貞操逆転世界の中堅冒険者   作:だいたいおおそよだいたい

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前回のあらすじ

ゴブリンの襲撃の影響で何人か辞めていったけど、人手不足が深刻だなぁ…

→そうだ!募集しよう!

→え?なんだ。ほかの街から冒険者が一定数異動してきてくれるの。

→アルティに疲れてると言われ、居酒屋の様な場所に連れて行かれた。

→そこからは俺がアルティに何もかもの愚痴大会。酔っ払って意識落ちたわ。

→朝チュン。は?


一難去ってまた一難。更に追加でもう一難。

あれから、アルティと朝飯を食べた俺だが、本当になぜ一緒に朝飯を食べようと提案したのか、分からない。

 

テンパるにしてももう少しどころか最悪とも言える選択肢を選んでしまった。

まず、空気が地獄。なんて会話すればいいのか分からないし、目を合わせるのもなぁ…と思い無心で硬いパンと干し肉を無心で口に頬張る。

 

本格的に外の人々が行動しだし、馬車の音や人々の雑踏が聞こえるのに対し、不気味なほど静かな室内では咀嚼の音が響いていた。

 

まぁ、控えめに言って最悪だった。気不味いなんてものではない。

アルティと別れた俺は、事前に依頼を受けておいたスライム駆除へと向かう。

確かに朝は気不味かったが、前まで溜まっていた自分に対するどうしようもなく醜悪な不満は少し、いやかなりなくなった。

 

気分がなんというか、晴れやかだ。

今、俺ができることをやる。あまり背伸びしすぎるのもあれだ。

いくら嫉妬したって、そこには何処までも醜い自分が一人、顔を歪めて呪詛を吐き続けるだけなのだから。

 

今日も役場に到着し、下水道への鍵をもらった俺はさっそく駆除を始めるための準備をする。

餌を撒いてートリモチ撒いてー……。

 

 

処理し終わったスライムを回収用の防臭袋に詰め込み一段落といった所。

古びた石レンガの出っ張りに腰を降ろした俺は深呼吸する。

何時ものスライムおびき寄せ用の餌の、酸っぱい様な匂いがツン、と鼻を刺激する。

 

いつもは防臭の魔法が刻まれた魔道具のマスクを着用しており、余り匂いは分からないのだがやはり臭い。

しかしこの行為を俺はいつも仕事終わりにしているため、少しだけ仕事終わりの達成感というか、街のために一つ仕事をこなしたという満足感が湧いてくるのだ。

 

パブロフの犬だね。

 

俺は石レンガの亀裂部分がなんだか雷魔法に打たれた人の傷跡みたいだなぁ、とぼんやり考えていると視界の端に黒い、ナニカが高速移動していく。

 

俺は直ぐに意識を戻し、その黒いカサカサした生き物を捕まえる。

やはり、その生き物の正体はゴキブリ。

この世界にもゴキブリ等の昆虫達はいるにはいるが、殆どがスライム達の餌になってしまう為野生でお目にかかる事は非常に少ない。

 

俺達の定期的なスライム駆除が功を奏した瞬間といってもいいだろう。俺は歓喜に打ち震えながら、ゴキブリに浄化の魔法を施し口の中へ放り込む。

バリバリとした食感と、頭がプチっと弾けて少し苦い。

 

この世界は昆虫食が当たり前。というか特に冒険者は虫をかなり食べる。

ゴキブリは本来雑菌の塊であり、きちんと処理したものや養殖されたものでない限り食べたら命の危険を伴う。

しかし、この世界には魔法が。浄化魔法がある。

詳しい原理は知らないが、とりあえずこの魔法をかけとけばだいたい食える。

 

獣人が移入してくる前までは昆虫食はあまりメジャーなものではなかったようだが、移入してからは急速に広まっていき、今では目玉焼きと一緒にベーコンやハムではなくワームやゴキブリを共に焼いて食べるのが庶民的な目玉焼きのお供としての地位を確立している。

 

俺も昔は口の中に入れると先に体が拒絶していたが、アルティの好物がハチノコというのと、餓死しかけた時、にそこにいたゴキブリを一心不乱に貪った事から、殆どが拒絶感は無くなった。

 

