この狩猟生活に祝福を!   作:how-kyou

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正直クエストの順番はうろ覚えです!
そんなクオリティで投稿頑張る!


第三話・前半『この雪猿どもに制裁を!』

 

 

 

…夢の中でも、あの咆哮は容赦がなかった。

 

雪が舞う。

白い景色の向こうから、どん、どん、と重い足音が響いてくる。

逃げなければならないのに、足が動かない。

喉は張りつき、声も出ない。

 

そして、雪煙を裂いて、あの橙色が現れる。

 

 低く沈んだ姿勢。

 岩みたいな顎。

 獲物を見つけた目。

 

 ――轢かれるっ!!!?

 

「…うわぁっ!?」

 

 飛び起きた。

 

息が荒い。

喉が痛い。

背中がじっとりと冷えている。

 

朝が見え始めたばかりの薄暗い部屋の中、暖炉の火はほとんど消えかけていて、外からは風の音だけが聞こえていた。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

……夢か。

夢だよな。

 

そう分かっても、鼓動はすぐには落ち着かなかった。

 

隣の寝台では、アクアが毛布を抱え込んで丸まっている。

こいつはこいつで、昨日あんなことがあっというのに…よくすやすやと眠れるものだ。

 

「……ティガレックス、か」

 

口に出すだけで嫌な感じがした。

 

二回。

二回も雪山であいつに遭った。

 

一回目は、異世界に着いた直後の遭難。

二回目は、ただの納品依頼の帰り道。

 

ゲームの中では“強敵”で済んでいた相手が、現実だと“理不尽そのもの”に化ける。

そして、その理不尽とこれから先も相まみえる…その事実がもっと怖い。

 

「……気分は最悪だな」

 

小さく吐き捨てたところで、もぞりと毛布が動いた。

 

「……んぅ……カズマぁ……うっさいわよぉ…」

 

「起きてたのか?」

 

「起きてないぃぃ……」

 

「どっちだよ」

 

「寝てても文句は言えるのよ……ぐぅ…」

 

さては余裕あるな、こいつ。

だが、アクアはそのまままた静かになった。

 

俺はそれ以上眠れる気がせず、

先に起きて水を飲み、

ぼんやりと窓から外を見た。

 

朝のポッケ村は静かだった。

所々で白い煙が上がり、屋根には新しい雪が積もり、キッチンのアイルーたちが忙しそうに行き来している。

 

平和だ。

少なくとも、ここにはティガレックスはいない。

 

……いないというのに、妙に落ち着かない。

 

     ◇

 

「おはよう。…今日は顔色が悪いねえ」

 

出会い頭に村長からそう言われた。

 

「カズマさんの顔色が悪いのは元からよ」

 

なんのフォローにもなってねぇ。

 

「そういう意味じゃないよ。何だい?夢にでも出て来たのかい?」

 

「……まあ、はい」

 

否定するのがちょっぴり悔しいが、事実である。

 

隣でアクアは、朝飯前だというのに妙にしゃっきりした顔をしていた。

 

「私は見てないわよ?」

 

「…お前はもう少し繊細になろうな」

 

「だって寝てる時くらい、あの化け物のこと忘れていたいじゃないの!」

 

確かにその通りだが、意図してソレが出来たら苦労しねぇよ。

 

そんな俺たちを見ている村長は、湯呑みを置き少しだけ目を細めた。

 

「なら今日は、重い依頼はやめておこうかね」

 

「重くないやつなら助かります」

 

「…これなんてどうだい?」

 

 差し出された紙には、シンプルな文字が刻まれていた。

 

 ブランゴを倒せ!

 

「……ブランゴ、ですか」

 

俺は記憶を引っ張り出す。

 

雪山にいる白い猿。

牙があって、跳ね回って、地味に面倒。

大型じゃない。飛竜でもない。

だが、小型のくせに頭が回り、妙にうざい部類のやつだったハズだ。

 

「なーにブランゴって?」

 

アクアが紙を覗き込む。

そして、オレの顔を見る。

 

「…また何か知ってるわね?」

 

「ああ…と言っても村長が言うようにティガレックスとは比較にならない。…白くて、でかくはないけど、動きが速い、群れで攻めて来る雪山の猿だ」

 

「…猿」

 

「そう、猿」

 

「…トカゲよりマシね、うん!」

 

「どういう基準なんだよ」

 

「だって、少なくともいきなり轢いてきたりしないでしょ?なら今日は安心じゃない!」

 

そういうセリフに、オレは不安を覚えるのだが??

