すべてを失って身売りした少女にすべてを与えてみた結果   作:ヤンデレすこすこ侍

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第五話

 フィーネの学院入りが決まったのは、その三日後だった。

 

「早くないか?」

 

 俺が言うと、ガレスは涼しい顔で書類を差し出した。

 

「殿下が早めと仰せでしたので」

「言った覚えはあるが、ここまでとは思わなかった」

「客人殿が一晩で必要書類を揃えられました」

「一晩で?」

「不足していた戸籍整備、後見、推薦、学力測定申請、魔力適性証明、礼法教官の所見、すべてでございます」

「待て」

「はい」

「なぜ本人が主導している?」

 

 すると、俺の向かいで紅茶を飲んでいたフィーネが静かに口を開いた。

 

「殿下に並ぶまでの最短距離ですので」

「入学手続きにそこまで執念を燃やすな」

「燃やしてはおりません。冷静です」

「冷静な人間は三日でそこまでやらん」

 

 フィーネは小首を傾げた。

 

「ですが、来春の正規入学を待つと半年以上の損失です」

「損失」

「はい。殿下と同じ場所で学べる時間が減ります」

「言い方が重いんだよなあ」

 

 だが、実際その通りではある。

 

 帝国学院は貴族子弟と特待生のための最高学府だ。

 普通は年ごとの入学だが、例外的な編入制度もある。

 ただし、相応の推薦と実力が必要だ。

 

 そしてフィーネには、両方があった。

 

 実力は言うまでもない。

 エルヴィナのお墨付きだ。

 推薦も、俺が出せば通る。

 あとは形式だけ――だったのだが。

 

「問題は、殿下です」

 

 フィーネが淡々と言った。

 

「なぜそこで俺が問題になる」

「学院側は、私の編入そのものより、殿下が学院へちゃんと通われるのかを気にしています」

「うっ」

 

 図星である。

 

 帝国学院には籍がある。

 ちゃんとある。

 だが俺は、退屈な授業をそこそこ飛ばしていた。

 だって簡単なんだもの。

 

「学院長からの返答にも、それはにじんでおりました」

 

 ガレスが咳払いひとつしてから読み上げる。

 

「第三皇子殿下が同席の上であれば、特例編入も前向きに検討する」

「嫌な書き方だな」

「意訳すると」

「するな」

「ついでに殿下も来なさい、でございます」

「最悪だ」

 

 フィーネがすっと書類を畳んだ。

 

「では、ちょうどよかったですね」

「何が」

「私の学院生活だけでなく、殿下の学院生活も立て直せます」

「頼んでない」

「ですが必要です」

「即答するな」

 

 だが、俺が何を言おうと、流れはもう決まっていた。

 

 推薦は通る。

 編入試験も通る。

 そして俺は、付き添いという名目で学院へ連行される。

 

 理不尽である。

 

 

   ***

 

 

 編入試験当日。

 

 帝国学院は、皇都中央の高台にある。

 白い石造りの校舎群が幾重にも連なり、中央には大時計塔。

 左右に訓練棟と魔術棟、奥には図書塔まで見える。

 いかにも、エリートを育ててますという顔をした場所だ。

 

 久々に正門をくぐった俺は、思わず顔をしかめた。

 

「……相変わらず無駄に立派だな」

「学院ですので」

「権威の塊みたいな建物だ」

「殿下にだけは言われたくないでしょうね」

 

 横でフィーネが言う。

 

 本日は学院指定の簡素な装いだ。

 地味な紺のワンピースに白い上着。

 飾り気はないが、姿勢の良さのせいで妙に目立つ。

 

 門番も、受付の教官も、すでに俺の顔を見て硬直していた。

 まあそうだろう。

 普段は出席率の低い第三皇子が、見知らぬ少女を連れて試験会場まで来たのだ。

 面白いわけがない。

 

「殿下、本当に同席なさるのですか?」

 

 受付の文官が緊張した声で聞いてくる。

 

「学院長がそうしろと言ったんだろ」

「……承知いたしました」

 

