コイツ初討伐した時めっちゃ熱かったですね!
村長がこちらを見て、いかにも「来ると思っていたよ」と言いたげな顔をした。
「おや。ずいぶんいい表情になったじゃないか」
「はは…ありがとうございます」
「それくらいの気持ちが大事だよ。特に新米の内はね」
村長は湯呑みを置き、普段の紙ではなく、木札を一枚、見せてきた。
そこには一匹のモンスターの絵と文字が刻まれていた。
肉食竜のリーダー
そこに刻まれた文字を見て、俺は自然と息を吸った。
「…来たなぁ」
「知ってるやつ?」
隣からアクアが覗き込む。
「知ってる。この絵は……ギアノスの親玉みたいなもんだ」
「親玉って?」
「普通のギアノスよりでっかくて、群れを率いてるやつで、昨日までの連中より一段上だな。……あと氷も吐く」
村長がそこで、少しだけ感心したように目を細めた。
「ほう。そういえば先日図鑑を買っていたが…よく勉強してるじゃないか」
「恐縮です」
「何その、急にできる新米みたいな返し」
「できる新米を目指してるんだよ、こっちは」
村長はくつくつ笑ってから、改めて木札を指で叩いた。
「アンタの認識で大きくは外れてないよ。ギアノスの群れを統率するリーダーはドスギアノスと呼ばれる。普通のギアノスよりひと回り大柄で、それでいて動きは鈍くない。むしろギアノスよりも俊敏で、群れを使いながら襲ってくる厄介な相手さ」
「うわ、王様気分で嫌なやつねー」
アクアが露骨に顔をしかめる。
「そして…ただ大きいだけじゃなくて、しぶとさもある。少し斬ったくらいじゃすぐには止まらないし、小型をけしかけながら自分も仕掛けてくる。単なるギアノスの延長で考えると、思ったより痛い目を見るよ」
「タフで、速くて、部下付きか……」
「しかも嫌なことに、そういうボスって大体ちょっと賢いのがお決まりのパターンよね?」
「その通りさ。真正面から雑にやるには、ちょっと荷が重い相手だね」
アクアが俺の顔を見た。
「……つまり、本気の戦いってことじゃないの!」
「そういうことだ」
「ふふん、いいわね。雑魚相手にもだいぶ慣れてきたし、今の私たちなら…少しは余裕、あるんじゃない?」
「そういうセリフを言うと…毎回ろくなことになってないから、今後禁止な」
「なーんーでーよ!」
吠えるアクアはスルーする。
新しい片手剣。
少しマシになった防具。
雪山に慣れてきた足。
ブランゴを相手にしても、前より落ち着いて動けた手応え。
だからか、アクアの気持ちも少しだけ解った。
もちろん油断はできない。
けれど、ただ怯えて逃げ回るだけでもない。
村長が指で木札を叩く。
「相手はドスギアノス。雪山の肉食竜どもを束ねるリーダーだ。つまり、今回倒すのはコイツだけでいい。取り巻きもいるだろうが、ボスを倒せば群れは散る」
「分かりやすくて助かるな」
「ただし」
村長の目が少しだけ細くなる。
「何度も言うが、相手はただのギアノスじゃない。動きも、間合いも、しぶとさも違う。“前と同じでいける”と思った瞬間にひっくり返されるよ」
その言葉に、俺は素直に頷いた。
「肝に銘じます」
「私は大丈夫よ。今日は防具も武器も強くなったし!」
「だーかーらー、その自信が一番危ないんだよ」
「失礼ね。自信は大事でしょ?」
「なら過信との境目を覚えろ」
村長はくつくつと笑った。
「まあ、二人でちゃんと帰ってきな。ボスを倒して帰るのも、新米にとっちゃ大きな一歩さ」
◇
あったかーいネコ飯を食って、雪山へ向かう。
冷たい空気を吸い込むたびに、頭が少し冴える。
昨日までと同じ雪道なのに、今日は武器の重みが頼もしく感じた。
俺は歩きながらアクアを見る。
「…結構サマになってるな」
「でしょ?」
アクアは少し得意げに太刀を撫でる。
こういう時のこいつは、妙に素直で、妙に機嫌がいい。
悪い気はしなかった。
「作戦を確認しとくぞ」
「はいはい、隊長殿」
「はい隊長です」
俺は雪山の入り口で立ち止まり、指を二本立てる。
「まず一つ。取り巻きは無視できるなら無視だ。出来るなら孤立したドスギアノスを先に見つけよう」
「うん」
「二つ。正面から牙や爪を狙わない。大型のリーダー格は、大体“そこで受ける”からな」
「受ける?」
