星輝の女帝(スターライト・エンプレス)   作:アキ 3150

2 / 4
前回のあらすじ

 海鳴市に住む6歳の少女、高町なのは。
 両親と兄と姉の5人家族の末っ子としてごく普通の暮らしを送っていたのだが、父親の入院をきっかけに崩れ始めた。
 意識不明の重体となってしまった父親の分、忙しくなってしまい末っ子のなのはは1人で過ごすことが多くなった。
 そんな日々を過ごすうちに高町なのはは自分の存在価値を見出せなくなってしまい、消極的な自殺を実行してしまう。

 公園で消極的な自殺を初めていた高町なのはだが、突然目の前に『次元の穴』が開き、そこから現れた謎のネックレスの中で死にかけていた異世界のスライム:リムルに魔力を分け与えて助けた。

 2人の出会いは世界にどんな影響を与えるのだろうか。


第2話 旅立ち

海鳴市の公園

 

現在時刻 19:30

 

 

 

 夜の公園で高町なのはは手に持つ"水色の宝玉付きネックレス"の中にいるリムルと話していた。

 

 

 

「リムルくんは、どうしてここに来たの?」

 

[詳しいことは俺も覚えてないんだけど]

[元の世界で殺されそうになって、ギリギリのところを魂だけをこの宝玉に移して異世界に飛ばしたんだと思う]

[だからここに来たのは偶然…かな]

 

「殺されそうにって…大丈夫なの?」

 

[……魂は君がくれた魔力のおかげでなんとか安定したけど…まだまだ完治には程遠いし…身体も無いし……死にはしないけど………]

 

 

 

 目が覚めた当初は拳大ほどのスライム形態だったリムルだが、魔力で作った仮初の姿に過ぎず、消耗を抑えるために現在は『思念伝達』で会話をしている状態だった。

 このこともあってなのはには未だにリムルが危険な状態なのでは無いかと心配していたのだが、案の定、問題だらけだった。

 

 

 

「もっと私の魔力いる?」

 

[それは絶対ダメ!これ以上の"名付け"は本当に君が死んじゃうから!]

 

 

 

 リムル曰く、さっき高町なのはにお願いした行為は彼の世界で"名付け"と呼ばれる儀式だという。

 この儀式は簡単に言えば、他者に己の魔力を譲渡するものであり、儀式後は譲渡した分だけ総魔力量が減ってしまう上に、一歩間違えると命に関わるほどに魔力を失うこともある危険な儀式だった。

 

 そんな危険な儀式を何の事前説明もなくやらせるなど、本来なら許されない行為だ"幼い子供を騙してお金(魔力)を巻き上げた汚い大人"と呼ばれても文句は言えない事案である。

 しかし、あのままではリムルの魂は完全に離散して消滅してしまっていたし、当時の海鳴市においてリムルを救えるほどの魔力を持つのは高町なのはしかいなかった。

 

 また、これはリムルも知らないことだが『次元の穴』が高町なのはの目の前に開いたのは偶然では無く、リムルを異世界へと逃した"相棒"がリムルが魔力を回復しやすいように大きな魔力を持つ善良な存在の元に届くように調整した結果、高町なのはの元に辿り着いていたのだった。

 

 元魔王とはいえ、リムルは前世日本人の善良なスライムだ。

 消滅の心配が解消された今、幼いの少女を死なせてまで魔力を集めようとは思っていなかった。

 

 

 

「でも…リムルくんはこれからどうするの?」

 

[……まずは、傷を癒やさないとだから魔力を集めるために異世界に行こうと思うんだ]

 

「でも1人じゃ危ないよ?」

「今のリムルくんは動くのも大変でしょ?」

 

[………]ズーン

 

 

 

 高町なのはの指摘は的を得ていた。

 

 現在のリムルの魂は離散しない程度に安定しただけで、自力で魔力を生成できるほどに回復するには、さらに多くの魔力か数千年ほどのかけて自然治癒するかの2択であった。

 

 しかし、魔力を集めようにも、今のリムルには異世界へ渡るためのゲートを開くための魔力も、自身を移動させるための魔力も、高町なのはから譲渡された魔力の余りが僅かにあるだけで、実際の所なのはと話すために使っている『思念伝達』ですらそのうち使えなくなってしまう。

 

 結論として、リムルは命が助かっただけで未だに要救助者であるということだった。

 

 

 

