この狩猟生活に祝福を!   作:how-kyou

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ぶっちゃけギアノスが何竜だったか忘れてました。
けど好きなガンランスはスノウギア系列です。
よろしくお願いします。


第二話・前半『この肉食竜に一撃を!』

 

 

最初の依頼を終えてから一日。

 

ポッケ村の朝は相変わらず寒かったが、昨日よりは少しだけマシに感じた。

人間、慣れというのは恐ろしい。

 

「ねえカズマ」

 

「何だ」

 

「昨日は草を摘んで帰ってきただけで終わったじゃない?」

 

「まあ、そうだな」

 

「つまり今日は、いよいよ私の華麗なる太刀さばきが村中に轟く日ってことよね?」

 

「…朝一番から嫌な予感しかしないこと言うな」

 

村長の元はへ向かう道すがら、

アクアはやたらと機嫌がよかった。

 

理由は分かる。

昨日は初依頼をちゃんと終えた。

ギアノス相手とはいえ、武器を振ってモンスターも倒した。

村長にも「上出来」と言われた。今のアクアの頭の中では、自分はもう半分くらい一流ハンターになっているに違いない。

 

もちろん、そんなはずはない。

 

そして大体こういう時は、現実が向こうからその勘違いを全力で殴りにくる。

 

「今日は肉食竜を討伐してもらいたい」

 

村長から依頼の書かれた紙を受け取ると、

アクアが露骨に顔をしかめた。

 

「……名前からして嫌なんだけど」

 

「昨日のギアノスのことだろ。俺たちならやれる」

 

「あの時点で十分面倒だったわよ?」

 

「それはお前が雑に突っ込んだからだ」

 

「私は前衛なの! 前に出るのは当然でしょ!」

 

「オレも飛び道具じゃないんだが??」

 

俺たちのやり取りに村長が苦笑しながら説明を続ける。

 

「すでに一頭は倒しているみたいだが、改めて説明させてくれ。雪山の低〜中層あたりにいるギアノスを五頭。数は多いが、昨日戦った相手だ。油断しなけりゃどうにかなるだろうさ」

 

「五匹も!?」

 

アクアが素っ頓狂な声を上げた。

 

「順当に増えてるだけだろ」

 

「増え方がおかしいわよ! 一の次は二じゃない!! 草むしりの次がいきなりトカゲ五匹って、村の難易度調整どうなってるの!?」

 

ピーピーアクアが喚いているが、まあ気持ちも分かる。

モンハンのプレイヤーとしては、コントローラ越しに「五匹か、はいはい序盤クエね」と流せる数字でも、現実に自分で剣を振る側になると、途端に“嫌な数”へ変わるのだ。

 

村長は飲んでいた白湯を置き、

少しだけ真面目な顔になる。

 

「だが、昨日よりはずっと狩りらしい狩りになる。草を摘んで“はい終わり”じゃない。武器の振り方や立ち回り、二人で息を合わせること。そういうのを覚えるには、ちょうどいい依頼さ」

 

「なるほど」

 

「…で、でも五匹もいるのよ!? 途中で囲まれちゃったらどうするの!?」

 

「囲まれる前に一匹ずつ減らすんだよ…」

 

「簡単に言うわねえ…!」

 

「簡単じゃないけど、こっちが二人ならそれが正解だろ」

 

俺としては、ここで妙な無茶をするつもりはなかった。

 

ギアノスなら昨日だって見た。

上からもみていたから、あいつらの挙動もなんとなく分かる。

そして、雪山の地形にも少しは慣れた。

 

それに――

 

「まあ、せっかく来たんだしな」

 

小声で呟く。

 

「ん?」

 

アクアには聞こえてたみたいだ。

 

「今日は少しくらい余裕あるだろうし、討伐終わったら、雪山一番上のエリアまで行ってみたいんですが…いいですか?」

 

 アクアがぽかんとした顔で俺を見る。

 

「……はい?」

 

「構わんよ。地形を把握することも大事さ」

 

「ありがとうございます。いやー昨日は逃げるだけで周りを見る余裕もなかったし…。観光がてらいろいろ見てきます!」

 

「いや!いやいやいや、何言ってるの!?」

 

