「おはよう.....昨日よりは顔色良さそうだな」
(おはようございます、えぇお陰様で体調は回復してきてます)
今は、昨日と同じようにあのテントの中だ。
急に押し入ったわけではなく、入る前に老いた牙狼たちに話は通しているから問題ない。
むしろ
(ぜひどうぞ、というかナギサ殿以外お嬢様と話せませんから............)
と、いう感じで悲しんでいた。
そのままにするのもアレなので、彼女の様子を見て、理由は聞いてみると約束してある。
(それで、ナギサ殿どうして私のところに?)
そんな疑問が彼女から飛んでくる。
「ちょっと様子を見に。昨日約束もしたしな」
聞きたいこともあるし、と内心付け足しておく。 正面切って聞いても外で待ってる奴らに迷惑だろうからな。
それを聞いた彼女は、小さく目を伏せた。 しばらく黙っていたが、やがて静かに口を開く。
(……でしたら一つ、お願いしてもよろしいでしょうか)
「なに?」
お願いとな。
(まだ、もう少しだけ)
(この中にいてもよろしいでしょうか)
「……中って、テントのことか?」
外に出るのが辛いのか。 もし昨日のことで無理をさせていたなら、それは悪いことをしてしまった.............。
(いえ……その、まだみんなに会いたくないのです)
「あ……悪い」
今のは、聞く前に気づけた話だった。
....少し聞くか迷ってしまう、無理に聞き出したいわけじゃないが...。
外で待っている老牙狼たちのこともある。 放っておくわけにもいかなかった。
「言いたくないなら無理には聞かない。ただ……なんで群れのやつらに会いたくないのか教えてくれるか?」
「外にいるあの牙狼族たちも、心配してたぞ」
そう言った俺に対して、彼女は口を閉ざそうとしたが、しばらくして話し始めた。
(.......私は、産まれたときから群れの中の一匹でした)
ぽつりぽつりと、悲しみを込めながら、昔話でも語るかのように。
(そこで暮らしていく中で、同じく白牙狼であった母が死ぬと私は群れの牙となりました)
まさかの情報発覚である。
種族って遺伝すんの?
そんな不躾なことを考えてしまう。
(群れのみなからはお嬢様と呼ばれ、誰よりも先に敵に気づき、群れのために獲物を屠ってきました)
彼女は少しだけテントの外へと、視線を向けた。
(彼らが私を慕ってくれているのは、その群れでの名残です。以前、槍脚鎧蜘蛛に襲われたときに、彼らを助けたのですよ)
なるほど、そういう理由で慕われてたのか。
「.......そうだったのか」
つい口に出てしまうくらいには、そう感じる。
しかし、彼女はそう思わないようで。
(........いいえ) (それは、’’牙’’である私なんですよ)
そう、こぼした。
(牙狼族の繁栄のための、牙。群れでもっと強い白牙狼)
内容は、彼女を誇るようなもの。 でもそれを語る彼女はどこか悲しそうだった。
(私も、それに満足していました)
(みなを守るのは私だと、牙狼族を.....父上のお役に立つのだと)
(でも、そんな日々は終わりました)
......俺はソレになにも言えない。言う資格がない。
(父上は、あのスライムの手によって殺されました......別に、あなたを責めたいわけじゃないんです、そんな顔しないでください)
そんなこと言われても、俺はきみにとって親の仇の仲間なんだよ..。
「..........ごめん」
謝ることしか、できないんだ。
(...そして、私は群れのみながスライムに降伏したとき一匹だけ、たった一匹だけ牙を剥きました)
(......兄上は、群れのみんなはスライムに忠誠を誓いました。その新しい群れに牙を剥いた私が居座れるはずもありません..........場所があったとて、アイツには頭を垂れるつもりはありませんが)
........リムルのことか。
.....そう思っていても不思議じゃないし、なんなら当然だ。
俺も彼女の立場であれば、そのような態度を取っている。
(......牙でなくなった私は、なんなんでしょうか)
(外にいる彼らは、お嬢様と私を未だに呼び慕ってくれます)
(でも群れから孤立した私は、もうお嬢様ではありません)
そこで俺は、彼女が老いた牙狼たちから距離を取っている理由をなんとなく察した。
(.......彼らは群れの牙であった私を見ています。長の娘である、白牙狼の私)
(今の私じゃ、無いんです.......)
(私じゃ、ないんですよ........)