「私に何か手伝えないかな?」

 

 

 

 高町なのはがそう尋ねてきた。

 その問いを聞いてリムルはしばらく黙っていたが、やがて恐る恐る話し始めた。

 

 その内容は、リムルが高町なのはから譲渡された魔力を、一度リムルが高町なのはに"名付け"をすることで返却する。

 こうすることで2人の間には"魂の回廊"という繋がりが構築され、この回廊を通すことで高町なのはが生成した魔力をリムルに送り、リムルの魂の再生を促進させつつ、彼女魔力を用いてリムルがスキルを使って異世界に旅立つ──というものだった。

 

 現在、高町なのはの魂─時空管理局ではリンカーコアと呼ばれるものは、リムルにその力のほとんどを譲渡してしまったため、生成できる魔力量がとても少ない。

 そのため、リムルは譲渡された魔力を高町なのはに返すことで彼女のリンカーコアを元通りにし"魂の回廊"を通じて生成された魔力を送ってもらうことで、その強大な魔力を送り続けて貰おうとしている。

 

 

 

[ただ…この方法だと俺と君は……離れられなくなっちゃうんだ]

[いくら魂の回廊で繋がっていても、異世界とだと繋がらない可能性が高いから……]

[…君も一緒に……来ることになっちゃうんだ]

 

 

 

 つまり、リムルの旅立ちには高町なのはの同行が必須ということだった。

 そのことを知った高町なのはは──笑っていた、彼女から消えていたはずの満面の笑みまで浮かべて喜んでいた。

 

 そして、即答で一緒に行くと言い切った。

 

 自分がいないとリムルが旅立てない。

 つまり、自分を必要としてくれてる。

 その事実が何より嬉しい少女は、見知らぬ世界に行くことも、家族と離れ離れになることも、何の障害にもなり得なかった。

 むしろ家族に関しては、自分は要らない者だと思い込んでいるため、しばらく距離を取りたいと考えていたくらいで、リムルの話は渡りに船であった。

 

 まさか即同意されるとは思っていなかったリムルは少し面食らったが、彼にとっては最高の展開だったので内心ほくそ笑んでいたほどだ。

 

 

 

[それじゃあさっそく"名付け"を……]ハッ

[そういえば…名前を聞いてなかった……]

 

「あっ…ごめん、自己紹介してなかったね」

「私は高町なのは、6歳だよ」

 

[なのは……高町なのは…]

 

 

 

 リムルは少女の名前を何度か繰り返してしっかりと記憶した。

 そして今度は魔力を、高町なのはが譲渡した魔力と同等の魔力を込めて呼ぶ。

 

 

 

[君の力を返すよ、高町なのは]

 

 

 

 リムルから黒紫色の魔力が溢れ出し高町なのはの胸に吸い込まれていき、リムルの宝玉は名付け前のように弱々しい光に戻っていく。

 魔力の譲渡が終わると、高町なのはは"名付け"のによる変化に驚いていた。

 さっきまで感じていた強い倦怠感が無くなっていること。

 自分の胸の内から溢れてくる不思議な熱、この熱こそが魔力だと確信した。

 そして、さっきまでただ喋るだけの宝玉だったリムルのことが不可視の繋がりを通して流れ込んできた。魂の消滅による死の恐怖が、帰りたいと願う思いが、助けると誓った誰かへの約束が、必ず復讐すると決めた怒りが、幾多の思いに触れた。

 この繋がりこそが"魂の回廊"なのだろう。

 

 魂の回廊を通してリムルの内心に触れた高町なのはは、リムルを救いたいと願った。

 彼の内に渦巻く暗い感情を少しでも晴らしたいと、復活したリンカーコアをフル稼働させて魔力を送る。

 少しでも早くリムルが帰れるように──

 

ーーー

ーー

 

現在時刻 22:43

 

 

 

 高町なのはがリムルに魔力を送り続けて3時間以上、ようやくリムルと会話出来るほどに回復した。

 

 

 

「何度も助けてくれてありがとうな、なのはちゃん」

 

「ううん私がやりたいだけだから大丈夫だよ、リムルくん」

 

 

 

 現在リムルは魔力で作った拳大ほどのスライム体でなのはの膝の上に乗っており、今後のことを話し合っていた。

 異世界に行くことは決まっているが、6歳の少女と喋るネックレスだけで旅をするのは危険すぎる。

 何かしらの自衛手段が必要だった。

 