 文官が深々と頭を下げる。

 その隣で、フィーネが静かに囁いた。

 

「もう少し柔らかくお話しください」

「最初に喧嘩売ってきたのは向こうだろ」

「売っていません。怯えていただけです」

「違いが分からん」

「そこは学んでください」

 

 お前は本当に遠慮がないな。

 

 だが、そんなやり取りをしているうちに、周囲の緊張が少しだけ緩んだのも事実だった。

 やはり、一人で来るよりこいつがいた方が空気は回る。

 

 

   ***

 

 

 試験は三つ。

 

 筆記。

 口頭。

 実技。

 

 普通なら受験者は控室で待たされる。

 だが今回は特例に特例が重なり、俺も見学席へ通された。

 

「殿下」

 

 案内の教師が恐る恐る言う。

 

「ご見学は構いませんが、試験内容への口出しは――」

「しない」

「ご助言なども――」

「しない」

「受験者への加点圧力など――」

「するわけないだろう」

「失礼いたしました」

 

 失礼にもほどがある。

 だが日頃の俺の行いが完全に潔白かと言われると、少し黙るしかない。

 

 やがて試験官たちが入室した。

 学院長、筆記担当の老教授、口頭担当の女教官、そして実技担当としてエルヴィナまでいる。

 

「なぜいるんだ」

 

 俺が聞くと、エルヴィナは眉ひとつ動かさない。

 

「私が推薦したからです」

「推薦者が試験官やるのか」

「正確には監督です」

「お前、実は信用ないな?」

「ありますよ。あなたよりは」

 

 ひどい。

 

 フィーネはそんな会話の最中でも、まるで乱れない。

 試験台の前に立ち、一礼する。

 

「フィーネです。よろしくお願いいたします」

「緊張は?」

 

 と学院長が問う。

 

「あります」

「見えませんね」

「見せても点は上がりませんので」

 

 数人の教師がぴくっとした。

 俺は口元を押さえた。

 ああ、始まった。

 こいつの平熱のまま斬り込むやつだ。

 

 筆記は、正直ひどかった。

 

 いや、フィーネがではない。

 周囲の顔が、だ。

 

 最初は、身元不明に近い編入希望者くらいの扱いだったのが、解答用紙が回収されるころには全員の目が変わっていた。

 採点していた老教授が途中で二度ほど眼鏡を外し、一度、水を飲み、最後には俺を見た。

 

「殿下」

「なんだ」

「この娘、本当に基礎教育を受けてまだ日が浅いのですか」

「浅いな」

「冗談ではなく?」

「俺がこの手の嘘をつくと思うか?」

「つかれるでしょう」

「ひどいな?」

 

 だが、老教授はもう俺を見ていなかった。

 解答用紙を見つめたまま、ぶつぶつと呟いている。

 

「論理構成が綺麗すぎる……」

「設問の意図を読むのが異様に早い……」

「途中式の省略が惜しいが、理解自体は……」

 

 フィーネは席に戻ると、俺にだけ聞こえる声で言った。

 

「途中式は必要でしたか」

「それ、終わってから言う台詞か?」

「減点の可能性があるなら改善します」

「反省の方向が受験強者すぎる」

 

 続く口頭試験でも、フィーネはやはりフィーネだった。

 

「帝国法における貴族の義務を述べなさい」

「権利の維持ではなく、秩序の維持です」

 

「魔術師が軍属となる際に最も重要な資質は?」

「火力ではなく、制御と再現性かと」

 

「王族に忠誠を誓うとは何ですか?」

「個人への盲従ではなく、王族が担う国家機能への信頼です」

 

 その答えに、部屋の空気が変わった。

 

 女教官が、じっとフィーネを見る。

 

「それは危うい答えでもあります」

「ええ」

「王族個人が誤れば、反することもありうると?」

「ありえます」

「大胆ですね」

「ですが、誤りを正す者がいなければ、忠誠は国を壊します」

 

 俺は、少しだけ息を止めた。

 

 そうか。

 こいつ、学院の教師相手にもちゃんと言うのか。

 俺にだけじゃない。

 誰が相手でも、必要と思えば曲げない。

 

