義手義足が遂にメンテナンスから戻ってから数時間。
今はユーラの義手義足もセットし終わった所。
「…すごいの。儂の意識があった時はこんな物見たことも聞いたことも無かったのに…技術は進歩して行くんじゃな。」
「おーいフィル!シースが裏庭に埋まってたぞ!」
慌てて俺達に駆け寄るウォルス。
「生きてるか?」
「生きてはいるが…精神に多大なダメージを負っているみてぇでよ…」
遅れて部屋にぬっと入ってくるシース。
かなりやつれており、目も虚ろ。まるで地獄に墜ちて戻ってきた人間の様な…
「ひっ!ア、アルティ…許してくれ…」
「おかしいわね…常人なら精神が崩壊する程の記憶消去魔法だって言うのにうっすらと覚えてるのね。」
何かまたアルティにいらんことしたのだろうか?
しかしアレは本当に元気がない顔だ。何かシースを励ます方法は……ふと机に置かれた1枚の置き手紙が目に入る。
…この文字、俺が書いたみたいだがこんなの書いたっけ?
「おいシース!今からカジノ行こうか!」
「……本当か!お前から誘うなんて珍しいじゃねぇか!」
一瞬で肌の艶と活発さを取り戻すシース。
こいつ本当に人間か?今更だが。
「カジノね…良いじゃない。私も久しぶりに行こうかしら。」
「儂も今の賭け事がどうなってるか気になる。共にいくとしようかの。」
「アタシも行きてぇ!」
「ウォルスは駄目だ。」
「ウォルスは無理だろ。」
「ウォルスはやっちゃ駄目なタイプよ。」
「ウォルス…付き合いは短いがお主は真っ先に破滅するタイプじゃ。」
こうして俺達はカジノへと街に隣接している色街の方へ足を進める。この街にも一応賭け事をする場はあるのだが、領主や貴族による規制がある為小銭稼ぎ程度しか出来ないし賭け事のレパートリーも少ない。
しかし色街の方には表向きでは領主や貴族が関与していない為、エキサイティングでデンジャラスな賭けを楽しめると言う訳だ。
まあ裏ではカジノの経営者が目茶苦茶この街のお上に上納金渡してるのだが。
「到着か…!色街!」
「ほう…ここが色街…。何だか臭いの。」
「ひっさしぶりに来たわね。それにしてもシース…カジノはこっちよ?」
「まあ待て。今思い出したがアタシ、この街の地下にあると言われている伝説の裏カジノの行き方を最近知ったんだ。」
そう言うとシースはカジノとは真逆の方向の小さな飲食店の中へと入っていく。
俺達を後を追って中へはいるのだが…ここがカジノ?
どう見ても地元民から長年愛される飲食店って感じだ。
「おい女将。干し肉ステーキ585人前、じっくり弱火でスパイス抜きで頼むわ。」
「かしこまり。お冷やは?」
「いらない。」
「おぉ…何だかそれっぽいな。」
「確かに…何だか秘密の合言葉って感じがするのぅ。」
「アタシが苦労して発見した合言葉だ。高く付くぜ?」
「お待たせしました。干し肉ステーキ585人前です。」
「………。」
俺達のテーブルに山盛りに置かれるは干し肉ステーキ585人前。その高さは天井に当たりそうな程。
「やっべ。隣の店だったわ。」
「ゆ…許してくれ…腹が破裂しそうで歩けない…」
腹がはち切れんばかりに膨らむシース。
あれから流れ作業でアルティがシースにステーキを食べさせ、何とか食べ切らせた。
と言うか途中でシースがノックダウンしそうになった為、アルティが転移魔法で直径5センチほどにステーキを圧縮させ、それを口にねじ込んだのだ。
「……にしてもシース。本当に隣の店なのか?また間違ったら今度こそ腹が破裂するぞ?」
「大丈夫だ。アタシとて同じ間違いはしない。」
俺は苦しそうなシースを支えながら隣の店へと移動する。
「干し肉ステーキ585人前、じっくり弱火でスパイス抜きで。」
「……お通りください。」
すると店員が本棚を動かし、奥には地下へと続く階段。
…この流れで行けることあるんだ。
階段を降り、少し大きな扉を通るとそこは正に別世界。
綺羅びやかな壁や装飾。大理石の床。そこに人々のざわめきが加わり異様な雰囲気だ。
「うぅ…チカチカするのう…」
「案外豪華じゃねぇか…まずは何から手を付けるか…」
「まあ俺は眺めてるだけでいいか。」
「このカジノのマップを見るに…取り敢えず…魔物コロシアムにでも行く?」
魔物コロシアム。それは興奮剤により凶暴化した魔物同士を殺し合わせ、賭けたほうが生き残れば勝ち。
まあ他にも詳しいルールは沢山あるが。
『うおおおおお!』
丁度試合が終わったようだ。
コロシアムの客席からは歓声が聞こえ、目をやると狂喜乱舞する人々や泣き叫ぶ人々、次に備える人など…競馬だな。
「……おいユーラ。顔色が悪いぞ。」
「まだ儂には早かったようじゃ…すまん。」
「俺が静かな場所に連れて行くとするよ。ユーラ、大丈夫か?」
「分かったわフィル。私はシースと共にここにしばらく居るとするわ。」
「おう。またあとで。」
まあそりゃそうだな。
