この狩猟生活に祝福を!   作:how-kyou

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ダクネスヒロイン力たけぇー…。
お気に入り、評価、感想ありがとうございます。
出来る限り誤字が無いように努めます。
ヨロシャス!


第六話・前半『この素晴らしき帰り道にラブコメ…?を!!』

 

 

 

 ありがとう。

 

 そう聞こえた気がした。

 

 もちろん、言葉が通じたわけじゃない。

 こっちの都合のいい解釈なのかもしれない。

 

 でも、あの最後の目。

 子ガムートを見て、アクアを見て、ダクネスを見て、そして俺を見た、あの巨大な瞳。

 

 敵意は浮かんでいなかった。

 少なくとも、俺たちを踏み潰そうとする目ではなかった。

 

「……冷えてきたな」

 

 もう遅い時間だ。

 俺がそう言うと、アクアが全力で頷いた。

 

「とっとと帰りましょう! もう今日中に何が何でも帰ってお布団に入るわ! 今ここで“もう一体出ました”とか言われたら、私、雪山に寝転んで泣くからね!」

 

「泣くな。凍るぞ」

 

「じゃあ泣きながら帰る!」

 

「面倒くせえ女神だなぁ…」

 

 口では軽くそう言いながら、

 俺の足取りは決して軽くなかった。

 

 ティガレックス。

 ガムート。

 子ガムート。

 ポポの群れ。

 そして、生命の粉塵とアクアの回復。

 

 今日あったこと全部が一気に押し寄せてきて、体より先に頭が疲れている。

 

 …なんかもう、今日は一日で一ヶ月分くらい寿命を使った気分だ。

 

「二人とも、無理はするな…。帰り道も油断は禁物だ…」

 

 先頭を歩こうとしたダクネスが、真面目な調子でそう言った。

 

 だが。

 

「……あのーダクネスさん?」

 

「…何だ、カズマ」

 

「ソレ、歩けてないだろ」

 

「…歩けているぞ」

 

「歩けている人間は、二歩に一回ランスを杖にしないんだよ」

 

「これは……その…崩れたりしないか足場を確認しているだけだ」

 

「ランスで?」

 

「…そうだ」

 

「嘘が下手すぎる」

 

 ダクネスは、ほんの少しだけ口をつぐんだ。

 

 鎧の上からでも分かるくらい、動きが重い。

 さっきはアクアの回復でどうにか立てるところまでは戻った。

 だが、それは“大きな傷が塞がった”だけだ。

 

 今日、ティガレックスの突進を受けたのは誰だ?

 雪塊を盾で弾いたのは誰だ?

 母ガムートとティガレックスの間に立ったのは誰だ?

 

 俺とアクアも当然疲れている。

 でも、一番負担を受けていたのは間違いなくダクネスだった。

 

「……平気だ。村までは歩ける…」

 

「強がるのやめてもらえます?顔色も悪いし」

 

「…も、もともとこういう顔色だろう」

 

「それは無理があるわよ…?」

 

 アクアが横から突っ込んだ。

 

 ダクネスは少しだけ困ったように目を伏せる。

 

「だが、私が倒れたら二人に迷惑が……」

 

「倒れかけてる人間が言うセリフじゃねえんだよなぁー…」

 

 俺は小さく息を吐いて、ダクネスの前に走って行き、背中を向けた。

 

「ほら」

 

「……何をしている?」

 

「背負うので、ドーゾ」

 

「いや、それは――」

 

「村までだ。歩くよりかはマシだろ」

 

 ダクネスは明らかに戸惑った。

 

 こういう時は「すまない」とか言いつつも、真面目に受け入れそうな気がする。

 だが今は、妙にためらっていた。

 

「カズマに背負わせるのは……その、申し訳ない。それに、先輩ハンターとしての意地も…」

 

「もう俺たちは仲間なんだろ?…正直、抵抗はあるけど、呼び捨ててるじゃん」

 

「だが…」

 

まだためらいやがりますか、この先輩ハンターは。

 

「…さっきは俺を抱えて転がってくれたよな?それだって同じようなもんだろう」

 

「…いや、それとこれとは違うだろう?」

 

「いーや、さして違わない」

 

「…随分と聞いてくれないな。…正直に言うと、その…汗もかいてるんだが」

 

「……………それも気にするな!」

 

「い、今の間はなんだっ!?」

 

「あーもう!早く背負われなさいよ!今日中に帰れなくなっちゃうじゃないっ!」

 

イラついたアクアが後ろからダクネスを押す。

弱っているからか、先ほどまでの強さの面影はなく…結果的に俺の背中へ吸い込まれる。

 

「…い、今は大人しくするが…覚えておけ。この礼は必ずする!」

 

後ろが見えない分怖えぇぇぇ!