 ――いいな。

 

 単純に、そう思った。

 

 学院長がゆっくり口を開く。

 

「もし、その誤る王族が目の前にいたなら?」

「言います」

「誰が相手でも?」

「はい」

「たとえば」

 

 学院長は、わざとらしく俺を見た。

 

「第三皇子殿下でも?」

 

 数人が青ざめた。

 俺はむしろ興味があったので、腕を組んで返事を待つ。

 

 フィーネは一瞬だけ俺を見たあと、すぐ学院長へ向き直った。

 

「言います」

「ためらわず?」

「必要なら」

「嫌われるかもしれませんよ」

「その程度で崩れる関係なら、最初から価値がありません」

 

 沈黙。

 

 それから、俺は吹き出した。

 

「くくっ」

「殿下」

「いや、すまん。面白くて」

 

 教師陣の胃が痛そうな顔は見なかったことにする。

 でも仕方ないだろ。

 俺の欲しかったものが、今まさに目の前で実演されていたんだから。

 

 

   ***

 

 

 問題は実技だった。

 

 なにしろ、こいつは加減がまだ怪しい。

 エルヴィナの水晶を壊しかけた前科がある。

 

「絶対に壊すなよ」

「努力します」

「その答え方やめろ」

「試験設備の耐久が不明ですので」

「怖いこと言うな」

 

 実技場は半円形の石造りだった。

 中央に魔力測定柱が三本。

 周囲に的、障壁、制御用の結界。

 学院上位生の実習にも使われる設備だ。

 

 エルヴィナが前に出る。

 

「課題は単純です。第一、魔力制御。第二、複合術式の理解。第三、応用」

「応用?」

「その場で出します」

「性格が悪いな」

「あなたには言われたくありません」

 

 試験が始まる。

 

 第一課題は、細いガラス管に魔力を流し、途中の印を均等に光らせるというものだった。

 新入生なら十本中三本も成功すれば優秀。

 フィーネは十本全部、寸分違わず光らせた。

 

 第二課題は、火球を作らず、熱だけを一点に集める応用操作。

 これも普通は暴発する。

 フィーネは暴発どころか、的の中心だけを焦がして、周囲を無傷で残した。

 

 ざわ、と見学席が揺れる。

 

 そして第三課題。

 エルヴィナが少しだけ笑った。

 嫌な笑い方である。

 

「では、即興です」

「はい」

「前方の障壁に対し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

「火属性でも、風属性でも、水でも構いません。複合も可」

「なるほど」

 

 難題だ。

 真正面から何か撃てば障壁に弾かれる。

 回り込めば間に合わない。

 しかも、壊さずに、だ。

 

 普通なら悩む。

 少なくとも十秒は。

 

 だがフィーネは、二秒で動いた。

 

 指先に淡い光が宿る。

 熱ではない。

 風でもない。

 もっと薄い、透明に近い魔力。

 それを障壁の縁へ沿わせ、微細な流れを作り、向こう側の空気だけをわずかに揺らした。

 

 次の瞬間。

 

 ふっ、と蝋燭の火が消える。

 

 障壁は無傷。

 音もない。

 派手さもない。

 

 なのに、試験場にいた全員が凍った。

 

「……今、何をした」

 

 学院長が低く問う。

 

「障壁そのものには触れませんでした」

 

 フィーネが静かに答える。

 

「縁で乱れていた流れを使って、内側に差圧を作っただけです」

「……()()

「はい」

「それを初見で?」

「形が見えましたので」

 

 形が見えた。

 たぶんこいつにとって、術式や障壁の流れはそういうものなのだろう。

 文字を読むみたいに見える。

 

 エルヴィナが額を押さえた。

 

「学院長」

「……なんでしょう」

「申し上げたでしょう。放置は危険だと」

「意味がよく分かりました」

 

 俺は椅子の背にもたれながら、にやにやを抑えきれなかった。

 すごい。

 単純にすごい。

 そして少し、誇らしい。

 

