『おはようございます。百合園ユリ陛下』
「また、一人だな」
権力を巡って姉妹間で争い、やがてその反乱を鎮圧して、一人になることはこれで何回目だろう。紀元353年、路地裏では
権力闘争している暇があれば、迫り来る西の脅威に備えるのが賢明だ。故に、疑わしきは皆罰した。例外を一つも作ることなく、身分も職分関係なく、反乱の疑いのある者は檻に閉じ込めた。それは余の夢は必ず、未来を見るわけではないからだ。あくまでも、稀に見る程度に収まっているが為に、常に確信を持って動くことは出来ない。仮に夢の中で反乱が成功するのなら、現実でも成功するのだろう。その場合は次に繋いでいく為の準備をすれば良い。
「結果、一つの反乱を防げなかったが……鎮圧できたから良いだろう。卒業間近だったが、鎮圧に成功した以上しばらくは本土は安泰だ」
どこか、機械的になっていく余という自我にあまり違和感を持たなくなったのが何時からかも、あまり思い出せない。いや、思い出したくないが正しいな。余の
『陛下、宮殿の拡張は紀元360年に行うよう命じたのは何故ですか』
「クッ、すぐにわかるさ。それよりは西だ、あそこの戦力が回復する頃だろう。それに今回は和解で済む予定だ。特に困らん」
紀元361年、今の陛下率いる近衛隊と西の諸学園連合軍との交戦中に本土で昨年陛下への即位を宣言していた親族を討伐するという名目で、近衛隊を納得させて和睦。本土へ引き返し、その道中で卒業条件が満たされ、卒業。陛下の位は本土へと引き継がれた。
『おはようございます。背教者ユリとでも言えば良いですか?』
「フッ、貴様もそれを言うか。ただだか、シスターどもの個人活動を取り締まっただけだろう」
シスターの活動が部活動に近くなっていった為、違法行為だとして近衛隊を出動させたに過ぎん。それにこうして悪名を高めた方が今回ばかりはミステリオンの為になる。
「今の危うい権力均等の状態でシスターだけ野放しにすれば、議員や四家からは『ずるい』とかで恨みを買いかねないのでな。それにそろそろ王朝交代の時期になる。夢で見たんだ。どうやら、百合ばかりの園は運命様にはお気に召さないらしい」
『なるほど……百合園家の神秘ですか。確かに、それなら納得です。なら、今回はどのように卒業されるのですか』
「西の人よ、汝は勝てり、だな」
いつもの礼服に袖を通し、権杖を掴んだ。醜い魚の鱗に隠された眼球をいつもの黒い布で隠して、後頭部で蝶々結びにする。戦いに行くときも、街を出歩くときも変わることがないルーティンを慣れた手つきで行って、ミステリオン本土を発った。
西の諸学園連合軍への再攻撃のためである。地形を用いて相手の攻撃を一度防衛して消耗させてから、相手の攻撃線を消耗させ、突破。その本校の堅牢な防御陣地へバリスタなどを使って破壊を試みるも、粘土を何重にも重ねて作られた防御に跳ね返され、敗走。その道中で追撃され早期卒業をすることになった。
紀元364年、万臣殿は大いに荒れていた。それは
結果、それぞれの家の代表者による決闘によって決定することなった。既に即位している以上、余としては変わらぬのだが……決闘は結果的に制した。納得のいかない百合園時代の従兄弟が途中で反乱を起こしたが、これは聖園家の率いる近衛隊によって鎮圧。
後、試しにやってみたら隕石を落とせた。これは凄いなと感嘆する間もなく、初めてなせいか顔面に当たって大変痛い。正直、数日は寝込みたかったが、親戚一同容赦がない。執務室へと引っ張り出されてしまった。
聖園家は前回の百合園家の内乱の反省から西と東の二分割で学園を経営することを決定した。今サインしている文書はまさにその事についてだ。
単独統治はあまりにもヘイトを買うというのが一家として出した結論だ。
「……うーん、痛いかな★」
直撃した後頭部を擦りつつ、西ではなく、ゲヘナ方面へと思考を回す。押し寄せてくる大軍を相手するのは骨が折れるが、別に苦ではない。かつて戦った族長らの子孫を見るのも、微かにだが心に余裕をもたらしてくれる。結局、殴りはするんだがな。とか、のんびり考えていたが……夢で見た内容を思い出す。それは、聖園家での使徒継承が途絶えるというものだ。というか簡単に言えば、再び即位式を見てしまったが正しい。
ゲヘナ人に破れた聖園家が作った東方の穴を埋めるために秤家が任命されたことがきっかけだ。ミステリオン本土を含む、東方を治めるべく臨時で万臣殿より派遣され、対する聖園家は西へ集中する。その分担をやろうとした瞬間に起きてしまった。
紀元379年、
長い話し合いの後、聖園家が指名したということにすることで話がまとまった。だが、現状の四家会議の内容ではそれを行うことは出来ない。
これが紀元281年の
