貞操逆転世界の中堅冒険者   作:だいたいおおそよだいたい

9 / 26
本来なら2話に分けるつもりでしたが、分けるにしては内容が薄いので1話にまとめました。

前回のあらすじ

暗殺者に襲われたよ!ちくしょう!

→何とか倒せたよ!さっさと飯を作ろう!

→晩御飯食い終わって一段落………する前にまた同じ暗殺者が襲ってきたよ!

→そいつを懲らしめたよ!さっさと帰ろう!

→我が家燃えとるやんけ!!!


畜生捕まった!くっ!殺せ! 嘘だ!助けてくれ!

火の粉が俺の顔に舞いかかる。

 

俺が家に帰ると 、そこは炎に包まれていた。

俺はそれを見た瞬間、脊髄反射とも言えるスピードで全身を水魔法でずぶ濡れにし、家のなかに飛び込んでいく。

 

家の中は既に崩れかかっており、その焦げ臭さに思わず顔を歪める。

 

家の中はよく見ると切傷やタンスの中身がひっくり返っている。空き巣か?

 

俺はその光景を横目に、階段を登り、寝室へとたどり着く。

しかし。そこには人っ子一人いなかった。

 

「随分と舐めた真似してくれるじゃねぇか。」

 

その瞬間、炎を纏った天井の一部が俺の頭上に落ちてくる。

一般人なら黒焦げカリカリになる事は確定しているが、俺は腐っても冒険者。

 

俺は殆ど無意識でそれを避け、その勢いのまま窓を突き破って脱出する。

 

やはりだ。異様に魔力の跡がのこっていた。

その魔力跡はまるで俺を誘うように路地裏へと続いている。

 

おそらくはクロやシロがいた施設の職員。またはそいつらに雇われたプロ。

 

普通、ここまでの魔力跡は相当強力な魔法や不完全、暴走した魔法を使わない限りは残らない。

 

多分というか絶対誘い込まれている。このままたどって行ったら大人数での不意打ち&リンチになるだろう。

 

シースやアルティを頼ってもいいが、あいつらは力加減が下手くそ。絶対一人は殺してしまうし、貴族から因縁をつけられ、追放されてしまうかもしれない。

 

と言うか、される。

近いうちに俺たちが所属するギルドに、S級冒険者1名、A級冒険者が1人、異動してくる。

つまり、戦力的に余裕ができるのだ。街の危機を救うには最低限の戦力だが、奴らの頭は面子とプライドで構成されている。

…と言うか異動してくる奴がいなくても考えなしにとりあえず追放、罪のでっち上げをするバカもそこそこいる。

 

よって、シロとクロを救出するのは俺一人がベスト。

そもそもいつシロとクロが殺されるかもわからない。

その場で殺されなかった時点でその線は無い…と信じたいが

 

それに、あいつらに頼ってばっかりにもいられないしな。

 

俺は魔力の跡を防音魔法を使いながら辿っていく。

やはり、魔力の跡は一定の量で残されている。ここまで露骨だと心配になってくる。

俺は警戒心をMAXにしながら、路地裏を突き進んでいく。

 

やがて、その魔力の跡は一つの建物の中へと続いていた。

そこは使われなくなった廃工場。廃工場と言っても、この世界の文明はそこまで進んでいないため、大きな作業場とも言うべきか。

 

 

俺はその建物の中を確認する為に裏へ回り込み、窓に顔を覗き込ませる。

すると、俺の目に広がったのはシロが全身を縛られ、クロが全身を斬り刻まれている光景だった。

 

俺はその瞬間、怒りに身を任せ窓を蹴破る。

 

「お、やっとお出ましか。」

 

「おせぇんだよ。大事な大事な子供たちはボロボロだぜ?」

 

推定誘拐犯共に煽られるが、そいつらの言動によって違和感が俺のなかで最高潮に達する。

 

なぜその場で殺さずにわざわざ攫う?

 

なぜ魔力の跡で誘い出す?

 

そもそも全員を殺すなら何故ここにおびき寄せる真似を?

 

全員殺すなら俺と2人が寝静まった夜中に暗殺するはず。

少なくとも俺が暗殺者ならそうする。

 

じゃあ何故俺をここにおびき寄せるような真似を?

 

目的が殺害ではない?しかし二人を連れ戻すだけでもない?