「攻撃や防御に用いてる箇所だから硬いってことだよ。ゲームでは肉質って言って…ボスクラスの場合、柔らかい部位を狙って叩かないとこっちの攻撃が全然通らないんだ」
アクアは神妙な顔をして言った。
「なるほど…それを踏まえて、気持ちよく斬りたいわね」
「お前の切る場所の基準は気持ちよさなの?…とりあえず狙うセオリーなのは首の根元か、横腹。…いずれにせよ動きが止まった時だ」
「分かったわよ」
「あと、取り巻きがうるさければ俺が引き受ける。お前は親玉に一太刀浴びせることだけ考えてくれたらいい」
アクアは、いつもほど雑な反発がなかった。
ボス戦という言葉の重みは、こいつなりに分かっているらしい。
◇
雪山の中層に入ったあたりで、まず普通のギアノスが二頭現れた。
「来たわよ!」
「落ち着け、まずこいつらを片づける!」
飛びかかってくる一頭を盾で受け流し、脇腹へ斬る。
――刃は通る。
いや、前よりも手応えがいい。
ほんの僅かだが、新たに研がれた刃は昨日よりもちゃんと仕事をしている感触がある。
アクアも太刀を横に払い、一頭へ当てる。
以前よりブレが少ない。
無駄に体ごと持っていかれないぶん、
見ていて安心感が増していた。
「どう!? ちゃんとやれてるでしょ!」
「今のはよかったぞ!」
「今の“は”って何よー!」
ギアノスたちを短く片づけたあと、俺たちはさらに上へ進む。
途中、雪の上に残る爪痕や、荒く踏み荒らされた跡が目についた。
ギアノスほど小型のものじゃない。
だが、ティガレックスほど絶望的な大きさでもない。
「…いるな」
「いるわね」
珍しくマジな表情でアクアが声を潜める。
白い岩壁の向こうから、ぎゃうぎゃう、と聞き慣れたギアノス達の鳴き声がした。
けれど、それより低く、太い音が混ざっている。
俺はそっと岩陰から覗いた。
そこにいたのは、明らかに普通のギアノスより一回り大きい個体だった。
青白い体。
鋭い牙。
頭部には群れの主らしい大きなトサカ。
その周りを三頭ほどのギアノスがうろついている。
「…あれがドスギアノスだな」
「でっかいわねー、ポポくらいあるんじゃない?成長期かしら??」
「それは違うだろ…」
もう一度、ドスギアノスに目をやる。
ギアノス達と同じくぎゃうぎゃう鳴いてる姿見が目に映る。
遠近法によるせいか、ギアノスとの区別がつき辛い。
「…やっぱり何か、普通のトカゲがそのまま偉くなりましたって感じねぇ」
ドスギアノスは雪を踏みしめながら、群れの中央でこちらを睨んでいた。
ただ大きいだけじゃない。取り巻きを従えて、明らかに縄張りの主のような主張をしている。
「どうするの?」
「まず取り巻きを散らそう。あの数のまま突っ込んだら、ドスギアノスを見てる余裕がなくなる」
「昨日までと違って、ちょっと本格的ね」
「初めてのボス戦だからな」
そう呟いた自分の声が、ほんの少しだけ震えていた。
怖くないわけじゃない。
相手がティガレックスじゃないと分かっていても、大型のモンスターである、というだけで気が引き締まる。
けれど、しっかり準備してきたんだ、ここで引く理由にはならない。
「行こう!」
「ええ!」
俺たちは岩陰から飛び出した。
「ギャウッ!」
最初にオレたちの接近に気づいた取り巻きが叫ぶ。
ドスギアノスが顔を上げ、その目が細くなる。
「来るぞ、アクア!」
「分かってるわよ!」
取り巻きが二頭、俺へ飛びかかってきた。
俺は一頭目をなんとか盾で受け止めるが、もう一頭は防ぎきれず、新調した防具に噛みつかれてしまった。
だが痛みは殆どなく、衝撃の方が辛いくらいだった。
アクアはもう遅れて飛んで来た、一頭へ太刀を合わせる。
「初日のギアノスよりかは、だいぶやりやすいわ!」
「防具と武器のおかげだな!」
「私たちの腕も上がってるわよー!」
「それも少しはな!」
だが、そんなやり取りの最中、ドスギアノス本体が大きく跳んだ。
「うおっ!?」
普通のギアノスより大きい体高のおかげか、明らかに跳躍幅も大きい。
その証拠に…着地の衝撃だけで雪が舞っている。
「…なにあれ、動きが全然違うんですけど!?」
「だからボスなんだって!!」
俺は目の前の噛みついて来ているギアノスを蹴飛ばすように退かせて、一太刀を浴びせる。
そして…ドスギアノスの方へ回り込む。
今だ!
