【仮想戦記】 The Islands War 二次創作 作:perry
目の前では、多くの植民地軍の兵士たちが忙しそうに走り回っていた。検問には六名ほどの兵士が立っている。通過しようとする俺たちの車を一旦手で制して停車させ、中の人物を確認する。俺たちだと分かった途端、兵士たちは慌てて敬礼をした。
困惑しながらも頬を上気させて敬礼する彼らの姿に、エミリーは苦笑を洩らした。俺は憮然としたまま答礼する。
検問をくぐった先には、暗いビル街が待っていた。深夜でも決して灯の消えない不夜城として名の通った一帯だが、今夜はビルのところどころから光が漏れてくる程度だった。
暗闇の中を車が疾走する。暗い道を照らすのは、車の黄色いランプだけだ。俺もおおよその全容を把握しつつあったが、車内は静かだった。今更ここで騒いでどうにもならないことぐらい、自分でも分かっていた。
一行は、暗いビルが立ち並ぶ中で唯一明るいビルの前に到着した。言うまでもなく植民地軍総司令部が入っているビルだ。検問から伝達が入ったのか、ビルの前にはいつもより遥かに多い職員たちが整列していた。
車を降りると、先ほどの検問の兵士たちと同様に、整列した職員が一斉に敬礼する。答礼した俺たちは、急いで会議室へと向かった。途中で合流したエレーナから会議の用意が整ったとの報告を受けながら、足を早める。今回もいつもの第一級の招集がかかり、集まったのはいつもの十三人だった。
重い扉を開くと、エミリーと俺以外の全員がすでに着席していた。俺は黙ったまま奥の席に座る。誰も言葉を発しない中、最初にその沈黙を破ったのはエミリーだった。
「……昨日と言っても深夜のことだけど、スロリア駐屯軍第三中隊隊長のハリー中尉らが、エンティの辞職……いえ、自宅謹慎の報を聞いて武力蜂起したわ」
予想した通りの答えに、俺は顔をゆがめる。先の会議で自宅謹慎を"自発的に"決めたその時から、こうなりうる可能性は頭にあった。
とはいえ会議の前に、俺らが失敗した場合に蜂起するなどと取り決めていたわけではない。彼らも今回の会議でこれほど手痛くドクグラムらにやられるとは思っていなかったはずだ。上層部でさえそうなのだから、末端の彼らが予想などしていたはずがない。ハリー中尉たちをはじめ、他の植民地軍にとっても青天の霹靂だっただろう。
俺は集まった幹部たちを見渡した。ニコニコ顔をしている者などいるはずもなく、一同険しく顔をしかめている。特に作戦担当のハーレン少佐の狼狽ぶりは俺も内心驚くほどだったが、彼としては当然の反応だ。
ハリー中尉をはじめ、俺の抜擢と昇進システムによって這い上がってきた者たちにとって、俺はその才能を認めてくれた恩師であり、同時に後ろ盾でもあった。その後ろ盾が失脚するということは、彼ら自身も冷遇されるということだ。家の格で昇進が決まる旧来の国防軍のシステムに逆戻りすることを、彼らは恐れていた。
「やはり、そうか……」
「エンティ、やっぱりってことは予想していたのか?」
「ああ。確信はしていなかったが、こういう事態になりうるとは思っていた」
「そうか……」
さすがに空気を読んだのか、いつもの軽薄な物言いをおくびにも出さず、アドルフは頷く。
「そうだ、アドルフ。お前が今後司令の職を兼任するように、だとさ」
「了解、ってすでに決まっていることなんだろ?」
俺は頷く。次に口を開いたのは情報担当のサムス中佐だった。
「情報局、スガルの動きは今のところ特にないな。しかし、直属の部下から、今こそ行動を起こす時だと涙ながら訴えられたぞ」
渋い顔のまま、サムスが言う。会議には出席していなかった彼だが、通信・情報担当として情報局を配下に置く立場上、素早く情報は伝わってきていた。
行動を起こすべし——まだ誰の口からもその言葉そのものは出てこなかったが、末端の兵士たちが何を求めているかは明白だった。
クーデター。
軍人は政治、つまり元老院に統制されるべきという考えは、上層部から末端の兵士まで共有しているはずだった。爺と共同戦線を張っていた頃から、俺は自分の考えを世に知らせるため多くの書籍を発表してきた。植民地軍の兵士たちも読んでいたし、国防軍の中にも同調するシンパがいる。
では何故、彼らのような軍人がクーデターを考え、実行しようとしているのか。
結局のところ、国防軍による数々の妨害と、元老院の利権体質にある。最新兵器は最前線の植民地軍には回ってこない。比較的こちら寄りのはずの平民派でさえ、結局は党利しか考えていない。今回など、顔が変わるほど必死に練り上げた作戦案を、発表する間もなく潰したではないか。
国民の代表であるはずの議員たちが私腹を肥やすことしか考えない——そう感じている者は多いはずだ。さらに、軍大学の教授による選挙制への批判がそれに拍車をかけた。ゲリマンダーで不正に選ばれた議員より、前線で命を張る自分たちこそが国民の信任を受けているのだ、と。
後は単純だった。別にハリー中尉らが特別急進的だったわけではない。彼らが蜂起しなければ、いずれ他の誰かが蜂起していただろう。すでに植民地軍内の空気は、クーデターに肯定的に傾いていた。
それはここにいる者たちも例外ではなかった。
「エンクルマ司令。ここは、同調すべきでは?」
そう静かに口を開いたのは、顔色の悪いハーレン少佐だった。口には出さずとも、残りの面々も同じ目をしていた。
「エンティ、ハリー中尉らを見捨てることは出来ないわ」
エミリーが興奮気味に話す。
「おう。俺もそう思うぜ」
サムスがエミリーに同調した。
「……」
兵站担当のニコール中佐も、目で同意の意を示す。
「エンティ」
隣のアドルフが真剣な顔をして、俺を直視した。
「正直、国防軍や元老院が国民の心意を反映しているとは考えにくい。お前が何に悩んでいるかも分かっているつもりだ。でも今回は、蜂起したハリー中尉たちを助けるという意味でも、立つべきじゃないのか」
アドルフたちがクーデターに肯定的なのは、ハリー中尉たちへの同情だけではないだろう——勝機があると見ているからだ。国防軍には実戦経験がない。これは致命的だ。日々前線で戦ってきた植民地軍が一度はむかえば、かなり高い確率で勝てる。人を殺したことがあるかどうかの差は、多少の兵器の優劣などひっくり返せるものだから。
「それにだ、俺に司令なんて大役が務まるとは思えないしね」
最後にはいつものアドルフらしい軽口が漏れた。少し場の空気が緩む。
その軽口に苦笑しながら、俺が答えを出そうとしたその時——会議室に軽いノックの音が響いた。
「……なんだ? 入れ」
「ハッ、ロルメス議員がエンクルマ司令に面会を要求しております」
「ロルメス議員……?」
当惑するエミリーを余所に、俺は考え込んだ。名門ヴァフレムス出身でありながら進歩的な考えを持つ彼のことは知っている。だが直接の面識はなかった。この状況で面会とは、どういうつもりなのか。
「分かった……各自、もう少し考えていてくれ。議員と話してくる」
「考えておくって、何だよ!?」
問いかけるアドルフの声に、軽く手を挙げることで答えた俺は扉を開けて出ていく。