。焼いた肉。香ばしい魚。
朝の寒さの中では、それだけでだいぶ救われる。
「三人で食べると、ちょっとパーティっぽいわね」
アクアがパンをちぎりながら言う。
「今までも二人パーティだったろ?」
「二人だと…そうね、遭難仲間感が強かったのよ」
「やめろくださいませ。わりと当たってるから」
ダクネスが小さく笑う。
「二人でここまでやってきたのなら、大したものだと思うが」
「いや、結構ギリギリの繰り返しで…」
「何度も泣きそうになったわ」
「お前はガチでしょっちゅう泣いてただろ」
「うるさいわね!」
そんなやり取りをしながら食べていると、俺はふと気になっていたことを思い出した。
「そういえば、ダクネスさん」
「何だ?」
「二個目の武器って、どうやって持って…」
「あーそれ私も気になってたのよね!まさか自分で大剣とランス両方背負うわけじゃない?」
唐突に遮られたが、その通りだ。
2本を背負う…?
いやいや、さすがにそれは無理がある。
どちらも重そうだし、両方持ったら移動だけで体力が削られそうだ。
ダクネスはスープを置き、食事処の外をちらりと見た。
「今回は、私についているアイルーに持ってもらっている。必要に応じて、現地で持ち替えるんだ」
「アイルーに?」
「ああ。ある程度慣れたハンターは、補助のアイルーと組むこともある。武器の運搬や簡単な支援を任せられるからな」
「何それ!いいじゃない!!」
アクアが身を乗り出してきた。
「カズマ! 私たちも雇わない!?」
「落ち着け。ウチにはそんなお金ありません」
「でも便利じゃない! 武器持ってくれるのよ!? 荷物も持ってくれるのよ!? もしかしたら釣った魚だって運んでくれるかもしれないわ!」
「お前、最後が一番本音だろ」
ちょうどその時、近くにいたアイルーが料理を置いてくれたので、俺は試しに聞いてみた。
「なあなあ、戦闘について来てくれるアイルーって雇うとどれくらいかかるんだ?」
「内容によるニャ。装備運搬、採集補助、戦闘支援、契約期間で変わるニャ」
「ざっくりでいい」
アイルーが提示した額を聞いて、俺は静かにスープを飲んだ。
「ふー…」
「カズマ?」
「無⭐︎理」
「即答!?」
「いや、本気で今は無理だ。財布が死ぬ」
「でもほら、投資ってやつよ! 将来のために!」
「将来の前に今日の飯代がなくなる」
「ぐぬぬ……」
アクアは本気で悔しそうにパンをかじる。
ダクネスが少しだけ苦笑した。
「確かに便利だが、最初から無理に雇うものでもない。私も必要なときに依頼してついて来てもらっているくらいだしな…。とにかく今は、自分たちの装備と立ち回りを整える方が先だろう」
「ほら見ろ。ちゃんとした人もこう言ってる」
「ダクネスを盾にするのずるくない?」
「戦術だ」
「思う存分盾にしてくれていいぞ?」
「最低!ダクネスも乗らなくていいわ!」
とはいえ、二つ目の武器。
アイルーによる運搬。
必要に応じた持ち替え。
その仕組みを聞いていると、俺の知らなかった世界に、少しだけ胸が騒ぐ。
ダクネスさんの言う通り、今はまだ準備期間だ。
でも、いずれできるようになるのかもしれない。
片手剣だけじゃなく、同時に別の武器を使う日が来るかもしれない。
そう思うと、少しだけゲームをしていた頃のわくわくが戻ってくる。
「……何か楽しそうな顔してるわね」
アクアが横から覗いてくる。
「いや、別に」
「その顔は別にじゃないでしょ。新しい玩具を見た子供みたいな顔してる」
そう指摘されると恥ずかしい。
「お前に言われたくない」
「私は常に純粋な女神だからいいのよ」
「便利な言葉だな、女神」
ダクネスは、そんな俺たちのやり取りを見て、静かに言った。
「武器は、持つだけでは意味がない。自分が何をしたいのか、何をパーティの役割として担うのか。それが分かって、初めて選ぶものだ」
「……なるほど」
「私は守りたいからランスを持つ。だが、それだけでは止まらない相手もいる。だから大剣も持つ」
その言葉は、妙にすっと入ってきた。
武器は役割。
自分が何をするか。
片手剣を持っている俺は、今のところ前で小回りを利かせる役だ。
アクアは太刀で隙に一撃を入れる役。
ダクネスさんは受け止め、守り、必要なら重い一撃を入れる役。
三人になっただけで、少し見えるものが変わる。
「……いいな」
「何がだ?」
「いや。やることが分かってくる感じ」
