この狩猟生活に祝福を!   作:how-kyou

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ざっくり進めていければと思います。


第一話・中盤『この素晴らしき新生活を!(in雪村)』

 

 

かくかくしかじか…説明完了。

 

「――つまり、お前はこの世界を知ってるってことかい?」

 

ポッケ村の集会所を出たところ、その焚き火の前で、毛皮を羽織った小柄な老婆――この村の村長だというおばあさんが、じろりと俺を見た。

 

あれ?ゲームでの印象とだいぶ違うな?

…そりゃ、俺たちが怪しいからか。

 

その隣で、アクアがまだ涙目のまま毛布にくるまっている。

 

「正確には“知ってる気がする”ってくらいですけどね。地名とか、魔物とか、道具とか……そういうのに見覚えがあるというか」

 

「見覚えなんてもんじゃないわよ! あんた、さっきもあの化け物見て即座に名前を当ててたじゃない!」

 

「そりゃあ、あいつは有名だからな……悪い意味で」

 

「私は全然知らないんですけど!? 何なのあの轟竜とかいう、色々登場タイミングを間違えた生物!」

 

アクアが毛布から顔だけ出して怒鳴る。

 

ゲームやったこないのか?

……あ、一応女神的な存在だったか、コイツ。

 

村長はそんな俺たちを見て、やれやれと肩をすくめた。

 

「事情はよく分からないが、命からがらここまで逃げ込んできたのは本当みたいだねえ。なら、しばらくこの村に滞在するといいさ。雪山で行き倒れられても寝覚めが悪い」

 

「助かります!」

 

ちょっと泣きそうになったぞ!

心なし口調も優しい!

 

「……って、そんな簡単に住ませてもらえるの?」

 

「この村は狩人の村だよ。余所者なんて珍しくもないさ。変なのも多いしね」

 

「変なのって私たちのこと!?」

 

「少なくとも雪山のど真ん中から轟竜を連れてきた時点で、普通ではないねぇ…」

 

ぐうの音も出ない。

それはそうだった。

 

俺としても、ゲームで見慣れた“ポッケ村”という単語に少し落ち着いていたが、冷静に考えれば初期スポーン地点が雪山の奥って…おかしいにもほどがある。

 

アクアの方をちらりと見る。

コソコソと声をかける。

 

「お前の転送、完璧だったんじゃなかったのか?」

 

「う、うるさいわね! 多少の誤差はあるわよ! 女神だって初めての現場対応でミスくらい――」

 

「多少の誤差でティガの縄張りに直送されてたまるかァァ!!」

 

「結果的に生きてるんだからよしとしなさいよ!」

 

「よくねえよ!」

 

俺たちがいつもの調子で言い合っていると、村長はふっと笑った。

 

「大声を出す元気はあるみたいだね。なら問題ないさ」

 

「問題しかないと思うんですが?」

 

「さて…まずは寝床を決めようか。空いてる家は一つある。元は旅の狩人が使ってた小屋だが、今は誰もおらん。二人で使うといい」

 

「ありがとうございます……って、ん?」

 

今さら引っかかった。

 

「「二人で?」」

 

「そうさ、二人で」

 

「「二人でっ!!?」」

 

俺とアクアの声が綺麗に重なった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? こんなのと同居なんてっ!!」

 

「こっちの台詞よ! 何で死に方が残念な引きこもりと同じ部屋で寝泊まりしなきゃいけないのよ!」

 

「お前がついてきたんだろうが!」

 

「連れて行ったのはあんたでしょ!?」

 

「…最近の若いのは仲がいいのか悪いのか分からんねぇ」

 

「「悪い!!!」」

 

またも綺麗に声が重なった。

 

村長は笑いを堪えるように咳払いすると、

 

「他に空き家はないよ。嫌なら雪洞でも掘って暮らすかい?」

 

「二人で使わせていただきます!」

 

「即答なの!?」

 

「氷点下の野宿とお前との同居なら、まーだお前との同居の方がマシだ!」

 

