紀元前から始める学園経営   作:イワシコ農相

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『紀元651年~紀元700年』


第十五話「例外なく石の下にはさそりが待ち構えている」

651年、オクサス川の戦いで敗北した西の諸学園連合軍(サーサーン朝)生徒会長(ヤズデギルド3世)が、連合の指揮を取り切れずに卒業に追い込まれたらしい。これによって西の諸学園連合軍(サーサーン朝ペルシア)が分裂し、滅亡、主要校の生徒会長の継承者(ペーローズ3世)は山海經に亡命したと山海經に送っていた使者から伝えられた。

 

 

653年、トリニティの形成を行おうとしていると前から疑惑があったユスティナ聖徒会長(マルティヌス1世)を捕縛して、ノーブルウィンター方面に追放した。パテル第二分校の協力を得て、上手く誘い出して罠にかけた。余は密かにやるように命じたが、情報漏洩したとしてもミステリオンが明確に統合に反対であると示せるので良しとする。

 

 

655年、余率いるミステリオン近衛隊の船舶部隊がリュキア川沖海戦でアビドスに惨敗。船舶部隊に尋常ではない被害を被り、その再建に莫大な資金が費やされ、全学公会の予算削減や学費の一括払い制度を取りやめ、年度ごとに徴収する前の税制への回帰を余儀なくされた。万臣殿の予算は実家の圧力もあり、削減できずにあくまでも現状維持となる。悲しきかな、今は貴族が強い時代の政治なんだよなこの学園と嘆くことに。

 

 

656年、アビドスで生徒会長を巡る内乱が勃発したと間諜から情報が入った。こちらに屈辱を味わせた生徒会長(ウスマーン)が失脚し、新しい生徒会長(アリー)に選出されることが原因らしい。この選出をめぐりアビドスで前生徒会長派と現生徒会長派で争い、この内乱によってアビドスのミステリオンへの圧力は弱まり、ミステリオンは学園の軍事再建を掲げて大軍拡へと踏み切る。

 

658年、余が学区付近のゲヘナ諸部族を制圧。

 

 この時のゲヘナ人をミステリオンの激戦区に入植させ、ミステリオン防衛のためのテマ制(自由銃民制)の原型が出来上がる。自由銃民は平民、貴族と異なる第三階級である銃民(テマ)として、武器に種類制限を設けない軍人階級となった。近衛隊もこの階級となり、今までのライフルのみ保有を認める銃規制は銃民に限り撤廃された。ただ、全学公会への推薦権や選挙権など政治的な権利は制限。さらにモシンナガンは近衛隊に入る際に下賜される儀礼的な武器となった。

 

 

661年、銀輪(ラクダ)の戦いで前生徒会長の重臣(アーイシャ)が新生徒会長に敗北。

 

 同年にアビドスの生徒会長が襲撃され、生徒会長がアビドスは正当な政治を行える人物が生徒会長になるべきとする哲人派(ハワーリジュ派)によって卒業に追い込まれる。

 

 それに対抗して、ミレニアムの一部の統治を担っていた総督家の三日月家から生徒会長が選出され、何世代も続いた系譜が途絶え、本校舎を新たにした新しいアビドス(ウマイヤ朝)が成立することになった。

 

 

663年、余がパテル第二分校に赴きユスティナ聖徒会長(ウィタリアヌス)と会見。向こうが要請し、分校間闘争に酷く心を痛めているとし、ミステリオンの介入はさらなる戦乱を招くだけだと非難された。余は引き続き、西ミステリオンにおける宗主権はミステリオンにあり、むしろユスティナ聖徒会が違法であると主張。直ちに、ミステリオンの教義に回帰するように諭すも、表向きではユスティナ生徒会はミステリオンの教義には反していないとのこと。使徒に意見してる時点で矛盾してるし、ミステリオンがユスティナ聖徒会の活動を認めた事実は存在しない。

 

 口論に終わった会見後、余はパテル第二分校に分校舎を置く。パテル第二分校は異論を唱えること無く、粛々とミステリオンの方針に従った。半ば傀儡化していると言っても良い分校だろう。