というか転生者は虫をあまり好まない傾向にある。(そりゃそうだろ)

殆どの転生者は女性からすると少しグイグイ行っただけで堕ちる夢のような生物。

なので転生者だと思われないよう男性が昆虫を明確に拒絶する、という行動はめったにとらない。

 

 

因みに風呂に毎日浸かりたがると転生者。

胸で顔を沈めると、テンパるのが転生者。まぁ転生者だろうが無かろうがその行為はこの世界だと男性に対するセクハラに当たるため拘留所で数日過ごすこととなるが。

 

と、まぁ転生者と推測される様な行為は結構男性のなかでは地雷とされている。

まぁ、そもそもの転生者はガードが緩いらしい。

まぁ、俺はそれはもうとても気をつけているのでそんな事は絶対にないと思うが。(そんなわけないです。)

 

まあ、日常の所作一つ一つに気をつけていたら、逆に怪しまれたりするので頭の片隅に入れておく程度で基本的には何も考えず日常を過ごすのが一番。

 

話を戻すと、ゴキブリに限らず、この世界の昆虫食は食べた気になれる。この世界には冷凍方法が氷魔法ぐらいしかなく、その貴重な氷魔法使い達も貴族や地主、王族達が殆ど独占しているため、街の中で新鮮な肉や魚、卵を食べるのが権力の象徴みたいになっているのだ。

 

アルティもこの事を理解している。

彼女のテレポート魔法、及び転移魔法ならいっぺんに数トン規模の生鮮食品を運ぶことぐらい容易い事だがそれによる市場の崩壊、それによる貴族や地主のバッシングや冒険者ギルドへの寄付の減少が恐れられる。

 

というか奴等なら絶対やる。

 

まぁ、そう言う訳で俺達庶民は昆虫や干し肉を食うことを余儀なくされている…といった感じだ。

俺は帰るために下水道の入り口へと戻っていく。

 

その時、下水道の奥から大きな異音が聞こえてきた。

 

その音は、まるで石レンガが崩れるような音と、液体をこぼしたような音が混じったようだ。

 

その音が聞こえるのは今回指定された駆除範囲とは全く違い、なんならここの地主の土地ではないだろう。

だが。無性にこの音が気になった俺は気がついたら自然と音がした方向に足を進めていた。

 

この下水道は音がかなり響く。更に所々道が入り組んでおり、迷子になりやすい。

というかこっそり下水道に侵入して迷子になった子供を幾度となく俺は救助している。なので大まかな下水道のマップは頭の中に叩き込まれている。

 

右へ左へ。網目状の通路をその異音が聞こえた場所へ一切の迷いなく進んでいく。

液体の様な、ゴポゴポとした音が段々と大きくなってくる。

 

少しひらけた場所に出る。

そこには。大きなヘドロの塊があった。

間違いない。これはコアスライムを本体としたスライムの集合体だ。しかし何故このような場所に?

 

コアスライム。それは他のスライムを吸収し、どんどんと大きくなっていくA級モンスター。今の俺では手も足も出ない相手だ。

 

俺は即座に物陰に隠れる。

そして大きく深呼吸。奴は、いやスライムは視力がない。

主にサーモグラフィーの様に熱で物体や生物を感知する。

なので、正直な話コアスライムには俺の存在はバレていることだろう。みる限りは食事中と言ったところか。

 

コアスライム、スライムは空腹時以外は不用意に近づいたり、捕食している所を邪魔しない限りは襲ってこない。

つまり、明確な敵意が無ければ死ぬことはないのだ。空腹時以外は。

 

ふと、天井を見上げる。そこの石レンガは剥がれており、恐らく先程の異音は崩れた石レンガがコアスライムの巨体にクリーンヒットした音だろう。

正直な話、今すぐ撤退して複数のB級を呼んでくるかS級の二人のどちらかを呼ぶのが生存、討伐の最適解。

 

俺は瓦礫の奥に違和感を感じ、目を凝らす。

そると、そこには不健康な脚が合計四本覗かせていた。

 

しかも、痙攣している。恐らく天井の石レンガをコアスライムに落としたのは魔法。そして魔力切れを起こし、意識を失っていると言ったところか。

 