 

そりゃちょっと役得だなーとか、鎧脱いでくんないかなーとか思ったよ?

けど今は、頑張って背負ってるだけだ!

 

うん、無理があるか。

…さて、なんと言い訳しようか。

なーんて考えてると、

 

「……すまない、カズマ。迷惑をかける」

 

「迷惑じゃないよ。……いや、鎧が重たいなーとかそういうのはあるかもだけど」

 

「今、私が重いと言ったか?」

 

「言ってない! 鎧の話だ鎧の!」

 

 そろりと持ち上げる。

 

 背中に、恐る恐る体重が乗る。

 

 ずしり…。

 

 ポポノタンって、結構軽かったんだ。

 

「……」

 

「……」

 

「カズマ?どうしたの??」

 

「何でもない」

 

「…本当に何でもないのか?」

 

「何でもないって言ってるじゃん!」

 

 重い。

 いや、人間が重いとかそういう話ではない。

 鎧だ。武器だ。盾だ。

 理由は、そいつら全部だ。

 むしろこれで軽かったら、この世界の物理法則に失礼だ。

 

 そして同時に、鎧越しとはいえ背中に当たる近い呼吸やら、髪の香りやら、そういう余計な情報も入ってくる。

 

 やめろ。

 今はそういう場面じゃない。

 雪山だ。

 死にかけた帰り道だろ?

 今の俺たちはラブコメの皮を被った遭難後処理班だ。

 

「……あのーカズマ」

 

「何だ」

 

「無理なら降ろしてくれて構わない」

 

「…無理じゃないって」

 

「だが、顔がかなり必死だぞ」

 

「…男にはな、必死でも格好つけなきゃいけない時があるんだよ」

 

「そ、そうか……」

 

 ダクネスが、背中で小さく笑った気がした。

 

「なら、今だけ頼らせてもらう…しっかり礼もさせてもらうよ」

 

「……おう」

 

 何だろう。

 今のはちょっと良かった。

 

 疲れてるし、重いし、寒いし、腕も痛い。

 でも、悪くない。

 

「…あのーカズマさん?私も疲れてるんですけど?」

 

 横から、じとーっとした声がした。

 

 見ると、アクアが頬を膨らませている。

 

「お前は普通に歩けてるだろ…それより盾持ってくんね?」

 

「…貸しなさいっ!まったく…女神にも背負われる権利くらいあるわよ!」

 

「女神なら先に歩いて俺を導いてくれ」

 

「ひどい! さっき子ガムート治したの私なんですけど!? ものすごく偉かったんですけど!?」

 

「それは本当に偉かった」

 

 アクアが一瞬で止まった。

 

「な、何よ急に素直に褒めて…」

 

「いや、事実だからな。今日もお前がいなきゃどうにもならなかった」

 

「……ふ、ふーん?」

 

 アクアは分かりやすく照れた。

 口元がにやけそうになるのを、必死で押さえている。

 

「まあ? 女神だしー? 頼られて当然というか?」

 

「…褒めた瞬間これだよ」

 

「もっと褒めてもいいのよ?」

 

「調子に乗る速度がティガレックスの突進よりも速いの凄いな?」

 

「何よそれ!」

 

 アクアとそんなやり取りをしながら、俺たちは雪道を下っていく。

 

 …ダクネスが会話に入ってこない?

 

「ダクネス?」

 

 呼びかけてみるが、返事はない。

 足を止めて、少し顔を後ろへ向ける。

 

 ダクネスの呼吸は穏やかだった。

 ただ、完全に意識が落ちている。

 

「……気を失ってるのか?」

 

「えっ、大丈夫なの!?」

 

 アクアが慌てて近づく。

 

 俺の背中からダクネスの顔を覗き込み、額に手を当て、目を閉じた。

 

「うん……治療は問題ないわね。傷も悪化してないし、これは…疲労と緊張が切れたみたいね」

 

「そうか……」

 

 安心した途端、別の重さが胸に沈んだ。

 