 

 

668年、余が滞在中のパテル第二分校で早期卒業に追い込まれる。下手人は一緒に付いてきていた自由銃民制によって、全学公会から議席を失った近衛隊の貴族兵だった。名前覚えたからな。

 

 

673年、アビドスの船舶部隊がキュジコス川付近を前線基地として確保。

 

 

674年、キュジコス川から進出してきたアビドスの船舶部隊がミステリオンの本校舎を包囲。

 

 アビドスの攻撃は678年まで断続的に続いたが、再建したミステリオン近衛隊の船舶部隊の消えない火(ギリシャの火)で撃退した。

 

 

680年、第六次四家会議(第3コンスタンティノポリス公会議)で使徒継承の対象が指名されない場合は自動的に万臣殿を構成する継承可能な状態にある貴族の位順から選出されると勝手に定められる。余の意思は何処に?

 

 また、同年に激戦区整理を行うべく、アビドスと不可侵条約を締結。その間に更なる軍備増強を行うべく、廃墟を含めた研究を加速化させた。オングロス川の戦いで南方ゲヘナ人(ブルガール人)に敗北したことも大きく影響している。

 

 

681年、南方ゲヘナ人の明治リエ(アスパルフ)タルタロス学園(第一次ブルガリア帝国)を建国し、ゲヘナに本校舎を定める。

 

 

688年、余とアビドスの生徒会長(アブドゥルマリク)との間でミレニアムの一部を共同統治することに合意。

 

 

690年、余の命により哲学専攻における反使徒思想の創始者であるゲヘナ人の生徒が追放刑に処される。

 

 

692年、セヴァストポリス川の戦いで、アビドスがミステリオン近衛隊を破る。ゲヘナ人部隊を率いていた近衛兵(ネブロス)が裏切り、優勢に進んでいた戦いをひっくり返されてしまった。こちらから奇襲を行ったにも関わらず負けたとなれば、ゲヘナ人悪玉論とか全学公会や万臣殿で発生しかねない。

 

 出兵しなければよかったと後悔するも、アビドスがこれ以上力をつけて侵攻してきたら不味いという焦りがその後悔を正当化してくれない。

 

 

695年、レオンの政変が勃発。

 

 銃民であり、近衛隊の一部隊であるライオン部隊を率いていた部隊長(レオンティオス)によって、余が捕縛され、鼻を折られ、ノーブルウィンターへと追放されてしまう。そして、使徒への即位を宣言した。

 

 

698年、その間アビドスとの戦いでは遅れを取り、ミレニアム地域から徐々に学区を失っていくことになる。その間、余と共に追放された親戚ヘ使徒継承を行っていた為、使徒を名乗りはしても部隊長の姿が変わることがなかった。

 

 

698年、アビドスに敗れた船舶部隊の部隊長が余ではない方の使徒自称者の怒りを恐れて、船舶部隊の支援を取り付けて使徒(ティベリオス3世)として即位を宣言し、本校舎を攻め落として偽使徒《レオンティオス》を廃位に追い込んだ。

 

 

「使徒たる余はここに居るのに無礼ですわ」

 

 豪華とは決して言えない一室にて、静かに呟いた。政変によってミステリオンから追放され、鼻も折られたことは鮮明に覚えている。クーデターには不幸なことに慣れていたが、まさかクーデターの際に対面した瞬間に鼻を殴られるとは思わなかった。継承を終えても、指で鼻を触ってしまう。幻肢痛はないが、記憶としてはあまりにも生々しく覚えている。

 

 煮えたぎってくる怒りのやり場すら見当たらない今では、不味い茶葉で淹れられた紅茶を飲むことしか出来ない。

 

「はぁ……」

 

 ドアが開けられる。入っていたのはくるりと巻いた角を持つゲヘナ生、特徴を言うならばバフォメットだろうか。絢爛な宝石を散りばめた衣装を着て入ってきたのはまさにこの場所を統べている者。

