未来知識で2回目の人生を無双する予定が即崩壊した上にネットミームとなってしまった件について   作:かにしぐれ

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時が経つのは早いもので

ノリと勢いに身を任せた結果、一生残るであろう黒歴史をネットの海に刻んでしまった私だが、これに懲りた私は大人しく()()()()()として小学校時代は過ごした。いわゆる「二十歳過ぎればただの人」になるコースだ。

 

幸いと言うべきか前世で身に着けた知識を完璧に、それこそ前世の間ですら不可能だと言えるほど今生の身体は完璧に思い出せるため、義務教育の範囲は勿論のこと大学の内容ですら前世と同じ学部に進むのであれば問題ないと確信できる状態だ。

 

尤も、ヤチヨが存在するせいで歴史については覚え直しが必須ではあるのだが、それも完全記憶能力があるマイブレインのおかげで大した苦労ではない。

 

目立つような行動を取ると碌なことにはならないという事を嫌というほど実感した私は、オーバースペックな我が身体能力を全力で行使する気をすっかり失っていた。

 

「超かぐや姫!」の世界は前世とほぼ変わらない環境である。闇の組織が世界を滅ぼそうと暗躍しているわけでもないし、外宇宙の存在が地球の平和を脅かそうとするそうな事もない。いたって普通の地球で、呆れるほど平和な日本だ。

 

転生した当初は巨万の富を等と考えていたが、今はそれほどお金を稼ぐことに対して熱意は持てなかった。誠に不本意ながら「ダンシング・ベイビー」による収益でそこそこの資産は築くことができたし、あれから12年が経った今でも安定した収入が私の口座に入ってきている。

 

そう、「ダンシング・ベイビー」による収益は私の資産になっているのだ。私としては家族の資産になれば良いと思っていたのだが、我が両親は動画による収益を私名義の口座に全て振り込んでおり、私の将来のためのお金にしていたのだ。

 

なんとも両親には頭が上がらなくなるお話である。これは社会人に再びなった暁には親孝行をせねばならない所存である。そこで問題になるのがどのような「大人」になるのかだ。

 

私のこの身体のスペックを十全に生かしたのなら、きっと()()()()()()()()()()()。だが、今の私には()()()()()()()という熱が無い。生まれたての赤ちゃんだった頃は()()()()()()()()が、ネットミームとなってしまった過去が私から「はっちゃけよう」という気持ちを奪い去っていた。

 

私は意外と自己顕示欲よりも羞恥心の方が強かったようである。自分でも前世含めて気が付かなった(あるいはこんなことで気づきたくなかった)性質だった。

 

しかし、私は今年で13歳。まだ未来の事を考える時間は充分にある。何かやりたいことを思い立った時には手遅れだった、という事態にはならないように知識の収集は怠らないようにしつつ、今を精一杯楽しもうではないか。

 

というわけでやってきましたのが【ツクヨミ】のVR世界。「超かぐや姫!」にて出てきたコンタクトレンズ型のVR機器を手に入れた私は早速ツクヨミのアカウントを作成していた。

 

さて、ハンドルネームはどうしたものか。今更ながら、私の今生の名前は「比良坂(ひらさか) 詠海(よみ)」である。名前を入れ替えると「黄泉比良坂」と同じ読み方になるので縁起はどうなのだろう。ママ上曰く、姓名診断で()()()()()良いものだったらしいのだが、その()()()()()の部分が非常に気になるところである。

 

それはさておき、実名のネタの黄泉比良坂から連想されるもので考えてみようか。「イザナミ」は女神なので今生も男である私には合わないだろう。では男神の「イザナギ」はどうかと考えたが、「イザナミ」も「イザナギ」も国産みの神の名前である。さすがに恐れ多すぎるので文字を削って「ナギ」にするとしよう。

 

アバターの設定を終えて仮想モニターを消すと目の前にはヤチヨが立っていた。そういえば、【ツクヨミ】のチュートリアルはヤチヨがやってくれるという設定だった事を思い出す。

 

目の前にいるヤチヨは謎生物(うみうし)のFUSHIを連れていないので、本体ではなく分身体であるAIヤチヨだろう。とはいえ、生で見る(VRなのでこの表現が正しいかは微妙だが)原作キャラクターには変わりはない。転生してきてから実に12年ぶりに、少しだけ私の内に()が灯ったような気がした。

 

 

 


 

 

 

【ツクヨミ】のアカウントを作ってから、私は【ツクヨミ】の中に入り浸るようになった。学校の友人と駄弁るのも、課題をこなすのも全部【ツクヨミ】で出来るため、あの常夜の世界が妙に居心地よく感じた私が家に居る時間のほとんどを【ツクヨミ】で過ごすようになるのは必然だったのだろう。

 

【ツクヨミ】に居る以上、勿論KASSENもプレイ済みだ。こういった一人称視点のバトルロワイヤルものは前世ではあまり得意では無かったが、今生のハイスペックさのゴリ押しで低ランク帯を突破。そして中ランク帯からは、低ランク帯で積んだ経験に加えて有名配信者の対戦動画も見て勉強し、最高ランクの一つ下までなら到達できる腕前となった。