 俺は、先の戦闘でダクネスさん……に頼りすぎた。

 

 正面で受ける役。

 守る役。

 踏みとどまる役。

 

 必要だった。

 あの状況では、ダクネスがいなければ詰んでいた。

 

 でも、それはつまり、一番危ない場所にずっと立たせていたということだ。

 

「……ちょっと頼りすぎたか」

 

 ぽつりと漏れる。

 

 アクアが俺を見た。

 

「役割的に?」

 

「……まあな」

 

「でも、ダクネスは『自分が先輩だからー』って選んだんでしょ?」

 

「それは…分かってる」

 

「それが分かってるなら、あとでちゃんとお礼言えばいいじゃないの」

 

 アクアは珍しく、茶化さなかった。

 

「それに、あんたもあんたで飛び込んだんでしょ?ダクネスが危ない時」

 

「……反射的にだけど、な」

 

「損得抜きに反射で助けに行けるなら、十分よ」

 

 そう言って、アクアはふいっと前を向いた。

 

「だから……今度はちゃんと助けなさい?途中で落としたら、私が怒るから」

 

今度はちゃんと…か。

思い返せば、結構経ったんだよな。

この世界に来て…。

 

「…はいはい」

 

 背中のダクネスが、少しだけ身じろぎした。

 

 眠っているのか、気を失っているのか、前を向いている俺には、その境目は分からない。

でも、その手が俺の肩にゆるく触れているのは間違いない。

 

 ……ちゃんと連れて帰らないとな。

 

     ◇

 

 夜のポッケ村の灯りが見えた時、俺は心底ほっとした。

 

 帰ってきた。

 

 …今日も、なんとか。

 

 村の入り口に近づくにつれて、人の声が増える。

 普段ならこの時間帯の村はもっと静かなはずなのに、今日は明らかにざわついていた。

 

「あっ、帰ってきた!」

 

「三人とも無事かい!?」

 

「おい、ダクネスが……!」

 

「ギルドから医者を呼ぶか!?」

 

 村人たちが集まってくる。

 

 どうやら、観測隊か誰かが雪山の異常を伝えていたらしい。

 ガムートやティガレックスの大咆哮。

 巨大な山のような影。

 吹雪みたいな冷気。

 

 村からでも、何かが起きていることは分かったのだろう。

 

「だ、大丈夫です! アクア曰く!!」

 

「え!?わ、私が全責任負うのっ?!」

 

「俺に医療判断求められても…」

 

「ま、まったくもうっ…!」

 

 アクアがすぐに前へ出る。

 

「いーい? 目立った傷は無いわ! 疲れて気を失ってるだけ! ダクネスのことを想うなら騒がないで、少し休ませてあげて!」

 

 こういう時のアクアは、不思議と声が通る。

 

 さっきまで「背負われる権利〜」とか言っていた女神と同一人物とは思えない。

 いや、同一人物なんだけど。

 たまに本当に女神なのが腹立つ。

 

 人垣の向こう、集会所の前に村長がいた。

 いつもの場所。

 湯呑みは持っていない。

 

 村長は俺たちの姿を見ると、静かに息を吐いた。

 

「……帰ってきたね」

 

「帰ってきましたね……どうにか」

 

「その様子だと、ずいぶん大きなものを見たようだ」

 

「…そうすね、大きかったです」

 

「そうかい」

 

「すみません……説明は明日でいいですか」

 

 俺は正直に言った。

 

 今、何かを順序立てて説明しろと言われても無理だ。

 

 ガムートがいて、ティガが来て、子供が怪我してて、アクアが治して、ダクネスが受けて、俺が足場を削って、なんか最後にありがとうっぽいこと言われました。

 

 ……こんな報告書、たぶん受付で突き返される。

 

「ああ、顔色を見れば分かるよ。今日は休みな」

 

「助かります。今、何か聞かれても“でかかったです”しか出ません」

 

「十分伝わるさ」

 

 村長は少しだけ笑ったあと、俺の背中のダクネスを見た。

 

「ダクネスは?」

 

「アクア曰く、治療は問題ないそうです。ただ、その…凄い負担をかけちゃって、疲労で気を失ってるみたいで」

 

「…そうかい。なら、ちゃんと寝かせてやってくれ」

 

 村長は、俺たちの小屋の方を指した。

 

