カミーユがティターンズに所属していたら(IF)   作:T9816

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第一章:漆黒の復讐者 第二章:忌まわしき制服と、甘美な憎悪

「へへ……あるじゃないか、新型が!」

重苦しい空気の漂うハンガーに、ガンダムMk-IIの起動音が鳴り響く。

コンソールを叩くカミーユの指は、怒りに震えながらも、驚くほど正確にシステムを立ち上げていく。

漆黒の巨躯が、拘束具を跳ね除けて立ち上がる。

モニター越しに見えるのは、さっきまで自分を「テロリストの子供」と嘲笑い、拳を振るっていたMP(憲兵)たちの、豆粒のような、そして無様に逃げ惑う姿だ。

「ははははっ、怖いだろう! 散々、僕を尋問して、鉄拳で分からせようとした報いだ!」

カミーユの意識が機体と直結する。指先に力を込めると、頭部バルカン砲が火を噴いた。

60mmの砲身が咆哮し、基地のコンクリートを、そして逃げ遅れた人間を容赦なく抉り飛ばしていく。

(死ね……死んでしまえ! 僕を……僕をコケにした奴らは、全員だ!)

「逃げろ、逃げろ! どこまでもだ! 地獄の底まで追いかけてやる!」

少年の純粋な狂気が、宇宙(そら)へと解き放たれた。

 

そこへ、深紅のモビルスーツが乱入してきた。クワトロ・バジーナ率いるリック・ディアス隊だ。

『君、このままだと居場所がないだろう。私達についてこないか?』

外部スピーカーから響く、鼻につくほど冷静な声。それがカミーユの逆なでした神経をさらに激しく突き刺した。

「嫌だね! 誰とも知らない馬の骨なんかと同行したくない! 僕は、僕のやりたいようにやるだけだ!」

カミーユから放たれる、制御不能なほどのプレッシャー。

クワトロは一瞬、言葉を失い、コックピットの中で戦慄した。この少年の中に眠る力は、かつて自分が知っていた「ニュータイプ」の輝きとは違う。それは、全てを焼き尽くす黒い炎だ。

『……そうか。達者でな、健闘を祈る』

赤い機体は、Mk-IIの奪取を断念し、闇の中へと消えていった。

 

熱狂が去り、一人コックピットで虚脱感に襲われるカミーユの元へ、ノイズ混じりの通信が入る。

大画面に映し出されたのは、バスク・オムの醜悪な笑みだった。

「両親が……エゥーゴのテロに?」

画面に映し出される、爆発炎上する研究施設の記録映像。

バスクの低く、湿った声が、カミーユの耳元で甘く囁く。

『不幸なことだ。君の両親は、地球を愛するがゆえに、スペースノイドの凶弾に倒れた……これが、奴らの言う『自由』の正体だよ』

「嘘だ……嘘だ……!」

否定する言葉とは裏腹に、カミーユの心は急速に冷え固まっていく。

父親への愛憎、母親への思慕。それら行き場を失った全ての感情が、ひとつの巨大な「殺意」へと収束していく。

 

『今なら君を特別待遇でティターンズに入隊させよう。君の卓越した操縦技術は、私の耳にも入っている。悪い話ではあるまい?』

バスクの不敵な笑みが、今のカミーユには唯一の「救い」に見えた。

暗闇の中、少年は静かに、しかし断固として頭(こうべ)を垂れる。

「……入隊、させていただきます。両親を殺した奴らを……この世から一匹残らず消し去るために」

カミーユの瞳から、かつての繊細な少年の輝きは消えた。

そこに宿るのは、ただ獲物を追い詰め、噛み殺すためだけに磨かれた「猟犬」の光だった。

 

鏡の中に立つ自分を見る。

黒と赤——地球至上主義の牙城、ティターンズの軍服。

かつての自分なら、軽蔑の対象でしかなかったはずの装束が、今は不思議としっくりきていた。

(僕もついに、軍隊に入ってしまったのか……)

一瞬の自嘲。だが、鏡の向こうで燃える己の瞳が、その迷いを焼き払う。

「ふふふ……エゥーゴめ……。両親を奪った報いだ。一人残らず、あの世に送ってやる!」

カミーユはMk-IIのハッチを乱暴に閉めた。

暗黒の宇宙(そら)へと蹴り出す足取りに、もはや躊躇はない。

 

サイド・アンモニア近傍。静寂に満ちた戦域を、Mk-IIの高性能センサーが切り裂く。

突如、モニターの端に異様なプレッシャーを放つ高機動機が映し出された。

黄金色に輝くモビルスーツ、百式。

「全周波数で発信! 聞け、エゥーゴのテロリストども! 貴様らに生きる資格はない!」

カミーユの呪詛が真空に撒き散らされる。その時、ノイズ混じりの悲痛な通信が割り込んだ。

『……カミーユ? カミーユなの!? やめて、そんな声で喋らないで!』

それは、かつての穏やかな日々を象徴する、聞き慣れた少女の声。

だが、今の彼には不快な雑音にしか聞こえなかった。

「黙れ! 誰だか知らないが、エゥーゴの味方をする奴は全員……僕の敵だ!」

 

『君はあの時の少年じゃないか! 何故ティターンズなんかに属している!』

百式のコックピットで、クワトロ・バジーナは戦慄していた。

モニター越しに伝わるその気配。少年の瞳からは光が消え、底なしの、どす黒い殺意が溢れ出している。

「よくも……よくも父さんと母さんを! エゥーゴの偽善者がッ!」

カミーユのMk-IIが吠える。

慣性をも無視したような鋭い転身。百式の背後を、一瞬で捉える。

『なんだ、このプレッシャーは! ただの素人ではない……!』

クワトロは防戦を強いられた。

交差するビーム・ライフルの光条。至近距離で激突するビーム・サーベルの火花が、カミーユの狂った笑顔を照らし出す。

 

「お前たちが……お前たちさえいなければ! 消えてしまえ!」

カミーユから放たれる「殺気」が、物理的な圧力となって百式を追い詰めていく。

(この少年は、一体何を考えている……? これほどの才能を、憎しみという燃料だけで燃やし尽くすというのか!)

『ラチがあかん、撤退だ!』

百式は僚機を引き連れ、急速に戦域を離脱していく。

追いかけようとスロットルを叩くカミーユ。だが、機体は出力限界のアラートを鳴らし、ガクガクと震えた。

「逃げるのか! 待ちやがれ! この人殺しどもーーっ!!」

カミーユの絶叫は、誰の耳に届くこともなく、冷たい真空の闇へと溶けていった。

後に残ったのは、激しい呼吸の音と、消えることのない復讐心だけだった。

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