 

 

 

「あんたら、餓鬼を虐めて楽しいかい?」

 

俺は少しでもその意図を聞き出すために誘拐犯共に質問を投げかける。

が、奴らはその質問を嘲笑うかのようにこう答えた。

 

「んなもん、楽しいに決まってるからだろ!」

 

「餓鬼をいたぶり、男をおびき寄せて嬲る。最高じゃねぇか!」

 

残念だが、この答えで分かった。

コイツラは半グレやチンピラの類ではない。恐らく施設の人間、もしくは関係者。

 

この街は、表では支配者は居ない。強いて言うなら町長か。

だが、裏の世界ではこの街の貴族や地主が集まり、一つのチームとなってヤクの密輸等を行っている。

 

だから、この街には個人や小さなチームで暴れ回るようなチンピラや半グレは殆どいないのだ。

いたとしても、絶対に派手には暴れまわらないだろう。

 

だが、奴らは俺の家を燃やし、なんなら分かりやすく魔力の跡まで残していた。

 

俺は周囲を見渡す。 奴等の数は十数人って所か。

裏に隠れてるであろう奴等を合わすと20人ちょいって所かな。

 

本来チンピラ20人程度なら同時でかかってこられても全員斬り伏せられる。

だが、奴らは資金を活かした最高級の武器や魔道具を大量に持っているはず。

 

正面どころか俺得意のネチネチした戦い方でも厳しいだろう。

それに、捕らわれてる二人を守り、救い出すとしたら尚更、だ。

 

「助けてくれ…数が多すぎる…降参だ…。」

 

 

 

「ギャハハ!!ザマアねぇな冒険者さんよぉ!」

 

「ならアタシから使わせてもらうぜぇ!」

 

ひとまず会話をして時間を稼ぐため、一次的に降参する。

……が、やはり奴ら、口ではそのような事を言っているが、言葉の奥は何処か冷たく無機質。

俺を少し前襲ってきた暗殺者のような隙も感じない。

 

 

「じゃあ、舐めろよ。」

 

そう言って推定誘拐犯共の内の一人が俺に寄ってくる。

本来なら、俺が隠し持った煙玉で視界を奪いつつ二人を救出、そのまま脱出……と行きたいところだったが。

 

「……! おいおいおい!煙玉隠し持つとはやるじゃねぇかおっさん!」

 

ゴシャッ。顎に凄まじい衝撃と一拍遅れて激痛が走る。

殴られたのか。

 

「……ぺっ。ってぇなぁ…歯が折れたらどうすんだよ…こちとら生まれてこの方虫歯無しだって言うのに…。」

 

少々頬が切れたが歯は折れてなさそうだ。

と言うか、ほんとにまずいな。ここ最近で一番ヤバい。

 

「というか…お前、絶対気付いてるだろ。」

 

「何がだよ。お前らはコワーイコワーイチンピラ集団にしか見えないんだが?」

 

「おーーいボス〜やっぱコイツ気づいてました〜」

 

「あ?だからお前らは…」

 

「御託はいい。嘘をつくと殺す。いいか?気づいてんだろって聞いてんだ。三秒以内に答えろ。ほら、3…2…」

 

「………。はぁ、気付いてるよ。お前ら、あの二人が逃げ出してきた施設の人間か関係者だろ。」

 

「御名答♪ そこまで気付く知能はあるのに、何であの二人を助けたのかは知らねぇが…まぁ後の話はボスに聞いてくれや。」

 

やり辛い。最高に最悪な気分だ。

 

「あぁ、あと、お前の持ってる小道具共全部回収するわ。」

 

「は?」

 

煙玉だけでは無く、その他小道具までバレていたとは。

 

「右靴の中。左足の踵。両手の袖の中。後は…背中と太ももにも何か付いてそうだな。」

 

全部バレてますがな。

俺は渋々小道具を取り外し、奴の前に置く。

 

「うひゃー。こんなに隠し持ってたとは。流石は男のくせに、実力一本でB級まで上り詰めたフィルさんだぜ。」

 

うーん。個人情報も全てバレていたか。

 

「いやはや男のくせに引き締まった体、唆るな…♡正直プライベートだったら襲ってるぜ。」

 

そう飄々とした態度で言っているが、目はガチだ。

 

このままでは埒が明かない。状況確認の為、俺は拘束されている二人に目を向ける。

 

「ゔ……ぁ……。」

 

「クロ…フィル、さん……。」

 