透明な雫が、テントにしかれた布に滴る。
(.......それが、私が彼らとかかわらない理由です)
決して嫌いになったのではありません、そう彼女は付け足した。
(ほんの少し、ほんの少しだけ、今彼らに会ってしまうと。彼らまで、嫌いになってしまいそうで)
「……そうか」
そこで言葉は切れた。彼女が外の牙狼族と会おうとしないのは、自分の側にある彼らを嫌いにならないため。
正直な話、陳腐な慰めの言葉はいくらでも思いつく。
『そんなことはない』とか。
『群れのやつらはそんなこと思ってない』とか。
でも。
そんな無責任なことを、俺は言えなかった。
彼女が抱えているのは、誰かに否定してもらえば消えるような迷いじゃない。
だから、少しだけ考えてから口を開く。
「一つだけ聞いてもいいか」
彼女は小さく頷いた。
「もう、君は群れの牙であることはやめていいのか」
群れの牙。
それが、今までの彼女だった。
...もし違うと言うなら、まだ群れの牙でいたいのであれば、それでいい。ランガたちだってきっと力になってくれる、けれど。
もし、その答えが――。
(............えぇ)
(私は。もう群れの牙では.......あれません)
「..........そうか」
彼女は俺の問いに肯定した。
迷いながら。
それでも、自分の口で。
『もう群れの牙ではあれない』と。
俺は、その答えを黙って受け止める..受け止めることしかできない。
……これでいい。
これが彼女の答えだ。
俺が決めたことじゃない。
誰かに言わされたことでもない。
彼女自身が、自分で選んだ答えだ。
だからその答えを、俺も尊重したい。
しばらく黙ったまま、彼女を見る。
.......今ここにいる彼女は、 群れの牙じゃない。 族長の娘でもない。
俺が約束した相手だ。
なら、なんで。
俺は。
自分のエゴで助けて、
悩める場所を用意すると約束して、
その約束を交わした相手を、
俺は、いつまで
『白牙狼』として見続けるつもりなんだ。
「……なぁ」
(なんでしょうか)
静かにこちらを見上げる彼女へ、ゆっくりと言葉を向ける。
おせっかいかもしれない、必要ではないかもしれない。
でも、これは。 俺が俺であろうとするために必要なことだった。
「俺に、名前を付けさせてくれないか」
その言葉を聞いた直後に、白い瞳が大きく見開かれる。 息を呑む音だけが、小さくテントの中へ落ちた。 何かを言おうと唇が震える。けれど言葉にならない。 ――しばらくして、ようやく。
(……名、ですか)
そう、戸惑いを滲ませた声が零れた
(そんな資格は、私にはありませんし……その、なぜ名前を?) )
少しだけ視線を落とす。 ……まぁ、そうなるよな。自分でも急な話だとは思う。
俺が彼女に役目を意味を与えたいわけじゃない。ただ。
約束した相手を、名無しのまま呼び続ける方が。 俺は嫌だった........俺が嫌だった。
「昨日約束しただろ、アレの延長線だよ」
居場所を作る、彼女と交わしたその約束。
それを果たすために必要だと思ったから。
「俺は、もう群れの牙としてお前を呼びたくない」
正直、ランガには悪いと思っている。
名前を与えることは、群れから彼女を引き離すことになるかもしれないから。
……それでも。
「今のお前を、ちゃんと呼びたいんだ」
その言葉に、彼女はすぐに返事をしなかった。
ゆっくり、ゆっくりと時間が過ぎる。 外から、リグルドの大きな声やランガの遠吠えが聞こえる。 テントの中の世界で、音が響くことはその間、無かった。
(.........本当に、本当によろしいのですか)
彼女は、沈黙を破り、そう問いかけてくる。
(名付けとは、大変なことです、魔物にとって命を削る行為です。本来喜ばしいことですが、私には何も返せません......渡せるものがないのです)
「なにも返せないって...」
思わず苦笑が漏れる。
「そんなもの、最初から求めてないよ。これは俺がしたくてすることだ」
「......もちろん、いらないならいい。受け取るかどうかは、お前が決めてくれ」
今度も彼女はすぐには返さなかった。 俺にできることは、もう。 待つだけだった。
布の上堕ちた雫の後を眺める。 少し俯いたまま、彼女は俺に問いかけた。
(……もし、名をいただいたなら、私は、もう戻れないかもしれません)
正直魔物にとっての名付けの重さを俺は完全には理解していない。
でも、これは分かる。
名前を与えるということは。
彼女が名付けを選ぶということは。
彼女が、自分で群れとは違う道を選ぶということなのだ。 ランガの顔が頭をよぎる.....彼女と話せと言っておきながら、この状況。
....それでも答えを決めるのは彼女だ。
「あぁ.....決めるのは君だ」
それを聞いた彼女は、眼を閉じた、
長い沈黙だった。 その沈黙ごと飲み込むように、彼女はゆっくり息を吐いて。
(......よろしければ、私に。名付けを)
(ナギサ殿から、名付けを)
迷うことのない白い瞳でそう告げた。
言いたいことはわかる。
ながいよね、だいぶ長い。
俺も書いててイライラした。
誰だナギサをエゴイストにしたのはぁ!?
あっ、俺か。
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なぜならヤル気を補充したいからです
全然書いてないけどイフリート戦終わったら、他の視点やる?
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リムルから見たナギサ
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日向と凪沙の昔話
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黙って続き書けや