貌なき侵入者   作:OTZ

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ランス6のIFストーリーです。
元々中編でしたが、長くなったので4000〜6000字程度の長編に分割して投稿することにしました


帰還の急報

「さすがはウルザだね。よくそこまで調べが行き届いてるもんだ。毎度の事ながら感心するよ」

「ふふ。兄さんが氷溶の方たちとしっかり繋がっているからこその成果ですよ」

 

 LP3年1月。アイスフレーム、グリーン隊集会所。

 来たるべき2級市民の救出計画にむけて、着々と計画が進められていた。ウルザは救出予定の施設に直接潜入の指揮を取り、詳細な経路と組織構造の把握に成功した。

 

「これだけ詳細な図面があれば、きっとうまくいく、僕らアイスフレームの誇るべき戦果になるはずさ。ただ……」

 

 ウルザの兄であるビルフェルムはおとがいの右端を人差し指でトントンと、手を当てて考え込む。彼の思考するときの毎度の癖であった。

 

「なにか、懸念すべき点でも?」

 

 ウルザは少しだけ真剣味を増した眼差しを兄に送る。彼女はさりげなく、緑色の戦闘服の前襟に触れる。

 

「いや、ただの杞憂だとは、思うんだけど」

 

 ビルフェルムはスクエアメガネのブリッジを、人差し指でクイッと、少しだけ持ち上げる。これもウルザが幼少の頃から見慣れた仕草であった。

 

「もう。そうやってもったいぶるの。兄さんの悪い癖ですよ。言ってください」

 

 ウルザは仕方のない兄だと言わんばかりの、微笑みを投げかけた。

 ビルフェルムはいつものように小さく肩をすくめて、苦笑いをした後、懸念の色を少しだけ混じらせた声で言う。

 

「うまくいきすぎだと……。思うんだよね」

 

 ビルフェルムはためらいがちな口調で懸念を現した。

 

――

 

「はっ……!」

 

 ウルザはベッドから半身を起こして飛び起きた。

 

「夢……。か、はぁ……」

 

 ウルザは額に手をやって、シーツに目をむけた。

 LP4年春のこと。計画で失敗し、兄をはじめ家族を全て失い、自身も重傷を負い、この通り車椅子なしでは歩くことすら出来ない体となってしまった。

 いや、それは言い訳であるとウルザも分かっていた。主治医であり、幹部であり、大事な仲間の一人であるダニエルの見立ててではとっくに足は治っており、あとは気持ちの問題でしかない。聡明な彼女はそのことを重々承知してはいた。

 しかし、自身のせいで多くの人を殺してしまったという自責にかられている彼女は、立ち上がる事を極度に恐れるようになってしまったのである。立ち上がった瞬間に、その記憶がフラッシュバックするのではないかという懸念が強く彼女の思考を支配していた。

 

「いっ……」

 

 もう一つ、彼女にとって新たな問題があった。

 最近になってアベルトの紹介でアイスフレームに入り、自らがかつて隊長をつとめたグリーン隊の隊長の座におさまったランスである。

 

「やっぱり……、そう慣れるものじゃないわね……」

 

 ウルザは自身の太ももや股関節に感じる痛みを覚えながらそう呟いた。彼女は既に何度かランスから夜這いをかけられ、処女を喪失し、それからも何度か性交をさせられている。少し慣れてしまい、快感を覚えてしまう自分に情けなさも感じてしまうが、それ以上に無力感や抵抗が上回り、あまり愉快なものではなかった。

 一方でランスは強引ではあるが、資金源を確保したり、小さくもいくつかの作戦を成功させたりで成果をおさめてあり、その実力は彼女も認めてはいた。しかし、それでも、夜に下卑た笑いをあげ、一方的に襲ってくる彼の夜伽の相手というのは精神的に辛いものがあった。

 

「兄さん……」

 

 夢にでてきた、敬愛する兄。既に一年以上が経過し、彼女の中で割り切ってはいたものの、それでも奥底に眠っていることを時折見る夢で嫌でも自覚させられていた。

 彼女は再度自己嫌悪に苛まれながら、もう一度ベッドにつき、睡魔に身を委ねた。

 

――

 

