751年、パテル第一分校が連合軍を率いてミステリオン庇護下のパテル第二分校を占領。ミステリオンとパテル第二分校によるパテル回廊支配が終焉を迎えてしまった。606年に分裂してから、145年に及んだパテル第二分校は儚く散り、パテル分校が再統一された。駐留していたミステリオン近衛隊とパテル第二分校が敗れ、援軍を出すにはあまりにも早すぎる進撃かつトリニティへ攻撃を加えるには時期早々と判断して近衛隊を引き上げた。たが、黙って居るほど愚かではない。パテル第二分校の陥落後、秤家による仲介が成功し、アリウス分校と同盟が締結できた。
755年、三大貴族によるトリニティ内の無数の分校への攻撃が激化。間諜によれば、
759年、三大貴族連合軍が三日月朝アビドスより一部学区を奪回し、アビドス生をそこから放逐する。
763年、三大貴族連合がミステリオンからの自立を宣言し、ユスティナ聖徒会側に与することが公表された。ミステリオンとしては改めて、西ミステリオンの宗主権により認めないとの書簡を送る。
774年、三大貴族連合がヨハネ分校と和解。
これにより、ヨハネ分校と連合を組んでいたハイランダー学園の本校舎が制圧され、トリニティから追放される。
775年、余が卒業し、いつもに変わらず
776年、哲人派によりアビドスに別の
779年、トリニティ貴族連合とこれから呼ぶことにしよう。彼女らはバラバラだった学費を法令により統一し、該当する分校の生徒は納めることが定められた。うん、露骨な統合への動きだね。
780年、
786年、星園朝アビドスで新たな生徒会長が選出される。
787年、
791年、トリニティ貴族連合によってトリニティ地域の大半が征服される。マズい、軟禁が終わらん。余が禁止していた余の肖像画が解禁されたことが母……いや、クソババァから伝えられた。
797年、18歳を迎えた時に母より使徒継承を強要されるも、母へ使徒継承が為されることはなかった。大人へは継承されないことが判明したことで母が激昂し、学園から卒業させられた。代わりに母が使徒を名乗り、初の大人使徒として即位。だが、当然姿はクソババァのままだった。
800年、古聖堂にて公会議がユスティナ聖徒会により主宰され、トリニティ総合学園の成立が宣言される。
新たなアビドス生徒会がアビドス地方で発生、
「クソッ!クソ、クソクソクソ!!!」
いつも美しいと言われていた声が怨嗟に飲み込まれ、少女の声帯から漏れるとは思えない低い声で叫んでしまった。
後継者が選ばれなかった。大人による支配が及んだミステリオンでは、万臣殿も全学公会も空転し、後継が選ばれることは無かった。故に第七次四家会議によって、本当に太古の教義によって使徒継承が自動化されたことを意味する。つまり、指名できなければ、ランダムな生徒を乗っ取ることになるわけで、今居る場所は死ぬほど見飽きた
「ど、どうしたんですか!……佐々木室長って……陛下!?」
「声を落とせ!」
思わず、怒鳴りつけると部下はビクッとして、自分も声を上げたことがわかって、ニヒルな笑いを浮かべてしまう。
「いいか、余の姿の意味がわかるだろう?今、政権を握っているクソババァが、余を良い目で見ないことは明らかなことも」
こくこくと頷く部下に対して聞くしかなかった。どうなっているのか、アリウスとトリニティが。だって、半世紀以上かけて準備した作戦を大人の権力欲におじゃんにされたのだ。それも生存に関わるものを、だ。
「……アリウスへは出兵を行っておりますが、戦況は芳しくないとのことです。武官じゃないので、あまり知りませんが……出兵規模が少数に留まっているとのことで……同盟があるから渋々派遣している程度かと……」
「あのクソアマが!」
「ひっ!」
机を強く叩き、滲み出る怒りが書類の束を傾けさせ、やがて一つの紙が静かに落ちてくる。目に入る。計画はおじゃんになった。政権を取り戻すのにかかる時間で、アリウスは恐らく破れる。でも、この紙は、この数字は、破れない。