「お前さんたちが使っている部屋の奥に、もう一部屋使えるようにしておいたよ。これからも三人で動くことがあるなら、その方が都合がいいだろう」

 

「え、いいんですか?」

 

「もちろんだよ。ここまでやってくれたんだ。人数分の寝床くらい用意するさ」

 

 ありがたい。

 本当にありがたい。

 

 ただ、俺は一瞬だけ妙な引っかかりを覚えた。

 

「……あれ? この奥って食堂じゃなかったっけ?」

 

 思わず呟く。

 

 横でアクアが首を傾げた。

 

「何を言ってるのよ。食堂は外にあるでしょ?」

 

「いや、ゲームだと……いや、もういいか」

 

「また変な知識?」

 

「変な知識扱いするな。俺の命綱みたいなもんだぞ」

 

「最近、割と外れてるじゃないの」

 

「それを言うな」

 

 小屋へ向かう途中も、村人たちの視線は続いていた。

 

 心配。

 好奇心。

 驚き。

 それから、敬意。

 

 ギアノス五頭で大騒ぎしていた頃には、こんな目で見られなかった。

 

 ……いや、そう見られたら見られたで、落ち着かないな、これ。

 

 

     ◇

 

 

 用意された奥の部屋は、思ったよりきれいだった。

 

 簡素な寝台。

 小さな棚。

 壁際の暖炉。

 毛布も余分に置いてある。

 

 俺はダクネスを寝台へ下ろした。

 

「……ふう」

 

 こう言ってはアレだが…背中が一気に軽くなる。

 同時に、急に疲れが押し寄せた。

 ちょっと立ちくらみもする。

 

「お疲れさま、カズマ」

 

「お前に素直に言われると、逆に怖いんだけど」

 

「何よ。たまには労ってあげてるんでしょ」

 

「はいはい、ありがとうございます女神様」

 

「心がこもってないわ!」

 

 アクアは文句を言いつつも、ダクネスの横に座り、もう一度手をかざした。

 

「念のため、もうちょっとだけ見ておくわね」

 

 淡い青白い光が、ダクネスを包む。

 

 呼吸は落ち着いている。

 顔色も、さっきよりは少しだけ良くなったように見えた。

 

「……大丈夫そうか?」

 

「ええ。あとはぐっすり寝れば戻ると思うわ!」

 

「…そうか、よかったよ」

 

 俺は壁際に腰を下ろした。

 

 疲れた。

 もう本当に、骨まで疲れた。

 

 でも、ダクネスがちゃんとここにいて、アクアも隣にいて、暖炉の火があって。

 それだけで、少しだけ現実味が戻ってくる。

 

「……本当に助かったよ」

 

 俺は小さく言った。

 

 アクアが振り返る。

 

「私?」

 

「お前も。…ダクネスも」

 

「ふふん。もっと大きな声で色々言ってくれてもいいのよー?」

 

「…ダクネス寝てるだろーが」

 

「くっ…そこは調子に乗らせなさいよ! 今日は私もかーなーり頑張ったでしょ!」

 

「それは否定しない」

 

 アクアはまた“えへへへ…”と照れて、それからわざとらしく胸を張った。

 

 その時、寝台の上でダクネスがわずかに目を開けた。

 

「……私も、助けられた」

 

「あら、目が覚めたの?ダクネス」

 

「気分は夢うつつ、と言ったところ…正直、また気を失いそうだが…言葉にして伝えたい」

 

ダクネスは深呼吸を一回挟む。

 

「カズマが庇ってくれた。アクアが治してくれた。…二人がいなければ、私は立っていられなかった、太刀打ち出来なかった」

 

 声はまだ弱い。

 それでも、言葉ははっきりしていた。

 

「だから……ありがとう」

 

「……」

 

 やめろ。

 疲れてる時にそういう真っ直ぐなことを言うな。

 

 変に効く。

 

「お、おう」

 

「照れちゃって」

 

「照れてない」

 

「嘘ね」

 

「…うるさいやい」

 

 ダクネスが小さく笑った。

 

 その笑い方が、凛々しさとは少し違っていて、ちゃんと安心している人間の笑い方に見えた。

 

「……今日は、何も気にせず…もう寝てくれ」

 

「ああ。そうする」

 

「明日、村長に説明しなきゃいけないしな」

 

「説明できるのか?」

 

「できる気がしない」

 

「そこは頑張りなさいよ」

 

「お前も当事者だろーが」

 

