耳を覆うほどの帽子を被りドワーフの様なたくましい髭を生やした男が、焚き火の炎を背に杯を高く掲げた。
雪が静かに舞うシベリアの森の夜。木々が風にざわめき、遠くで狼の遠吠えが聞こえそうな、張りつめた静けさの中、彼の声が低く響いた。
「我が友よ……古きも新しきも。俺たちは束の間の勝利を得た。エレメント115。935部隊。ブタどもの災厄。そしてMPDに、アポシコンども……どれもこれも……消えて無くなるだろう。だが今夜は大いに祝おうぜ!」
この男ニコライ・ベリンスキーは杯を傾け、炎の光が彼の顔を赤く照らした。続けて、静かだが確信に満ちた声で言った。
「このカがあれば……つまりこれを操ることで……どこへだって行ける……ようやく……故郷に帰れるな。昔の生活に戻り……家族のもとへ」
自己紹介がまだだったな、俺はタンク・デンプシー。アメリカ海軍所属の軍人だ。
今この瞬間、雪が積もった夜のシベリアの森の中で、焚き火を囲みながらこれまでの記憶を思い返していた。
1918年6月4日。フランスの塹壕基地に埋もれた古い遺跡。
そこが俺たちの出会いであり、長い旅路の始まりだった。
元々俺は軍の命令で、とある重要人物の保護に向かっていた。支給された戦車一台だけで現場に到着すると、そこはすでに生きる屍が跋扈する地獄と化していた。腐敗した肉の臭い、絶え間ないうめき声、地面から這い出てくる死体。
襲いかかるゾンビを銃弾とナイフでなぎ倒しながら、保護対象がいる研究所へとたどり着いた。そこで出会ったのは、同じ目的でやってきたロシア人のニコライ・ベリンスキー、日本人の正木武雄、そして重要人物であるドイツ人科学者、エドワード・リヒトーフェンだった。
この状況で生き残るためには、一時的に共闘するしかない。誰もが即座にそれを理解した。
あの出会いによって、俺たちは数え切れないほどの死線をくぐる旅が始まった。
小さな次元に閉じ込められ、
そして今——この旅の全ての元凶であるDr.モンティを倒すための前祝いとして、俺たちは宴を催していた。
酒の杯が手から手へ渡され、炎がそれぞれの顔を照らす。傷だらけの体、疲れ果てた目、しかしどこか晴れやかな表情。
風が木々を揺らし、炎がパチパチと音を立てる中、八人が一つの火を囲み、声高らかに言葉を交わした。
突然、ニコライが杯を再び掲げ、皆に聞こえるように声を上げた。
「同志よ!勝利の杯を交わしながら、オメーらが心から望む事について考えてみてくれ。どこかへ行きたいんじゃないのか?」
誰もが一瞬、言葉を失った。杯を握る手が止まる。ニコライは続けた。穏やかで、しかし確信に満ちた声で。
「俺を信じろ。オメーらにはその資格があるんだ。俺たちには力がある」
突然の問いかけに、俺たちは考え込んだ。
炎の揺らめきが、それぞれの顔に影を落とす。過去の戦いの傷跡が、火の光に浮かび上がった。まず、ニコライ自身が口を開いた。
「俺は我が家に帰りたい。最愛の人のもとに。爆弾が落ちてくる前の時代に。彼女の傍らで、死ねればそれでいい」
次に、正木武雄が静かに頷き、刀の柄に手を置いたまま言った。
「我には心安らかな我自身が見える。穏やかに、桜の木の下に座っている。遊びに興じる我が子らの、楽しげな声を聞きながら」
リヒトーフェンがいつもの皮肉っぽい笑みを浮かべながら、しかしどこか真剣に呟いた。
「ワシは教授になりたい……医学の……たぶん病理学じゃな」
俺、デンプシーは肩をすくめ、笑いながら答えた。
「考えれば考えるほど、俺は最高に素晴らしい訓練教官になれると思うんだ。若い奴らを鍛えてやる……」
すると、別世界のニコライ1.0が杯を傾け、豪快に笑った。
「ニコライはお気に入りのバーに行きてえな。だがウォッカさえあれば……ニコライは幸せな男よ」
別世界の正木武雄1.0が、静かに目を細めた。
「我は敬意を表せたのだろうか。我が祖霊と……閣下に」
別世界のリヒトーフェン1.0が、血に塗れた手を眺めながら言った。
「ワシはのんびりするべきじゃろうな。趣味を始めて。死体安置所を開くのもいいのでは……」
最後に、別世界のデンプシー1.0が大声で笑った。
「ちょっと考えさせてくれ。だけど、どこに行ったとしても、俺なら大暴れするだろうけどな……ハハハハ」
八人の笑い声が、焚き火の周りに響いた。
温かく、懐かしく、しかしどこか切ない響きを帯びて。
炎が揺れ、雪が静かに降り積もる中、その笑いは次第に薄れていった。
杯を持つ手が重くなり、意識が、ゆっくりと遠のいていく。
体が軽くなり、痛みさえも消えていく。
今までの経験で察しがついた。これは……終わりだ。
長い、長い旅路が、ようやく終わる——