 そこでリムルが考えたのが、リムルの魂を一時的になのはに融合することでリムルの持つ知識・技術・スキルをなのはが使えるようにする方法だった。

 強大な魔力を持つだけの少女である高町なのはと、強力なスキルや技術を持ちながら運用するための魔力を生み出せないリムル、1人では無意味でも2人合わせれば戦える。

 

 この技をリムルは『同化融合(ユニゾン・イン)』と名付けた。

 それは奇しくも、とある古代の魔導文明が作り出した魔法の杖の機能に非常に酷似していた。

 

 何はともあれ、これで自衛手段も手に入れたので、早速異世界へ出発!しようとしたなのはをリムルが止める。

 

 

 

「今日はもう遅いから明日にしようぜ、なのはちゃんも手ぶらで行くのはイヤだろ」

 

「……」

 

 

 

 なのは黙り込んでしまう。

 正直に言えばなのはは帰りたくなかった、家にいるとどうしようもない寂しさと悲しさで死にたくなるから。

 しかし、旅に行くのに手ぶらは良くないことは6歳の自分でも直ぐにわかることだ、異世界には命の危険もあるのだから出来る準備はするべきだった。

 

 全く気乗りしないなのはをリムルは何とか説得して帰路につかせた。

 リムルのネックレスを首に掛けてなのははトボトボと歩いた。

 

 なのはが家に着く頃には時間は夜の11時を過ぎていた。

 しかし、家に灯りは無く、玄関には鍵がかかっていた。

 6歳の末っ子がまだ帰っていないというのに、完全に戸締りされていたのだ、玄関横に隠してある予備の鍵で家の中に入るも、やはり電気は消えており、誰も起きていない。

 なのはは静かに音を立てないように、母親、兄、姉の部屋を覗き込んだ。

 そこにはぐっすりと熟睡する家族の姿があった。

 なのはは自室のベットに飛び込んで枕に顔を埋めて泣いた。

 やっぱり自分は家族にとって要らない存在、忘れられた存在なんだと声を上げて泣いた。

 そんな可哀想な少女をリムルはスライムの小さな身体で頭を撫で続けた少女が泣き疲れて眠るその時まで──高町なのはにかけた認識阻害の魔法が正常に発動していることを確認してほくそ笑みながら撫で続けた

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

高町家 なのはの部屋

 

現在時刻 8:13

 

 

 

 高町なのはが目を覚まし時計を見ると朝の8:00を過ぎていた。

 いつもなら朝食前に誰かしらが起こしてくれていたのに今日はそれすらもない。

 悲しみを押し殺して洗面台に向かい顔を洗う、鏡に写る自分の顔は悲しみの余り感情が抜け落ちており、まるで人形のような無表情で不気味だった。

 顔を洗ったあとにキッチンに行って見るが誰もおらずなのはの分の朝食も用意されていなかった、時間的に翠屋の開店準備をしているのだろう。

 冷蔵庫を開けて見るがやはり少女の分はどこにも見つからない。

 仕方なく適当なコンビニ弁当を取り出して電子レンジで温めて食べる。

 

 もぐもぐもぐもぐ

 

 1人でご飯を食べるのは今回が初めてじゃない、それでも今回の食事がなのはには一番悲しく寂しい食事だった。

 食べ終わった容器はゴミ箱に入れて歯磨きをし、自室に戻ってきたなのはに、枕元で眠っていた水色のスライム:リムルが話しかけた。

 

 

 

「なのはちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫!昨日リムルくんが慰めてくれたし!いっぱい泣いたから大丈夫なの!」

 

 

 

 リムルの心配をよそに高町なのはは元気よく笑顔で答えた。

 なのはは確かに家族に忘れられた。

 しかし、彼女にはリムルがいる。

 魂で繋がっている恩人がいる。

 だからもう泣かない!

 泣いても何も変わらないんだ!

 何も出来ない役立たずな自分とはここでお別れするの!

 リムルくんと一緒に旅をして強くなってみせるの!

 

 そう言ってなのはは大きなリュックを取り出して旅の準備を始める、自分の思う必要そうなものを集めていく、その後ろ姿には一切の負の感情が見えなかった。

 

 

 

(この子ホントに6歳か!?)

(メンタルどうなってるの!?)

