「は?全員生き返ったの!?」
「そうよ。ロズの体は高密度の魔力体だったから、シロの魔法と私の魔力を合わせることで、苦痛はほぼ無く死者およそ500名を復活させられたわ。」
「ま、まじか。何というか…終わりよければ全てよしってやつだな!」
「貴方…自分の体見ても同じ事言えるの?」
う。アルティの目が曇っとる。
確かにそうだ。
「にしても…なんで俺はこんな体になったんだ?」
「本来、解毒剤を飲ませたんだけど薬を注入された右半身は麻痺が残るはずだったの。だけど、頭の方は重点的に私とシロの魔力で回復させたから、後遺症はほぼ無いと言ってもいいわ。だけど…」
「そう…か。しかし本来なら右半身の麻痺だった所、2カ所欠損だけで済んだんだ。本当に感謝しかないよ。」
「だけどお前…これからどうすんだ?」
これまた痛い所を突かれる。
「冒険者は引退かな。流石片腕片脚では戦えん。」
「良いのか!?お前、ずっと前からS級になるって言っていたじゃないか!?」
「…何故お前は俺の事を全て分かったように話すんだ?」
いけない。本当にイライラしてきた。
感情的になるのは俺の好きにすればいいが、その行動次第で大きな後悔を残すのも俺だ。
「ご、ごめん。アタシも言い過ぎた。」
「いや、俺も悪かった。少々感情的になってしまった。すまないが1人にしてくれないか。このままだとアルティやシロにもあたってしまう。」
「わかったわ。」
「わかりました。」
その時、また扉が開き、嬉々とした表情のウォルスが部屋にズカズカと侵入してくる。
「おいお前ら!庭にクソデカいバッタがいたぞ!見ろ見ろ!こんなサイズ久しぶりだ!」
「すまないが消えてくれ。」
「消えてちょうだい。殺すわよ。」
「糞犬!ぶち殺すぞ。」
「まず地獄に落ちたいのは貴方ですか?」
部屋は俺一人。
あれからボコボコにされたウォルスと共に、3人と一匹は部屋から出ていった。
時刻はおよそ13時。
窓からの明かりと風で木々の葉が擦れる音さえ今は煩わしい。
一人で居るのは不正解だったようで。
情け無いことに俺は一人で息を殺して泣いていた。
別に欠損したことが悲しい訳では無い。
シースは今でも俺の夢をS級になる事と言っていた。
俺はとうに諦めていたと言うのに。
シースとは同期。その後アルティを拾い、二人がA級に昇進するまでは殆ど3人で依頼や任務をこなしていた。
しかし、二人がA級に昇進した辺りだろうか。段々離れて行っていた2人と俺の実力差が一気に引き離された。
俺はその時から、いや…アルティを拾った辺りから気付いていたのだ。俺自身余り才能は無いのだろう。と。
別にその事に絶望した訳では無い。
いや?本当は絶望していたのだろうか?それすら分からない。自分の事が分からない。
その事が悔しい。今は何でもかんでもいちゃもんつけて殴りたい気分だ。
いつになったらこのくだらない涙は止まるのだろう。
いつになったら前向きになれるだろう。
いつになったら…二人に追いつけるのかな。
「…情け無いな。こんなおっさんが一人で…。」
「そんな事ないわよ。」
振り返ると、そこには悲しい顔をしたアルティがいた。
「アルティ…いつからいたんだ?」
「ついさっきからよ。それより、貴方に言いたいものがあるの。」
「…なんだ?」
「ずっと言おうか迷ってたんだけど…少し前、酷く酔って一緒のベッドで寝た日があったじゃない?」
あぁ。あの日か。
結局今となっては真実が分からないあの日か。
「それがどうしたんだ?」
「実はあの日…私達は性行為まで至ってないの!」
「あ、そうですか。」
なーんだそんな話か。正直当時は動揺したが、今となってはセックスしてようがしてまいがどうでもいい。
「実はそう言う雰囲気になった時…私、緊張しすぎて気絶しちゃったの!」
「あ、そうですか。」
「何よさっきから同じ返事ばっかりで!?」
「だってどうでもいいからな。なんか涙引っ込んだわ。消えていいよ。」
「はぁぁ!?酷くない!?私の一世一代の大恥を話しておいて、その反応はないでしょ!」
「大恥と言うより情け無いの方が正しいな。」
「散々な言われようね…それにしても貴方、酒に任せて襲おうとしたのよ?もっと怒ってもいいのに。」
その程度で怒っていたらこの世界では生きてはいけないと思うのだが…
「別に…お前になら襲われても構わないからな。」
すると、一瞬でアルティの目が獲物を見る目に変わる。
あれ?なんだかすごい誤解を生んでないか?
アルティが俺の上に馬乗りになる。
ただでさえ力でも負けてるのに、欠損も合わさり抵抗するどころでは無い。
「なら…今襲ってしまっても構わないの?」
構わない訳ないだろ。構うわ。
…なんて思ったが、どうせ一人になったらさっきみたいにセンチメンタルになってしまう。
もう…襲われてしまってもいいのか?
「………。」
「……………。」
無言の時間が続く。
少し気不味くなってきた矢先、アルティが口を開く。
「やめておくわ。悲しさから逃れる為の性行為は、初めてには相応しく無いもの。」
なっ。
なっ…!
