基本ガンスしか使って無いですけど2ndGなら鬼斬破好きでした!
ブランゴの討伐終えたオレたちがポッケ村へ戻る頃には、空が少しだけ茜色を帯び始めていた。
雪を踏む足音。
煙突から上がる白い煙。
集会所の前を行き来する村人たち。
昨日までと同じ景色のはずなのに、今日はそれが少し違って見えた。
前までは「ゲームで見たことのある村」だったものが、今はようやく「帰ってくる場所」になりかけている。
そう感じる。
「……ふう」
思わず漏れた息が、白く夜気に溶けた。
「何よ、急にしみじみして」
横でアクアが太刀を背負い直しながら、じろっとこっちを見る。
「別に」
「別にって顔じゃないわよ。何かこう、ちょっと達成感に浸ってる顔してる」
「……お前、人の顔からそういうの読むのだけは上手いな」
「当然でしょ。最近毎日あんたの嫌そうな顔見てるんだから」
「…嫌そうな顔限定なのか」
アクアはくすっと笑った。
「でも、実際 今日のクエストでちょっと元気出たんじゃない?」
「……まあ、少しはな」
ティガの恐怖が消えたわけじゃない。
雪山の奥を思い出すだけで、今でも胃のあたりが重くなる。
けれど、今日みたいに“ちゃんと戦って勝てる相手”もいる。
やれることを順番にやっていったらいい。
ブランゴ程度とはいえ、その実感は思ったより大きかった。
「ま、私のおかげね」
「…半分くらい認めるけど、全部お前の手柄みたいに言うな」
「…半分認めた!?熱ある!!?」
「ちゃんと役には立ってたし」
「へへーん。もっと褒めてもいいのよ?」
「雪玉を顔面キャッチしたのは忘れてないからな」
「そこだけしつこいわね!」
けれど、そうやっていつも通り言い返してくるあたり、こいつも機嫌はいいらしい。
ブランゴ相手に騒ぎながらでも立ち回れたことが、少し自信になっているのだろう。
◇
依頼完了の報告を済ませると、村長は湯呑みを傾けながら俺たちをじっと見た。
「おや。朝よりかは少し、マシな顔をしてるね」
「顔の評価ばっかりですね、この村」
「アンタは分かりやすいからねえ」
村長はそう言って、依頼達成分の報酬を差し出した。
飛び抜けて高額というわけではない。
だが、農場の売り上げや、これまで残してきた素材と合わせれば、そろそろ“その日を生き延びるだけ”から先へ進めそうな気がしていた。
「なあアクアさんや」
「何よ」
「これ、もしかして」
小袋の口を開き、中身を改めて確かめる。
頭の中でざっと計算し、もう一度見直す。
「いけるかもしれない」
「何がよ?」
「俺たちの装備…強化」
口にした瞬間、自分でも胸が少し高鳴るのが分かった。
ゲームでも一大イベントだった、装備の強化。
それはつまり、初期装備卒業の第一歩だ。
アクアがぱちぱちと瞬きをする。
「武器が強くなるの?」
「武器だけじゃない…防具もだ」
「防具も!?でもお金、本当に大丈夫なの?、」
「農場で集めてた鉱石と虫、売らずに残してた分も少しあるだろ。ギアノスやブランゴの素材もある。…これを基にして作ってもらえれば、全部位は無理でも、普通に買うよりは多少安く、今よりいい状態に出来るハズだ」
矢継ぎ早にそう言いながら、内心では別の感覚も膨らんでいた。
――これだ。
モンハンをやっていて、序盤の序盤を抜けたあとに来る、あの感覚だ。
採集して、少しずつ素材を集めて、報酬を足して。ようやく“一段強い装備”が見えてくるあのわくわく。
ただ狩りをするだけじゃない。狩りが次に繋げるのための力になる、あの感じ。
昨日までの俺は、正直そこを楽しむ余裕がなかった。
この雪山で生き延びることだけで精一杯で、ゲームみたいに装備更新へ胸を躍らせるどころじゃなかったのだ。
でも今は違う。
少なくとも、「次はもう少しやれるかもしれない」と思えるだけの気持ちの余裕がある。
