あのとき支援者が提案したのは実にシンプルなことだった。いやもう先に言えよと言いたくなるレベルだ。
『解 それは――吸血牙装:爪を戻し吸血牙装:槍尾を展開することです』
ほえ?アホみたいな声が漏れた。だが、そんな状態になったのもしょうがないだろう。
まさかの吸血牙装は二個あったのだ。
『否 4種です』
―――4種類あったのだ。
最初から言ってくれていれば、こんなチクチク攻撃を受けることもなかったのにと、そんなことを愚痴ってみたら。
『告 戦闘経験の取得を優先しました』
とか返ってきた。
真面目なのだろうが真面目すぎてなにか大切なものを見失ってる気がしてならないが、もういいだろう。
(んじゃそれ展開してくれ!?)
飛んでくる氷柱を右手で何度も叩き落としながら必死のお願いする。というか状況分かるだろ、早くしてほしい。
『承 吸血牙装:爪 を収納します』
そう言われた瞬間、手から爪が引っこんだ。収納するならタイミング考えろ―――。
そのせいで、氷柱の危険度が一気に上昇してしまった。
人間の頃よりは強化されているステップで避けるが、スレッスレだ。
(右右左、左右右....右左右左左ッ!!)
気分はタップダンサー。あまりにも危険度が洒落にならんレベルなんだが?一歩間違えたら肩が貫かれるぞ。
というか爪に比べて随分展開まで遅いな!?まじでそろそろ当たる―――。と思った瞬間。
『スキル《吸血牙装》ー牙装:
その一言ともに背中で何かが蠢くのを感じた。
背中から何かが溢れ、黒い甲殻を形成する。それらが幾重にも組み合わさって一本の巨大な尾を紡ぎ出した。継ぎ目では血流のような赤い光が脈打つ。
不覚にも前世で死ぬ間際の俺の流れた血を思い出してしまった。
節ごとに尾はゆっくりと伸び、先端では細長い尾針が静かに起き上がる。
(なるほど......)
これまた爪とは違った凶器である。
まさに槍尾。リーチもパット見3,4mはあるし十分だろう、伸びる気もするし。しかも馴染み具合もバッチリ。
三本目の腕のように使いこなせそうだ。
『告 木々を伝って対象の後背に移動。その後拘束、もしくは刺突による殺傷を推奨します』
(助かった、行くぞ支援者)
『了』
◆
そこから始める3次元移動。槍尾を木々に絡ませ反動で飛び、瞬時に姿をくらませる。そのまま《隠密行動》を発動させ、気づかれないよう相手の背後に直行する。
『告 魔力隠蔽に権能を集中させます。サポートはできませんが、《隠密行動》が露呈することはないでしょう』
頼れる相棒がいてよかった。
木々の間で跳ね、槍尾の伸縮で緩急をつける。そしてそのまま―――――――――。
「捕まえた」
吸血牙装が唸りを上げる。
しなやかに伸びた尾は、その胴へ絡みつき、一瞬で自由を奪う。
「――っ!?」
尾はさらに締まり、前脚も後脚も地面へ縫い付けるように拘束する。
抵抗しようとしているが、黒い甲殻は獲物を逃がすまいと食い込んでいく。
ようやくというか、俺は牙狼族のユニークを拘束することに成功したのだ。
◆槍尾で銀の狼を抑え込む。そこまでは良かった。良かったのだが――。
(気まずい.........)
未だ槍尾で抑えているが、そもそも暴れる素振りすら見せずにいるのだ。氷柱も飛んでこないし。ただ、とにかく睨まれている。
(どうしよう...)
こんな状況前世も今世も含めて体験したことなんかないぞ。いや、体験しているほうがおかしいか。
そんな感じのことをグルグルグルグル考えていると。
(なぜ、殺さないのですか)
「.........は?」
その思考が止まる。今の声は―――女性のものだった。冷静だがどこか幼い響き。
(.....これは)
なにげに驚きなのだが。
(メス、だったのか)
見た目が銀の狼でかっこいいだけあって完全にオスの狼だと思っていた。
見た目で判断すると良くないんだなぁ~と半ば現実逃避で考えていた俺に狼が言葉を発した。
(なぜ、と聞いています)(私は、できるできないに関わらずあなたを殺そうとしました。ならばなぜ、あなたは私を殺さないのですか)
「.....ナルホド」
なんと言うべきか。同じユニークモンスターだから気になって話がしたかった、みたいなのはアウトだろう。軽すぎる。
それにこの状況を再確認すると''くっ殺''では―――いややめとけ。
頭によぎった無粋な考えを端に追いやり、どうにか理由を捻り出そうとして、考えついたのは
「ん...別にさ。最初から殺すつもりはなかったんだよ」
素直に思ったことを話すというものだった。
洞窟で戦ってきた魔獣はとは違う。本能のまま生きるために襲ってきた魔獣。それを生きるために戦って殺した俺とリムル。
しょうがないと言えばしょうがなかった。
でも、眼の前にいる狼は、襲いかかってきたとは言え理性があって言葉が通じる。どっちが危なくて危険か、なんて話ではなく。
「.........言葉が通じる相手を、話も聞かずに殺すのはどうかと思うんだよ」
少し肩を竦める。
「後味悪いしな」
俺が吸うのは血だし。そう言い切ると、銀の狼は、ほんのわずかに視線を緩めた。張り詰めていた空気が少しだけほどける。
(そうですか)
短く息を吐くかのような声。
(理解はできませんが、納得はしました)
「そっか」
肩の力を抜く。
「ま、無理に分かる必要はないだろ。種属も違うし」
価値観なんて違って当然。俺はもともと人間だし、おかしいと思われてもしょうがないだろう。納得してくれただけ御の字だ。
(.......ひとつ、よろしいですか)
「なに」
(拘束を外してもらえませんか)(逃げも隠れもしませんし、もちろん攻撃だってしません)
「ほん?」
少し意外に思う。
「なんか素直になったな?」
(当然です)
即答だった。
(私は群れの中で最も強い個体でした。その私が敗北した以上、勝算は薄いでしょうから)「なるほど」
納得したと言うか、プライドが高いというわけじゃなくリアリストなのだろうか。そっちのほうがわかりやすいから、俺的には楽なのだが。
「ならいいぞ」
槍尾を緩め拘束を解く。 それでも警戒を完全に解いたわけじゃないから、槍尾は出しっぱなしだ。
(感謝します)
「別にいいよ。そんくらい」
軽く手を振って。
「思ったより時間かかったからな。あっちもあっちで決着ついてるだろ」
(.....なぜそう思うのですか)
「リムル―じゃなくてスライム、いたろ」
(......あのスライム)
わずかに声色が変わった。
(あなたと同等の強さを?)
「同等かはわからんけど」
同等どころかあっちの方が絶対強い。
だが、言うつもりはない。
もう一回戦うことになっても面倒だしな。
「少なくとも、負けはしないぞ」
(たぶん圧勝だろうが) 内心でそう付け足す。しばしの沈黙が流れるが、やがてどちらからでもなく歩き出した。
敵としてでも仲間としてでもなく。
絶妙な距離感を保ったまま。村へと向かって。
「行くか」
(はい.......)
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全然書いてないけどイフリート戦終わったら、他の視点やる?
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黙って続き書けや