脚しか見えないが、二人の脚は絡み合っており、どちらかがどちらかを庇って、必死に機転を利かせて天井に魔法を放ったのだろう。

 

可哀想だが、この2人はコアスライムの餌だ。

撤退し、仲間を呼んで討伐した後はせめて骨だけでも拾ってやろう。

俺は敵意がないことを証明するため、一歩、一歩とコアスライムから後退りをする。

 

しかし。何故か昨日、居酒屋にてアルティに言われた言葉が脳内にて再生された。

 

「フィルはさ、とにかく目の前にある事を全力でこなしていくのが、一番強いし、強くなれると思うのよ。」

 

あぁ。糞が。そんな物は嘘だ。詭弁だ。まやかしだ。

そうやって勇気あるものから死んでいく。俺はそんな奴を何人も見てきた。

 

そして、何人もの遺言を聞いてきた。

そいつ等に家族は居ない。だって全員魔物に、人間に殺されたから。

せめて、寿命で俺が死ぬまでは。俺だけでもそいつらの顔を、名前を覚えておかねばならないのに。なのに。俺は倒れている二人に向けて、全力で走り出していた。

 

コアスライムが、即座に俺を敵だと判断し高圧のスライムボディをレーザーのように飛ばしてくる。

あくまで高圧レーザーの原理。途中で曲線曲がるような、初見殺しになる事はなく、軌道ならある程度読める。

 

俺はできる限りの脚力で壁を蹴り、瓦礫を撒き散らしながら二人の元へか向かう。

そこには倒れている男と女が一人ずつ。俺はその二人を両脇に一瞬でかかえ……って軽!?ガリガリじゃねぇか!?

 

敵の状況を確認する為に、後ろを見ると、全身をネットの様に広げ俺達の前に覆い被さってくるコアスライムの体の一部。

 

しかも、スライムに触れている、壁面の石レンガの溶け具合から、そのスライムを構成しているのは濃硫酸。仕方ないが、切り札第壱号を早速使わせていただく。

 

目前まで迫る濃硫酸入りスライム。しかし、それは俺にあたると粉々に砕けてしまった。本来ならドロドロに表面が溶けた俺が苦痛に絶叫するはず。

だが、俺も気絶した2人も、まったくの無傷。

 

これが俺の切り札一号。瞬間冷凍魔法が入った魔道具だ。

高いんだわ、これが。この魔法陣が描かれた防水性の木札1枚で、3日は王都の最高級ホテルに泊まれる。

 

だが、ダメージが無いことに気付いた瞬間、コアスライムはスライムの玉を大量に飛ばしてくる。

中にはたぶん先ほどと同じ濃硫酸。水風船の容量で大量に飛ばしてきている。何より、こちらの切り札第一号がバレているのが最高にまずい。

 

コアスライムは知能がある。少なくとも、同じ手は二度も食らわない程度の、知能が。

 

実際、今の水風船スライムは囮。

俺の持っていた残りの魔法陣が描かれた木札を全て伸びてきたスライム触手によってぶんどられる。

 

魔道具というものは、魔力を流し込めば簡単にその魔法が発動する。それは、魔力を扱える魔物にも言えること。

コアスライムは俺からぶんどった魔道具に魔力を込め、発動させようとする。

しかし、その瞬間辺りが光と熱に包まれる。

 

「バーカ!!残りの魔導具は全部、自爆魔法が刻まれてるんだよ!!」

 

俺は、コアスライムが道具を使う知能があるということを知っている。これが切り札第二号。

変に知能がある方が、簡単な罠に引っかかってくれて楽でいい。

というかその変幻自在に操れるスライム触手でゴリ押しされるだけの方が十分死ねる。

 

しかし、この程度の爆発じゃコアスライムの体力の1割も削れていないだろう。

だが、この下水道という閉鎖空間で、辺り一面が熱風に包まれる事こそ、俺の狙い。

 

奴さんはサーモグラフィーの容量でしか俺たちを判断できない。つまり今、コアスライムの索敵能力を封じたも同然。

 

なので、後はトンズラこくだけの簡単なお仕事だ。

 

俺は全力で出口へと向かう。

因みに、奴は地上に出たり、暴れすぎるとS級の化け物や冒険者達に束になってボッコボコにされることを知っているので、そんなリスクを冒して地上まで追ってくることはない。

 

しかし。いや、そのせいで俺は油断していたのであろう。

しばらく逃げ、出口まであと数十秒走れば着くという所。

後は気絶している二人の処置をするだけ。そう考えていたのに。

 

俺の腕に途轍もない激痛が走る。熱い。ひたすらに。

 

俺は瞬時に痛みの発生源へと目を向ける。

そこには風穴が一つ空いており、血が止めどなく流れ出ていた。

 

完全にやられた。おそらくコアスライムのスライム弾丸。

ヤマカンで飛ばしてきやがった!