 そんな声を聞きながら、ダクネスは満足げに目を閉じる。

 そして…。

 

「……すぅ……すぅ」

 

そのまま、すぐに寝息が聞こえ始めた。

よほど限界だったらしい。

 

 アクアが毛布を少し直す。

 

「……何だかんだ、いい人よね」

 

「そうだな」

 

「強いし、真面目だし、村の人にも頼られてるの分かった」

 

「うん」

 

「…ちょっとだけ、負けてられないわね?」

 

 アクアが珍しく、真面目な顔でそう言った。

 

「もう一度言うけど、お前も十分すごかったよ」

 

「……今日はやけに素直ね」

 

「…変に気負われたら困るんだよ」

 

「そっか」

 

 アクアは少しだけ笑った。

 

「じゃあ、寝ましょう。明日はしっかり休んでシュワシュワだからね!」

 

「お前、それ覚えてたのか」

 

「当たり前でしょ。好きなだけ奢るって言ったわよね?」

 

「言ったけどさ……」

 

「約束は約束よー♪」

 

 くそぅ…。

 命がけの戦場で交わした良い感じの約束が、まさかしっかり酒代として回収されるとは。

 

 俺たちはそのまま、それぞれの寝床へ向かった。

 

 目に映った暖炉の火が、ぱちぱちと火花を飛ばしながら、小さく音を立てる。

 

 今日は、生きて帰ってきた。

 それだけで、十分だった。

 

 

     ◇

 

 

 翌朝。

 

 ポッケ村の朝は、いつも通り寒かった。

 

 だが、昨日までと明らかに違うことがあった。

 

「……何か、やけに見られてないか?」

 

「昨日の件が知れ渡っているんだろう」

 

 俺がヒソヒソと小声で言うと、ダクネスがきっぱりと答える。

 その隣のアクアが、ふふんと鼻を鳴らす。

 

「いいじゃない!英雄みたいな扱いは好きよ!」

 

「まじかー…」

 

「カズマったら、及び腰じゃないのー。私たちを見習って胸を張りなさい!」

 

「ダクネスは良いけど…お前は自己評価だけ常に英雄級だからな」

 

「どういう意味よ!」

 

 村を歩くたび、声をかけられる。

 

 

「昨日の三人だ」

 

「あの足跡の主を見たんだって?」

 

「ティガレックスもいたって本当かい?」

 

「ダクネスさん、大丈夫だったのか?」

 

「アクアさん、子供を治したって聞いたよ!どうやったんだい??」

 

 

 そのたびにアクアの顔がゆるむ。

 

「ふふん、この私なら当然よ!」

 

「顔、ゆるんでるぞ」

 

「うるさいわね!」

 

 ダクネスはというと、いつも通り自然だった。

 

 村人に挨拶されれば丁寧に返し、荷物を抱えたアイルーがいればさりげなく手を貸す。

 年配の村人に「無茶しすぎるんじゃないよ」と言われると、少し困ったように笑って頭を下げる。

 

「心配をかけた。だが、もう大丈夫だ」

 

「本当に大丈夫なのかい?」

 

「ああ。アクアのおかげでな」

 

 そう言われたアクアが、また分かりやすく照れる。

 

「ま、まあ? 私が治したんだから当然よ!」

 

 ダクネスは、ただ強いだけじゃない。

 

 この村で、ちゃんと積み重ねてきたものがある。

 村人たちの視線や言葉が、それを教えてくれる。

 

 あの人は信用できる。

 あの人なら助けてくれる。

 あの人なら無茶をしてでも前に立つ。

 

 そういう評価は、一日二日で生まれるものじゃない。

 

「……何だ?」

 

 俺が見ていたのに気づいたのか、ダクネスが首を傾げる。

 

「いや。村に馴染んでるなって」

 

「…そうだろうか?」

 

「めちゃくちゃ馴染んでるぞ」

 

「この村には世話になっているからな。私にできることがあるなら、手伝いたいだけだ」

 

「そういうところだよなぁ……」

 

「何がだ?」

 

「いや、何でもないデス はい……あ、おい 手招きされてるぞ」

 

「そ、そうか…行ってくる」

 

 横でアクアがじとっと俺を見る。

 

「………」

 

「…な、なんだよ」

 

「べーつーにー」

 

「………お前の場合、すごい時とダメな時の落差が激しすぎるんだよ」

 