クロは全身を薄く斬りつけられ、意識が朦朧としている。だが、あの切傷ではまだ死なない。

 

シロは…何処か虚ろで、精神的に多大なダメージを負っているのがわかる。

 

 

「はじめまして。フィルさん。結論から言いますが、貴方はなるべく苦しんで死んでもらいます。」

 

廃工場の奥からやって来たのは恐らく先程ボスと呼ばれていた女。

と言うか、俺は死ぬ前提なのか。

 

「はいそーですか。……とはならねぇよな。理由を聞いてもいいか?」

 

「駄目ですね。」

 

「そこを何とか。冥土の土産ってことでさ。」

 

「駄目ですね。」

 

「あっそ。なら力ずくで聞くわ。」

 

俺はそのボスとやらに全力で回し蹴りを眉間にぶち込む。

 

だが。俺の放った渾身の蹴りは片手で軽く止められていた。

 

「全く。やり方が一々原始的。………。まぁ、いいでしょう。特別にすこーしだけ教えてあげます。」

 

「ほぅ、そいつはありがたいな。」

 

そう言うと、ボスと呼ばれていた女はニヒルな笑みを浮かべる。黒縁眼鏡と相まって不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「まず、あの二人は施設から逃げ出したのではなく、我々が逃がした、という事。…それと貴方とクロとか言うサキュバスの餓鬼は今から苦しめられて死ぬ事。以上です。」

 

………。いきなり大量の情報が入ってきた。

つまり、あの時二人はそもそも逃げ出すことが出来たと思っていなかっということか?

確かに、俺のことを新しい牧場の職員だと言っていたな。

 

あれは錯乱による戯言ではなく、誰かに拾われることを見越した職員が、二人を拾ってくれるのが新しい職員だ。とでも伝えられていたのか?

 

……つまり、俺とクロはシロを引き出す為の素材のようなものにされるのか?

 

 

「フィルさん、考え込んでいるところ悪いですが、早速儀式を始めさせていただきますね。」

 

あーもうこの人儀式って言っちゃってるよ。

 

「なら、なるべく抵抗させてもらうぜ。」

 

俺は全力で拳をボスに振るう。が、やはり簡単に受け止められる。そのまま殴る、蹴るを繰り返すも全く効いている素振りも見せない。

と言うかまるで羽虫を払うかの様に受け流される。

 

「一々技術や経験を感じさせる技ばかり出しますが、結局素の力が低すぎて話になりません。女性として生まれれば天下を取れたでしょうに。」

 

「癪に障る言い方選手権に出場したら入賞できる言い方だなぁ!んなこと自分でもわかってるっての!」

 

「ふふ、意外と煽りに弱いの、とても哀れです。」

 

「は?」

 

しまった。隙を突かれたか。

俺は瞬時に体中を確認する……が。

 

「やられたぜ。そこまでが一連の流れだったわけだ。」

 

「御名答。貴方の勘の良さには驚きました。通りでこの自力で長年冒険者としてやって行けてるわけですね。」

 

その瞬間、俺の腹部に剣を突き刺される。

臓腑に直撃だ。正直、鎖帷子を貫通するとは思わなかった。

 

「ゴフッ。オェェェ……。」

 

途轍もない悪寒と痛みに襲われる。

今吐いているのは吐瀉物か血かも分からない。

 

「ほう、剣を捻じる前に無理やり抜くとは精神力も異常。」

 

「ガッ…フッ……。」

 

口の中が鉄の味で満たされる。

どうやら俺は今、吐血しているということで間違いないようだ。 俺の肉体強度は一般人。あと数十分も経たない内に意識が途切れ、そのまま死に至るだろう。

 

「ひとまず、アキレス腱を斬りましょう。」

 

「ブゥゥゥゥゥゥッッッ!」

 

俺は口の中の血をなるべく広範囲に撒き散らす。

せめてもの抵抗だ。だけど…やはりか。

 

「それも読めてます。私以外なら立場逆転、もしくは相打ちが狙えたかもしれませんが。」

 

血を撒く頃には既に後ろにまわられていた。

 

「これで終わりです。まぁ、強さの割にはそこそこでしたよ」

 

俺は…背中を深く斬られていた。

 

力無く前のめりに、冷たい床に倒れ込む。

もはや指1つ動かす力も残っていない。だが、俺はそんな中最後の力を振り絞りシロとクロに向かって叫ぶ。

 