「すっごく腹立つ選択理由なんだけど!」

 

とはいえ、アクアもそこは同意なのか、それ以上は食い下がらなかった。

 

村長に案内されながら村の中央を通り、目覚めた家に戻る。

そして、ポッケ村の景色が改めて目に入る。

 

 雪の積もった屋根。

 丸太で組まれた家々。

 湯気の立つ煙突。

 行き交う村人とアイルー。

 

ゲーム画面の向こうで何度も見た風景が、いま目の前に立体で広がっていた。

思わず少し感動してしまうくらいには、ちゃんと“ポッケ村”だった。

 

「……おお」

 

「何よ急に。さっきまであんなに余裕なさそうだったのに」

 

「いや、ちょっとな。知ってる場所に本当に来たんだなと思うと……変な感じで」

 

俺の呟きに、アクアは不思議そうな顔をした。

 

「ふうん。まあ…私は知らない場所だけど、寒いってことだけはよく分かったわ」

 

「それはもう十分伝わってる」

 

「あと、あの化け物がまた出る場所ってことも!」

 

「それもな……」

 

小屋は村の端だ。

人が集まる集会所からは、少し離れた場所にある。

 

広くはないが、ベッド代わりの寝台が二つ、棚、暖炉、机まである。

ちなみに風呂は無い。

集会所にあるものを使ってくれとのこと。

 

…あれ?集会所に風呂なんてあったっけ??

 

「……おいおい」

 

俺が先に入る。

 

「どしたのよ?…もしかしてなんか居た?」

 

「思ってたより全然いい部屋だな」

 

「紛らわしいっ!……え、何これ、ホントにちゃんと住めるじゃない!」

 

アクアが目を輝かせて暖炉の前に駆け寄る。

 

「ここが私の定位置ね!」

 

「勝手に決めんな」

 

「寝台はこっち!」

 

「何で窓際のいい方を先に取るんだよ!」

 

「女神だからよ!」

 

「理不尽すぎるぅ!」

 

 小屋の確認を済ませると、村長は次に村の中を一通り案内してくれた。

 

「こっちが加工屋だ。武器も防具も扱ってる」

 

案内された先では、大きな炉の前でいかにも職人気質な女が腕を組んでいた。

素材の匂いと鉄の熱気がむわっとくる。

 

「ほう。あんたらが轟竜を引き連れてきたっていう新顔かい」

 

「誤解です! 引き連れてきたんじゃなくて、逃げてきただけです!」

 

「結果として連れてきてるじゃないの」

 

「お前ちょっと黙ってて?」

 

加工屋のおばちゃんは俺たちを頭からつま先まで見て、ふんと鼻を鳴らした。

 

「武器も防具も無しで雪山に放り出されたって話は聞いた。命があるだけ運がいいね」

 

「本当にその通りで……」

 

「まあ、運だけじゃ次は死ぬよ。狩りに出るんなら武器を選びな。最初は大したもんは持たせられないが、何もないよりはマシさ」

 

その瞬間、その言葉に少しだけ胸が高鳴った。

 

来た。

初めてモンスターハンターを触った時に、一番最初にわくわくするやつだ。

 

武器(相棒)選びである。

 

 並んでいるのは、まだ質素な鉄や木、骨で作られた武器ばかりだ。

けれど、剣、太刀、ランス、弓、ボウガン――どれも“始まりの装備”らしい魅力がある。

 

「おお……!」

 

「なによその顔。急に目が輝いてるんだけど」

 

「そりゃそうだろ。最初の武器選びだぞ。これからの運命が決まるんだよ」

 

「大げさじゃない?」

 

「大げさじゃない。武器ってのはロマンなんだ」

 

「ふーん……あ!じゃあ私、これがいいわ!!」

 

 アクアが嬉々として手を伸ばした先にあったのは、長く反った刀身の武器――太刀だった。

 

「見て見て、格好いいじゃない! こう、スパーンと引き抜いて『…またつまらぬものを切ってしまった』って感じで!」

 