 翌日、アイスフレームは春らしい陽光を浴びながら、一日を迎えた。

 今日は特に任務もないため、9時頃に起きてシィルの作った飯を食べたランスは彼女を連れてぶらぶらと中央広場に繰り出していた。

 そうしていると、倉庫の壁によりかかってぐうぐうといつもの通り寝ている少女がいた。春眠暁を覚えずというわけでもなく、彼女の体質なのだ。横には小さな箱があり、倉庫に用事があったが、睡魔に襲われたものとみえる。

 

「おっ。セスナめ。またこんなところで寝てるな。しめしめ」

 

 と言いながら、ランスは彼女のところへ近づき、様子を観察する。

 近寄っても彼女は相変わらず寝ており、気づく様子はない。

 

「うむうむ。隙だらけだな。じゃあさっそくチェックするか。紳士たる俺様はいきなり突っ込んだりしないのだ」

 

 ランスはいやらしく、セスナを前にして指を動かした。

 

「ランス様ぁ。セスナさんが、かわいそうですよ……」

 

 最近アベルトによってようやくランスに合流した、シィルはいつものとおりランスの行動に苦言を呈していた。

 

「ほう。じゃあお前がかわりになるか?」

 

 ランスはシィルに向き直って言う。

 

「えっ」

「こないだみたいにまた公開フェラでもしてほしいのか? いやいっそのことハイパー兵器ぶちこむのもありだな。ゼスで魔法使いを犯すとそれだけで強者の証と、周りの連中は俺様を尊敬の目でみるようになるからな」

 

 ランスはギザギザした歯をのぞかせながら、いつもと同じく利己的な計算を組み立てている。

 

「ち、違います。私はただ」

「えーい。何もせんなら黙ってろ。俺様は忙しいのだ」

 

 そう言って、セスナの方に向き直って、ランスは彼女の胸をもみ始めた。

 

「ほほー。やっぱいいなあ。このちょうどおさまりのいいサイズ感、シィルも良いが、セスナもセスナでまた違った感触が……」

 

 そんなことを言ってると、寝ぼけたセスナがランスの手を蹴り上げた。

 

「いって! こいつ寝ぼけてやがんな……。隊長権限としてお仕置きしてやらねば」

 

 そんなことを言っていると、別の声が入ってきた。

 

「あー! こんなところに居た! セスナ起きて! 孤児院で人手が足りないから来てくれっていわれてたでしょ!」

 

 同じくグリーン隊の救護担当であるプリマであった。

 プリマの声には反応して、ゆっくりとセスナは立ち上がる。

 

「うぃ……」

 

 眠たそうな目をこすって、セスナはプリマのところへ向かった。

 

「なんだプリマ。俺様のエロタイムの邪魔をするんじゃない」

「隊長こそ何してんのさ。いくらセスナが眠りがちだからって調子乗んなよ」

 

 プリマは刺すような視線でランスを牽制する。

 

「なんだとう。代わりにお前を……」

 

 プリマに襲いかかろうとすると、無視してそそくさと箱と一緒にセスナを連れて孤児院の方向へ向かった。

 

「ちっ。プリマめ、最近どんどん生意気になってるな。またメガデスといっしょにあひあひ言わせてやろうか」

「ランス様。そんなかっかしないでください……」

 

 シィルはどうどうと、うしやうまでも馴らすようにランスの気を静めようとした。

 

「フン。まあいい。俺様はそこらの男とは違うからな。そう一人に逃げられたからと執着しないのだ」

 

 ランスはそんなことをいいながら、また中央広場をふらつき、シィルもついていった。

 そうしていると、掲示板のところへたどりついた。

 各隊ごとの連絡事項や、孤児院や集会所でのイベント告知、ゼス政府やゼス軍にまつわる情報共有などさまざまな事がかかれていた。

 

「相変わらず、つまらんことばっか書いてあるな」

「『周辺の森で。怪しい戦士を目撃との情報あり。情報求む』……。なんでしょうかこれ?」

 

 シィルは掲示板の左隅にある張り紙をみつけて言う。

 

「どうせ雑魚だろ。どうでもいいわ。おっ。OLのブラジャー講義だと……? ほうほう……」

「ランス様、それまたダニエルさんのアレだと思うんですけど」

 