突然、視界が純白に染まった。目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。
明るく、列車のような見慣れない構造の車内。
窓の外から夕日……いや、夜明けの明かりが差し込み、一面海のような風景が流れている。
左右を見ると、血まみれの姿で座っている三人の仲間がいた。リヒトーフェン。武雄。ニコライ。
皆、目を閉じ、動かない。
俺自身も、胸に広がる血の感触をはっきりと感じていた。顔を前に向けると、見知らぬ長髪の女が俺たちと同じく血まみれのまま座っていた。
すると、その女の声が響き始めた。
どこからともなく、優しく、しかし重い声。
「……私のミスでした。
私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。
結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……。…今更図々しいですが、お願いします。
先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……。ですから……大事なのは経験ではなく、選択。
あなたにしかできない選択の数々。……だから先生、どうか……。」
その最後の言葉に、四つの声が重なった。
意識のない体から、魂だけが答えるように。
「……了解だ」
「……引き受けよう」
「……しかと受け入れた」
「……ああ、わかった」
俺の声、リヒトーフェンの声、武雄の声、ニコライの声。
声が消えた瞬間、再び闇が訪れた。
「……い……先生……いえ、皆さん。起きてください。」
意識がはっきりしてきたところで、鋭くも落ち着いた声が響いた。
目を開けると、見知らぬ女が立っていた。
白い服をベースに、黒色の長髪。眼鏡をかけ、そして一番の特徴的だったのは、まるでおとぎ話に出てくるエルフのように長い耳の形状だった。俺は椅子に座って寝ていたのか? そもそもここは一体どこだ?
見慣れないデザインのオフィス。柔らかな太陽の光が窓から差し込み、埃がゆっくりと舞っている。
体に残っていた血の感触は、なぜか綺麗に消えていた。さっき見た光景は夢だったのか?
そう思いながら、デンプシーはゆっくりと体を起こした。
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」
隣を見ると、武雄が目をこすり、リヒトーフェンが静かに息を吐き、ニコライが無言で周囲を見回している。見た感じ、平行世界の俺たちが見当たらないようだが……
「夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。では改めて、私は七神リン。連邦生徒会の首席行政官です。
おそらくあなたたちが……私たちがこのキヴォトスに呼び出した『先生』方ですね。」
こうして、
新たな「先生」として、
学園都市キヴォトスの物語に足を踏み入れた。
主な用語解説
Primis(プリミス)
CoD:BO2ゾンビモードのDLC第4弾「Origins」以降の主人公。
年齢は20代後半〜30代前半
本作の主人公である4人(タンク・デンプシー、エドワード・リヒトーフェン、正木武雄、ニコライ・ベリンスキー)。
「最初の」という意味のラテン語由来で、今回の物語の中心となるのが彼ら。
Ultimis(ウルティミス)
CoD:WaWゾンビモードのDLC第2弾「Shi No Numa」から登場する主人公
通称「1.0」上記の4人と同じ人物の別世界・別時間軸の自分たち。年齢は40代後半〜50代後半。
性格がより荒々しく、経験を積んだ先輩のような存在。物語冒頭で一緒に酒を酌み交わしていたのが彼ら。
ドクター・モンティ
ゾンビモードの世界で暗躍する、強大な力を持つ謎の存在。
次元や時間を操るような神にも似た人物で、4人が長年戦い続けてきた「全ての元凶」とも言える相手。
エレメント115
ゾンビを生み出す特殊な元素。
この物質が原因で死者が蘇り、無限の戦いが繰り返される世界の根源的な力。
935部隊
第二次世界大戦時代に存在した秘密研究組織。
リヒトーフェン1.0が所属していたグループで、エレメント115を使った危険な実験を行っていた。
MPD(Moon Pyramid Device)
月面に存在する古代のピラミッド型装置。
魂や次元を操作する強力な装置で、エーテルの力と繋がった魂をゾンビを操れる権限を持っている。
アポシコン
古代から存在する邪悪な高次元生命体。
元々はドクター・モンティと同族の「キーパー(守護者)」だった存在が、ダークエーテル(Dark Aether)に接触したことで闇堕ちてしまった姿。