『陛下、用意が出来ました。パテル、フィリウス分校方面へ二個近衛軍団。そして、ミレニアム地域に多くある学園に対して二個近衛軍団の配置が完了しております』
無機質な声が、余の下した命令が為されたと告げた。既に150年の孤独を耐え抜いた余からすれば無機質であろうが、平伏されないで話せる相手は少ない故、アトスには助けられている。
『陛下をお助けし、ミステリオンを守ることが学園運営システムA.T.H.O.S.の役目であります。では、進軍を命じますか?』
「ああ、いずれ三大校になるかもしれない学園群だ。侮ってはならない。」
この世界に来てから用意できる知識で、出来る限りの軍制と生徒の意識は整えたつもりだ。これは無慈悲な征服ではなく、平和の為の戦いであるのだとミステリオンの生徒と全学公会には説明した。だから、三大校が脅威ならば……そもそも、誕生させなければ良い。
「では、これより征服を始める。歴史家が我らの勝利を記すであろう!」
この日、ミステリオンの軍靴が世界に轟いた。モシンナガンで武装した無数の生徒が一斉に越境を行い、何の宣言も無く、相手の大地を踏み鳴らした。
さて、なぜ近衛隊はモシンナガンを装備しているのか。それはミステリオン公立学園が貴族制を採用しているからである。平民は拳銃、貴族はアサルトライフル、軍人はライフルのみ保有と使用を認めるという銃規制が存在する。一見、すればアリウスみたいに全員を等しく武装させる方針が適切かと思われたが、ミステリオンはそもそも一度内戦を得ている。よって、銃規制で仮に再発しても損害を減らすことが狙いであった。
これは陛下としてはただの治安維持策のつもりだったが、剣を下賜される騎士のように特別な意味を持つようになった。同時に宗教的に武人として祝福されることも意味した。
軍人になれば、ミステリオンの校章の入ったモシンナガンを持つことが許されるという話は平民を戦場へ釣れていくための謳い文句として十分すぎた。
最前列が
そして、整備されていない道を整備する技術と柱を携帯することで必要ならすぐに野戦築城を行い、前線を維持することが可能であった。
「……クソッ!退却しろ!」
まず、衝突が起きたのはパテル分校。積極的な拡大政策によって幾度かゲヘナ方面やフィリウス方面へ出兵を行っていることで有名であった。つまり、継続的な出兵による戦費が、かの学校の経済を圧迫していることに他ならない。お得意の複数の散兵を小出しにして、相手を消耗させる戦術は自身が消耗していては行えるものではなかった。
そのタイミングを見事に狙ったのが今回の出兵である。力強く前進するミステリオン近衛隊は隊列を崩すこともなく、次々と発砲を続けた。一人が撃ちきれば、後ろに下がり再装填。その間を別の生徒が埋めることで継続して射撃の雨をパテル分校の生徒に浴びせ続ける。弾丸の雨は例え、相手が退却中であっても彼女らをその雨雲から逃がすことはなかった。
「進め!!!」
「陛下に勝利をお届けしろ!」
パテル分校の領地に翻るミステリオンの校章、
「聖園様!前線に出るなど危険です!」
「うるさいな★大丈夫、全員潰しちゃうんだから」
だが、それを許すパテル代表ではなかった。
続いて、フィリウス分校との戦い。パテル分校と違い、フィリウス分校は直接対峙するのではなく籠城を選択した。幾度とパテル分校と戦ってきたからこそ、フィリウス分校は城壁を築き、生徒を温存する策を取った。攻めきれなかった生徒が消耗したら、城壁の上から相手が退却するまで撃ち込み続けるという皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を断つをまさに実践した例だ。そして、消耗しきった敵を再度学区から追い出すという戦略を得意としていた。
しかし、ミステリオン側もその事は理解していた。もともとは度々越境してくるゲヘナ人の対応をしていくうちにその内部に攻め込む為に開発された攻城兵器、攻城塔。フィリウスの城壁より高い木造のやぐら。その下に無数の丸太を敷いて、転がして行きながら城壁に衝突。フィリウス分校の必死の抵抗空しく、ミステリオン兵が城壁内へと雪崩れ込んだ。
「この【キヴォトスでは言ってはいけない言葉】が!【同上】して、【同上】にしてくれる!」
「負け惜しみじゃないか!フィリウス!」
響き渡る銃声はやがて、大きな何かを引きずる音によって掻き消される。城の門が徐々に開いていく。
「クソッ!門番まで負けたのか。おい!桐藤様を早く外にお連れして、逃げろ!」
焦った声で、叫ぶフィリウスの衛兵の一人に対してミステリオンの指揮官が無慈悲に告げる。
「この城は既に包囲され、城門も突破されている。どこに逃げる気なんだ」
軍団旗を強く地面に突き立て、高らかに宣言した。
「これより、フィリウス分校の如何なる民とその領地は陛下のものとなる。我らはそれが為されるまで、攻撃をやめるつもりはない!」
「