 俺が見つけた。

 俺が拾った。

 そう思ってしまうくらいには。

 

 するとフィーネがこちらを見た。

 

「殿下」

「なんだ」

「今、少し嬉しそうでした」

「少しどころじゃないが」

「よかったです」

 

 その一言が、妙にまっすぐ胸に落ちた。

 

 

   ***

 

 

 結果は、その日のうちに出た。

 

「特例編入を認めます」

 

 学院長が重々しく告げる。

 

「帝国学院上級課程、一年次への編入。加えて、魔術理論・統治補佐基礎・戦術演算については上位クラスへの参加を許可します」

「上位クラス、か」

 

 さすがに俺も少し驚いた。

 普通の編入じゃない。

 ほぼ最優遇だ。

 

 フィーネは一礼した。

 

「ありがとうございます」

「礼は不要です。結果に対する当然の措置です」

「では、結果で返します」

「……」

 

 学院長が少しだけ黙る。

 たぶん、この短いやり取りで、またひとつ理解したのだろう。

 この娘は、入れたら終わりじゃない。

 入れてからが始まりだと。

 

「なお」

 

 学院長の目が、今度は俺へ向く。

 

「第三皇子殿下」

「なんだ」

「今後は、もう少し学院へお顔を出していただけますかな」

「嫌な流れだな」

 

 横でフィーネがすっと口を開いた。

 

「せっかく隣席が埋まるのですから」

「お前まで言うのか」

 

 フィーネは学院長に視線を移した。

 

「ご安心ください、学院長」

 

 その言葉に、俺は学院長よりも先に口を出す。

 

「何をだ」

「殿下の出席管理は、私が」

「待て」

「責任を持ちます」

「誰も頼んでない」

「ですが必要です」

「必要の圧が強い」

 

 学院長が、初めて少しだけ笑った。

 教師陣も、肩の力を抜いている。

 ああ、もう駄目だ。

 完全に面白がられてる。

 

「では、明日から登校ですね」

 

 フィーネが当然のように言った。

 

「待て待て待て」

「何か?」

「今日決まって明日からか?」

「最短距離ですので」

「お前の人生、いつも最短距離だな」

「殿下の隣に行くのに、遠回りは不要かと」

「そこを堂々と言うな」

 

 だが結局。

 俺は翌日、久々にまともな時間に学院へ向かうことになった。

 

 

   ***

 

 

 翌朝。

 

 学院の登校路は、地獄だった。

 正確には、視線がだ。

 

「あれ、殿下よね?」

「本物?」

「隣の方は誰?」

「噂の……?」

「まさか、あの特例編入の」

 

 うるさい。

 実にうるさい。

 

 馬車を降りた瞬間から、周囲の生徒たちがざわめいている。

 貴族子女、官僚の子、地方領主の嫡男、特待の平民。

 色んな視線が、一斉にこちらへ向いていた。

 

 その中心にいるのは、当然俺――ではなく、ほぼフィーネだ。

 

 特例編入。

 第三皇子同伴。

 出自不明寄り。

 しかも昨日時点で試験官が騒いだ。

 

 目立たない方が無理である。

 

「殿下」

「なんだ」

「本日の目標を確認しても?」

「こんな状況で?」

「はい」

「……聞くだけ聞く」

「まず、殿下は二限まで必ず出席」

「重い」

「次に、無意味な挑発を受けても笑って流す」

「俺を何だと思ってる」

「高確率で挑発に乗る方です」

「信頼が低いな!」

「最後に」

「まだあるのか」

「私が殿下の隣に座ります」

「そこは最初から決定事項なのか」

「当然です」

「誰が決めた」

「私が」

「強い」

 

 その時だった。

 

「レオンハルト殿下」

 

 聞き慣れた、しかしあまり嬉しくない声音。

 振り向けば、そこにいたのはヴィルヘルムだった。

 

 以前、宮廷でフィーネに軽くいなされた侯爵家の嫡男。

 学院でも上位の成績優秀者で、取り巻きが多い。

 

「ごきげんよう」

 