「何って…雪山の奥の方、見てみたくないか?」

 

「見たくないわよ! あんたこの間のこともう忘れたの!? その“奥の方”にあの化け物がいるのよ!?」

 

「だから、討伐終わって余裕があればって話だ。それに、いきなりティガのいるとこまで喧嘩売りに行くわけじゃない」

 

「でも近づくんでしょ!?」

 

「…それでも、まあ…上からの景色くらいは見たいなって」

 

「理解できないわー!」

 

正論である。

ただ、ゲームで知っている雪山というエリアの構成がとか、現実だとどんなふうに繋がっているのか…。

 

いや、取り繕う言葉は必要ないか。

普通に興味があった。

怖いのは怖いが、それとこれとは別だ。

 

アクアはしばらくじとっとした目で俺を見ていたが、やがて大げさにため息をついた。

 

「……分かったわよ。討伐がちゃんと終わって、本当に余裕があったらね」

 

「おう」

 

「その代わり、危なそうなら即帰るわよ」

 

「もちろん」

 

「あと、またあの化け物が出たら、私は全力であんたを置いて逃げるから」

 

「そこはせめて迷ってくれ」

 

     ◇

 

ネコの食事処で朝飯を食い、雪山へ向かう。

 

 昨日と同じ白い景色。

 同じ冷気。

 同じ雪の感触。

 

だが、今日は昨日より少しだけ心に余裕があった。

依頼の難易度が分かっているのもあるし、

モンスターと戦う運命だとしても、少なくとも“何も分からないまま放り出された遭難者”ではないからだ。

 

「よし、方針確認な」

 

 雪山の入り口で、俺は立ち止まった。

 

「昨日みたいに雑に突っ込まないこと。倒すのは一匹ずつ。俺が前で抑えるから、お前は無理に派手に動かなくていい。俺に気が向いた時、ちゃんと当てられる時だけ斬れ」

 

「その言い方だと、私が当てられない人みたいじゃない」

 

「昨日の戦績を思い出せ」

 

「二回くらいはちゃんと当たったわよ?」

 

「その前に何回空振った?」

 

「18回くらいよ!!」

 

「打率一割じゃねーか!」

 

 言い合いながらも進んでいくと、ほどなくしてギアノスの鳴き声が聞こえた。

 

「来たな…」

 

「来たわね…」

 

雪原の向こう、二頭のギアノスがこちらに気づき、首をもたげている。

昨日より落ち着いて見えるのは、

どんな奴が相手なのかを知っているからか、

それとも昨日が異常事態すぎたからか。

 

「二頭しかいないようだな。コイツらはここで片付けるぞ」

 

「分かったわ。今度こそ、女神の実力を見せてあげる!」

 

「だから見栄はいいんだってーの!」

 

 ギアノスが走り出す。

 俺も片手剣を抜いた。

 

 冷たい空気の中で、鉄の刃がきらりと光る。

 

「来るぞ!」

 

 一頭目が俺に飛びかかってきた。

 

俺は横へ一歩ずれて躱すことに成功し、その脇腹を斬ってやる。

昨日も感じたが、ギアノスが相手なら片手剣の取り回しはかなりいいように思う。

太刀ほど大きく踏み込まなくていいし、何より次の動きにすぐ移れる。

 

「今だ、アクア!」

 

「女神使いが荒いわ…よっとッ!」

 

 アクアが太刀を振り下ろす。

 今度は綺麗当たった。

 しかも結構いい角度だ。

 

なんとか…一匹目は無事に倒せたようだ。

 

「やった!」

 

「よーし、次はそのままこっちに走ってこい」

 

「え、勝利のハイタッチには早くない!?」

 

「後ろ、もう一頭が来てるぞ」

 

「せめてもう少し鬼気迫る感じで言ってよ!きゃあっ!?」

 

今度は二頭目。

アクアは慌てて飛び退こうとするが、

どうやら雪で足を取られて尻もちをついたようだ。

 

「いっったぁ!石ころふんじゃった!?」

 

「大丈夫か!」

 

「お尻が冷たい! ものすっっごく冷たい!!」

 

「それはそうだろうな!冷やしとけ!」

 