…だが、今日は俺も少しだけ同じ気持ちだった。

怖いのは怖い。

正直、ティガレックスのいるかもしれない雪山に行くこと自体、まだ胃が重い。

けれど、相手がブランゴだとはっきり分かっているだけで、息の詰まり方がだいぶ違う。

 

村長は依頼内容を指で示した。

 

「低いエリアにいるブランゴの群れから、村人達が被害を被っててな…しっかり討伐を頼む。ギアノスより少し手強いかもしれないが、二人でやれない相手じゃないよ」

 

「…ちなみに群れって、何匹ですか」

 

「聞いているのは五匹だね」

 

「また五匹っ!!?」

 

アクアが即座に噛みついた。

 

「この村、五匹って数字好きすぎない!?何なの!?なんかの基礎単位なの!?」

 

 村長が笑う。

 

「昨日までで、十分に雪山の基礎は学び経験しただろう…今日はその応用さ。トカゲと違って、相手も地形も少し厄介になる。だが、慌てるような相手じゃない」

 

「慌てない、か……」

 

俺はクエストの詳細が書かれた紙を、もう一度見つめた。

 

…慌てるような相手じゃない。

その通りだ。ブランゴはティガじゃない。

ポポですらない。

けれど、“雪山にいる新しく相対するモンスター”というだけで、まだ肩に少し力が入る。

 

アクアが横から顔を覗き込んできた。

 

「大丈夫?」

 

「……何だよ急に」

 

「いや、だって…昨日の夜から、すーーっと変だし、あんた」

 

「変って何だよ」

 

「『余裕余裕、ついて来い』とか言いそうなのに、今日は言わないなーって」

 

思わず黙る。

こいつ、こういうところだけ妙に勘がいい。

 

「別に、余裕がないわけじゃない」

 

「でも、怖いんでしょ?」

 

「……」

 

「私はちょっと怖いわよ?」

 

「お前は毎回怖がってるだろ」

 

「そうだけど。でも、それとこれとは別よ」

 

アクアは少しだけ真面目な顔をしていた。

珍しく、茶化さない。

 

「昨日のあれ、あの突進を躱す時…ほんとに怖かったもの。だから、あんたがまだ引きずってても、別に変じゃないわ」

 

「……」

 

「ま、それでも…今日は猿なんでしょ?」

 

次の瞬間には、いつもの調子で胸を張る。

 

「猿相手なら、女神の私が華麗に斬って斬って斬りまくってあげるわ!」

 

「…ノーコンのくせに、生意気だなぁ!」

 

「何よ。少しは元気出たでしょ?」

 

少しだけ。

少しだけだが、出た気はした。

 

     ◇

 

雪山へ向かう道中、俺はなんとか調子を取り戻そうとしたが…それでも、いつもより口数が少なかったらしい。

 

アクアが、しばらく歩いたところでわざとらしく咳払いをした。

 

「で?」

 

「何が」

 

「作戦とかないの?」

 

「……ああ、そうだな」

 

頭を切り替える。

 

相手はブランゴ。

ギアノスより跳ねるまわる。

噛まれたらマズい牙がある。

雪玉を投げることもある。

 

…油断するつもりは全くない。

だが、所詮は小型だ。

 

「ギアノスより動く。まともに追い回すと面倒だから、地形に引っかけるか、突っ込んできたところを叩く」

 

「地形に引っかけるって?」

 

「岩とか段差とかだよ。ティガレックスの時みたいに、壁に突き刺さるとまではいかないだろうけど…ブランゴも追ってくる習性があるから、自分で勝手に壁にぶつかることがある」

 

「へえ…よく知ってるわね」

 

「実は、昨日帰る前に道具屋でモンスター図鑑、買って…寝る前に読んでたんだよ」

 

「ずいぶん熱心ねぇ」

 

