ゾンビワールドに送り込まれた逸般人 作:ゾンビニキ
……眠っていたのか?
俺は確か、ゲームをしていた。
徹夜するまでゲーム三昧で。
その後に、出前でピザを頼んで……それで……?
「……は、ぁ? ……何だよ、これ、何なんだよ……クソ!!」
目を開ける。
すると、そこはコンクリートの壁に囲まれた何処かの部屋であった。
何も感じない、ただ無機質で冷たいだけだ。
俺は拉致されたのかと考えて、必死に助けを求めて――
《ようこそプレイヤー!! 君は栄えある100万人目のプレイヤーに選ばれた!!》
男とも女とも言えな不気味な機械音声が脳内に響く。
俺はパイプ椅子に座らされていた。
後ろ手は手錠か何かで拘束された状態。
首元には首輪のようなものを嵌められていた。
何でこうなった、どうしてこんな事に――そんな事を考えていれば視界が変化する。
「何だ!? おいこれは……何だよ!!」
《驚く事はない!! それは所謂、配信機能の……まぁ、何だ。実際に体験してもらった方が早いだろう!》
機械音声が何かを呟く。
瞬間、機械音がして手錠が外れた。
自由になれば、出入り口らしきものも開かれて――何かが入って来る。
「ああぁぁ」
「……!! おい、何だよ……何だよこいつは!?」
《さぁチュートリアルの始まりだ!! 勿論、負けたらそれまでだよ!! はは!》
入って来たのは、虚ろな目をした血だらけの人間。
皮膚の一部が剥がれて、筋肉繊維が露出している。
腐敗臭のようなものも漂っていた。
うめき声を上げながら、のろのろとこっちに近寄って来るそれ。
明らかに異常であり、俺は椅子を弾き飛ばしながら後ろに後退する。
すると、視界の端で――文字が見えた。
【今回の参加者は……普通だね!】
【生き残れそうにないなぁ……ま、頑張ってという気持ちで、はい】
「おい、おい!! 何だよ、何なんだよ!? おい!?」
俺は必死に助けを求める。
が、視界の端で謎の文字が流れるだけで変化はない。
得体の知れない何かは両手を上げて叫び声を上げて――
「うわぁぁぁ!!?」
迫って来た何かに――掌底。
頭が後方へとのけ反り。
体勢を崩しかけているそいつの左腕を掴みながら背後へと回る。
そうして、足を引っかけてやり前へと倒しながら、膝を相手の首へとあて――折る。
べきりと音を立てて、床に倒れた何かは首の骨が折れた。
見れば、ぴくぴくと痙攣している。
まだ、動けるようではあるが。
先ほどのように襲っては来れない。
俺はそんな化け物を見つめながら、汗を拭う。
「……何なんだよ、これ!?」
【……え?】
【……普通に倒した? 素手で?】
俺が何かを倒した事で、文字がまたぽつぽつと流れて行く。
俺は混乱しながら、先ほどの機械音声に質問した。
「なぁ!? 悪い冗談だろ!? 此処から出してくれ!? ゲームのデイリーをしなきゃならないんだ!! 早く此処から」
《おめでとうございます!! 晴れて、この世界の住人となる第一歩を踏み出せましたね!! それでは、選別としてこれをお渡ししましょう!!》
「は? 何言って……! これ、は?」
目の前で光が発生する。
反射的に手を出せば、それは手の中に入り……“グロッグ17”?
マッドブラッグの自動拳銃。
ゲームの中で見慣れた銃だった。
俺はどういう事かと叫びながら、マガジンなどをチェックしていく。
《さぁ! それを手にこのいかれたゾンビワールドを生き抜きましょう!! 晴れて、1億ポイントを達成すれば、元の世界に戻して差し上げましょう。更に更にぃぃななななんと――何でも望みを叶えてあげますよぉ!!》
「はぁ!? 何言ってんだ!! いいから俺を元の世界に……!!」
俺が必死になって元の世界に帰すように訴えれば。
開かれた扉から凄まじい力を感じた。
吸い込まれるようであり、俺は必死に床を掴もうとした――が、ダメだった。
「うわぁぁぁぁ!!?」
《説明不要!! 必要な事は全て貴方の頭の中に!! それではそれでは――善きゾンビライフを!!》
#
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……クソ、何なんだよ!」
俺はマガジンを交換する。
このいかれた世界へと送り込まれて――およそ三時間が経過した。
現在は、崩壊した街の中を彷徨っている。
炎が噴き出す建物に、焼け焦げた死体が入った車。
正面衝突をしたであろうトラックとバスであったり。
日本にはない銃砲店やキャッチーなアイスクリーム屋。
運の悪い事に、俺はゾンビだらけの廃ビルの屋上に飛ばされた。
そこから、初期武器であるグロッグを使って何とか苦難を切り抜けて。
頭の中に入っている配信システムなるものを使って、何とか、何とか……く、うぅ!