俺は二頭目の前へ割り込み、

盾で噛みつきを受け止める。

思ったより衝撃がある。

だが、受けられないほどじゃない。

 

「お前、回避はともかく受け身くらい覚えたほうがいいぞ!」

 

「女神にそんな泥臭い真似を要求しないで!」

 

「既に雪山で尻もちついてる時点で十分泥臭いわ!」

 

アクアが頬を膨らませながら立ち上がり、今度は落ち着いて太刀を横から薙いだ。

なんだかんださっきより太刀筋がいい。

無駄な大振りが減って、かなりマシだ。

仰け反ったギアノスの脳天に盾でバッシュする。

 

ギアノスが短く呻めき、雪の上に倒れ込む。

 

「二匹目も討伐完了ね!」

 

「そうだな!だけど…まだ二匹だぞ?」

 

「あと三匹もいるのよね……ぅぅ…」

 

自分で言って、アクアの顔が曇る。

 

まあ、その気持ちは分かる。

5匹というノルマは地味に嫌だ。

 

「でも、俺たちならやれなくはないだろ?」

 

「……うん。それは、そうね」

 

俺だって昨日なら、この時点で泣き言の一つも出ていたかもしれない。

けれど今日は違った。

少なくとも、武器を握って村を襲う脅威を倒したという実感がある。

それだけで、少し強気になれた。

 

〜〜〜

 

「けど、やっぱり少し…疲れたわ」

 

雪を払って、腰掛けるアクアが言ってくる。

 

「まだ二匹しか倒してないのに、もう言うのかよ」

 

「二匹“しか”って何よ。あんた、自分が思ってるよりだいぶ容赦ない発言よ?それ」

 

「そうか?」

 

「そうよ。こっちは太刀振って、転んで、冷たい雪の上に尻もちついて、それからまた走ってる…貴方だって十分疲れてるハズよ?」

 

「まあ…それはそうか」

 

俺も片手剣を一度納めて、肩で息をした。

隣に座る。

 

 確かに、この世界に合わせられた俺の身体も楽ではない。

ギアノス二頭といえど、雪山の足場は悪いし、冷気は体力をじわじわ削る。

ゲームみたいに“はい次”と切り替えられるわけでもない。

 

「……なんか回復魔法とかねーの?」

 

 俺が何となく聞くと、アクアは雪の上に座ったまま、うーんと首を傾げた。

 

「あるにはあるんだけど、なんか……使えない……」

 

「使えないのか?」

 

「いや、正確には使えるんだけど、こう……カズマさんが骨を折ったとするじゃない?」

 

「うん」

 

「それを治すのと、疲れを取るのって微妙に違うのよね〜」

 

「便利そうで便利じゃねえな、不便利女神」

 

「失礼ね! 不便利って何よ!?」

 

そこでアクアが、はっとした顔になった。

 

「あ!便利で思い出したわ」

 

「何だよ」

 

「代わりになりそうなものよ〜♪」

 

「…それは?」

 

 アクアが腰の小袋をがさごそ漁って、細長い小瓶を取り出した。中には淡い緑色の液体が入っていて、栓の隙間から少しだけ薬草みたいな匂いがする。

 

「さっき村を出る前に、村長から元気ドリンコっていうのをもらったの」

 

「元気ドリンコ…」

 

ゲームではスタミナを回復させるアイテムだったはずだけど…。

 

「ええ『アンタは無茶してすぐ転がるから、一応持っていきな』って」

 

「…よく理解されてるな」

 

「でも、今の私たちにぴったりじゃない?」

 

「否定できないのが悔しいな、おい」

 

 俺はアクアの手から小瓶を受け取って、光にかざしてみた。

 

ゲームの中ではボタン一つでぐいっと飲んで終わりだが、現実に目の前へ出されると妙にそれっぽい。

 

「…これ、うまいのかな?」

 

「…味についてはなにも聞いてないわ」

 

「………」

 

「でも、飲めば元気になるって村長が言ってたわよ」

 

「それ、味の保証はないな」

 

「それはそうだけど、効果は大丈夫よ。あのお婆さん、こういうのに嘘はつかないわ」

 

それはまあ、確かにそうだ。

 

