屋敷にウォルス侵入!シロとクロ連れ出し!ドラゴンのゾンビ化解除!
今回、フィル君が少し可哀想な目に遭います。
「そなた、皆を見捨てる代わりにお主だけ生き残れるなら…生き残りたいかの?」
「…は?」
何を言い出すかと思えば。
意味がわからない。何故今この様な質問を?
「……冗談じゃ!そんな怖い顔せんでよい。折角のお顔が台無しじゃぞ♡」
「…お前…ロズ…さんなのか?」
「…やっぱり、術にかかりきっとらんようじゃな。」
何かヤバい!
明確に何がヤバいかは言い表せないが、目の前に絶望そのものが迫ってきている様な、そんな感覚!
「ウッドバインド」
そうロズ?が魔法を唱えた瞬間、舗装されたタイルから巨大な木の根が2本、途轍もない速さで生えてくる。
「糞!何かまずい!」
それはゾンビでは無く、間違いなく俺に一直線に迫る。
…まさか、ロズは敵!?
「がっ!」
一瞬の迷い。
それがなければギリギリで躱せていたであろう二本の木の根に俺は体を拘束される。
「もう隠すのはやめじゃ。この感じ…その内ばれるしの。」
「敵…だったのか?…ロズ…!」
「まぁ…お前さん目線だとそうなるわな。」
本当に…意味がわからない。
何故かロズの事について考えると、頭にモヤがかかる様な感覚になる。
「儂の洗脳…今解いてやるわ。」
そうロズが言った瞬間、俺の頭のなかにスパークの様な感覚が走る。
それの感覚が消えたと同時。ロズと出会ってから今までの違和感が一斉に押し寄せる。
…そもそもだ。エルフは人族や獣人族を過度に見下す傾向にある。
俺が今まで出会ってきたエルフは殆どがそうだった。
しかし、ロズはウォルスと共にあの狭い空洞で泊まっていたように見える。少なくとも…入り口に骨が散乱していたから、1日は。
しかも街に入る時、S級冒険者なのに冒険者証も持たずに街に入ったし、俺は何の違和感も持つことなくS級2人の本拠地である屋敷に案内してしまった。
そもそもロズとウォルスがゾンビの進行について話を切り出した訳で、俺達はその事実を一切知らなかった。
「本当に…ロズとウォルスが元凶なのか?」
「あの阿呆犬は関係ない。本来なら奴の冒険者証を使うつもりじゃったがの。普通になくしてて驚いたわい。」
「しかし…何故今洗脳を解き、俺に真実を話した?」
「簡単じゃ。お主を儂の10番目の夫にしたいからじゃ。」
「はっ。そんなことか…。………断る。お前のハーレムには一切の興味がない。」
「ハーレムとは失敬じゃのう。今生きてる夫はおらん。エルフは長寿なもんでな。」
「そうか。しかし今になって何故正体を明かした?」
「簡単じゃ。おぬしに惚れたから。その顔をぐちゃぐちゃにして儂の性奴隷にさせたいから。」
「想像以上に想像以下な理由だな。」
「ふっ。いくらでも言うといいわ。…で、最終確認じゃ。儂の夫になるか?」
「断る。数百年生きて、その程度の思考回路の性欲直結猿に俺は興味がない。」
そうはっきりと断ると、ロズは体をぶるぶると震わせながら恍惚とした表情になっていく。 正直不気味だ。
「やはり…やはりじゃ!この状況で儂に啖呵を切る様な事をしたのはお前しかおらん♡やはり徹底的に分からせるとしよう…♡」
「勘弁してくれ…」
見事に奴の地雷を踏んでしまった様だ。
…だが、もう少しでここから抜け出せる。
「やはりまずは腹の辺りを木の根で……」
ブツブツと多分碌でもないことを言っているロズを横目に、俺は縛られた手首あたりに魔力を集中させ、少しずつ雷魔法を放つ。
…今だ!内部が少し焦げて少し脆くなった木の根を引きちぎり、一目散に路地裏へと俺は足を全力で動かす。
「ほう…♡鬼ごっこなら儂も得意じゃぞ♡」
俺は不規則な動きでじぐざぐに路地裏を走り抜ける。
「うわっ!」
奴は追ってこないのか?と思った矢先、地面のタイルを突き破り、鋭い木の根が俺の足元目掛けて飛んでくる。
木の根は不規則かつ壁からも生えてくる。
殆どヤマカンで避けているが、捕まるのも時間の問題と言ったところだ。
………遊ばれてるな。
「くそっ!何とか…何かないか?」
頭を回せ。奴が飽きない内に結論を出せ。
周囲の物を利用しろ。何か…何かないか?