 

 

 

 リムルの心叫びも当然のことだろう。

 6歳の女の子、本来ならまだまだ親に甘えたい盛りであり、甘えるべき時期の小学校入学前の女の子だ。

 そんな少女が家族に忘れられ、無視されるという児童虐待と言われかねない状態にも関わらず、そのことを思い詰めることもなく未来を見ているのだ。なんて強い子だろう。

 

(こんなにメンタル強いなら小細工しなくてよかったじゃねーか)

 

 およそ1時間ほどで高町なのはは必要な荷物をまとめ終わり、今はリムルの提案で家族に向けた手紙を書いていた。

 例え家族がなのはのことを忘れていても、なのはは覚えてる。

 優しかった家族の温もりを、優しさを、しっかり覚えている。

 

 だから残す、ここまで育ててくれたことに、愛してくれたことに、感謝して手紙を書こう。

 

 

 

 

 

かぞくへ

 

 

 いきなりいなくなってごめんなさい

 

 でもたすけてあげたいひとができたの

 

 そのひとはとてもさびしがりやで

 

 たくさんのものをなくしちゃってとてもきずついてるの

 

 わたしはそのひとをたすけてあげたいの

 

 わたしにしかできないことなの

 

 そのためにたびにでます

 

 しんぱいしないでください

 

 

 

 みんながわたしのことをわすれてもだいじょうぶ

 

 わたしはおぼえてるから

 

 だから

 

 だからいつかかえったら

 

 またむかしみたいにあいしてくれるとうれしいな

 

 

 

 いってきます

 

 

なのは

 

 

 

 

 

 手紙を机の上に置いてなのはは立ち上がる。

 

 荷物を詰めたリュックを背負い、リムルのネックレスを首にかける。

 スライムのリムルがなのはの右肩に乗る。

 

 

 

「もういいのか?なのはちゃん」

 

「大丈夫だよリムルくん」

 

「わかった……それじゃあはじめるぞ」

 

 

 

 そういうとリムルはスライム体を魔力に戻す。

 ネックレスの宝玉が輝きだし、やがて中央から白い光を放つ紫色の球体が現れた、これがリムルの魂だ。*1

 

 

 

「いくよ、リムルくん」

 

[ああ]

 

「「同化融合(ユニゾン・イン)!」」

 

 

 

 リムルの魂がなのはの胸に吸い込まれる。

 すると、なのはの母親譲りの茶髪がリムルの体色と同じ水色に染まり、ワインレッドだった瞳は金色に染まった。

 

 『同化融合(ユニゾン・イン)』したことでリムルはなのはの魔力を自由に使えるようになった。

 リムルはさっそく魔力を使って異世界に行くための魔法術式『異世界門(ディファレントゲート)』を組み上げる。

 するとなのはの目の前に大きな門が現れる。

 

 

 

「これを通れば異世界に行けるの?」

 

[そうだ、どんな世界かは行くまでわからない……やめるならこれが最後だ]

 

「行くよ、じゃないとリムルくんが困るでしよ?」

 

(こんなときも他人のためか、良い子過ぎないかなこの娘)

「わかった、それじゃあ行くか」

 

 

 

 なのはは同化融合(ユニゾン・イン)したまま『異世界門(ディファレントゲート)』を通り異世界へと旅立った。

 2人の旅路に幸運を───

*1
アニメ転スラの『反魂の秘術』の際に現れた魂と見た目は同じ





【補足情報】
・人間である高町なのはに"名付け"が出来るのは仕様です。
(転スラ原作では出来なかったと思うのでこの作品では可能ということにしてください)

・異世界に旅立たず、なのはからの魔力だけでは、リムルが完治するのに軽く数百年はかかってしまうので、異世界行きは確定事項だった。

・高町なのは
 彼女の魔力量はリムルの魂という高エネルギー体に触発されて増大し、管理局基準でSランク相当にまで強化されている。
 6歳でありがら精神性が極まっているメンタルお化け、でも原作なのはさんも似たようなものなあたり筋金入りである。

・リムル
 実は高町なのはに認識阻害の魔法をかけて家族になのはのことを思い出しずらい状況に陥らせて精神的に追い込んだところを取り入って異世界行きを同意させようと考えていたが、そんなことに挫けない強靭なメンタルとリムルを助けたいという善良な心に焼かれて、罪悪感に苛まれた元魔王、慣れないことはするもんじゃないと反省した。

次回 第3話 7年後(3年後)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。