 ヴィルヘルムが挨拶をしてくる。

 

「朝からご苦労なことで」

 

 皮肉で返す。

 しかし、俺の皮肉は流された。

 ヴィルヘルムの視線がフィーネに向く。

 

「やはり、こちらの方が例の編入生ですか」

「ああ」

「大体一週間ぶりですか、フィーネ殿」

 

 フィーネはヴィルヘルムに頭を下げた。

 

「ええ、お久しぶりです」

「学院は初めてでしょう。分からないことがあれば、私が案内を」

「不要です」

 

 即答だった。

 

 周囲がまた静まる。

 ヴィルヘルムの笑みが、ほんの少しだけ固まった。

 

「……不要、ですか」

「はい。殿下がおられますので」

「ですが殿下は、ご多忙でしょう」

「それでも不要です」

「少しは学院内の人間を頼っても」

「殿下の隣が最優先ですので」

 

 重い。

 言ってることは真っ当なのに、圧が重い。

 

 俺は横で額を押さえた。

 だがヴィルヘルムには、それがまるで別の意味に見えたらしい。

 

「殿下もお困りでは?」

「いや、別に」

「しかし」

「俺が困るのは、お前が朝から面倒な時だけだ」

「……」

 

 ヴィルヘルムが数秒黙る。

 そして、フィーネをじっと見た。

 

「なるほど。殿下に気に入られるわけだ」

「ええ」

 

 フィーネは静かに微笑んだ。

 

「大切にされていますので」

「……」

 

 うわあ。

 この微笑み、敵に回したくないやつだ。

 

 ヴィルヘルムは何か言いたげだったが、結局、形だけ一礼して引いた。

 見送ったあと、俺はフィーネを見る。

 

「お前」

「はい」

「初日から火種を作るな」

「作ってはおりません」

「燃えてるが?」

「可燃物が多いのでは」

「人のせいにするな」

 

 だが、フィーネは平然としていた。

 むしろ少しだけ周囲を観察する目が鋭くなっている。

 

「殿下」

「今度はなんだ」

「この学院、思ったより面白そうです」

「へえ」

「私が殿下の隣に立つのを、嫌がる人が多い」

「まあな」

「でしたら」

 

 フィーネは、静かに言った。

 

「なおさら、勝ちやすいです」

 

 ぞくり、とした。

 

 ああ。

 来たな、と思った。

 

 奴隷市で拾った時から分かっていた。

 こいつは強い。

 頭も回る。

 しかも重い。

 

 だが今、ようやく実感した。

 

 学院という場所は、たぶんフィーネに向いている。

 実力も、立場も、視線も、全部が露骨に並ぶ場所。

 だからこそ、こいつは遠慮なく上がってくる。

 

 俺の隣へ。

 本気で。

 最短で。

 

「……俺、ちょっとだけ同情する」

「誰にですか」

「学院全体に」

「今さらですね」

 

 フィーネはそう言って、当然のように俺の横へ並んだ。

 

 半歩後ろじゃない。

 横だ。

 

「行きましょう、殿下」

「初日から堂々としてるな」

「対等を目指しておりますので」

「まだ目指してる段階だろ」

「はい」

「じゃあなぜそんなに完成度が高い」

「努力しておりますから」

「怖い」

 

 だが、俺は少しだけ笑った。

 

 退屈はしない。

 たぶん、もう絶対に。

 

 学院の大時計が鳴る。

 朝の鐘だ。

 白い校舎に響くその音の中で、俺たちは並んで歩き出した。

 

 第三皇子と、

 特例編入の少女。

 

 この日から帝国学院は、少しずつ騒がしくなる。

 

 そして俺は、まだ知らない。

 

 隣を歩くこの女が、

 入学初日から上級生、教師、貴族派閥、成績序列、その全部に順番に波紋を投げ込んでいき、

 最終的には学院そのものの空気を塗り替えることになるのを。

 

 ただ、その時の俺に分かっていたのはひとつだけだ。

 

 こいつはきっと、来る。

 

 俺の隣まで。

 俺が想像しているより、ずっと早く。

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