「…ソレ、褒めてるの!?貶してるの!?」

 

「両方かな⭐︎」

 

「最悪なんですけどッ!」

 

 

 そんなやり取りをしながら、俺たちは食事処へ向かった。

 

 

 昨日の約束通り、シュワシュワを奢る時が来たのである。

 

「さあさあさあ!約束のシュワシュワよ」

 

「あ、朝から飲む気か?」

 

「朝だからよ。生還祝いに時間は関係ないわ」

 

「いいこと言ってる風にしてるけど、ただ飲みたいだけだろ」

 

「そうとも言うわね!」

 

「「開き直るな」」

 

 結局、軽めの食事と一緒に、アクアには少しだけシュワシュワを頼んでやった。

 

 アクアはカップを両手で持ち、目を輝かせる。

 

「生き返るわぁ……」

 

「昨日も何回か生き返ってなかったか?」

 

「これは別枠の復活よ」

 

「復活の種類って多いのな」

 

 ダクネスは温かいスープを飲みながら、静かに笑っていた。

 

「本当に君たちは賑やかだな」

 

「…昨日からダクネスもその一員だろ?」

 

「…そうだな。だが、そう思われるのも悪くない」

 

「ダクネスも飲む?カズマの奢りよ??」

 

 アクアがカップを掲げる。

 

「まだ少し体が重いが…ふむ、一杯だけもらおうかな?」

 

 こっちを見てくる。

 どうぞどうぞとジェスチャーする。

 

「真面目ねぇ」

 

「お前も見習った方がいいんじゃないか?」

 

「やだ」

 

「即答かよ」

 

 料理が運ばれてくる。

 

 温かいスープ。焼いた肉。魚。パン。

 昨日の雪原の殺気が嘘みたいな、いつもと変わらぬ、普通の美味い朝飯だった。

 

 その普通がありがたい。

 

 そこで、ふと思い至った。

 

「……なあ」

 

「何よ」

 

「昨日の子ガムート、元気そうだったな」

 

「そうね。ちゃんと歩けてたわ」

 

 アクアは少しだけ誇らしげに言った。

 

「最後、私のこと見てたわよね。あれ、絶対分かってたわ」

 

「治したってことか?」

 

「そうよ。動物だって“神の奇跡だー”って分かるのよ」

 

「その言い方さえなければいい話なんだがな…」

 

 ダクネスがスープの器を置いた。

 

 おそらく、自分を治した力が、ただの薬や技術ではないと分かっているはずだ。

 だが、それでもそれを聞くようなことはしない。

 

「母ガムートも、こちらを敵とは見なしていなかった。少なくとも最後はな」

 

 ダクネスが穏やかに言う。

 

「言葉が通じなくとも、敵意と感謝くらいは伝わることがある」

 

「……そういうもんか」

 

「そういうものだ」

 

 昨日の母ガムートの目を思い出す。

 

 張り詰めた怒り。

 子供を守るための必死さ。

 そして、最後の低い鳴き声。

 

 あれが本当に感謝だったのなら。

 昨日の俺たちは、ただ逃げ延びただけじゃない。

 

 成り行きとはいえ、あの親子を助けたのだ。

 

「……まあ、また会うとしたら平和な時がいいな」

 

「同感だ」

 

 ダクネスが呟き、それに相槌を打つ。

 

「できれば、ティガレックス抜きがいいわね」

 

「それも大賛成」

 

 三人で小さく笑う。

 

 戦いの後の飯は、妙にうまかった。

 

 

     ◇

 

 

 食事を終えたあと、俺たちは報告のために、集会所の前にいる村長の元へ向かった。

 

 村長はいつもの場所で、湯呑みを片手に座っていた。

 ここ数日とは違い、その表情は穏やかだ。

 

「よく休めたかい?」

 

「まあ、何とか…ダクネスも、な?」

 

「ああ。…村長、ご心配をおかけしました」

 

「あれ?私は??」

 

「お前、朝から飲んでただろ」

 

「少しだけね」

 

「…少しの基準が信用ならないな」

 

 村長はからからと笑ったあと、真面目な顔に戻った。

 

「さて。昨日の話を聞かせてもらおうか」

 

 俺たちは順番に話した。

 

