耳で鳴り響く寒冷な風の音は、不思議と嫌ではなかった。視界は白く、冬を思わせた。
頼りなし。一文無し。
脳裏に告白をしてきた彼女、
白い人生をどう染めようか。身寄りもない人間が歩くこと十数分。
余りに人間らしい立ち振る舞いでベンチに座る。肩に掛けていたアコギを下ろす。人間の手となったが、
「さよならさえも 言えないんだね この姿では」
「さぁ誰か 返事をして さぁ」
大きな足音を立てて近寄ってくる姿が
「忘れられないものに 手を伸ばして あの日の影を追うよ」
何者かに肩を強く捕まれる。痛さで顔を顰めつつ、
「愛おしいはちさんの音色を奏でている!許せない!はちさんはちさんはちさん!私のはちさん!お前は誰だ!私のはちさんの真似事をしやがって!」
狂乱した女が
「あ、あぁ。お、おはよう。真理」
「だから!あなたは誰だって言ってるんです!答えてください!」
傍から見たら警察を呼ばれてもおかしくはないが、真理は
「私だよ。愛おしいはちさんの姿を忘れたのかい?」
「えっ」
今度は真理が呆気にとられる番であった。彼女の顔が紅潮していく。恥じたからか。興奮からか。
「ああ、はちさんはちさんはちさんはちさんはちさんはちさん私のはちさん私の私の私の……」
狂気に染まった人の末路を見届けた。
「そうだよ。真理のはちだよ。」
突如、抱き着かれた。
「大好き~~~!」
耳元での絶叫。
あなたからの好意は分かったから。と、無理やり真理を引き剝がす。暖かな感触が離れることに少し寂しさを感じた。
「改めて、真理。おはよう。いい天気だね。」
こういう時は世間話だ。アコギを弾きながら真理に返事を求める。
「いい天気ですか?私は少し寒すぎると思います。でも、はちさんが言うなら、いい天気ですね!」
やりづらさを覚えた。そのため、閑話を
「なぁ、真理。しばらく家に泊めてくれないか。行く当てがない。」
「喜んで!」
蛸本はちは
神功により、蛸本はちは人間らしさを得ています。
ぶらんこは春の季語らしいです。作中では冬です。
コトバンクより
寒(かん):さむい。さむさ。
閑(かん): 用事がないとき。ひま。
閑室(かんしつ):人気(ひとけ)のない静かな部屋。
変易(へんえき):変わること。また、変えること。
雑感(ざっかん):種々の感想。
温覚(おんかく):皮膚の温度よりも高い温度の刺激による、皮膚の感覚。