呼応するようにミステリオンの生徒が咆哮する。血走った目を見開き、戦闘による興奮に呑まれた彼女らはモシンナガンを高らかに掲げた。
ミレニアム戦線。生々しく盾に弾かれるミレニアム地域の生徒、正確に言えば今回の侵攻を受けて連合を組んだ諸学園の生徒たち。異なる思想と異なる文化を持つ彼らはミステリオンという脅威に立ち向かう為だけにこの戦場に集っている。揺らめく、ミレニアム側の旗はさながら万国旗を見ているかのようだった。
そんな彼女らと対面するのは新式の武器で武装した近衛隊。バリスタ、迫撃砲の前身となるこの武器は投擲体に大型の弾頭を用い、同時に火炎瓶で装備したカタパルトである。
後方から銃より長い射程で、大規模な攻撃を行える為、これらもまたゲヘナを追い出すために使われる。
「装填!」
指揮官が命じる。素早く、バリスタとカタパルト木のしなりが、重々しいギギギという音が熱気に満ちた戦場を冷やしていく。
「よーい!」
そして、指揮官は旗を強く振り下げて、腹の奥底から声を出した。
「放て!!!!」
瞬時に無数の弾頭と火炎瓶が一斉にミレニアム側へと降り注いだ。彼女らがミレニアムという一つの学園として纏まっていたのなら、まだ統率が取れたのかもしれない。だが、ミレニアムという学校が誕生するのは原作開始より400年前であるとアトスは推測している。その為、新興校であるとて放置は選択肢にない。
弾頭が相手生徒を吹き飛ばし、火炎瓶で引火した火が地獄すら恥じるように燃え盛っている。相手は元より寄せ集め、この衝撃によって相手の指揮に明確な隙が生じる。
「かかれぇ!!!」
ミステリオン側が突撃を敢行する理由としてはこれ以上のものはなかった。銃撃と白兵戦で荒ぶる地獄の戦場は後に歴史書で、ミステリオンの勝利と書かれることとなる。
ミステリオンの征服事業はキヴォトスを震撼させた。連邦生徒会がそもそも存在しないこの時代において、絶対的な庇護というものが存在しない。サンクトゥムタワーは聳え立つも、あくまでもあそこは一つの学園の領地内の建造物としか見られない。
故に、これ程明確な征服行為は強い警戒と恐れを呼び起こすものだった。特にサンクトゥス分校、アリウス分校などのトリニティ方面の学園にとっては死活問題であった。
ものの見事に負けたパテルとフィリウス、噂によれば西の学園連合すら負けたとなれば……変に学区が荒れるよりはと戦わずに降伏することを選択した。未だに戦うヨハネ分校とハイランダー学園はトリニティ方面の奥へと追いやられる結果となる。
『おめでとうございます。トリニティのほぼ全域及びミレニアム地域の征服が完了しました。』
ほっとため息が溢れる。この戦いが続く中、かつてゲヘナに大敗した反省を踏まえて問題点を徹底的に洗い出した。戦術、装備、士気などを改め、現場任せの状態から是正した。余で手を加えたのだから、失敗すれば余の責任になる。まして、逆侵攻されてミステリオンが滅べば死んでしまう。その緊張がようやく解れたのだ。
「後は得た領地維持だ。未だ抵抗を続けるヨハネ分派とハイランダー側に長城を作れ。彼らでトリニティを作ることは出来ん。ミステリオンがこの領土を維持し続けている限り、囲まれて滅ぼされることはない」
『了解しました。そのように命じておきます。』
この数年続いた戦いに終止符が打たれ、ミステリオンの赤字も領地経営で徐々に回復していくことだろう。近衛隊はこれからも増やす予定な為、とにかく金が必要だ。
「……で、シルクロードは予定どおり利にはなったか?」
『ええ、良質な絹などは高く売れますので。』
「なんと!白き陛下がやりおったか!愉快、やはり能のある鷹はその爪を隠すのであるな」
山海経の門主は笑いを隠せずに、その執務室で文官から受け取った報告書を読みながら笑みを溢していた。
「パテル連中と邪魔な諸学園どもを均してくれるのは助かるのぉ」
シルクロードで利益を上げているのはミステリオンだけではなく、山海経とてそうである。ミステリオンから伝わった様々な物品は市場では高価で売られ、山海経の有力者の間では位を示すものとして愛好されていた。
ちらりと傍らに置いてある金杯を見る。かなり前の門主が頂いたという金杯、一時期は謎の文字が書かれていたことから呪いだと騒ぐ者も居たが、今では門主の権威を高める道具として非常に便利であり、度々使うほどには愛好している。
「共に杯を交わそうか……その未来も遠くないのかも知れぬな。東の
東から昇る月を見ながら、静かに杯を傾けた。
「それにしても、この字が山海経を意味するとはな。面妖な言語を使うものだ。まぁ、次はこちらが驚かせて見ようとも」
『先生の着任まで残り1850年』
特にここすきとかで、好きな部分を共有してくれると次話の参考に出きるのでどうかよろしくお願いいたします!
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