手厚い最後っ屁を食らった俺は、右腕を布で全力で縛る。

 

あのクソスライムのことだ。おそらく毒が塗ってある。

 

俺はカバンから毒消し草や麻痺効果を薄める薬を取り出し、口の中に放り込む。

 

俺は気絶してる二人を抱えたまま、地上への階段に繋がる扉を蹴破り、全力で階段を駆け上がる。

 

もう少しで街に出られる。もうスライムは攻撃してこないだろう。俺は呼吸を整え、口に布を咥えながらポーションを腕の風穴に向けて全てぶっかける。

 

瞬間。

傷口を少しずつ抉られるような、それとも神経一本一本を引きちぎられるような痛みに襲われる。

口からは涎が垂れるが、それどころではない。

服を引きちぎらんばかりの力で掴み、必死で息を殺す。

1分が1時間に、1秒が何十秒にも感じられる。

 

しかし、その痛みは段々と引いていき、不気味なほ、ど全く傷口の痛みを感じなくなる。

やはり、この感覚だけは慣れない。

直径数センチの穴があいただけでこの苦痛。

怪我して当然の冒険者という仕事でいかに退職率が高いかがよくわかる。

というか俺もこの瞬間だけは辞めてやろうかと頭のなかに退職の選択肢がよぎる。

 

口から涎や鼻水でビシャビシャになった布をしまい、今尚気絶している二人に目を向ける。

片方は傷だらけかつガリガリ。着ている服…というかほぼ布は決して綺麗と言えるものではなく、言葉を選ばず言うならば小汚いという言葉が最も正しい。

しかし、もう片方は程よく肉がついており……ってんな食肉みたいな例えはどうかと思うが、肌の艶も良く、白い髪と合わさり、何処か神聖さを彷彿とさせる。

まさか、と思い失礼承知で服をめくり、背中を見る。

やはり、そこには純白とも言える美しい羽根が生えており、俺は咄嗟にもう片方のガリガリの少女の背中を見る。

そこには、黒い羽根が生えていた。コウモリの様な羽根。

 

やはり、二人の少年少女はサキュバスと天使で間違いないようだ。そして、二人の右腕には魔法陣のタトゥー。

しかし一部、魔法陣を塗りつぶす様に火傷を負っている。

 

まぁ、貴族様御用達の奴隷牧場から逃げ出してきたのだろう。

 

正直な話、2人は今すぐ殺処分するか、裏の人間に引き渡すかしなければ俺が殺される。

 

しかし、コアスライムに襲われていたようなという事は運よく奴隷牧場から逃げ出せた。と見て間違いないだろう。

腕のGPSの役割をはたす腕に彫られた魔法陣にも一部を火傷させることで、その役割を妨害させている。

 

最悪だ。本当に最悪。なんならコアスライムに出くわした時よりも俺は最悪な気分になっている。

おそらく2人は魔力切れを起こしており、魔力切れをあまり起こしたことがないやつは数時間、絶対に目が覚めない。

 

本当ならさっさと二人の首を切って、コアスライムの餌にでもしてしまう方が正解だ。

こんな見え見えの厄ネタに首を突っ込むほど、俺は正義感が強いわけでもないし、馬鹿でもない。

 

…………。はぁ…。

 

とりあえず、本人から奴隷牧場出身だと聞けばいい。

まだ、この2人が処分対象だと決めつけるには早計だ。

うん!そうだな!もしただの迷子だった場合、殺すと毎晩夢に出てくることになるしな!

 

俺はそう自分に言い聞かせながら、二人を抱えて街に出ると、人目がつかない路地裏の方へと走っていった。

 

 

 

 

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