「クロ!シロ!俺が敵を引きつける!今のうちに逃げろ!」

 

「させませんよ。皆さん、二人を取り囲みなさい!」

 

ボスの女以外の全員、シロとクロを取り囲むように配置される。

 

「惨めですねぇフィルさん。さて、本来ならこのまま放って置くだけで失血死は確実。ですが、もう少し役に立ってもらいます。」

 

そう言うと、俺の腹に向けてボスの女は回復ポーションをかける。

 

「ぐっっ!ギッ…」

 

言葉も出ないほどの強烈な痛み。先程の痛みをすべて足してもこの痛みには届かないであろう、そんな激痛。

 

そんな中、奴は果物ナイフを取り出し俺の前に投げてきた。

 

「三秒以内にそのナイフで指定する場所を刺さなければ、あのサキュバスの餓鬼を殺します。」

 

その言葉を聞いて、一番反応したのはシロ。

 

「なりません!!どうか、お願いします!どうか、殺すなら僕にしてください!二人にだけは…死んでほしくないんです!どうか…お願いします…。」

 

「知ってるか?天使の餓鬼。」

 

先程俺の小道具を没収した奴がシロに話しかける。

 

「天使ってのは、本当に助けたい人が現れた時、能力、魔力共に覚醒して治癒能力にも目覚めるんだとよ。」

 

それが奴らの狙い…か。恐らく、クロを殺すだけではそのラインまでは行かないと判断されたのだろう。痛みが引いてきた俺は、さの考えに至った。

 

と言っても背中の傷はご顕在。下手に激しく動けば断裂した骨が臓腑に刺さってまた動けなくなる。

 

まだだ。まだ、堪えろ。

 

「もしその能力に目覚めたら、全員仲良く解放してやっても構わねぇぜ。」

 

「本当……なのですね。」

 

「あぁ。本当だ。アタシに二言はねぇ。」

 

嘘つけ。仲良く解放(天国に)だろ。

 

「わかりました。やってみせます!!」

 

シロは今まで服に隠していた小さな天使の羽根を広げ、全力で魔力を体に纏う。

 

 

……………。何も起こらない。

 

 

「残念だったなぁ!!おいフィル!!その果物ナイフで太ももを3回、根元まで突き刺せ!!」

 

来たか。正直な話、そんな命令誰がやるか…と言いたいが、クロを殺すわけにもいかん。

 

 

俺は覚悟を決め、太ももにナイフを深々と突き刺す。

瞬間、凄まじい痛み。自分でやっていると分かっているため、痛みとともに絶望感もやってくる。

 

これを…あと2回?キツイな。 だが、やらねば。

 

俺は勢いに任せ、更に2回太ももにナイフを突き刺す。

 

「ガッァァァァァァァァァ!!!!!」

 

俺は雄叫びとも取れる薄汚い声を上げる。

建物が広く、天井も高いため、静かな建物に声がよく響く。

 

「フィル……さん………僕が、僕が力を引き出さなきゃ!」

 

そう言うとシロは先ほどよりも強い魔力を体に纏う。

……が。やはり何も起きない。

 

「おめでとう、フィルくん。もう1回だ♪次は右耳を自分で削ぎ落とせ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい時間が経っただろうか。

 

俺の体は末端はほとんど削られ、息も絶え絶え。

と言うか途中何回か死にかけたが、回復ポーションで何とか生命維持ラインまでは引き戻らされた。

 

殺すならさっさと殺して欲しい。

 

シロは…と言うと。

 

「僕が、僕が僕が僕が僕が……………。」

 

完全に焦燥しきっており、誰がどう見ても限界だとわかる。

 

「うーん。中々覚醒しないねぇ。そうだ!サキュバスの餓鬼の腕きり落として〜。なるべくゆっくりギコギコとね。」

 

「待て。俺がやる。だから、クロには手を出すな。」

 

「いやー。無理。だってあんたがいくら傷ついたって、覚醒しないんだもん。」

 

クロに研がれていない、少し錆びかけた大ぶりなナイフが用意される。

畜生。本来ならもう少し体勢が整うか、場が混乱してから使うつもりだったが。

 

「起爆。」

 

俺はそう唱えると、廃工場の壁が次々と小規模な爆発を起こしていく。

 

「馬鹿な!?建物内部には強力な耐久魔法を施しているはずだぞ!?」

 

やっとボスが少しだが取り乱した。

 