「そうだな。戦いの中で、判断に迷う時間は短い方がいい」
「…耳が痛いわね」
アクアが小さく呟く。
「お前、突っ込んでから迷うもんな」
「今それ言うの!?」
「今だから言う」
アクアは不満そうに頬を膨らませたが、否定はしなかった。
少しずつだが、俺たちは本当に変わってきているのかもしれない。
ただ雪山に放り出された遭難者ではなく。
村で飯を食い、装備を整え、仲間を増やし、役割を考えて進む。
それは、ちゃんとハンターらしい一歩だった。
◇
食事を終え、俺たちは雪山へ向かった。
「では、私は斥候として前を歩こう」
先頭はダクネスさん。
その後ろに俺とアクア。
たったそれだけで、昨日までと空気が違った。
前を歩くダクネスさんの背中は安定している。
足取りに無駄がない。
雪を踏む音も、どこか落ち着いている。
「……ねえ、カズマさん?」
「何だ」
「頼れる人がいると違うわね」
「お前も認めるのか」
「認めるわよ。ちょっと悔しいけど」
「悔しいんだ」
「ほんのちょっとね」
アクアは唇を尖らせる。
「…でも、私だって今日はちゃんとやるから」
「おう。期待してる」
「……素直ね?」
「こういう時は、素直に言った方がやる気出るだろ、お前」
「分かってきたじゃない」
そんなことを言い合いながら、俺たちは昨日のファンゴ討伐地点へ向かう。
雪山は静かだった。
風の音だけが、白い斜面を流れていく。
ギアノスの鳴き声も、ブランゴの気配も、今のところない。
ティガレックスの暴音が鳴り響いていたとは思えないほど、静かすぎる。
「……静かだな?」
俺が呟くと、ダクネスが小さく頷いた。
「…警戒した方がいい」
「ですよね」
「不安にさせるつもりはないが、強い大型モンスターが近くにいると、小型モンスターが姿を消すことがある」
「…十分不安になりましたね」
「…すまない」
真面目に謝られると、逆に何も言えないぞ。
しばらく進むと、昨日ファンゴたちと戦った開けた場所へ出た。
そこにはまだ、戦いの痕跡が残っていた。
雪が抉れた跡。
ファンゴが岩にぶつかった跡。
俺たちが踏み荒らした足跡。
しかし、その中に――昨日はなかったものがあった。
「……」
俺は足を止めた。
ダクネスさんも黙る。
アクアもすぐに気づいたらしく、ゆっくりと膝を折って雪面を見る。
大きな足跡だった。
昨日見たものより、さらに深い。
ファンゴのものとは明らかに形が違う。
横幅も、踏み込みの重さも、明らかに別物だった。
「……これ」
アクアの声が、少し震える。
「昨日、こんなのあった?」
「なかったはずだ…」
俺は即答した。
昨日の足跡も大きかった。
だが、これはそれよりはっきりと異質だ。
ただ大きいだけじゃない。
雪の下の硬い層まで押し潰すように、重さが残っている。
ダクネスが、手袋越しに足跡の縁をなぞる。
「新しいな」
「分かるのか?」
「ああ。ふちの雪の崩れ方が浅い。つまり風で埋まりきっていない。…これが意味するところは、昨夜から今朝にかけて通った可能性が高い」
「……マジか」
つまり、今も近くにいるかもしれない。
そう思った瞬間、首の後ろがひやりとした。
俺もアクアも、身震いしてしまう。
遠くの斜面から、低い風の音が流れてくる。
ただの風だ。
…たぶん、ただの風だ。
……それでも、何か巨大なものの呼吸に聞こえてしまう。
「カズマ、アクア」
ダクネスが静かに言った。
「ここから先は、気を引き締めて…さらに慎重に行こう」
「わ、分かってるわよ!」
アクアがごくりと喉を鳴らす。
「……ね、ねえ、これって……本当に確認だけで済むのよね?」
「一戦交えるかもしれないな…」
「そこは嘘でも済むって言いなさいよ!心折れそうなんですけどー!!」
二人の会話を尻目に、
俺は足跡の先を見た。
白い雪原の奥。
昨日まではなかった、大きな痕跡が見える。
鋭利なものではなく、もっと大きな何かで削り取られた印象を受ける。
それは、大きな何かが…確かにここを通った証拠だった。
そしてその何かは、俺たちが知っているファンゴでも、ドスファンゴでもない。
たぶん、俺の知っている雪山にあるはずのないものだ。
程なくして、俺たちは三人で、その巨大な足跡を追い始めた。
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