横腹。
そこならばッ――
力を込め片手剣を振る。
がきん。
「っ!?」
鈍い衝撃が手首まで跳ね返ってきた。
刃が、弾かれた。
「なっ……!」
狙ったつもりだった。
だがドスギアノスがわずかに身をひねり、固く鋭い爪に剣が当たったのだ。
一瞬、完全に隙ができる。
「カズマさん!前っ前ッ!」
アクアの叫びと同時、ドスギアノスが爪を向けて突っ込んできた。
「クッ…!!!」
俺はとっさに盾を構える。
ガキンッ!!と弾く。
その爪での一撃は重く、
普通のギアノスとは比べ物にならない。
踏ん張った足が、雪を削りながら後ろへ滑る。
「くっ、意識的に硬いところで受けてるのか……!?」
ゲームではドスギアノスにそんな仕様はなかった。
だがしかし…コイツは頭がいいと書いてあった。
ならば、それが答えだろう…。
「ボサっとしてたけど大丈夫なのっ!?」
「ショックで大丈夫じゃないけど、死んでない!」
そこへ、残った取り巻きの一頭が横から噛みつこうと跳んだ。
「邪魔よっ!」
アクアの太刀が、その首筋へ深めに入る。
以前よりちゃんと斬れている。
だが、助かったと同時に、アクアはそのまま親玉の方へ踏み込んでしまった。
「取り巻きがいなくなったわ!今のうちに私が――」
「待て、行くな!」
「え?」
遅かったッ!
アクアの太刀が、ドスギアノスの頭部へ吸い込まれ――
そうになる。
その瞬間、硬い牙によって、
ぎんっ、と嫌な音を立てて弾かれた。
「きゃうっ!?」
「だから言ったろっ!!」
弾かれた反動でアクアの体勢が泳ぐ。
そこにドスギアノスの尾が薙がれる。
直撃はこそしなかったが、アクアは肩から雪の上へ転がった。
「いったぁぁぁ…!」
「アクア!」
「だ、大丈夫よ! ちょっと痛いだけ!…グスン」
「その“ちょっと”が信用ならねえ!」
ドスギアノスは、普通のギアノスより明らかに賢く、狡い。
取り巻きが戻って来たならば、それを囮みたいに使い、自分は一番おいしいタイミングで突っ込んでくるだろう
正面は硬い。
動きも速い。
下手な一撃は、こっちの隙にしかならない…。
「……っ、やっぱり真正面から殴る相手じゃない!」
「じゃあどうすんのよ!?」
考える………っ!
目につくものは、
オレの足で削った地面、ドスギアノスの跳躍によって抉られた地面。
それくらいしか目に映っ……いやっ!