 ランスはこれまでに二回、ダニエルによってこのような罠にひっかかり、ゼス国内の政治情勢などの講義を聞かされていた。

 

「うっ……。そうかもしれん。いや。いやだが、3度目の正直の言葉もある! 何より俺様のスーパーインテリジェンスたる直感が正しいと言っている! だからこれこそ本物に違いない!」

 

 そう行ってランスは嬉しそうに会場の集会所へ向かった。

 

『ああ……。ランス様。どうしてそうわかりやすい罠にひっかかってしまうのですか……』

 

 そんな事を思いながら、シィルはランスの後を追った。

 

―集会所―

 

「というわけで、今回はこれまでのゼス政府に対する抵抗の歴史について講義を行う。しっかり聞くように」

「この野郎、また騙しやがったな!! ぶっ殺してやる!!」

 

 案の定騙されたランスは怒り心頭に発して、剣を抜いてダニエルに凄んでいた。

 

「ランス様。落ち着いてください! ダニエルさんもランス様の為を思って」

 

 シィルは羽交い締めをして必死にランスを止めている。

 

「この歳であんなもん書かなきゃならんワシの気持ちにもなってみろ。いいから始めるぞ」

 

 ランスの態度も涼しい風で受け流して、ホワイトボードに板書をはじめた。

 なんとかシィルがなだめすかして、ランスは席について苦虫を噛み潰した顔でダニエルの講義を聞いていた。

 

 しばらく時間が経過するとアイスフレーム結成のきっかけとなった12月革命の話になった。

 

「ペンタゴンはガンジー王を良しとしない貴族勢力と結託して、政府転覆を狙ったが、王が鎮圧に動いたことで失敗に終わる。その時期にその方針の対立でできたのがこのアイスフレームだ」

 

 ダニエルは淡々とした口調で説明する。ランスは寝ていたが、止めるついでに講義に参加していたシィルが質問する。

 

「どうしてペンタゴンはガンジー様をよくないと思っている人たちと行動を共にしたんですか? 差別をなくそうというお話ならばガンジー王に従ったほうが、より良いと思いますけど……」

「うむ。良い質問だ。結局のところ、ペンタゴンは武装反乱によって政府権力を得ることを至上命題にしておった。だからそのために手段を選ばなかったのだよ」

 

 ダニエルは少しだけ笑みを浮かべてシィルの質問に返した。

 

「なるほど……。確かに、革命がうまくいったとしても、そこまでのやり方がよくないと、その後でいろいろと大変になってしまいますからね」

「うむ。国民は革命の成ったその瞬間だけ生きているのではない。今、この間も時を過ごしている。だからこそ、そこを見失ってはならんの……だっ!」

 

 ダニエルはそう言いながら持っていた講義ノートでランスの頭を叩いた。

 

「ふがっ」

「全く、相棒はちゃんと聞いておるのに、お前はなんでそう不真面目なのだ」

 

 ダニエルは呆れた声色で言う。

 

「んな話聞いてられっかよ。だいたいなあ、いくらそんな事言ったって、結局俺様がこなきゃ、ジリ貧みてーなもんだったろうが。あのままじゃ百年経ったってムリだったぞ」

「お前が来てから女の隊員は怖がり、男も居心地が悪くなっとる。トータルで見ればマイナスだぞ」

 

 ダニエルがそう返すと、ランスは逆上して、剣の柄を握ろうとした。

 しかし、そこでウルザが車椅子をひいてやってきた。膝には本が置かれている。

 

「あら……。ランスさん。こんにちは。シィルさんも」

 

 ウルザはランスを見かけると、小さく頭を下げた。シィルも返礼する。

 

「おうウルザちゃん。今日もかわいいな」

 

 ランスは一旦怒りをおさめてウルザに応じた。ダニエルは苦々しい顔をしたが、ウルザに語りかける。

 

「どうしたウルザ。何かあったか」

「えっと……」

 

 ウルザは、ランスをちらりと見て、返答をためらうように視線を揺らすと、少し間をあけて続けた。

 

「ちょっと、近くに来てくれる……?」

 