「そうだな。だから、建物に飛び入る前に、外側から爆発魔法を施したマキビシをくっつけておいて正解だったぜ。」

 

そう。最初の暗殺者を倒したときに持っていたマキビシを俺はありがたーく貰い、魔法を込めて廃工場の周りに突き刺しておいたのだ。

 

「魔力の跡とごちゃごちゃになって、バレなかったんだよなぁ!」

 

そう。普通なら魔力を発しているためバレる。が、奴らは俺をおびき寄せるために強い魔力の跡を廃工場に向かってそこらかしこに撒いていたのだ。

 

特にこの廃工場周辺だと、多少の魔道具程度なら使っても一流の冒険者でも気付けない程度には。

 

そしてこの建物は長く使われていなく、腐食も進んでいる。

早速建物が崩れていく。

 

「ちっ!お前ら撤退だ!」

 

奴らは比較的段取りの取れた動きで蜘蛛の子散らす様に撤退していく。

イレギュラーにも慣れた動き。流石だ。

 

そんな事よりも!

俺は二人に駆け寄る。が、やはり背中の傷が酷く痛む。

思わずよろけながらも崩れ行く建物の中、二人に近寄っていく。

 

「今すぐ…逃げるぞ…」

 

「ぐっっ、うぅ…。」

 

「あ、ぁぁ……。」

 

クロは斬られた際のショックで意識が朦朧としている。

シロは…なんとかなるな。

 

俺はシロの頬を少し強い力で叩く。

 

「落ち着け、シロ!今出来ることをするんだ!クロを支えてくれ!今すぐ脱出しなければ、仲良く3人土葬だ!!」

 

「そう…ですね!すみません。動揺していました。」

 

物分かりが非常に良くて助かる。

 

「ゴフッ。」

 

勢いよく喋った事で少し吐血するがそれに構う時間はない。

 

「いく……ぞ…?」

 

だがその時、運が悪い事にシロとクロに向かって大きな木の塊が落ちてきた。

 

「糞がっ!」

 

「わっ!」

 

「…………。」

 

 

俺は持てる力全てで二人を突き飛ばす。

その瞬間、建物に凄まじい衝撃が走り…何事も無かったかのように夜の静寂へと戻る。

 

廃工場の倒壊は一次的にだが収まった。だが、次いつ完全に崩落するかは時間の問題と言ったところだろう。

 

やがて土煙が晴れる。

 

「へ?あ…フィル…さん?」

 

シロが狼狽しているが、まぁ無理もない。

俺の下半身は、完全に瓦礫によって押しつぶされているのだから。

 

「シロ…。余り見るんじゃない。見ても…何も楽しくないぞ。」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ、フィルさんっ!フィルさん!どうか…どうか気を確かに!今助けを……」

 

「よせ。……建物はいつ完全に崩壊してもおかしくない。クロを連れて逃げろ。」

 

「だけど…だけど僕は…。僕…は…。」

 

「さっきも…言った…だろう。お前はお前の出来ることをやればいい。」

 

正直、クソ寒いし意識も朦朧としてきた。

 

「そう…ですね。僕は、今出来ることを全力で尽くします!」

 

「それで……いい。」

 

俺はゆっくりと目を閉じる。

 

いい人生……とはいかなかったが、まぁ悪くはなかった。

 

 

……。

 

 

 

 

……………?二人の立ち去る音が聞こえない。

死ぬ時に最後まで残るのは聴覚じゃなかったのか?

 

それに…なんだか温かい。体も痛くないしむしろ軽い。

異世界転生の次はあの世でサードライフの開始か?

 

「あ?」

 

俺は恐る恐る目を開く。

 

 

 

俺の目に映ったのは、天使として完全に覚醒したシロの姿だった。

白銀の髪は更に輝きを増し、月明かりをも反射しそうな程。

 

白い羽は腰からも生え、四本となっている。

 

頭の上に光輪まで付いている。

 

「……あ、フィルさん、目を覚まされたのですね。」

 

「フィルさん、よかった…私、ずっと気絶してて、何がなんだか分からなかったけど…私なんかの為にありがとうございます…!」

 

俺は豪華なベットの上で寝かされており、シロとクロが心配そうに俺を眺めている。

 

???????????

 

「……つまり、何があって…この状況に…なったんだ?」

 

すると、部屋のドアが開く。そこにいたのは、…アルティ?