「行くぞ」
「加工屋ね!」
アクアが目を輝かせた。
「ついに私の太刀が本格的に女神専用の神刀へ――」
「そんな派手な方向には行かねえよ」
「夢がないわね!」
◇
加工屋には、相変わらず炉の熱気と鉄の匂いが満ちていた。
女職人のおばちゃんは、俺たちの顔を見るなり鼻を鳴らす。
「また来たのかい、新米ども」
「また来ちゃいました…今日は前向きな話です」
「ほう?」
「コイツを強化、できませんか」
その一言に、おばちゃんの目が少し細くなった。
「……へえ」
試すような視線が、俺からアクアへ、アクアから俺へと動く。
「ちょっといい顔してると思ったら、そういうことかい」
「いい顔かどうかは知りませんけど」
「ま、良いさ…素材、あるだけ出してみな」
俺は袋の中身を机へ広げた。
鉱石類。
小型モンスターの牙や皮。
轟竜の鱗。
農場で確保した虫素材。
数は多くない。だが、ゼロでもない。
アクアも横から一緒に袋をひっくり返す。
「ちなみに魚は?」
「小魚は武器にならないよ」
「えー…え、おっきいのなら武器に?」
「なるものもある」
「…絶対釣って持ってくるわ!!」
「はいはい」
おばちゃんはアクアを聞き流しながら素材の山をざっと眺め、いくつか手に取ってから、ふんと頷いた。
「悪くない。最初の強化なら十分だね」
「本当ですか!?」
「ああ、武器は今の鉄をコイツら打ち直して、一段階刃を強くできる。防具も、今のただ寒さをしのぐだけの格好から、少しはハンターらしいものに寄せられるね」
その言葉だけで、心臓が少し速くなる。
アクアも隣で身を乗り出していた。
「ねえねえ、私のも強くなるのよね!? もっとこう……すぱーんっていける感じに!」
「アンタは本当に語彙が不安だねえ……。まあ、切れ味も重さの乗り方も、今よりはマシになるさ」
「やった!」
「ただし」
おばちゃんが太い指を一本立てる。
「最初から何でも望めると思うんじゃないよ。金や素材は有限だ。新米は“全部ちょっとずつ良くする”より、“まず要るところを堅実に上げる”方が良い」
「……それは、まあ…その通りですね」
装備更新で一番楽しいのは、あれもこれも欲しくなる瞬間だ。
そして一番危ないのも、そこだ。
ゲームの中でもそうだった。
格好いい見た目、気になる派生、派手な性能。あれこれ目移りする。
だが序盤は大体、ちゃんと使う武器を伸ばして、必要な防具で死ににくくするのが一番強い。
「片手剣の方は、堅実に強化。基礎的な切り方での通りが少しよくなるだろうよ」
「はい」
「太刀の方は……アンタは、振り回す癖がまだ抜けてないだろ」
「うっ」
「だから、重すぎる刀身にはしない。身体が持ってかれるだろうからね。取り回しが残る形で一段だけ上げる」
「……はい」
「防具は二人とも、最低限の防寒を残したまま、モンスター相手に少しマシになるよう組み直す。今のままだと、雪玉一発で情けない顔になりすぎるからね」
反論できず、アクアが口を尖らせた。
俺は改めて自分の片手剣を見た。
今までずっと命綱だった一本。
軽く、扱いやすく。
最初見た時は頼りないと正直思った。
そんな頼りないけれど頼るしかなかった一本。
それが少しずつ強くなる。
――いい。
すごく、いい。
「ねえカズマ」
「ん?」
アクアが小声で寄ってくる。
「何か、楽しんでる?」
「え」
「口ではいつも通り偉そうなこと言ってるけど、目がちょっときらきらしてるわよ」
「……そうか?」
「してる」
自覚は、あった。
楽しいのだ。
怖さが消えたわけじゃない。
けれど、その怖さと同じ場所に、久しぶりにわくわくが戻ってきていた。
「まあ、その……」
「その?」
「こういうのは、嫌いじゃない」
「へえ?」
アクアはにやっと笑った。