俺は栓を抜いて、少しだけ匂いを嗅いだ。

ドク○ーペッパーみたいな味がする

 

「…いくか」

 

「いきなさい。ほら、私も飲むから」

 

 アクアも自分の分の小瓶を取り出す。

 二人そろって、何となく顔を見合わせた。

 

「じゃあ……せーので一緒にいきましょ」

 

「何で飲み薬で一体感出そうとしてるんだよ」

 

「いいじゃない。こういうのは雰囲気が大事なのよ」

 

「はいはい」

 

「「せーの」」

 

 ぐい、と一口。

 

「……なんか」

 

「…思ったよりイケるわね」

 

二人して同時に微妙な顔をした。

お約束でマズいのかといえば、そうでもなく…ただただ人を選ぶ味…と言ったところだ。

それほど量もなく、数秒で飲み干した。

そして飲み切る頃には、

 

「なんというか…力がみなぎってくるな。ちゃんとした効果があって、正直びっくり」

 

「むしろどう思ってたのよ…?」

 

「いや、もう少しこう……ポーションっぽい味なら分かるっていうか……?」

 

「ポーションっぽい味って何!?」

 

喉を通った液体によって、ゆっくり熱が広がるみたいに、体の内側が少しずつ楽になっていくのが分かった。

 

 肩の重さが、ほんの少し軽くなる。

 息苦しさが、少しだけ抜ける。

 腕のだるさも、さっきよりはマシだ。

 

「……おお、肩が周りやすい!」

 

思わず声が漏れる。

 

「ね?…行商人のお婆ちゃんがたまに売ってるって聞いたから、今度仕入れときましょ!」

 

「だな」

 

 アクアも自分の腕を曲げ伸ばししながら、少し嬉しそうに笑った。

 

〜〜〜

 

少し元気を取り戻した俺たちは、そのまま雪山のさらに奥へ進んだ。

すると今度は、ギアノスが三頭、まとめてこっちを見ていた。

 

「うわぁ……」

 

思わず声が漏れる。

 

「三匹!? 三匹も固まってるんですけど!? ……ちょ、カズマさん!何でそんなに落ち着いてるのよ!」

 

「落ち着け。むしろ探す手間が省けたと考えよう」

 

「もはや達観の境地じゃない。たまに本気で怖いわよあんた……」

 

ギアノス三頭。

さっきより多い。

 

だが、逆に言えば――それさえ成し遂げられたら、このクエストも終わりだ。

 

「……こいつら、何とか一気にやりたいな」

 

「ぜ、全部!?」

 

「残り三匹なんだからちょうどいいだろ?」

 

「何かあんた、急に前向きじゃない?」

 

「そうか?」

 

「さっきの元気ドリンコの効果かしら?…調子に乗るのはいいけど無茶はやめてね?」

 

「元気になったのを調子に乗るって言うのやめてくれ」

 

俺は片手剣を軽く握り直した。

 

「いいか?アイツらは一人を狙おうとするクセがある。そこを叩く」

 

「うん」

 

「だからお前はまず一頭引きつけてくれればいい。無理に倒そうとしなくていいからな」

 

「何その…囮作戦、ひじょーに嫌なんですけど」

 

「他に作戦あるか?」

 

「うー…やってやるわよぅっ!」

 

アクアの叫びと共に。

 

三頭が散って動く。

一頭は俺へ。

二頭はアクアへ。

 

「来い!」

 

「ちょっ!?私二頭に追われてるんですけどー!?普通逆じゃないの!?」

 

叫んでるアクアを無視して、噛みついてきたギアノスを盾で弾く。

そして、俺は正面の個体へ斬りかかった。

…浅かったか。

だけど、牽制にはなったようで、距離を置くことに成功した。

 

ホッとしたのも束の間、アクアを追っていたはずの一頭が、…視覚外から飛びかかってきた!