「雪山であれだけ死にかけたんだ。なんにも無しで行けるほど命知らずじゃないんだよ。部屋に置いてあるから、お前も読んだらどうだ?」

 

そう言うと、アクアは胸を張ってふんと鼻を鳴らした。

 

「そういうのはカズマさん担当でいいわ」

 

「…なんだそれ」

 

「だって、調べるの得意なのあんたじゃない。私は実践担当よ」

 

「勝手な役割分担やめてもらえます?」

 

「でも今のところ、実際そうなってるでしょ?」

 

そこまで堂々と言われると、怒る気もちょっと抜ける。

 

「ハァ……群れで来ると鬱陶しい。だから一匹ずつ分ける」

 

「昨日と同じ感じね」

 

「そうだ。ポポと違うのは、今回は向こうからもちょっかいをかけてくるってことだ」

 

「性格悪そう!」

 

「実際悪いぞ」

 

「じゃあ遠慮なくいけるわね!」

 

その前向きさだけは、ちょっと羨ましかった。

雪山へ入り、いくつかエリアを進むと、三匹だけだがブランゴはすぐ見つかった。

 

 白い毛並み。

 猿らしい体つき。

 大きな牙。

 

「……あれね?」

 

「そうだ」

 

「…思ったより可愛くないわね」

 

「お前、猿に何を期待してたんだよ」

 

「もっとこう、もふもふしてて、おとなしいやつ」

 

「……それ、逆に討伐しづらいだろ」

 

ブランゴの一匹がこちらへ気づき、耳障りな鳴き声を上げた。

すると近くにいた二匹も反応する。

 

「来るぞ」

 

「まーかせなさいっ!」

 

さっきまでの配慮はどこへ行ったのか、アクアは太刀を抜いて前へ出た。

 

「お前、雑魚相手だと急に元気だな!?」

 

「雑魚って分かってる相手には強気でいけるのよ!」

 

「それ、だいぶ情けないぞ!!」

 

 一匹目のブランゴが飛びかかる。

 アクアはそれを見て、昨日のギアノスの時よりずっと落ち着いて横へ避けた。

 

「今よ!」

 

振り下ろした太刀が肩口へ入る。

おお、ちゃんと当たった。

 

「やるじゃないか」

 

「でしょ!」

 

得意げになったその瞬間、二匹目が横から雪玉を投げてきた。

 

「イタっ!?冷たっ!!?」

 

「まーた調子乗るからー!」

 

俺は片手剣で前の個体を牽制しつつ、雪玉を食らって足を止めたアクアの前へ回る。

 

ブランゴの攻撃の一つ一つは、決して重くない。

だが、こうして細かく嫌がらせを挟んでくるのが面倒だ。

 

「アクア、雪玉投げるやつから先に落とす!」

 

「分かったわ!」

 

「あと、真正面から突っ込むな!ブランゴは横に逃げるから、ヘタすりゃ囲まれる!!」

 

「それも分かってるわよ!」

 

そう言いながら、割と真正面から突っ込んでいる。

まあ、こいつにしては軌道修正してる方か。

 

 三匹を相手にした最初の小競り合いは、ギアノスよりずっと騒がしかった。

 

 飛び跳ねる。

 雪玉を投げる。

 攻めようとしたら、妙に高いところへ逃げる。

 

「……うっざ!」

 

「分かるわー!」

 

「何なのこいつら、いちいち小賢しい!」

 

「猿だからな!」

 

「猿ってそんな万能ワードなの!?」

 

だが、騒がしい分、ティガのような“どうしようもなさ”はない。

こっちの一撃は通るし、向こうの攻撃も対処できる。

理不尽じゃない。ちゃんと戦える範囲だ。

 

「一匹倒したわ!」

 

「おう、そのまま二匹目!」

 

「もちろん!行くわよ〜!!」

 

 アクアが元気に駆ける。

 そのまま三匹目からの雪玉を顔面に食らう。

 

「きゃあっ、冷たい!?」

 

「だからそういうとこだって言ってんだろ!」

 

 ……元気すぎるのも考えものだな。

 

 それでも、二匹、三匹と片づけていくうちに、俺も重かった口が、自然と回るようになっていた。

 