 

「アルティ…何でここに?」

 

「はぁ〜〜〜。貴方、無茶しすぎだっての。と言うかあんたのことだし、大体の状況は言わなくても理解できるんじゃないの?」

 

「推測だが、恐らくシロが覚醒してクロと俺の傷を治して、その膨大な魔力に気付いたアルティかシースのどちらかがやってきて、俺達三人を保護した…といった感じか?」

 

「やっぱり大体わかってるじゃないの。まぁ、ほとんど合ってるわ。」

 

…………。助かった、のか。

なんだか、その事実に気付くと一気に、それはもうどっと疲れが押し寄せてくる。

 

 

「あ、そうそう。そのシロとクロが入ってた牧場の元締めの貴族、処刑されたわ。」

 

「なぜ?それは俺も全く見当がつかんのだが。」

 

「どうやらその貴族だけ、その施設の利益の殆どを横領していたらしいわ。だから、他の奴らからも切り捨てられた…って訳。」

 

「まぁ、じゃあこれで一旦解決…ってことになるのか?」

 

「…それが、そうともいかないのよ。蘇生魔法が使えなくなったわ。」

 

「………。つまり、今まで蘇生魔法に使用していたのは、牧場で殺した天使の肉体って事…か。」

 

「そう。今までは蘇生魔法があるから大丈夫。って理由で冒険者やその他命の危険を伴う職業に就いていた人たちが一斉退職。」

 

「また、人手不足に喘ぐ毎日って…訳かぁぁぁ……。」

 

「あの…それで……質問があるのですが…。」

 

シロが申し訳なさそうに俺に問いかける。

 

「これから、僕達は何処で暮らせばいいのでしょう?」

 

「あ。」

 

あ。家、全焼してたわ。

 

「取り敢えず、クロとシロは私が匿うわ。フィルは…どうするつもりなの?」

 

うーん。確かに二人を匿うにはアルティとシースが同居する屋敷が最適か。俺は……しばらくここに住もう。

 

「しばらくここに居させてもらうことは可能か?」

 

「えっ!?あっ!?そう!?ふーーーん。まぁ、別に全然全くもって構わないわよ!!」

 

…目茶苦茶嬉しそうだ。

何というか、こいつを見てるとやっと日常に戻れたことを実感する。

 

「そこのクロとシロ…って言ったかしら。このS級冒険者である私が直々に、貴方達に魔法の修行をつけてあげるわ!早速庭の訓練所についてきなさい!」

 

そう言うと嬉々とした表情のまま、二人を連れて庭の訓練場へと出ていった。

 

天使の魔力には、苦痛を和らげる効果があると言う。

 

だから、俺の傷を直した際に回復のポーションの様な苦痛は無かったのだろう。

 

 

…………。一人だと次から次へと考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返してしまう。

 

この屋敷はシースも住んでいる。

理由は、二人一緒に住んでいる方が、緊急クエストの際に2人のほうが段取りよく狩れるから。

 

俺はシースにも意識が戻ったという事を報告するため、ベットから降りる。

 

……凄いな。俺の記憶では骨盤は確実にぐしゃぐしゃになっていたのだが。

今はもう問題なく歩ける。

 

俺は豪邸特有のなんか無駄にゴツゴツした飾りまみれのドアを開け、シースを捜しに廊下へと出る。

この屋敷はS級冒険者になった際、貴族により献上された屋敷で、とにかく広い。

 

しかも一々細部まで煌びやか。

高級ホテルのロビーが永遠と続いている感覚だ。

 

俺はシースの部屋の前に訪れる。

だが、俺はここでいきなりドアを開けるような紳士の風上にも置けないような無礼者ではない。

 

俺は少し強くノックする。

 

「おーい、シースいるかー。」

 

……………返事がない。

ドアに耳を当てる。水音がする。

 

「さて、散歩でもするか。」

 

俺は何も聞いていない。何も聞いていない。

 

馬鹿広い庭を散歩していると、ようやく気持ちが落ち着いてきた。

あ、シースの件ではないぞ。もちろん。

 

俺はベンチの木の葉をはらい、座る。

 

どうせまた忙しくなったりトラブルが起きたりするのだろう。

だから、今だけは少しくつろぐとしよう。

 

俺は暖かな日光に当たりながら、少しうたた寝を決め込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ひとまず物語は一段落。

しばらく馬鹿みてぇな話が続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。