 

「何の様ですか、タルタロス学園生徒会長」

 

 そう、言われた本人は皮肉を何事も無いことのように聞き流し、対面の椅子に腰掛けた。まるで親しい友人と話すように語りだす様にストレスが溜まっていくのを、必死に内面へと抑えて向き合った。

 

「ミステリオンに戻るのだろう?」

 

 悪魔らしい笑みを浮かべながら、自分で持ってきた飲み物を飲んでいる。確か、アリア二。ヨーグルトと水に塩を混ぜた飲料で、ミステリオンでも飲むものが居る。だが、それを無警戒に持ちながら、なぁと返事を催促してくるのだから自分の使徒としての権威の失墜を嫌でも分かってしまう。

 

「ええ、勿論。」

 

「戻る算段は?」

 

「あなたがよくお分かりでなくて?」

 

 クハッと笑うこの生徒会長は意味を理解出来たらしい。先程から銀のコップに入ったアリア二を飲む手を止めた。深く考え込むように少し唸ってから、口を開く。

 

「タルタロスの軍勢を差し向けろと」

 

「ええ」

 

「得られる利益は?」

 

「質問ばかりですわね」

 

 ゲヘナに正式に成立した学園は存在しない。ゲヘナ分校やソドムとゴモラにはその可能性があったが、依然として部族社会だ。部族は互いに同盟は結びはしても、最終的には分校同様に争い出すという負の連鎖にある。それ故に豊かな地を見つければ、そこを占領しに来るというのが生存するための鍵なのである。その混沌に終止符を打つには学園が必要になってくる。この世界での学園とは政府だ、つまり武力を預けて執行できる国家(リヴァイアサン)に該当している。

 

 そして、少なくともブルアカの世界においてゲヘナがゲヘナ学園として混沌と無秩序を標榜しつつも、今の部族社会のようになっていないのは技術的な進歩を除けばこの執行力と統一された学園があるため、大衆を部族という小集団でなく、ゲヘナというナショナリズムの下で大衆化出来ていると言っても良い。

 

「学園として承認してあげますわ」

 

 だから、タルタロス学園は何より権威を必要とする。無論、タルタロスの生徒会長が名乗っている皇帝(ツァーリ)という称号は認めないが、少なくとも一つの学園として認めるというカードは安くない。特に文化の発信地としての側面を有しているミステリオンからの承認はソドムとゴモラの恐怖を和らげ、タルタロスに入学する部族の数を増やせるわけだ。

 

「……はははっ!気にった!やはり、ミステリオンの使徒である者だ。こちらの望みを話さなくとも、理解出来ているとは。それにアビドスが仮にミステリオンを制圧してしまったら、我々タルタロスも危ういからな」

 

 そして、ミステリオンをアビドスへの壁として利用出来る。言われなくとも、それくらいは勘定に入れてるのが為政者だ。タルタロスが善意でミステリオンを助けることはないし、その逆もまた然り。ならば、ここは一旦褒美をぶら下げて魚を釣れば良いだけのこと。

 

「それで、いつ動くのだ。残念ながら今すぐとはいかぬが、あと数年すれば兵力は用意しよう。優雅に凱旋するには雑兵では足らんだろう」

 

『陛下、現在のタルタロスの戦力では近衛隊と戦える兵を揃えるには最短で4年はかかると予想されます』

 

「ええ、4年後。余が卒業した頃にやりましょう。そちらもよろしくて?」

 

「ああ、勿論だ!使徒よ、ガハハ!!!盛大にやろうではないか!」

 

 ただ、余が未来のゲヘナのような執行力と政府の誕生を許すつもりはない。だから、何年かかろうといずれ滅ぼして、ミステリオンの存続の糧にするのは既定路線だ。余は気が長いからな、何百年かかっても、その息の根を必ず止めよう。

 

 再び紅茶を口に運んで、対面の生徒会長へにこやかに微笑みを返した。最後に笑うのは余故に。

 

 

 




『先生の着任まで残り1300年』
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