 巨大な足跡を追ったこと。

 ポポの群れの中に、子供のガムートがいたこと。

 母ガムートが現れたこと。

 ティガレックスが乱入したこと。

 母ガムートと共にティガレックスを退けたこと。

 子ガムートの怪我をアクアが治したことは…それとなくぼかした。

 だが…なんとなく伝わっているような気がするのは何故だろうか。

 

「……ガムート、か」

 

「知ってるんですか?」

 

「名前くらいはね。だが、この辺りまで降りてくるとは思わなかったよ」

 

「やっぱり異常なんですね」

 

「ああ。だが、お前さんたちはよく戻ってきてくれた」

 

 村長は、俺たち三人を順番に見た。

 

「それも、ただ逃げてきたわけじゃない。状況を見て、できることをして、最悪を避け、最善を尽くした。立派なものだよ」

 

「……そう言われると、むず痒いですね」

 

「これからも増える。慣れな」

 

「慣れたくないなぁ……」

 

 アクアは隣で得意げにしている。

 

「もっと言ってもいいのよ?」

 

「慎みって知ってるか?」

 

「何でよ! 褒められる時は褒められとくべきでしょ!」

 

 村長は湯呑みを置いた。

 

「村での活躍は、もうギルドにも届いている」

 

「ギルドに?」

 

「ああ。観測隊や行商、通りがかりのハンターからも話が上がっている。雪山で働いている新米二人と、ダクネスの三人組が、どうやら思った以上にやるらしい、とな」

 

「……新米二人」

 

「そこは事実さ。仕方ないだろう?」

 

「まあ、そうですけど」

 

 村長は懐から、小さな札のようなものを取り出した。

 

「ほら、カズマとアクアの狩猟許可だ」

 

「狩猟許可?」

 

「新たな依頼を受けるためのものさ。これまでお前さんたちは雪山中心だったが、そろそろ別の土地の依頼も任せていい頃合いだと判断された……そうさな、森丘での狩猟依頼が来ていたかな」

 

「森丘……」

 

 その名前を聞いた瞬間、俺の中のゲーム知識が反応する。

 

 雪山とは違う。

 森と丘。

 懐かしいフィールド。

 初心者ハンターにとって、ある意味“次の段階”の場所。

 

「森丘って…寒くないところ!?」

 

 アクアが目を輝かせた。

 

「第一声がそれかよ!?」

 

「だって大事でしょ! 雪山から出られるのよ!? 寒くないのよ!?」

 

「…まあ、それは俺も嬉しい」

 

 なんやかんやで、飲んでいたホットドリンク代もちりつもだったなぁ…。

 

 そんな俺たちを見て、村長が頷く。

 

「ただし、楽な場所という意味じゃないよ。森丘には森丘の危険がある…まぁ、困ったことや気をつけるべきことはダクネスにしっかり聞くんだよ」

 

「分かってます」

 

 俺は札を受け取った。

 

 ダクネスを見る。

 少し気恥ずかしそうにしていた。

 

「案内は任せてくれ」

 

「さっすが〜今回も頼りになるわねぇ♪」

 

 二人のやり取りを見ながら、手の内にある許可証をもう一度見る。

 

 軽い。

 ただの札だ。

 

 でも、それは俺たちがこの村で積み重ねてきたものの証でもあった。

 

 雪山草。

 ギアノス。

 ポポノタン。

 ドスギアノス。

 ファンゴ。

 ガムートとティガレックス。

 

 全部、無茶苦茶だった。

 でも、その全部を越えて、ここにいる。

 

「……何か、更にハンターっぽくなってきたな」

 

 俺が呟くと、アクアが得意げに笑った。

 

「今さらね!私は一週間前になっていたわよ?」

 

「お前はそうやってすーぐ調子に乗る」

 

「乗るわよ。森丘よ森丘! きっと綺麗な場所なんでしょ?」

 

「まあ、雪山よりは観光地寄りかもな」

 

「やった!」

 

 ダクネスはアクアを見て静かに微笑んだ。

 俺は言う。

 

「なら、依頼を受けて三人で行こう」

 

「もちろん」

 

「ええ!」

 

 村長が、満足そうに頷く。

 

「まずはしっかり体を休めて準備しておいで。森丘での最初の依頼は、追って渡そう」

 

 俺は狩猟許可の札を握りしめる。

 

 雪山から、森丘へ。

 

 俺たちはまた、一歩先へ進むことになった。

 

 ……まあ、その一歩先が平和とは限らないのが、この世界の嫌なところなのだが。

 




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