「……はぁ」

 

「何よ! でも分かるでしょ!? 私こういうの似合うと思うのよね!」

 

…確かに、ちょっと様になってる気が……せんでもない。

 

「…まあ、見た目だけならな」

 

「見た目だけって何よ!」

 

 その時、アクアは何を思ったか、太刀を鞘から半分ほど抜き、その切っ先を俺の方へ向けた。

 

「ほら、こんな風に――」

 

「こっち向けんじゃねぇ!!」

 

俺は慌てて持っていた片手で扱える剣で、刀身を押し返した。

 

「危ねえだろうが! そういう長物を人に向けるな! それゲームでも現実でも駄目なやつだからな!?」

 

「だ、だってちょっと見せようと思っただけで!」

 

「初手から味方斬る気か!」

 

 加工屋のおばちゃんが呆れたようにため息をつく。

 

「得物の扱いも知らないのに見栄えだけで選ぶもんじゃないよ」

 

「うっ……ぐすん」

 

涙目になっている女神。

ここはしっかりと叱られておいてもらって…。

 

「でも、まあ…うん、太刀は気に入るかもしれないね。あんた、勢いだけはありそうだ」

 

「でしょ!?でしょでしょ! あなた見る目あるわねー!」

 

「褒めてるとは限らないけどね」

 

アクアが太刀で決まりそうなのを横目に、俺も自分の武器を見て回る。

 

大剣は…重すぎるだろ。

ハンマーだってロマンはあるが、今の俺の体力じゃ振り回される。

ランスは堅実だが、いきなり使いこなせる気がしない。

双剣は格好いいが、スタミナ管理で死ぬ未来が見える。

 

そう考えていくと、自然と目が向いたのは先ほど持っていた、片手剣だった。

 

「……やっぱこれかな」

 

「…えっ、そんなしょぼいので大丈夫なの?」

 

「しょぼい言うな。片手剣は優秀なんだよ。小回り利くし、ガードもできるし、アイテムも使いやすい」

 

「なんか地味じゃない?」

 

「地味で結構。俺はまず死なないことを優先する」

 

「うわ、実にカズマさんらしい選び方」

 

「うるせえ。生き残るやつが強いんだよ」

 

2度も死んでたまるか。

 

実際、この体格、この筋力、この初見殺しの世界。

見栄を張って事故るより、堅実な方が絶対にいい。

 

加工屋も、俺の選択に小さく頷いた。

 

「悪くない選びだ。たとえ派手さはなくても、扱いやすい。最初の一本なら十分だろうさ」

 

「ですよね」

 

「女神の私が派手な太刀で、あんたが堅実な片手……なんか主人公と付き人みたいな感じになってきたわね」

 

「誰が付き人だ。あとお前は多分派手に転ぶ方だ」

 

「失礼ね!」

 

その後もそんなふうに騒ぎながら一通り村を回った。

 

今日、最後に村長が連れてきてくれたのは、湯気といい匂いの立ちこめる食事処だった。

ご厚意で晩御飯をご馳走していただけるとのことだ。

感謝。

 

アイルーたちが忙しそうに鍋を運び、食材を刻み、愛想よく尻尾を振っている。

 

「狩りに出る前は、しっかり食べていくもんだよ。腹が減ってちゃ力も出ないからね」

 

……あれ?確かゲームでは…俺たちの家から厨房に繋がってなかったっけ?

 

だが俺の考えは、焼けたお肉の匂いに

鼻腔をくすぐられたことで切り替わった。

 

「来た……!キタキタキタ!」

 

「何よまた」

 

「飯だよ飯。しかも…生のネコ飯だ」

 

「猫のご飯!?…こんなに可愛いのに食べちゃうの!!?」

 

「「「ニャッ!?」」」

 

「違う!猫…というかアイルーが作る飯のことだ!」

 

「紛らわしいわね!」

 

アクアの食べる発言にギョッとしたようなアイルーたちだったが、流石はプロ、一瞬で気を持ち直したようだ。

 

