1 シッテムの箱とパークマシン
生徒たちを見送った俺たちは再びシャーレのオフィスへ来ていた。
「よし、せっかくだからこの施設を隅々まで見て回ろうぜ。何か役に立ちそうなものが置いてあるかもしれない」
「今後ワシらの拠点になる場所じゃ。どこに何があるか今のうちに把握しておくべきだろう」
そうして俺たちは周囲を調べ始めた。俺たちはまずデスクを調べ始めた。
そして引き出しに触れたときに少し中で突っかかる感じがした。
「ん? このデスクの引き出し、妙に重いな…」
引き出しを思い切り開けた瞬間、中から三つの端末が滑り出てきた。
どれも同じデザインの薄型の端末だったがよく見れば俺が今持っているシッテムの箱とほぼ同じモノに思えた。
リヒトーフェンが一つを手に取り電源をつける。すると画面が表紙された。
『生体認証確認。シッテムの箱へ接続確認中…現在の接続者情報がリヒトーフェン本人であることを確認』
『「シッテムの箱」遠隔端末へようこそ、リヒトーフェン先生』
『これによりシッテムの箱へのアクセスが可能になりました』
そうして画面が切り替わると椅子に座って絵描きをしているアロナの姿が映し出されていた。
俺はその光景が少し気になり自身のシッテムの箱の画面を確認した。そこにはリヒトーフェンの端末に写っているアロナと同じ行動をしているアロナの姿があった。
そしてこっちに気づいたアロナが画面越しに近づいてきた。
『リヒトーフェン先生!先ほどクラウド端末の接続を確認しました。これでデンプシー先生と同じくアロナがアシスタントできます』
「これは……シッテムの箱のサブ端末ということか?遠隔接続可能な通信端末とはな」
リヒトーフェンは状況を把握して言葉に出していた。
「つまり、残りの二つは必然的に俺と武雄の分ってことか」
ニコライがもう一つを手に取り呟いた。
「我はこういう機械類はあまり使い慣れていない、持っていても扱いきれるか…」
武雄は端末を眺めていたが、しぶしぶ手に取った。
画面に軽く触れると、先ほどと違いすぐにアロナの声が響いた。
『認証完了。ニコライ先生、武雄先生、クラウド端末を登録しました!これで先生方はいつでもアロナと繋がれますよ!』
「これは予想以上に役に立つ。ワシらが活動する上で非常に有効なモノじゃ」
リヒトーフェンが興奮気味に言った。
そして俺たちは新しく端末を入手した後他の場所を調べ終え地下室へ着いた。
無論ここに来た理由はパック・ア・パンチマシン、パークドリンク、ミステリーボックス、ゴブルガム機が使えるどうか確認するためだ。
結論から言ってパックアパンチマシン以外は正常に使える状態になっていた。
リヒトーフェンはパック・ア・パンチマシンの横にしゃがみ込み、内部を覗き込んだ。
「どれも一部が故障しているようだな、エネルギー回路が不安定じゃ。今すぐ使うのは危険だな……だが、修理すれば十分に使える。その内で直しておこう」
それを聞いてニコライが安堵を口にした。
「よかったぜ。これで他のも全部壊れてたら厳しい状況になってただろうよ」
「リヒトーフェン、お前が直してくれるのか?」
俺は再度リヒトーフェンが修理してくれるのか確認した。
「当然だ。ワシがが天才的な頭脳を活かさねば、こんな機会を逃す手はない。他の誰かにも手伝わせるかもしれないが……まずはワシ一人でやってみよう」
「ワシの考えが正しければパークドリンクをより強化できるかもしれん。実に楽しみじゃ」
「まあ、頼むぜ。俺たちは……とりあえず、この場所をちゃんと使えるように整えていこう」
こうして、シャーレ地下室を後にした。
2 慣れない機械
シャーレ奪還から翌日の午前中。早瀬ユウカはミレニアムサイエンススクールの部室でレポートをまとめていた。
すると、突然スマホが鳴った。画面に表示された名前を見て少し驚いた。
「……ニコライ先生?」
通話をつなぐと、いつもの落ち着いた声が聞こえてきたが、どこか照れくさそうな響きがあった。
『ユウカか。突然すまない。実は……この支給された機械の使い方が全くわからん。パソコンとかスマートフォンとかいうやつだ。』