「…脚だっ! 動きを止めようッ!」
俺はそう叫びながら、わざと少し大きく回り込んだ。
ドスギアノスがこちらを見る。
よし、食いついた。
「アクア! 狙えるかッ!?」
「ずいぶんと簡単に言うわね!」
「お前ならやれる!」
「そう言われると断れないのよね、女神様だから…」
アクアがぶつぶつ言いながらも…一撃に集中しているようだ。
その構えは、実際には見たことはないが…転生前にテレビで見た居合い?というものに近い。
ドスギアノスはオレを目掛けて飛んでくる。
怖いが…頼むぞ、アクア様よ。
俺は半歩だけ引きつけた。
横へかわす。
着地の瞬間、後脚へ斬りつける。
今度は弾かれない。
浅いが通る。
「よし!」
だが、深追いした瞬間、ドスギアノスが振り向きざまに牙を剥いた。
「しまったっ、近いッ?!」
避けきれず、肩が軽く掠る。
防具がなければ、もっと酷いことになっていた。
「カズマ!」
「平気だ!そろそろ頼むぞっ!!」
強がりではある。
でも、防具の強化が効いているのは本当だった。
痛い。痛いが、戦意が折れるほどじゃない。
その時だった。
ドスギアノスが、ひときわ大きく喉を鳴らした。
「まずい!」
「何がまずいのよ!?」
「群れの呼び声だ!」
ぎゃううっ、と鋭い咆哮が雪山に響く。
遠くで、小型の返事みたいな鳴き声が返ってきた。
「うそでしょ!?」
「だからボスなんだよ!…一撃頼むぞっ!!」
このまま長引けばまずい。
取り巻きが増えれば、まともに立ち回れなくなる。
俺は歯を食いしばった。
「来いよ!王様気分野郎が!」
言葉が通じるわけじゃない。
だが、挑発みたいな動きに、ドスはちゃんと反応した。
低く身を沈める。
突進だ。
昨日までなら、ここで全力で逃げていた。
でも今日は違う。
俺は最後まで引きつけ、わざと横の岩へ寄った。
「カズマ!?」
「今だっ、壁に突っ込ませる!!」
ドスギアノスが突っ込む。
俺はぎりぎりで身を翻した。
勢いのついたまま、ドスの肩が岩へぶつかる。
ほんの一瞬。ほんの僅かだが、完全に動きが止まる。
「そこぉっ!!」
アクアは一歩、深く踏み込んだ。
太刀を腰だめに引き絞り、刹那、稲妻を思わせる鋭さで抜き放つ。
白い軌跡が、脚の付け根を斜めに薙いだ。
アクアの太刀が、溜め込んだ気迫ごと解き放たれる。
頭上からではない。脚の付け根へ、吸い込まれるような居合の一閃。
ドスギアノスが苦鳴を漏らす。
「かんっっべきに通った!」
「ナイス!よくやった!!」
俺はもう一方の後脚へ飛び込み、片手剣を連続で叩き込む。
脚。脚。脚。
硬いところは避ける。転ばせる。
ドスギアノスが暴れる。
尾が振られるが、盾で受ける。
やって来た取り巻きが噛みに来る。
アクアが横薙ぎで払う。
「このっ、鬱陶しいのよ!」
「アクア、ある程度追い返したら親玉を優先してくれ!」
「分かってるわ!」
もう一撃。
今度は膝の裏あたりに深く入った。
ドスギアノスの足が、大きく揺らぐ。
「よし、完全に崩れるぞ!」
次の瞬間、巨体が雪の上へ横倒しになった。
「倒れたわ!」
「今だ、畳みかけろ!!」
俺とアクアが同時に飛び込む。
「えいっ!」
「そこだ!」
二人の刃は、ほぼ同時に走る。
片手剣で頭部の体勢を崩し、そこへアクアの太刀がきれいに入った。
ドスギアノスは起き上がろうとしていた勢いが殺され、そのまま大きくぐらりと揺れる。
「押し切るぞっ!!」
「合点よ!!」
最後の瞬間、俺たちはもう一歩だけ踏み込んだ。
俺の片手剣が浅く払って動きを止め、アクアの太刀がその隙を断ち切る。
次の瞬間、ドスギアノスの巨体は力を失ったように雪の上へ崩れ落ちた。
しばし、風の音だけが響く。
「……」
「……終わったわよね?」
アクアが恐る恐る聞く。
俺は息を切らしながら、巨体を見下ろした。
「……ああ、終わった」
「ほんとに?」
「ほんとだ」
「やっ……」
一拍置いて、アクアが太刀を掲げる。
「やったあああああっ!! 倒した! 親玉倒したわよ!!」