「左行くぞ!」

 

「じゃあ私は右!」

 

「そっちは穴があいてるぞ!!」

 

「えっ、きゃあっ!?」

 

「ほらな!」

 

「…この穴が悪いのよ!」

 

「お前の節穴が悪い!!」

 

雪山に、俺たちのいつもの言い合いが響く。

昨日までなら、それをやる余裕すらなかった。

 

四匹目を倒したところで、少し離れた岩の上に最後の一匹が陣取った。

 

こちらを見下ろし、きゃっきゃっと鳴いている。

 

「……何あれ。すっごく腹立つ顔してるんだけど」

 

「分かる」

 

「完全に舐めてるわよね?」

 

「舐めてるな」

 

「…よし決めたわ!あれは私がやる」

 

「おい、無茶するなよ」

 

「大丈夫!いま私、妙にイキイキしてるから!」

 

「…なんの根拠もねーなー!」

 

 だが、アクアは本当に妙にキレがよかった。

 

岩場を飛びながら位置を変え、圧をかけ、ブランゴが飛び降りる瞬間を待つ。

そして、その着地に合わせて、上から太刀を払う。

 

綺麗な一撃、とまでは言わない。

だが、狙いは悪くない。

 

最後のブランゴが雪の上を転がり、そのまま動かなくなった。

 

「……終わったな」

 

「やったぁ!」

 

 アクアが太刀を掲げる。

 

「見た!? 今の見た!? 最後のやつ、ちゃんと私が決めたわよ!」

 

「見た見た」

 

「もっと褒めなさいよ!」

 

「偉い偉い。雪玉に当たりながら寒い中よく頑張りました」

 

「冬場のラジオ体操の評価みたいなこと言ってんじゃないわよ!!」

 

俺は片手剣を納めながら、ゆっくり息を吐いた。

 

 雪山は相変わらず寒い。

 風は痛い。

 嫌な記憶も消えてはいない。

 

 でも――

 

「……まあ」

 

「何よ」

 

「これからも…戦えなくはないな」

 

 ぽろっと漏れたその言葉に、アクアが一瞬きょとんとした。

 

 それから、少しだけ優しい顔で笑う。

 

「でしょう?カズマさんは 世界、救えるでしょ??」

 

「お前が得意げになるのは違う気もするが」

 

「いいのよ。こういう時は私が偉そうにしてあげるの」

 

「何その上から目線」

 

「だって、あんたがちょっと元気出たなら、そのくらいは女神である私の役目でしょ」

 

 ……そういう台詞を、こいつはたまに不意打ちで言う。

 

「……お前、そういうとこだけはちゃんと女神っぽいよな」

 

「そういうとこ“だけ”って何よ!褒めてるのか貶してるのか分からないわ!!」

 

結局、最後にはいつもの調子へ戻る。

 

けれど、その軽いやり取りができるくらいには、俺の肩の力も抜けていた。

 

 ティガの恐怖は、まだ残っている。

雪山の奥を見れば、今でも胃が重くなる。

それでも、目の前の相手を倒して、依頼を終えて、ちゃんと帰ることはできる。

 

それが分かっただけでも、今日は収穫だった。

 

「じゃ、帰るか」

 

「ええ。今日は上のエリア観光とか言わないのね」

 

「意味もなく言うわけないだろ。猿倒しただけで調子に乗ったら、また痛い目見る」

 

「賢いじゃない」

 

「誰かさんと違ってな」

 

「失礼ね! 私だって今日は最初から最後までちゃんとしてたわよ!」

 

「雪玉を何回か顔に食らってたけどな」

 

「それはブランゴが卑怯なの!顔面セーフなの!」

 

「ドッジボールじゃないんだから」

 

帰り道、風は相変わらず冷たかったが、足取りは行きより軽かった。

 

昨日の悪夢を、今日だけで克服したとは言わない。

けれど、真正面から踏みつぶされるだけではないと分かった。

 

 俺たちはまだ弱い。

 弱いが、弱いなりにやれることはある。

 

そんな実感を抱えたまま、俺とアクアはポッケ村への道を下っていった。

 




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モンストたのC。
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