『他の皆も扱い方が分かんなくてやっと電話できるところまできたんだが……色々教えてほしいんだ』
「えっ、皆さんですか?」
電話越しからデンプシーの笑い声が聞こえた。
『ニコライ、もっと素直に助けてくれって言えよ』
『うるさいな、おめえはよ』
やり取りを聞いたユウカは思わず笑ってしまった。
「わかりました、今からシャーレに行きますね。皆さん、待っていてください!」
そして部室を後にした。
しばらくしてシャーレのオフィスに着くと、四人の先生が少し気まずそうに待っていた。最初にデンプシーが声を掛けてくれた。
「悪いなユウカ、急に呼び出して。こういう機械はさっぱりで困ってたんだ」
「いえ、私もシャーレに行く予定があったのちょうどよかったです」
ニコライはスマホを指差した。
「とりあえずこれのアプリという機能がわからないんだ。情けない話だがよろしく頼む」
「皆さんわかりました! では最初にスマートフォンの基本操作から説明しますね」
ユウカは四人の先生方の間に座り、丁寧に操作方法を教え始めた。
「指で画面を優しくタッチします。力が入りすぎると誤操作しちゃいますよ。」
「なるほどな」
「この『アプリ』というものは、どのように追加するのだ?」
「へえ、こんなに簡単にできるのか。小っちゃい見た目のくせして結構便利な機械だな」
スマートフォンの操作説明を終えて次にパソコンの説明に移った。
「次はパソコンの使い方ですね。キーボードは……あ、先生方はキーボードは使ったことありますか?」
「キーボードは…タイプライターみたいなもんだろ?」
「タイプライター?なんでそんな古い機械が?えっと…それの進化系だと思って大丈夫です…」
デンプシーの言葉に少し驚愕してしまうユウカ。その後、ユウカは根気強く電子機器の操作を教えた。
デンプシーはタッチ操作、タイピングで苦戦し、リヒトーフェンは文句を言いながらもすぐに使いこなした。武雄は無言で淡々と操作を覚え、ニコライは面倒くせえとぼやきながらも一通り覚えていた。
「先生たち、意外と飲み込みが早いですね……」
しばらくしてユウカは前から気になっていたことをニコライ達に聞いた。
「そういえば先生が身に着けている服装と装備ってかなり古くないですか?私から見てもかなり古い物に見えます」
ユウカはニコライの背中に指をさした。それはニコライが背負っているバックパック型の軍用無線機のことだった。
「この無線機がか?俺にとっちゃバリバリの現行機だぜ」
「現行機?私でもそんな大きい無線機を持ち歩いている人は見たことないですよ」
「そういえば、リヒトーフェンの話じゃここにある機械は俺たちがいた所から約100年先の技術って言ってたな」
「100年…!?先生達は一体どこから来たんですか…?」
デンプシーの発言にユウカの目が大きく見開かれた。通りで先生たちがスマホや最新のパソコンの操作が分からないわけだと理解した。
彼女は慌てて口を押さえ、すぐに頭を下げた。
「す、すみません! 急に変なこと言ってしまって…!」
「いや、気にすんな。俺たちも正直周囲から浮いてる感じはしてたんだ」
するとニコライが遠い目で呟いた。
「しかし100年か。随分と遠くに来ちまったもんだな」
「ニコライ先生?」
「ああ独り言だ。さて本来の話がそれちまったな、さっきのパソコンの続きを教えてくれないか?」
……そして全て説明を終えた頃、デンプシーが満足げに笑った。
「ユウカ、ありがとうよ。おかげで少しは使えるようになった」
「おかげで助かったぜ。ありがとな」
「ああダンケ、悪くない教え方じゃった」
「礼を言う。我も少しは理解できた」
(……皆さん、昨日はあんなに頼もしかったのに、意外と可愛いところがあるのね)
「皆さんが困ったときはいつでも呼んでくださいね。これから先生方と一緒に仕事ができたら嬉しいです」
四人の先生はそれぞれに頷き、わずかに表情を和らげた。
「また頼むぜ、ユウカ」
「本当に助かった」
そして先生たちに見送られ、シャーレの建物の外へ出た。
(先生たち…なんだか、面白い人たちだったわ)
ユウカはそう思うと小さく息を吐いた。