「うおっ、声でかい!」
「だってボス戦よ!? 初ボス! これは叫ぶでしょ!」
「…確かになっ!」
そのまま、アクアがこっちへ駆けてきた。
「見た!? 最後の私、ちゃんと首のとこ狙えたわよ!」
「見た見た、ばっちり見た!!」
「しかも頭いこうとして途中でやめたわ!」
「それが一番偉い!」
「でしょ!?」
こっちも、思った以上に息が上がっていた。
腕も痺れてる。盾を持つ手が少し痛い。
弾かれた時の衝撃も、まだ残っている。
でも。
「……オレたちが勝った」
テンションも落ち着いてきた。
「勝ったわね」
アクアも、今度は少しだけ落ち着いた声で言った。
「楽勝じゃなかったけど」
「全然楽勝じゃなかった」
「むしろかなり必死だったけど」
「それはそう」
だけど、それでいい。
新調した武器でさえ、弾かれた。
隙もできたし、痛かった。
何度も危なかった。
今はどこかに行った、取り巻きもうざかった。
それでも、考えて、立て直して、二人で噛み合って、ようやく倒した。
その勝利は、昨日までの小型討伐よりずっと重かった。
「……なあアクア」
「何?」
「助かったよ、ありがとう」
「……ふふん」
アクアは鼻を鳴らす。
「だから言ったでしょ。やればできる女神だって」
「そこは素直に褒められとけよ」
「やだ。こういう時は、ちゃんと偉そうにしたいの」
「いつもだろ」
「いつもより多めに褒めるべきよ!」
思わず笑った。
ボスを倒した直後に笑えるくらいには、心に余裕があった。
そしてそれが、何より嬉しかった。
◇
素材を回収し、帰り道につく。
雪山の風は相変わらず冷たいが、行き道よりもずっと軽いものに感じた。
「……ねえカズマ、今日の私たち凄かったわよね?頑張ったわよね??」
「…何だよ、何が欲しいんだ?」
「シュワシュワのカクテルっていうのがあって…」
「……まーたお前は」
「だってそうでしょ。昨日まで草むしりとか、でっかい象の舌切って逃げるだけだったのに、今日はちゃんとボス倒したのよ?」
「……まあな」
アクアは少し黙ってから、ぽつりと付け足した。
「昨日のアンタなら、たぶん途中で自分のことでいっぱいいっぱいだったわ」
「……」
「でも今日は、ちゃんと周り見てた。私が変なとこ狙った時も、すぐ止めたし」
「見てないと死ぬからな」
「それでもよ」
アクアが横目でこっちを見る。
「調子、戻ってきたんじゃない? あんた」
すぐには返せなかった。
戻った。
その言い方は、たぶん正しい。
ティガレックスに遭って、怯えて、雪山そのものが嫌になりかけていた俺が、少しずつ前を見られるようになってきた。
正直ワクワクもした。
二回目の相対で、またビビってしまっていた。
調子は完全じゃない。
でも、今日の勝ちは確かに、その一歩だった。
「……そうかもな」
「でしょ?……だから、そのー」
「分かったよ。帰ったら豪勢しよう!」
「やった!」
「ただし、しばらくの間、無駄遣いはやめておこうな。なにせ今回に関しては支出が多いし…」
「…そこは急に現実的になるのね……」
「逃れられぬ現実だからな」
「ほーんと、変なところで夢がないわ」
でも、とアクアは笑う。
「夢がないあんたが、ちゃんとここまで来たんだから、次も何とかなるんじゃない?」
「その雑な励まし、嫌いじゃないよ」
「素直じゃないわねー、もっと感謝してもいいのよ?」
「それはまた別だ」
「なーんーでーよぉぉぉぉ!」
ポッケ村の灯りが見えてくる。
比較的村の近くにいたドスギアノスを倒したということもあり、出迎えの姿もちらほら見える。
心があったかくなる。
今日も…ちゃんと帰れた。
それだけで、ボス戦の勝利が少しずつしっかりとした実感へ変わっていった。
俺は片手剣の柄に触れながら、小さく息を吐く。
雪山の奥には、まだ本物の悪夢がいる。
けれど、その手前にいる相手なら、何とかなる。
そう思えたことが、このクエストでの一番の収穫だった。
よければ感想とかもぜひ!