 

ただ最高ランク帯ともなると、こういった対戦ゲーム特有のセンスが必須となるのだろうか。昇格してもランクを維持できずに一つ下に戻されるという状況だった。ただ、こういったゲームにありがちなチャットの暴言や敗者煽りの行動といった「治安の悪さ」がヤチヨによって排除されるためか、KASSENは遊んでいて気持ちが良いゲームであった。

 

そういうわけだから、当然のように私は「超かぐや姫!」の主人公である彩葉の兄である朝日が所属しているプロゲーマーチーム「Black onyX」にも触れる事となる。

 

元々はKASSENの参考にと「Black onyX」のKASSEN動画を見始めたのだが、いつの間にか歌動画や企画ものの動画を視聴するようになり、ついには「Black onyX」の【ツクヨミ】でのライブにまで行くようになっていた。

 

前世でも女性ライバーよりも男性ライバーの方が見ている比率が高かった私だが、それはあくまで配信でプレイするゲームの傾向が同性の方が私の趣味と合致しているからであり、そこまで熱心なファンになっていたわけではなかった。

 

そんな私がお金に余裕があるとはいえライブに行こうと思うくらいなのだから、「Black onyX」は恐ろしいチームである。あれはファンサの鬼ですわ。朝日が扮する帝アキラは勿論の事、駒沢雷と駒沢乃衣もやばいですわ。

 

特に、乃衣は気まぐれで気分が乗っている時にしかファンサしないとか「超かぐや姫!」のキャラ説明では書いてあったけれど、それは根っからのファンサの鬼である帝や寡黙に見えて意外とノリの良い雷と比較したらの話でかなりファンサしてくれていると思う。

 

「Black onyX」のライブに参加した時、私が取れたチケットは所謂「アリーナ席」だったため周りは熱心な女性ファンばかりだった。それも当然と受け入れた上でライブチケットの争奪戦に挑んだわけで、覚悟はしていたがやはりアウェイな感じは否めなかった。

 

「Black onyX」は男性ファンもそれなりの割合で存在するのだが、こういうライブの場合男性ファンは会場に行くのではなく配信を見る方が主流のようだ。友人もライブは会場に行くのはダルいので有料配信のチケットを買って家で見ると言っていた。

 

そんなわけで、周囲をお姉さま方に囲まれる中学生男子という状況でペンライトを振っていた私だったが、ライブ終盤のMCの時に帝と私の目が合った。アリーナ席の前の方という視界の通りやすい場所ではあったが幸運なことだ。私は満面の笑みで周囲の邪魔にならない程度にペンライトを振ってみた。

 

すると帝は目を見開いた後、

 

「おい、雷! 乃衣! 男が居るぞ! 囲め囲め!!」

 

と言うや否や「Black onyX」の3人が舞台を降りてこっちに向かってくるではないか! 

 

3人がすぐ近くまでやってくるので周りのお姉さま方が黄色い歓声を上げて大変な事になっているが、「Black onyX」はそんなの関係ないとばかりに帝を先頭にずんずんとこちらへ歩いてくる。

 

随分と大事になったなと思っているとついに3人が…って本当に3人で私を囲むんかい! 

 

トライアングルアタックでもするつもりか! 周りにお姉さま方も空気を読んでスペースを作ってくれてるし! 

 

随分と統率が取れているファンですね!! 教育が行き届いているようでなによりです!!!

 

その後の私はテンパってしまって大したことは返答できずに申し訳なかったのだが、帝曰く「男のファンがこちらから見える所まで来てくれていて嬉しい」との事だった。

 

チケットの販売状況から男のファンも会場に居る事はわかるが、大抵は1階でも後方にいたり2階席だったりするので、彼らから見える位置にはいないのが常だったらしい。

 

そんな中で、中学生男子の私がアリーナの前の方に居たわけだから大変驚いたそうだ。"男の子みたいな女の子"の可能性もあるためアカウント情報を確認(帝が目を見開いたのは私のアカウントの公開情報を見るためだった)したところ、男であることが確定したため思わず囲んでしまったのだと笑いながら話してくれた。

 

予想外のファンサを受けて「Black onyX」の摂取量が過多となってしまった私だったが、なんと翌日にはこのライブでの出来事がネットニュースになり広範囲に拡散された。さすがに私のアバターの部分にはボカシが入って個人が特定できないように配慮はされていたが。

 

だが、ライブに来ている男が少ない上に、中学生男子はライブ会場ではツチノコレベルの希少さなのでわかる人にはわかってしまう。友人のみならず同級生にまで渦中の人物が私であることがバレてしまい、その噂は学校全体にまで広まってしまった。

 

そして一躍学校内の有名人となってしまった私は中学を卒業するまで「Black onyXの濃厚ファンサを受けたラッキーボーイ」として語り継がれる存在になってしまったのだった。どうしてこうなった…

 

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