「ゲームやってた時のこと、思い出してるんでしょ?」
俺は思わず眉を上げた。
「何で分かった」
「分かるわよ。その顔、ちょっとだけ子供っぽいもの」
「誰が子供っぽいだ」
「今のあんたよ…ま、気難しい顔をしているより、それくらいの方がいいわ」
……悔しいが、否定しづらい。
そうだ。アクアの言う通り、オレは思い出していた。
村へ帰って、報酬を確認して、店に寄って、素材と金をやりくりして、ようやく強化できる装備を選ぶあの時間。
次の狩りが少しだけ楽になるかもしれない、という期待。
数字だけじゃない。“前へ進んでる”感じ。
あの感覚は……俺はかなり好きだった。
「じゃ、決めな」
おばちゃんの一言で意識を戻す。
「片手の強化、防具の補強。全部まとめてやるなら、金は結構使うよ?」
「……」
それは、つまり…ほぼ使い切るということだろう。
それはちょっと怖い。
またすぐ金欠になるかもしれない。
けれど、ここで抱え込んで温存したところで、弱いまま雪山へ放り出されるだけだ。
「やりま「やるわ!」…」
言おうとしたら、隣からの声が重なった。
「…お前、妙なとこだけ判断早いな」
「だって強くなるのよ!? やるに決まってるじゃない!」
おばちゃんは小さく笑った。
「そういう勢いは嫌いじゃないよ。なら決まりだ」
◇
炉の音が響く。
鉄を打つ音。
革を裁つ音。
金具を締める音。
火花が散り、熱気が揺れる。
俺とアクアは、少し離れた場所に立ってその様子を見ていた。
「……へー、すごいわね」
「まあ、鍛冶屋だからな」
「そういう意味じゃなくて! 見てるだけで何か、ちゃんと“装備作ってる”って感じがするじゃない」
「…見たまんまじゃないか」
「うるさいわね!」
だが、アクアの言いたいことはなんとなく分かる。
ゲームの中では、強化は一瞬で終わる。
素材を渡して、決定して、はい完成。
でも今は違う。一本の武器が、見ている目の前で、ちゃんと叩かれ、削られ、形を整えられていく。
防具も、古い布や革を流用しながら、少しずつ“狩り用”に寄っていく。
その工程が見えるだけで、やけに現実味があった。
「おい、新米」
おばちゃんが呼ぶ。
差し出されたのは、打ち直されたオレの片手剣だった。
「持ってみな」
「……おう」
受け取る。
ずしり、と来るほどではない。
だが、前よりも明らかに芯がある。刃の厚みも、重心も、手に伝わる感触が少し違う。
「どうだい」
「……いい、ですね。馴染みます」
思わず素直な感想が漏れた。
軽さは残っている。
でも頼りなさが減っていた。
“弱いから仕方なく持つ武器”じゃなく、“今の自分にちょうどいい武器”へ少し近づいた感じだ。
「…そういう顔を見ると、やっぱり新米は嫌いになれないね」
「どんな顔してます?」
「おもちゃ屋に連れてかれたガキみたいな顔」
「…ひでえ例えだ」
思わず笑い合う。
「ねえねえ、私のは??」
「アンタのももう出来あがるさ、、っと……おーい、持ってきてくれ!」
奥から鍛治を手伝っていたと思われるアイルーが顔を出す。
先ほど目にした時は、熱を帯び赤くなっていた刀身だったが…、しっかりと鞘に収められ持ってこられたようだ。
アクアも自分の太刀を受け取っていた。
「ありがと!さてと」
刀身を抜き出す。
どことなく鈍色であったものから、
空をも映り込ませる銀色になっていた。
「どうだい、そっちは」
「……え、ちょっと、何かほんとに格好よくなってる!」
「見た目だけで喜ぶなよ」
「違うわよ! ほら、こう、握った感じが前よりちゃんとしてる!」
「お前の表現はちゃんとしてないんだよ」
「でも分かるの! 前はなんか“持たされてる”感じだったけど、今は“私が振る武器”って感じね!」
たぶんそれは、俺が感じたのと同じことだ。
意外と的を射ているのでないだろうか?