…これは!
俺の目に入ったのは下水道跡の入り口。俺がクロとシロを連れて出てきた所だ。
「くそっ!こっちに来るんじゃねぇ!」
南京錠付きのすこし腐食の進んだ木の扉を蹴破り、下水道への階段を下っていく。
「自ら追い詰められに行くとは…判断を見誤ったようじゃな…フィル♡」
「し…死ねたくねぇ!誰か!誰かぁ!」
全力で下水道を駆けていく。
地面のひび割れや苔のぬめりに注意しながら。
「いくら逃げても同じじゃぞ♡」
「しまった!」
俺は注意していたはずのひび割れに足を引っ掛けてしまい、全力で地下水が漏れ出た水たまりの中へと落ちる。
「いい加減終わりじゃな♡男にしてはやはり抵抗するのう♡」
「うわぁぁぁ!来るなぁぁぁぁぁ」
全力で叫び、石レンガの破片を投げつける。
「醜い抵抗じゃのう…♡今調教してやるぞ♡」
ロズは壁から木の根を出し、俺の方向に伸ばしてくる。
……俺が木の根に拘束される…その時。
「がっ!な…なんじゃ…?」
謎の光線?で腹の殆どを削り取られたロズ。
内臓の殆どが失われており、本来なら即死。
「ふん…くだらん。面倒な。」
しかし一瞬で再生。直ぐに真っ白なへそに戻る。
…そりゃ再生魔法ぐらいは使えるよな。
下水道の奥から現れたのはいつぞやのコアスライム。
俺は地下水で体温を冷やし、ロズは発情して体温が高い。
奴は温度で獲物を捕らえる。
このまま逃げるのもいいが、奴はアルティ、シースと闘っていたような話し方だった。
ある程度魔力を消耗していると見た。
と言うか消耗していなかったらどう足掻いても死ぬ。
ならコアスライムの援護をするしか今の俺が生き残る方法は思いつかない。
「ふん。こんなもの屁でもないわ。さっさと潰す。」
コアスライムは俺が前あった時より大きくなっており、魔力も迫力も前の比ではない。
もしかしたら…何とかなるかもしれない。
「このコアスライム…通常個体より大きいのぅ。時間がかかるわ。」
「まだ喋る余裕はあるみたいだだな。」
コアスライムはレーザーのようにスライムを高速で飛ばす。
俺なら当たれば即死。…だがロズは。
「ふん。来ると分かっておるなら、そこをガードすればいいだけ。」
全て綺麗に受け流す。
表面は削られているが、どれも致命傷とは言い難い。
この程度の傷なら少しの魔力でも回復できる。
「さっさと終わらせよう。…そこ。見えておるぞ。」
俺は奴が攻撃を受け流す瞬間、正中線向かってに6発の石礫を放つ。 しかし、奴は怯むどころか意にも返さない。
「おぉ〜♡気持ちいいわ♡おかげで目が覚めたぞ♡」
「ちっ!」
俺の体温が上がってきたからなのか俺の足元に一発のスライム弾が撃ち込まれる。
「もうよい。飽きたわ。」
ロズはそう言うとアイテムボックスから奴の身長はあろう漆黒の大弓を取り出す。
「消えろ。」
取り出したと同時、コアスライムが半分に消し飛ぶ。
「一発か…」
残りの半分は一瞬で分散。ひび割れの中へと逃げていく。
そんな事より。正直な話、もう打つ手がない。
「…降参だ。」
「ほう。諦めが良いのだな♡」
「生かしてくれる手はないか?」
「無いの♡ひとしきり楽しんだあとは儂の夫達と同じになってもらう♡」
「っ!があっ!」
俺は全身全霊、最後の力で奴の顔に齧り付く。
「おお♡随分大胆な…♡」
俺はその時、持てるだけ持っておいた目眩ましの粉塵を右手から奴の目にぶち撒ける!