肩に組みつかれた、貫通こそしていないが、後で青痣になるかもしんねぇ…。

 

「なーにやってんのよ!そっちは私がやるわよ!」

 

追われているアクアが通りすがりに、太刀でその頭を叩いた。

斬るというより、ほぼぶつけた形だったが、一撃で仕留められたみたいだ。

 

「おおおお!!」

 

「な、何よその反応…」

 

「いや、今のはちゃんと助かったよ」

 

「ふふん。でしょでしょ?」

 

 得意げになったその瞬間、アクアの背後の個体が足元を狙って飛びついていた。

 

「きゃあっ!? ちょ、何なのこいつ、しつこい!」

 

「褒めた俺が悪かったな!」

 

今度は俺がアクアを狙っている一頭に隙を作る。

そこへアクアが一撃を入れる。

…なんやかんや四匹目を倒せた!

 

「よし、あと一匹だ!」

 

「言われなくても分かってるわよ!」

 

「囲むぞ!」

 

残った一頭は、仲間が倒れるのを見て少し怯んだようだった。

その隙を逃さず、俺とアクアは左右から間合いを詰める。

 

「今よ、カズマ!」

 

「おう!」

 

俺が前から飛び込む。

ギアノスがそっちへ気を取られた、その瞬間――。

 

「チェストぉ!」

 

アクアの太刀が、その背へきれいに入った。

 

最後の一頭も雪の上へ崩れ落ちる。

 

しばしの静寂。

 

風の音だけが、白い景色の中を抜けていった。

 

「終わった……わね?」

 

「多分な」

 

 俺たちは顔を見合わせた。

 

 そして次の瞬間、アクアが拳を突き上げる。

 

「やったぁぁぁぁぁっ! 五匹! 本当に五匹も倒したわ!」

 

「……そうだな」

 

 実際、ギアノス五頭程度で何を大げさに、と思う自分もいる。

 いるが、それでもちゃんと討伐しきったのは事実だった。

 

 最初の草むしりクエストよりは、少しだけ“ハンターをやった”感じがある。

 

 アクアもそれを感じているのだろう。太刀を肩に担いで、やけに得意げだ。

 

「ねえ、カズマ」

 

「何だ」

 

「私、ちょっと分かってきたかも」

 

「何が?」

 

「太刀って、ただ振るだけじゃ駄目なのね」

 

「今さらそこかよ」

 

「タイミングが大事なのよ。相手が来る瞬間を見て、こう、スパパーっと」

 

「語彙は相変わらず死んでるな」

 

「うるさいわね。でも、本当にそうだったのよ」

 

……実際、アクアの太刀捌きは上達していると思う。

 

ゲームの知識はあっても、操作感覚をそのまま持ち込めない分は、自分の体で覚えていくしかない。

この世界は、たぶんそういうものだ。

 

俺は空を見上げた。

白く曇った空の向こうに、薄い陽が差している。

 

「なあ」

 

「今度は何よ」

 

「ちょっと上まで行ってみるか」

 

アクアが本気で嫌そうな顔をした。

 

「まだ言うのそれ!?」

 

「だって余裕あるだろ。討伐も終わったし」

 

「余裕っていうか、今ので普通には疲れたんですけど!?アンタも噛まれてたじゃない!!?」

 

「観光だよ観光。雪山の上の方、景色いいかもだぞ?」

 

「その景色の中に轟竜がいたらどうするのよ!」

 

「その時は全力で逃げる」

 

「昨日と同じじゃない!」

 

「でも今日は少しは慣れたろ?俺たち」

 

「嫌な方向にね!」

 

それでも、アクアは完全には拒否しなかった。

文句を言いながらついてくるあたり、こいつも多少は興味があるのだろう。

 

「……少しだけよ?」

 

「おう」

 

「少しでも嫌な予感がしたら即帰るからね」

 

「分かってる」

 

「あと、上でまたツタとか崖とかあったら、絶対先にあんたが行きなさいよ」

 

「…昨日のあれ、根に持ってるな」

 

「当然でしょ!」

 

そうして俺たちは、討伐を終えた雪山のさらに奥へ、少しだけ足を伸ばすことにした。

 

白い景色は静かで、風は冷たい。

けれど、討伐した後の風景は……この世界は昨日ほど牙を剥いてはいないように思えた。

 

ほんの少しだけ。

ほんの少しだけだが、この世界が“怖いだけの場所”ではなく見え始めていた。

 

 もちろん、その認識がどれだけ甘いかを――

 俺たちは、まだ知らなかった。




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