 ウルザの言葉に従い、ダニエルは近寄って彼女の口に耳を近づける。

 

「その……お手洗いに」

 

 ウルザは少しだけ頬に朱を指して遠慮がちに言う。この通りの体の為、彼女は自力で排泄は不可能である。そのため、主治医であり、気心のしれた年長者であるダニエルに介助を日常的に頼んでいた。

 

「分かった」

 

 ダニエルは短く答えて車椅子の上の持ち手を握る。

 

「えっ……。何、トイレだと!?」

 

 しかし、ランスは地獄耳だった。シィルも少しだけ驚いた表情だったが、考えてみれば自然な話だと察しがついたのか元の表情に戻った。

 

「よく聞こえたな……。呆れた耳だ」

 

 ダニエルは首を振りながら、ふうと息をついた。

 

「俺様は美女のことになると聴力も1000倍になるのだ。それよりもウルザちゃん、トイレをこんなジジイに頼んでいるのか……!?」

 

 ランスは驚愕の色を隠せなかった。ウルザの状況を考えれば当たり前の話だったが、直感的にランスはその状況を受け入れらなかった。

 

「……。ええ」

 

 ウルザは聞かれてしまったからには仕方ないと、諦めの境地で肯定した。

 

「なんの問題がある。ワシはウルザの主治医で幼い頃から知ってる。立ち上がれないのだから、当然の事だと思うが?」

「いや……まあ……。そりゃあ、そうなんだが」

 

 独占欲の強いランスは、やはり心のどこかで納得できない部分があるようで苦虫を噛み潰したかのような顔でダニエルの顔を見ていた。

 

「ランス様。一旦出ませんか? お取り込みのようですし……」

「えー……」

 

 シィルの提案にランスは複雑な表情をする。

 

「残っても良いが、だったらきょう一日はしっかり講義聞いてもらうぞ。まだまだお前さんには知ってもらわなきゃならんことが山程ある」

「じょ、冗談じゃねえや。行くぞシィル」

 

 いい口実ができたとばかりにランスは素早くその場から引き上げた。シィルも一回二人にお辞儀をして、この場を去る。

 講義は中途半端だったが、ようやく厄介払いできたかとダニエルは一息ついて、トイレに向かってウルザの車椅子を押し始めた。

 

 トイレを済ませ、ウルザの部屋に向かって車椅子を再度押していると、彼女は読書をしながら、口を開き始めた。

 

「今日、夢を見たの」

「そうか」

「ビルフェルム兄さんの……夢」

 

 ウルザは少しトーンを落として言った。車椅子を押す速度が少し遅くなったと、彼女は感じる。

 

「まだ……、思いを残しているのか」

「忘れるようには、しているんだけどね……」

 

 彼女の手に少しだけ力が入る。

 

「もう、帰ってこないんだ、一年以上経ったんだから……。切り替えるんだ」

 

 ダニエルは寂しげな目をしていう。

 

「そうね。そうすべきよね……」

 

 ウルザは静かに言いながら、本のページをめくった。しかし内容はほとんど頭に入ってこなかった。

 そうしていると、廊下を駆けてくる音がした。

 

「ウルザさん! ダニエルさん!!」

 

 息を切らせて飛び込んできたのはカオル。ランスのグリーン隊に所属する事実上の副隊長を務めている女性だった。

 

「どうされました? 貴女らしくありませんね」

 

 ウルザは本を閉じ、穏やかな声色で言う。カオルは珍しく落ち着きのない様子であった。

 桜色の着物から覗かせる白い肌には汗が浮かんでおり、それはただ急いできたというだけではないことを物語っている。

 

「その……。にわかには信じがたいのですが、今しがた孤児院の方で報告があり、まことに奇妙な話ではあるのですけど……」

「もったいぶらずに、はっきり言うのだ」

 

 ダニエルは先を促した。

 

「―――ビルフェルム・プラナアイスさんが、帰還されたとの、急報でございます」

「えっ……!?」

 

 ウルザの時間が止まった。手にしていた本が滑り落ち、乾いた音を立てている。ダニエルも、普段の威厳と冷静さはどこへやら、唖然として目を見開いていた。

 

―つづく―

 

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