学園財政報告書。大規模な不明支出の欄、どう考えても着服だろう。仮に着服じゃなくとも、着服だったことにする。例え、どんな良いことに使われたとしても民衆は聞き触りの良い宣伝文句と権利を侵害されたと感じて初めて動くものだ。今まで溜まっていた不平不満を強引に一つの出来事に繋げて、自分の中で合理化出来る才能は皆平等に持っている。何度反乱され、何度クーデターを起こされ、何度本当に意味があるか怪しい戦いをし、そしてその積み重なったものは明確にその事実を肯定する。まさに余がそうだから、本当にミステリオンが無くなる未来がその通りに進むかの確実な確証はないのに征服を行い、弾圧をし、火を放ったのだから。ただ、可能性に過ぎない。滅びるという可能性を恐れているだけで、本当は杞憂かもしれない。
「だが……」
それでも、乾いた口から出た言葉はいつも呪いのように付きまとってきたものだ。
「ミステリオンは存続しなければならない」
さっき部下へ八つ当たりをした。でも、それで結構だ。多少なりともこの溜め込んだ気持ちがマシになるなら、どうでもよかった。この割り切れない感情とは、もっと早く決別し、この己から破門すべきだったのに気づく。故に、今までの灼熱の憤怒を氷河より冷めた静かなる怒りへと変える。余の心を殺すことが必要なら、そうしよう。海に沈めて、より深く、より戻れないように綺麗な空で蓋をしよう。皆空を見上げていれば、沈んでいくテセウスの船など気にしないのだから。あと1200年もあるのだ。
「おい」
「は、はいっ」
部下がおずおずと呼び出しに答える。君の知る室長がどんな人物だったかは知らないが、もう今は素でいいだろう。
「勅令を出す。この不明支出の欄を全学公会に着服として報告せよ。そして、調査室と近衛隊にも秘密にそう伝えろ。そうすれば、あのクソババァの最初から存在しない権威など払底する」
「室……へ、陛下は高座の簒奪を目論まれているのですか?」
「簒奪?いや、最初から余の為だけにある席を取り戻すだけだ。準備時間は必要だが、アリウスがその時に滅んでいないなら全隊を動かす。アビドスは分裂し、ゲヘナにおいてはタルタロス学園を余らは盾にしている。なら、戦うべきところに近衛隊を送るのだ」
ただの治安維持に飽きた近衛隊に本当の武勲を与えるのは本格的な侵攻において他はないのだから。
「従え、名も知らぬ余の民よ。余が耕し、余が水をやり、余が生かした者よ。今こそ、余に従い、その実りを以てして歴史となれ」
「……拝命致しました。使徒陛下」
君の欲しい言葉ならいくらでも、炉にくべよう。エリートとは言え、出世しにくい全学公会の下部組織で燻る火種よ。芽吹けと発破をかけてやれば、大きな火となってより多くの者を焼いてくれる。
部下は渡した資料を持って、素早く走っていった。
「……アトス、応じろ」
『はい、陛下。何のご用でしょうか』
「人を権力から引きずり下ろす方法を最も醜く、そして痛快に実行出来るもので考えてくれ」
『陛下、それでは該当する事象があまりにも多すぎます』
考えるように顎に手を当てるだけ当てて、悪魔のような笑みを浮かべてアトスに告げる。
「なら、一番だと思うもので良い」
『ならば……歴史から抹消することは行わずにあの醜い肖像画を残しておくだけで十分です』
「はははっっ!!!そうだ、そうだな。あのクソババァは今頃皺と格闘しているだろうから、追放する前に偽使徒として一つ肖像画を画家に頼んで、公衆に晒して置けば良いな」
気持ちが沈んで、沈んで、そしてまた沈んでいく。そこから、先生はすくってくれますか。ノーチラス号に乗ってきて迎えに来てくれますか。それとも、ただ空を見上げますか。赤いか、青いか、わかりませんけど。“どちら”か選べるなら、青い方でお願いしたいな。
「はぁ……あまりにも長いな。だが、たどり着こう。海底に着くまでに1200年が過ぎれば……いや、もはや時間感覚など頼りになるまい。ただ、やるべきことをやり続けよう。悪か善かを問わず」
「だから、祈ってやろう。クソババァ」
「我らが人にゆるすごとく、我らの罪を許し給え」
水に浸かって、洗い流せる罪で留まりますように。
『先生の着任まで残り1200年』
いつも感想、評価、お気に入り、ここすきありがとうございます!
この作品を続ける原動力になっているので、感謝しかありません。改めて、感謝を!
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