俺は今、療養中の身なのだが、いかんせん暇だ。
最近ハマっている遊びは幻覚。ユーラに幻覚をうっすらかけてもらうことで、トリップした様な世界を楽しめる。
まあ実際にトリップしたこと無いけど。
「ま、まずい…本当の本当に脳が溶ける…。外出…せめて外出の許可を……」
何か…何か記憶が消し飛ぶ程の刺激が欲しい。
あ、薬物とか抜きで。
「貴方ねぇ…まだ療養生活2日目よ。ほら、ユーラを見てみなさい。あんなにすやすやとお昼寝をしているわよ。」
「あいつは長く生きてるから暇つぶしの極意を身に着けてるだけだ!うわあああ!」
何故自分が発狂しているのかすら分からないが、とにかくそれぐらい暇ってことだ。
ここ最近は屋敷に閉じこもってるか殺されかけるかの二択。たまには…外で息抜きがしたい。
「貴方ねぇ…取り敢えず私は任務あるから、鏡の自分とお喋りでもしてたら?」
アルティも行ってしまった。
この場にいるのは気持ちよさそうに昼寝をするユーラと俺のみ。しかしユーラを起こすわけにもいかないし…
そもそも点検に出した義手義足がまだ帰ってきていないのだ。
俺にできることと言えば、片手片脚を使ったトレーニングのみ。
しかし、トレーニングにもやり飽きた俺は、本当に何もする事が無いのである。
ひとまず予備の義手義足はつけているが、魔力を通して動かせるやつではない為、まあいかんせん不便だ。
「おいフィル。」
「おうシースか。こんな真っ昼間からどうした?」
ドアが開き、現れるはシース。
あいつ、任務じゃないのか?それに何だか少し悪い顔してるし。まあ元から悪人顔だけどなシース。
「単刀直入に言う。カジノ行こうぜ!」
「…はぁ?俺が余りカジノ好きではないと言う事位知ってるだろ。だが暇だから行く。」
「そうこなくっちゃ!今すぐ行くぞ!」
今は外出できれば何でもいい。それにシースがいるから俺が襲われることも無いしな!(ユーラの一件から何も学んでいない阿呆)
まあ置き手紙位はしておくか。
ユーラが起きて誰もいなかったら混乱するかもしれないし。
"ちょっくらシースと遊びに行ってくる" っと。
「よし!それじゃあ何時ものカジノへ行くぞ!」
「いつもに増してテンション高いな…と言うか何時もの義手義足無いから歩けないんだけど。」
「ふっ。甘いなぁフィル君。アタシがその様な事を忘れると思うのかい?」
「ま…まさか!」
「いや。忘れてた。「は?」だけどさっきアルティが研究室の方に義手義足らしき物を運んでたぜ?」
「それって点検から帰ってきたって事だよな?…と言ってもアルティによる最終チェックでもあるんじゃないのか?」
「別にいいじゃねぇか。探しに行こうぜ!」
「勝手に人の研究室に入るのは普通に考えて無いだろ。」
「はぁ?まあ、そう堅苦しいこと言わなくても良いじゃねぇか!バレたら全力で謝れば許してくれるだろ!」
「過去に殆ど同じ事して実験台にされた奴がよく言うな。」
そう反論しつつも俺はシースについていく。
俺も少し気になるのだ。前猫になった時に少しだけお邪魔させてもらったが、余り見たことのない魔道具や素材がゴロゴロと並んでいたから気になってはいる。
まあバレたら全部シースに罪をなすりつけよう。
「着いたぞ!ここだ!」
「なんか…前より警備が強化されてないか?」
目の前にあるはなんか凄い硬そうな素材で出来た大扉。その大扉から放たれるオーラは魔王の玉座に繋がる大扉を想起させる。
「おらっ!よし。中に入るぞ!」
あーっ!大扉がいとも容易くグニャグニャに!
俺はその大扉に手を触れてみるも、やはりカッチカチ。これを粘土の様にグニャグニャにするシースの力は相変わらずだ。
俺とシースは研究室の中へと足を進める。
…と言っても中は余り変化無いようだ。辺り一面の棚には何らかの魔物の一部が置かれており、魔道具の試作品も点在している。
「ないなー。確かにこの部屋に運んでるの見たんだけどよぉ…。」
「お前の見間違いなんじゃないか?と言うかやっぱりあれがないと動きにくい…」
「フィルはその辺にでも腰掛けとけ。アタシが探しとくから」
「あぁ。そうするよ。」
俺は適当に柱に腰掛け『ガコンッ!』…る……?
今明らかに何かが作動する音が聞こえたが…何だ?