なっっっ!!
アルティが…理性的だ…。
あり得ない。こいつも…成長しているんだな…。
今までは少しでもエロを発見したら舌を出して理性を失い猿以下の知能に成り果てるエロ猫だと思っていたのに…!
「…そうか。俺が間違っていたよ。成長したんだな。」
「え、えぇ。S級たるもの、人格面も成長していくものなのよ!」(?)
(シースが私達を覗き見ているからなんて口が裂けても言えない雰囲気ね…。)
「じゃあ私はこれで失礼するわ。」
「おう。励まし(?)ありがとな。」
「別に。 それと、貴方の泣き顔…とても可愛かったわ。」
きしょ。
何故それを今言う?
成長したのは半歩だけだった様だ。まあそれでもアルティにしては大きすぎる半歩だが。
そう言うとアルティは転移魔法で何処かへと消えた。
「おいフィル。義手、義足の用意ができたんだが…」
いなくなったとほぼ同時。シースが部屋に入ってくる。
その顔は何処か不機嫌な表情だが…それより彼女が持つ大量の義手、義足に目が行く。
「シースか。準備早くないか?」
「アタシ直々世界中からかき集めて来てやった。」
「世界中って……冗談じゃ無さそうだな。早速試させて貰うよ。」
俺の腕の断面に義手をはめ、俺の脚の断面に義足をはめる。
ちなみに本来は切断はしなくてもいいのだが、痛覚も失っているためいつの間にか傷ができており、そこから菌が入って死ぬ…なんて事が起こりうるため切断した。
この世界の菌はポーションで殺せない。
天使の魔法でもだ。と言うか成長促進の効果がある為病人に使うと菌も異常繁殖して最悪死ぬ。
それに切られてから数日経っているため、手足をポーションで再生させる事も不可能だ。
まああの痛みを経験するのは絶対に嫌だがな。
「おお。ぴったりだ。」
俺の手脚に義手、義足がピッタリとハマる。
「切り取る前にサイズを測っておいたからな。」
それにしても何十個もあるこの義手義足、一体いくらしたんだ?
「値段を気にしている顔だな。大丈夫だ。金は冗談抜きで腐るほどある。」
「まあ、日によって変えるとするよ。ファッションみたいにな。」
「そうそう!このなんかキショい模様と色の義足と義手、見てくれよ!機能がすごいんだ!」
何だ?キショい模様と色とは職人に失礼だろ。
…出てきたのは水玉模様の赤と青の義足と義手。
なんてキショい模様と色だ!この人はどう言う感情でこれを作ったんだ?
「な…何だか独創的な義足と義手だな…。別に義手と義足に独創性は求めていないのだが…」
「まあまあ。魔力を込めてみろ!」
俺は言われるがままそれを着用し、魔力を込めてみる。
…すると。
少々違和感はあるが、魔力が手足に神経の様に広がっていき、自由に動かせる様になったのだ!
これは…すごい。こんな技術があったなんて。
なんか水玉部分が凄い光っている事を除けば完璧だ。
「魔力の消費が常にあることを除けば…最高だ。ありがとう。シース。」
「ふ、ふーん…別にぃ…ぜんぜぇん…構わないんだぜぇ…」
照れてるのが丸わかりだ阿呆。
アルティと言い…チョロすぎるぞ。こちらまで心配になる。
「何か俺にできる事は無いか?せめて礼はしたいのだが…」
するとシースは少しいやらしい顔をしたかと思うと、俺に少し申し訳なさそうにこう言う。
「な…なら…き、ききキスをアタシの頬にしてほしいかな…」
「お、おう。それでいいのか?」
「へ?ほんとに良いのか?お前の悪口言っちゃったのに?」
あー。あの時のS級目指すのなんたらの…か。
「別にお前に悪気があったとは思ってない。それより横向け。キスすっから。」
貞操逆転世界に生まれ変わり早29年と数ヶ月。
こんなおっさんのキスなんか俺の元いた世界の価値観で見ると糞と同じ位の価値なのだが…
まあ小っ恥ずかしいがさっさと終わらせよう。
俺はシースの頬に唇を数秒引っ付ける。
…少し汗臭いな。
「これで良かったのか?」
「………。」
気絶しとる。
アルティより色仕掛けクソ雑魚の様だ。
「はっ!アルティよりも先にキスを貰っちまったぜ!へっへーー!」
意識を取り戻したシースはそう叫ぶと勢い良く部屋から飛び出していった。
「全く。でもこれで散歩が出来るな。」
リハビリの工程を飛ばせたのは大きい。
これで冒険者引退はしなくても良さそうだ。
まずはかるーく散歩から。そう言えばクロは訓練場にいるとアルティが言っていたな。報告しにまずはそこに向かうか。
「ん…?」
訓練場に向かう途中、屋敷の入り口付近。
大きな血痕…と言うより血溜まりの跡がある。
ウォルスが戦闘していたと言う奴等なのだろうか。
恐らく復活魔法でついでに蘇ったと言う感じなのだろう。
「おやおや。フィルさんではありませんか。お久しぶりです。」
ふと、背後に聞き覚えのある声が俺の耳に入る。
「お前は確かあの時の…」
振り返ると、そこにはやはりあの時、俺を拷問した黒髪眼鏡。義足義手をはめて三十分経たずに戦闘か?