アリスとケイハッピーバースデー。アリス可愛い。
「終わったよ!」
「そうか……」
「あとは!制服!私はアリスやるからハルちゃんお願い!」
「分かったよお姉ちゃん。でもハルちゃん一人で着替えられるよね?……」
「あぁ」
私は制服に袖を通す。シャツにネクタイ、それからスカートだった。私はシャツを着てネクタイを結んだ所で手が止まった。
「…………これ、どうやって着るの?」
「ネクタイ結べるのにスカートは履けないの!?」
「いつもはズボンだから……」
そう言って私はミドリにスカートを着せてもらう。私は元々男なのだから、スカートを履いた経験はない。なので着方はミドリが着せてくれているのを見て学ぶ。成る程、そうやって着るのか。
「……これでよし」
「ありがとう」
「あとこれ、上から羽織ってみて」
そう言われ、ミドリから上着が渡される。黒を基調として青緑色がアクセントカラーとして入ったジャンパーを羽織る。
「青緑か……」
「うん。ヘイローと瞳の色に合わせてみたんだ」
「ヘイローとは?……」
「知らないの?」
ヘイローと言う物は初めて聞いた。
「私達の上に浮かんでいるやつ」
「これか…………」
ミドリが頭の上の輪っかのような物を指す。それがどうやらヘイローらしい。私はそれそのものには見覚えがあったが、思い出せなかった。
それから私の瞳は青緑色らしい。後で鏡で自身の姿を見るべきだろう。
「銃は…………背中に斜め掛けでいいか」
本当は銃は前がすぐに使えて良かったが、少しだけ膨らんでいる胸が邪魔で動かしづらそうだったので背中の方にすることにした。
そう言えば、私は戦闘がどうなるのかよく分からなかった。彼女らにわがままを聞いてもらった時は銃弾を痛いで済ませていたが、私も痛いで済むのかな?…………いや、彼女らの一員になろうとしている辺り痛いで済むと見て良いだろう。
「ハルちゃん……そんなボロボロの銃で大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない。使い慣れた物を使いたい。それに…………」
「?」
「いや、何でもない。気にしないで」
この銃は言ってしまえば数多くの戦場を共に渡った相棒だ。そう安安と手放す訳には行かない。
そうだ。拾った銃と共に銃剣も持って帰ってきていたんだった。折角だから太ももに着けよう。腰でもいいかもしれないが、スカートに隠れそうだし何より私がそのほうが好きだから。
「…………どう?」
”おお、可愛い”
「めっちゃ似合ってるよハルちゃん!」
「……そんな褒めないで、ちょっと照れるよ」
可愛いと言われるのは存外悪くないものだ。女子が可愛いと言われて喜ぶ気持ちがよく分かった。
「こっちも終わり!おお!ハルちゃん可愛い」
「アリスは?…………おお!いい感じ!」
アリスも着替えが終わったようだ。
「あとは武器と学生登録をして学生証を手に入れないと……」
「学生証はどうするの?」
「学生証については私の方でなんとかするから、ミドリはユズと2人でアリスに話し方を教えてあげて!」
私はそれに参加する必要がないようだ。とてもありがたい。私は出来ることならゆっくりしたかったし、働くのも嫌いだったから嬉しかった。
「もし『肯定、あなたの質問に対しアリスの回答を提示、私はゲーム開発部の部員』とか言われたらおしまいだよ!」
「うーん、確かに」
”やるだけやってみよう”
「うん、そうだね」
「私は自分の姿を見てみたい…………洗面所は何処?」
「部室出て左の突き当たりだよ」
私は洗面所へ歩き鏡を見た。私の顔立ちはアリスとよく似ているが目つきが少し悪いような気がする。何と言うか、ジト目に近い気がする。アリスをダウナーにしたような見た目だった。それから髪の長さがアリスよりは短いけど、腰に届くまでの長さがあった。
そしてヘイローと呼ばれる物が浮かんでおり、私のヘイローは輪っかだった。色は青緑色であり、瞳の色と同じだった。
私はこの体に、何故か嫌悪感を覚えた。