「どうするんだよ、これ……こんな世界で、俺は、耐えられない!!」
「「「あああぁぁ」」」
「あああぁぁぁ!!?」
ゾンビのうめき声がした。
俺は叫びながら反射的に六発の弾丸を放つ。
それらは精確に物陰から出て来たゾンビの眉間を撃ち抜く。
ごろりと死体が転がり、ポイントが加算された通知が出て来た……クソ!!
「いかれて、やがる!!」
【お前がな】
【本当に一般人ですか? 動きが手慣れてる気が……】
【逸般人じゃねぇか!】
コメントが流れて行く。
俺はぞろぞろと出て来るゾンビを処理しながら、イラつきを視聴者にぶつける。
「クソ!! お前ら何なんだ!! こんな配信見て何が面白いんだ!!」
【説教草】
【草】
【草】
【説教しながら片付けてるんですが?】
俺が何かを言うだけで草を生やす……いかれてやがる!!
俺はマガジンを交換する。
そうして、獲得したポイントを使って予備のマガジンを購入する。
いかれたシステムではあるが。
これを使わなければ生きる事は出来ない。
配信システムと呼ばれる謎の機能。
俺の視界の端に流れる文字はコメントであり。
俺の視界を通してこの生配信を見ているいかれた視聴者たちのものだ。
視聴者の数が一定数に達すれば、収益機能が解放される。
視聴者数に応じて、ポイントが入って来るらしい。
ポイントは、交換所と呼ばれるシステムで物品と交換できる。
ネット通販みたいなものであり、ポイントに応じてそれ相応のものが手に入る。
銃の弾丸もそうであり、ポイントにすれば500ポイントで一つのマガジン分の弾丸が手に入る。
ポイントは、収益機能以外にもスパチャなるもので手に入る。
それ以外にも方法はあり、敵であるゾンビを倒せば貰える。
先ほどの普通のゾンビは一体倒せば100ポイントだ。
つまり、五体倒せばハンドガンのマガジン一つ分にはなる。
今、俺の持ちポイントは5000ポイント。
廃ビルから抜け出すまでに3000ポイントは消費した。
弾はなるべく浪費しないようにしているが……クソ!!
「いかれてやがる!! 1億ポイント分のゾンビを狩るまでどれだけ時間が掛かるってんだ!!」
【出来る前提で草】
【こいつならやりかねない】
【ところで自己紹介はまだ? 配信するなら、自己紹介した方がいいですよ!】
コメントの奴らが俺に自己紹介を求めて来る。
こんな事で自己紹介をするのは癪だが。
少しでも多くのポイントを手に入れる為であるのなら……仕方ない。
「……天野だ。
【ただの、フリーター……?】
【ギャグですか?】
【元特殊部隊員とかではなく?】
「あぁ!? 何言ってんだよ!! 俺は必死なんだよ!! 今だって怖くて怖くて!!」
「「「ああぁぁぁ!!!」」」
ゾンビが叫ぶ。
今度は走るタイプのゾンビたちで。
合計で十体であり、激しい動きで迫って来る。
俺は叫びながら、銃口を奴らへと向けて――連射。
全ての弾丸が精確にゾンビ共の眉間を撃ち抜き――ノールックで後方へと銃弾を放つ。
瞬間、電柱の上から飛び掛かろうとした猿のゾンビの頭をぶち抜く。
死体はごろりと近くに転がり。
一気に1700ポイントが手に入る……うぅ!
「こ、怖い。吐きそうだ……うぷ」
【こっちがこえぇよ】
【天野さん何者ですか!?】
【ちょっち調べてみっかぁ】
俺は歩き出す。
先ずは、同じように巻き込まれたであろうプレイヤーを探そう。
そうして、協力できるのであれば協力したい。
生きたいという願いと帰りたいという願い。
その二つを抱えながら、俺は血なまぐさい世界に――降り立った。