「本当に…本当にこんなに男初めてじゃ♡実にいたぶりがいがある♡」
奴でも流石に少しは堪えているはず。
今のうち…に"っ!
「がっ!?ぐっ!お"ぇぇぇぇぇ…」
何だ!?何が起こった!?
この激痛…前廃工場で受けた拷問とは大違いだ…!
「ちょっと辛いかもしれんが、もう少しの辛抱じゃ♡もう少しでこんな痛み、感じられなくなるほどの地獄が待っておる♡」
体が熱い。しかし…意識が途切れることはない。
苦しい。苦しい。苦しい。
いち早くこの苦しみから解放されたい。
「……え?」
そんな時、目の前にいたのは、あの時ドラゴンに巻き込まれて死んだ少女。
「どうして…貴方は助けてくれなかったの?もっと強く引っ張ってくれれば助かったのに。」
「…そ、それは…」
いつの間にか石レンガだったものが俺が助けられなかった人で埋め尽くされる。
「どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?」
「あ、あぁ…」
「ごめん。俺が弱かったからだ…。俺が洗脳なんかにかかってしまったからだ。」
顔を上げるとそこに少女の姿は無く、腕だけがあった。
「…すまない。」
今は何だか不思議な気分だ。
先程までの苦しみはない。
でも、何だかそれ以上に苦しい気がする。
いや、苦しまなければならない気がする。
「ごめん…ごめん……」
俺は壊れた機械のようにひたすら謝り続ける。
もう謝る少女はいないのに。腕に耳はついていないのだ。
「おーいフィル?アタシたちの事は忘れたのか?」
「そうだぜ。名前ぐらいは覚えてるよなぁ?」
「お前のせいで死んだんだ。ちっとは苦しめや。」
次に俺の前に現れたのは、同僚の任務中に亡くなった冒険者達。
「お前ら…は絶対違うな。苦しんでも分かる。」
「あ?」
「何言ってんだ?」
「お前のせいで死んだんだぞ…?」
「そうだな。俺が殺したみたいなもんだ。」
「じゃあ何故?」
「あいつらがもし地獄から蘇り、俺に会った一言目は絶対に 地獄帰還祝いにヤラせろ…だ。」
「はぁ?何馬鹿な事…」
「…見事じゃ。まさかここまで精神が強靭だとは…♡」
「どーもロズさん。どうせ幻覚見せる毒でも打ったんだろ。」
「正解じゃ♡」
「だが、時間は稼げた。アルティとシースなら、そろそろ来てくれんだろ…」
「…ぷぷっ!」
「何がおかしい?」
「あの二人なら封印してしまったわ。二度とこの世界の空気は吸えん。それにしても…あの二人に頼り切りとは…」
「じゃあ、調教の続きじゃ♡」
木の根が生えてきて、俺の腹に突き刺さる。
「ぐっ、」
しかし俺の内臓を直接傷つける事なく、腹の中で木の根が縦横無尽に動き回る。
「ひっ!や、やめて…くれ。」
思わず俺は助けを請う。
痛みと気持ち悪さが俺の体を支配する。
「ほーれ♡ここらへんが良いかの♡」
「お"ぇぇぇぇぇ…」
本日2回目の嘔吐。
しかし一度目とは全く違う不快さだ。
「………飽きてきたの。」
「は、」
「言ったじゃろう。飽きた♡さっさと自我を失わせる薬撃ち込むとするわ♡前戯は終わりじゃ♡」
俺の首元にゆっくりと針が迫ってくる。
え?俺死ぬの?こんなところで?
「自我消失前に、遺言を聞いてやろう♡」
「……お前の悪評、あの世で被害者と共に広めとくわ。」
「最後まで本当の命乞いはしないか…♡」
俺の首元にゆっくりと針が突き刺さり、中の液体が入ってくる感触がある。
段々意識が朦朧としてくる。
前の人生。二度目の人生。
両方碌でもない死に方だけど、前世よりはマシかもな。
アルティとシース。それにシロとクロは俺の死で悲しんでくれるだろうか。
最後に知り合いから悲しまれるかどうかを考えている時点で、俺はその程度の人間なのだろうな。
視界がぼやけていく最中、何もない空間にひび割れが入る。
そこから覗かせる拳は、間違い無くシースのものだった。
何かコイツいつも最終的に気絶してますね。