装備が自分に近づくのと、自分が装備に追いつく。
その中間みたいな感覚。
感動を覚えていると続いて、防具も渡された。
完全な別物ではない。
だが、初期のただ寒さをしのぐだけの格好より、少しだけ厚みがあり、継ぎ足された革や金具に“狩るための装備”らしさがあった。
「…いいわ、いいわいいわっ!!」
アクアが目を輝かせる。
「何か一気にハンターっぽくなったわね、私たち!」
「…ああ、そうだな」
本当にそうだとおもう。
昨日までの俺たちは、突如この世界の雪山に放り込まれた、いわば遭難者の延長みたいなものだった。
武器はある。
だが装備は頼りなく、なにより心にも余裕がない。
けれど今は違う。
ゲームでは大した強化じゃない。
それこそ、序盤のほんの一歩に過ぎない。
それでも、ちゃんと“次へ行く準備が整っていく”感覚がある。
新たな防具の留め具を締めながら、アクアがくるっと一回転した。
「どう? 似合う?」
「…転ぶなよ?」
「感想がそれなの!?他に言うことがあるでしょ!!?」
「いや、悪い…似合ってるよ」
「ほんと!?」
「前よりかはだいぶハンターっぽい」
「やった!……いや、前よりか“は”って何よ!?」
「前は無理して雪山用コスプレしてる感がすごかった」
「台無しじゃない!」
それでも嬉しいらしく、アクアは何度も腕や肩を動かして装着感を確かめている。
「ねえ、カズマ」
「何だ」
「何か、ちょっとだけ強くなった気しない?」
「ちょっとだけ、だけどな」
「でも、ゼロじゃないでしょ?」
「……ああ」
ゼロじゃない。
それが大きかった。
ティガに遭った記憶は残っている。
怖いものは怖い。
だけど、その恐怖に対して、昨日までより少しだけ“こっちにも積み上げたものがある”と思える。
たぶん、メンタルってそういうところで変わるのだ。
根性とか気合だけじゃない。
武器が強くなった、防具が少しマシになった、自分たちが前より死ににくくなった。
そういう現実的な裏付けがあるから、前を向ける。
「ありがとうございました!」
俺がお礼を言うと、おばちゃんは肩をすくめた。
「礼を言うのは、次の狩りから生きて帰ってきてからにしな。それでまた素材を持ってくるんだ。鍛冶屋ってのは、そうやって長く付き合うもんさ」
ほーんと、この村ってば現実主義者が多い。
◇
加工屋を出たあとの空気と足取りは、行きより少しだけ軽かった。
雪は相変わらず冷たい。
村も相変わらず小さい。
財布の中身もだいぶ軽くなった。
それでも、足取りは妙に悪くない。
「ねえ、ねえ」
隣でアクアが、やたら上機嫌に太刀の柄を撫でていた。
「今ならギアノスとか、すぱすぱいける気がするわ」
「その自信が一番危ないんだよ」
「何よ、せっかく強くなったのに!」
「強くなったからこそ、調子に乗って死ぬのが初心者だ」
「うっ……何か、ゲームしてた人っぽい発言ね」
実際、そんなやつは周りで腐るほど見てきた。
自分も含めて。
少し装備が整う。
すると急に世界が易しくなった気がする。
その勘違いの先に、大体痛い目が待っている。
…だが、勘違いしない範囲の高揚なら、むしろ必要だ。
「……悪くないな」
「ん?」
「この世界のこういうの」
「こういうのって?」
「美味いもん食って、モンスター狩って、素材を集めて、売って、強くして。また次に行く感じ」
アクアはきょとんとしたあと、ふっと笑った。
「やっぱり男の子は好きなのねー。そういうの」
集会所の前を通ると、夕方の光が雪へ反射して、村全体が少しだけ明るく見えた。
俺は新しい防具の肩をトントンと軽く叩き、片手剣の重みを確かめる。
昨日までと同じポッケ村なのに、昨日までよりずっと“準備がある”感じがした。
「次も、行けそうか?」
ふと口に出すと、アクアは迷いなく頷いた。
「ええ。今度はもっと上手くやれるわ」
「根拠は?」
「武器が格好よくなったから!」
「…まあ、それはそうだな!」
「そ・れ・に」
アクアは少しだけ口元を緩める。
「今日のあんた、昨日よりずっとマシな顔してるもの」
「…みんなして顔かよ」
「アンタの顔は分かりやすいんだから、仕方ないわ!」
否定はしなかった。
たぶん、本当にそうなのだろう。
怖さは残っている。
けれど、それだけじゃなくなった。
次の狩りへ行く理由がある。
今の装備を試したい。
どこまでやれるか試してみたい。
そんな気持ちがちゃんと戻ってきている。
雪の向こうには、まだ見ぬ理不尽がいる。
でも、それに踏みつぶされるだけじゃない。
「よし」
「何よ急に」
「次の依頼について、村長に聞きに行こう」
「カズマさんにしてはやる気じゃない!」
「…ただし無茶はしない!」
「そこは変わらないのね」
「当たり前だ」
「でも、ちょっと楽しみなんでしょ?」
「……まあな」
俺がそう言うと、アクアは満足そうに笑った。
「じゃあ、今度はその新しい片手剣、ちゃんと見せなさいよ」
「お前は太刀、人に向けるなよ」
「まだ言うの!?」
そんな軽口を叩きながら、俺たちは再び村長が居る方向に足を向けた。
おぼろげな記憶を辿る。
物語の進行的に…次に待っているのは、ギアノスの群れの主。
昨日までより少しだけ強くなった俺たちの、最初の“ボス戦”だ。
大丈夫…俺たちならやれる。
よければ感想とか評価とか頂けると嬉しいです!