「……あんまり好きじゃないな…………」
一人でそう呟いてしまう。きっと前なら顔立ちとか、姿だけなら愛くるしいと思う見た目だけれど、どうしてか今の私はその姿に異常に苛立っていた。
鏡に映される顔がだんだん歪んでいく程、その感情は強かった。
「…………」
私はすぐに鏡から目を背け、洗面所を出て部室に戻った。
「???????」
「あはははは!予想できるほどつまらない展開はないね!ここは指示通りじゃなくてAを押さないといけないの!」
何やらアリスはゲームをやっているようだった。
「これは?……」
”これはアリスにゲームをやって貰って喋り方を習得して貰おうってなってゲーム開発部のゲームをやって貰ってるんだ”
「へぇ……」
スーツの男の人、先生はそう言った。私より大きくて何処か穏やかな雰囲気を漂わせるその人は、元男の私からしてみてモテそうだなと思った。優男はモテる。私は優しくなかったからモテなかったけど。
「身分証はどうなった?」
”また明日だって”
「……そっか」
そう言って私は床に座りその様子を眺めていようとした。ゲームをやるのは好きだけど、ああ言う人がやっているのを見ると苛立ってしまうから遠くから眺めている方がいい。それに、私は人見知りだからまだ余り知らない人とは積極的に関わりたくなかった。
”ハルちゃんも見なくていいの?”
「いい。私は混ざりたくない」
”人見知りなのかな?”
「そう。それに人のやってるゲーム程見てて苛立つ物はないよ」
”そっか……”
先生はそういうと私の方を見た。私は気まずくて下を向きたくなる衝動を抑え先生の方を見ようとする。けれど先生の目を見ることはできずに先生の鼻を見て無理矢理誤魔化した。
”ハルちゃん”
「どうしたの?」
”もし何か悩んでたら、いつでも相談してね”
「…………………分かった」
自分の容姿の嫌悪感なんて、相談してもなんとかなるようなものじゃないと思えた。それに人に迷惑は掛けたくなかったから、私は今の所は言うつもりがなかった。
…………………………………………………………
「こ、ろ、し、て…………」
「…………本当に大丈夫なんだろうな……」
アリスは最早精神崩壊を起こしているように映った。これは果たして大丈夫なのだろうか?……
「わ、私のゲーム……どうだった?」
「……説明不可」
「え、えぇっ、何で!?」
「類似表現を検索、ロード中」
ミドリの恐る恐る聞いた質問に対しバッサリ切り捨てるような発言が帰ってきていた。そんなクソゲーどっかのYouTuberが好みそう。
何はともあれ私は見なくて正解だったしやらなくて正解だったな。
「面白さ、それは明確に存在する」
「お、おぉっ……!」
「プレイを進めれば進める程、まるで別の世界を旅しているような、夢を見ている様な、そんな気分……あれを、もう一度」
アリスはポロリと、涙をこぼす。それはきっと感動によるものなのだろう。いや、もしかしたらクソゲー過ぎて泣いてる可能性もあるけど…………
「あ、アリスちゃん、何で泣いているの……!?」
「泣いてくれるぐらい、私たちのゲームが感動的だったってことでしょ!」
ふと思ったけど、クソゲーで普通の喋り方を習得出来るのか????普通に考えてちゃんと先生とかが喋り方を教えるべきなのではなかったのか?…………
このツッコミはもう今更だから、心の中にとどめておくことにした。
「ちゃ、ちゃんと……全部、見ていた、よ」
突然ロッカーが独りでに開き、中の赤髪の少女がそう言う。
「ユズ先輩……ロッカーの中にいたんだ……」
どうやら喋り方を教えて欲しいと頼まれていた中に含まれていたユズはこの人らしい。先輩と呼ばれているなら、年上なのだろう。
「あ、あ、ありが、とう……ゲーム、面白いって、云ってくれて……もう一度、やりたいって云ってくれて…………そういう言葉が、ずっと聞きたかったの」
ユズは泣きそうな笑顔でそう言った。彼女もまた、感動しているのだろう。
私はその光景は静かに見守る事にした。