「……疲れたな。要点をまとめて採決するのに2年だぞ」
『お疲れ様です』
「頭お花畑の人ばかり……学園六分割案とか正気じゃない。権力を握りたいだけだろうに」
同時に次の仕込みに追われるというハードワークに白髪が出てしてしまう。もともと白髪だが、とか言う下らない冗談を考えつつ、ミステリオン国内に微かに残っている先人の時代の異物を一斉に処理するというものだ。名も無き神々にアビドスの厄ネタ、デカグラマトンなどの現体制を否定する存在をどうにかする。
これが急務であった。故に、まずは四家に根回し、全学公会には圧力をかけて、卒業を途中で挟みつつも確実に行っていった。西の聖園家を半ば傀儡化する形にはなったが、実質余の命令がミステリオンの東西に届く体制を整えた。
紀元392年、秤ユリ陛下はミステリオン全域に『
これによって太古の教義のみがミステリオンを包括する教義にして戒律であり、シスターは組織を持たなくとも自由に活動できるように定められた。これはトリニティのユスティナ聖徒会による悲劇を考慮し、あくまでも生徒の一人であるとした。シスターとは生徒の自由活動の一環であり、彼女らの集会や扱う教会は学校施設を運用しているに過ぎない。つまり、シスターとは部活動ではなく、あくまでも思想の一種である。シスターになるかならないかは生徒の自由であり、シスター側も陛下の配慮に感謝を表明した。
これは使徒の教義における絶対的立場を強調し、シスターという組織がない故に誰がそうであるかがわからない味方を作る狙いである。簡単に言うと、スパイ。逆にシスター側から裏切られる可能性はあるが、余としては十分対処できる範囲だろう。これでも無数の反乱を鎮圧してきた腕がある。
そんなことを言っていたからか、聖園家に反旗を翻した近衛隊の一部が彼女らを追い出し、西を制圧して陛下への即位を宣言。その反乱の鎮圧に出動し、万臣殿の四家連合の物量作戦を行い、当初は天候によって不利だったものの、風向きが変わり、大きな抵抗もさせずに鎮圧に成功した。この際、相手方に忍び込んでいたシスターが近衛隊の一部を寝返らせるなどの戦果を上げたことで、シスターという存在と陛下の関係はより深まった。
395年、万臣殿における会議で帝国の分割が決められる。トリニティ地域とゲヘナ地域の一部を万臣殿が統治し、ミレニアム地域やミステリオン本土は陛下が統べると決定した。
だが、これによって本土と万臣殿の関係がより薄まっていき、分裂が深まっていった。その一つにトリニティ地域で誕生したユスティナ聖徒会があげられる。本土はあくまでも組織は設けない方針なのに対し、万臣殿は組織化を行い、その自立を促すことで制御することを試みた。陛下はゲームの知識に基づいて何度も解体を薦め、秤家にも反対票を投じさせたが賛成3対反対1となり、可決されてしまう。
「ユスティナ聖徒会……まさかトリニティより先に誕生していたとは……やはり、歴史は変わらないとでも言うのか?」
懸念している素振りを隠すこと無く、万臣殿から送られてくる執務室の報告書を眺める。相次ぐゲヘナ人の越境は良いとしても、この明らかにトリニティが形成されていく為の準備が行われている気配がして落ち着かない。陛下の大権で規制することも出来ず、権力と政治によって身動きが取れない。
『陛下、ご実家を二つに分けられてもよろしかったのですか』
東西に分裂するにあたって、万臣殿に着いていく方と本土に残留する方とで家を分けた。家の危機管理もあるが、秤家がトリニティ形成のストッパーとなってくれることを期待し、本土の秤家は陛下の継承を行っていく為に残って貰った。
「リスク管理のためだ。それに陛下に連なる一家だ。ユスティナ聖徒会は防げなかったとは言え、向こうに本土の影響力を残してくれるだろう。簡単に言えば、戦略的配置というやつだ」
秤ユリは顎に手を当てて、優艶に微笑んだ。
『先生の着任まで残り1600年』
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追記4/4、作者の健康状態の悪化により、現在更新が止まっております。症状が落ち着いたら、書くようにはしていますが、次話の更新まで今しばらくお待ちいただくかもしれません。次話を楽しみに待ってくださっている読者の方々には申し訳ない限りです。早く、治して更新を続けたいと思っておりますので、失踪は致しません。気長にお待ちいただくように改めてお願い申し上げます。
追記4/24、健康状態が回復してきたので、5月中に書き貯めて6月に完結まで投稿する予定です。健康状態との相談にはなりますが、皆様の感想や評価を裏切ることがないように書いていきたいと思います。期間が空きますが、どうかお待ち頂くようにお願いいたします。