あんなギラギラで騒がしい場所に今まで静かな部屋で過ごしてきたエルフがいきなり適応出来るかと言われればNOだ。
俺とユーラはカジノの裏口付近、休憩所にて椅子に座っている。ここに来てから5分位か?水を飲ませて、少し休ませたユーラの顔色は大分良くなった。
「すまんないの。色々と。」
「別に気にしなくてもいい。それよりユーラ。先程からの殺気には気付いているか?」
「言われなくとも。儂とて以前と人格は違っても勘は同じじゃ。数は一人か。しかも中々の手練れじゃな。」
「だが、殺意が俺達に向けられていると言うよりは、この空間そのものに向けられている感じだな。ライバル業者の差し金か何かか?」
「少なくともこの場に留まるのは余り良い手じゃなさそうじゃ。さっさと立ち去るぞ。」
俺とユーラは早歩きかつ誰にも目線を合わせない形で入り口へと進んでいく。
「お前。」
突然、背後から声をかけられる。
…しかし即襲ってこないのを見るに最低限敵意は無さそうだ。今は下手に襲うより、相手の動向を伺う。
「はい?どうかされましたか…ってまたお前か。眼鏡女。」
振り返るとそこに居たのは…確かアプだっけ?俺とシロとクロをリンチにした奴等のリーダー的な奴。
「奇遇ですね。貴方達も逃げてきたのですか?」
「……いや?お前が何から逃げてるかは知らんが何かヤバいのが居るのか?」
「あの殺意はお前のものではないのか?」
「はい。エルフがいたのでてっきりあの時の奴かと。まあ目を見る限り人違いでしたが。」
「そうか。それならさっさと……」
次の瞬間。
カジノ入り口方面から爆音と強風が俺達を襲う。
「…しっかしこりゃまた派手なこと。まあ入り口の方面にはシースとアルティ居るし大丈夫だろ。」
「爆発音に対して余り被害が少ない様に見えるのう。瓦礫が崩れる音も無い。音にのみ特化しておる。あくまで混乱目的か。」
……と言ってもこの場の人々は皆パニック一色だ。
避難させるにしても落ち着かせる必要があるし、爆弾犯人の目的は達成されている。
「ユーラ、一人でここから出られるか?」
「…それぐらいは流石の儂でも出来るわ。任せておけ。」
俺は急いで音の発生源へ走る。
入り口方面には、2人がいる。あいつらと合流するのが最も安全だ。
「…おかしいな。何というか…静かだ。」
魔物コロシアム周辺まで来たのだが、人が一人も居ない。
コロシアムに恐る恐る入って行くものの…やはり静か。
足音だけがコロシアム内に響き渡る。
……やはり誰もいない。
アルティもシースも。
「ここは危険ですよ。立ち去るといいかと。」
「っ!」
まじか。
全く気配と言う気配が感じ取れなかった。
それに何だか全本能がこいつから逃げろと訴えかけてくる。この感じ…シースやアルティと同じ感じだ。
恐る恐る振り向くと、そこには筋骨隆々、身長は2メートルはあろう女性。
しかし、荒くれ者には出せない確かな気品と美しさを感じる。正に、只者ではないをそのまま人にしたかのような…そんな恐ろしさ。
「あ…貴方は何者ですか?」
咄嗟に出た言葉がこれだった。
「私はただの一般人です。それより、早くここから立ち去るといい。」
「…はい。貴方がそう言うなら。」
言葉を絞り出すようにしか喋れない。
情け無ぇ。とにかく俺は逃げるように入り口へと走る。
「あ!フィル、こんな所にいたのね。」
「アルティ!無事だったのか!」
「えぇ。突然魔物が凶暴化したのは驚いたけど、コロシアム周辺の人間全員を地上に転移させてたの。」
「アルティ…お前は見たか?」
「えぇ。あいつのことでしょ?敵意は全くなかったし、関わるだけ無駄よ。」
「まあ…そうだな。考えるだけ無駄か。」
「貴方以外は外にいるわ。このまま転移魔法で帰るわよ。」
こうして屋敷に帰宅した俺達。
しかし、カジノを楽しむなんて間もなく俺達にのこったのは疲労感のみ。碌なカジノじゃなかった。
「…まったく。カジノに負けるし突然魔物が暴れ出すしで碌な一日じゃなかったぜ。」
「それは同感ね。にしてもあんな化物、こんな街に居るものなのね。」
「もう儂は疲れた。まだ夕方じゃが寝るとするわ。」
俺達4人ははぼやきながら自室へ戻っていく。
自室に戻り、まずやることは剣の手入れやポーションの確認。……と言っても最近は殆ど剣を使っていないし、ポーションも使用の機会が殆ど無い。
最近は面倒事に巻き込まれすぎなのだ。
……と言うか本当にそろそろ冒険者に戻らないとな。
これでリハビリも済んだみたいなものだ。今日はもう夕方に差し掛かっている。
明日こそ依頼を見に行こう。
そんな事を考えながら俺は自主トレに励む。…最近は敵が強すぎる為、力勝負で勝ち目は無かったのだがそれを理由に休む訳にもいかない。
「はぁ。こんなもんか。」
毎日コツコツ。
積み重ねこそが大事。しかし少しずつだから俺自身が成長に気付くことはほぼ無いのだが…
まあ、明日になって考えればいいや。
……大分楽観視してないか?今の状況?