次の瞬間、研究室右端の床板が鈍い音をたて開いていく。
その下には階段。つまり地下室があるということだ。
「おおー!こいつはロマンだな。探検の時間だな!フィル!」
「お前…流石にここからはアルティのプライベートのプライベートだ。見ない方がいい。誰だって人には言えない趣味の一つやニつあるもんだ。」
「お前…まるでアルティが人には言えない趣味たくさん持ってるみたいな言い方だな…否定しねぇけど。」
「そうだろ?だからここは引き返すのがベストだ。」
「いや、だからこそアタシはこの下に降りる!ここで引くのは女じゃねぇ!」
「男女関係なくここで引くのがベストだと思うんだがなぁ…」
俺とシースは恐る恐る地下への階段を下っていく。
地下特有の音の響きと、地上の自然音の遮断がより不気味さを増幅させる。
怖い。さっさと帰りたい。
地下は一本道となっており、奥には木の扉が見える。
「おお…雰囲気溢れる地下室じゃねぇか。」
「比較的壁が新しいな…最近出来たのか?」
俺とシースは地下室のドアをゆっくりと開ける。
木の扉特有のキィィィと言う音のみが地下室に反響する。
何だか今は全ての音が恐怖に直結している気がする。これ以上進むな、と全本能が警告している様に感じてしまう。
その一室には………大量の俺がいた。
「ひぃぃぃぃ!」
「うお…」
シースがらしくない声を出す。
俺も狼狽えているが。
「な…なんだよこれ…本物…の人間?」
「いや、触り心地的に作り物だ。…この机に設計図らしき物があるぞ。」
俺とシースは冷や汗でしっとりとした顔で設計図を覗き込む。そこには俺の事細かな記録があった。
「ってなーんだ!ラブドールか!」
「なんだよ!ただのラブドールかよ!」
「一人でこっそり俺の特徴を事細かく記載して、一人で俺と瓜二つの人形を大量に作ってただけか〜!」
「アタシが見た腕と足はフィル人形の一部か〜!」
「「きしょ!!!!」」
やべ。咄嗟に出たのが嫌悪の言葉。
別にアルティは悪いことしてないのに。…ちょっとあれだが。
「おいおい…さっさとここから出ようぜ…」
「てめぇがここに入っていったんじゃないか。だが俺も同感だ。」
さっさとここから出て飯食って風呂入って寝て忘れるのが一番だ。人の趣味にとやかく言うつもりはない。と言うか俺達が勝手に地下室に入ってるだけだからな。
「この部屋の記憶は全て忘れる。いいな?」
「あたりめぇだ。」
「………誰かいるの?」
位置的に地下室への階段付近から、アルティの声。
あーっ!終わった!これは終わった!
今すぐ隠れる場所は!?いや、ここはあえて全力の謝罪か?
しかし…バレたらアルティの心に大きな傷を残す可能性が無いな。あいつはこれっぽっちのダメージで再起不能になるわけない。
「フィル、お前も隠れるんだ!」
「お…おう。」
そうか。
俺は何とか許してくれるかもしれないが、シースとなれば話は別。今度こそ本当に何らかの儀式の生贄にされるかも。
まあ勝手に侵入した俺達が100悪いのだが。
俺とシースは大量のフィル人形に紛れる。恐らくここは失敗作の山。紛れると言うより潜り込むの方が近いか。
「ふーん。あくまで沈黙を貫くつもりなのね。」
「「…………。」」
コツ。コツ。コツ。
足音が段々と俺たちの所に近づいてくる。
控えめに言ってこれから年に一回は夢に出てきそうなほどの緊張感。
人形が一つずつ退けられているのだろうか。
ごすっ。ごすっ。と言う音が少しずつ大きくなっていく。
…そして、一つの隙間からアルティの目が現れる。
「……ひっ!」
「あら?こんな所にいたのね、フィル。」
「………。」
もう…これしか無い。物言わぬ人形作戦。
俺は人形。あくまで貴方の創作物の一つに過ぎない。
「貴方が本物のフィルなこと、黙っててもわかるわよ♡」
物言わぬ人形作戦失敗!
「あー…随分と完成度高いよなこの人形。」
「でしょ?じゃあ、死のっか♡」
こうして俺の意識はここで途絶えた。
(シースが語り手)
ヤバい。フィルがやられた。
アタシはフィルより下の位置にいる。あいつとてアタシの気配を消すスキルは敗れまい。
「そう言えば、あの大扉を開けられるのはシースさんしか居ないのよね〜」
「ひっ!」
そう言えばそんなのもあったな…
これはどう考えても詰みだ。可哀想だが全部フィルに罪被せよ。
「まっ…待て!全部フィルが悪いんだ!」
「ふーん。ここで罪を認めないかぁ…」
「嘘だ!全部アタシ主導です!許してくれ!」
アタシの全身全霊をかけた謝罪。
これで少しでも罪を軽くする!
「どのみち死罪よ。」
「な…何とか死罪だけは…」
「しょうがないわね…ならちょっとだけ死罪よ。」
「……んあ?」
「あ…フィル、目覚めたのね!」
ここは…どこ?俺はいったい何してたんだっけ?
記憶が曖昧だ。しかし…何故か途轍もなく恐ろしい夢を見ていた。これだけは確実だ。
「もう夕方よ!貴方、暇暇言ってた割に沢山寝るのね。」
「え?俺って何時間位寝てた?」
「さあ?アタシが帰った時にはもう寝ていたから少なくとも5時間は寝てるわ。」
「そんな寝てたのかよ…」
「それより…ほら!義手と義足のメンテナンス終わったわよ!」
「おぉ!ようやくか…」
俺は手慣れた動きで切断面にそれをはめる。
そして魔力を通す。
「ふむ。少し試運転してくるわ。」
「うん。私はユーラの方にも渡しておくわ。」
俺は廊下に意気揚々と出るが…やはり歩きやすい!
スキップも出来てしまう!
………あれ?実験室の大扉ってあんなに歪んでいたか?