目の前に小さなアイルーたちがてきぱきと料理を並べていく。

 

湯気の立つ肉料理。

香草の利いたスープ。

焼きたてのパンのようなもの。

 

とにかく、冷えた身体で食うには最高にうまそうだった。

 

「いただきます」

 

「「いただきます!」」

 

思わず手を伸ばしそうになったが、

村長の言葉でギリギリ踏みとどまれた。

感謝の念をアイルー達に伝えてから、食事を始める。

 

二人そろって手をつける。

 

「……うまっ」

 

「なにこれ、おいしい! すっごくおいしいんですけど!!」

 

「体に染みるだろう?…英気をしっかり養うんだ」

 

 身体が火照りはじめる。

 心も温まる。

 さっきまでティガに追われて凍えていたのが嘘みたいに、体の芯に力が戻ってくる。

 

「ねえカズマ」

 

「何だ」

 

「これ、何か急に元気出てこない?」

 

「分かる」

 

「さすが女神の私ね。栄養の巡りが違うのかも」

 

「飯の力だろ」

 

「夢がないわねー!」

 

アイルーたちが得意げに胸を張っている。

うん、これは分かる。

モンハンをやってた時の“ネコ飯を食った後の謎の強化”そのままだ。

 

腹が満ちて、武器も決めて、寝床もある。

さっきまで遭難していたのに、不思議と少しだけ“やっていけるかもしれない”気分になっていた。

 

村長が湯呑みを置きながら、静かに言う。

 

「明日からは、まず簡単な依頼から始めな。いきなり大物に挑む必要はない。狩人は一歩ずつ覚えるもんだよ」

 

「…分かりました!」

 

「決して、雪山の奥で轟竜に喧嘩を売るんじゃないよ」

 

「売りません、俺は」

 

チラリと横で肉を頬張ってる奴を見る。

リスみたいになってる。

 

「…ん、ゴクン!…私も絶対に売らないわよ!?」

 

「お前の場合、売らなくても事故で絡みに行きそうだから怖いんだよ」

 

「何よその信頼のされ方!」

 

食事を終えると、ポッケ村の夜気を感じた。

冷たいが、昼間ほど恐ろしくはなかった。

 帰る家がある。

 装備がある。

 そして明日、受けるべき最初の依頼がある。

 

「……なあアクア」

 

「何よ」

 

「とりあえず、明日から本当に始まるわけだ」

 

「そうね」

 

「死なずにやれると思うか?」

 

アクアは少しだけ黙って、それからふんと鼻を鳴らした。

 

「当たり前でしょ。誰と一緒だと思ってるのよ」

 

「駄女神と一緒だな」

 

「台無しにしたわね!?」

 

「でも、まあ……」

 

 俺は片手剣の柄に触れた。

 

「何とかなる気はしてきた」

 

「それでいいのよ。私も太刀、結構気に入ったし」

 

「人に向けるなよ」

 

「もうしないわよ!」

 

「本当か?」

 

「……た、多分」

 

「不安しかねえ!」

 

小屋へ戻る道すがら、遠くの雪山が月明かりに照らされていた。

そして、その奥には、あの轟竜がいる。

 

怖くないと言えば嘘になる。

だが、明日はまだそこじゃない。

まずは簡単な依頼から。村で生きていくための第一歩からだ。

 

そうして俺たちは、小さな木の扉を開け、同居人同士とは思えない距離感で睨み合いながら、それぞれの寝台へ潜り込んだ。

 

「言っとくけど、変なことしたら浄化するからね」

 

「何をどう浄化するつもりだよ。あとその台詞、被害者面したいだけだろ」

 

「失礼ね! 麗しい女神として当然の警戒よ!」

 

「はいはい」

 

暖炉の火がぱちりと鳴る。

もうすぐ消えるだろう。

 

明日から、俺たちは狩人になる。

この理不尽な世界で、生き延びるために。

 

 




気が向いたら一言書いていってくださいませー。
パチで言うところの継続率アップです!
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