未来知識で2回目の人生を無双する予定が即崩壊した上にネットミームとなってしまった件について   作:かにしぐれ

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超かぐや姫の小説版は未読です。
今後小説版を読んで映画だけではわからなかった設定を補完するかもしれませんが、拙作の主人公は映画のみの知識しか無い状態とします。

超かぐや姫って色んな意味で深い作品ですよね(沼に半分浸かりながら)


シュタイナー

想定外のアクシデントに見舞われながらも、私は【ツクヨミ】のおかげで今生を楽しく過ごせるようになったと思う。

 

ダンシングベイビーの件で自分が配信するなど一生御免だと思っていたものの、せっかく【ツクヨミ】に居るのだから自身も何かを「作る」側になってみたいと思うようになった私は、【ツクヨミ】内でフードアートを販売するようになっていた。

 

【ツクヨミ】はご存知の通りバーチャルの世界。そこでのフードとなると料理というよりは3Dオブジェクトと言った方が正しい代物だが、私は【ツクヨミ】内で販売したフードアートを現実でも再現してみたのだ。

 

【ツクヨミ】内でフードアートを販売する時に該当のフードを実際に料理している動画のURLを添付することで動画への導線を確保してみたところ、それなりの登録者数を得る事ができた。

 

尤も、料理動画では私は両手しか映らないようにしている。【ツクヨミ】ではアバターを晒してはいるものの、私の活動実態は「配信者」ではなく「動画投稿者」と言った方が正しいだろう。

 

私は「YACHIYO CUP」に出場するような事になる可能性は排除したいのだ。下手に目立つような事をするとダンシングベイビーの二の舞になりそうで怖いのだ。万全を期すのなら動画投稿もやるべきでは無いのだろうが、【ツクヨミ】に来てゲーム以外しないというのは勿体ないという思いが強かった。故に多少の事は見逃してほしい。

 

大丈夫、ダンシングベイビーはママ上のアカウントより投稿されている。だから、私のアカウントをいくら漁ろうともダンシングベイビーにはつながらない。だからこれくらいは大丈夫だ。

 

そんな風にツクヨミライフを満喫していたある日の事、ふと私はツクヨミエリアを上空から見たいと思った。さすがに映画の最後でバラされた「ツクヨミはパンケーキの形を模している」という事がわかるくらいの()()で見るのは不可能だろう。

 

だが、どうしても侵入可能な建物よりも高い位置からの画角でツクヨミ世界を見てみたいと思ったのだ。フードアートでツクヨミ世界をグラスに閉じ込めたようなパフェを作成したらぷちバズったのもあって、別のパターンを作りたくなってしまったのがこの衝動の原因だ。我ながらなんとも現金なものである。

 

善は急げと【ツクヨミ】内で飛行する手段を検索するが、私の希望に沿えるような方法は残念ながらヒットしなかった。ならば私の手で作るしかあるまい、というわけで飛行プログラムとステルスプログラムの二つを作成。

 

【ツクヨミ】内で空を飛ぼうと思い立った時は飛行プログラムだけを作成するつもりだったが、イレギュラーな方法で飛んでいる姿を他の人に観測されることで騒ぎになる事態を危惧した結果、他者からアバターを見られないようにするためのステルス機能を追加することとなった。

 

プログラムが完成した翌日、私はウキウキで【ツクヨミ】にログインして自作のプログラムを起動した。ステルス機能を作動させ準備は万端。はっけよい射出!とばかりに垂直に私のアバターは飛び上がった。

 

私のアバターは離陸後に制御不能となることもなく、【ツクヨミ】の夜空を飛び回ることができた。さて、ベストポジションを見つけ、この眼にその風景を焼き付けようと空を飛んでいると、

 

「おいたは、ダメだよ?」

 

という声が掛けられた。うん、これは非常にマズい気がする。やってしまってから気が付いたが、私のこの行動は不正プログラムを【ツクヨミ】で使用している事になるのではないか? まさかの規約違反でアカウントがBANの危機である。

 

今生の私は興が乗るとやらかす事が多いなと反省しつつ声がした方へ向き直ると、そこには案の定ヤチヨが居た。しかも今回は肩にFUSHIが乗っているので分身AIではなく本体の方である。これは運営から直々にお叱りを受けるやつですねわかります。

 

「すみません、出来心だったんです。ちょっと、ツクヨミを上から見たくて…」

 

こうなったらもうどうしようもないので、初手で謝罪をするしかない。私は身体を直角に折り曲げて頭を下げる。

 

「えーと。じゃあ、なんで姿を他の人には見えないようにしているの?」

 

そうすると、ヤチヨから少し困惑したような様子でステルスをしている事について問われた。そこで私は気が付く。これは飛行よりもステルス機能の方が問題視されているやつだと。

 

よく考えてみれば、ステルス機能はマズいですよね。(よこしま)な目的で使えちゃいますよね。例えばプレイエリア外(意味深)に対してのアプローチとか…

 

「それは空を飛んでいる姿を見られて騒ぎになるのを避けたかったからです。しかし、よく考えなくてもステルス機能は悪用の可能性を考えるとアウトですよね…」

 

私はそう答えると同時にヤチヨに自作のプログラムを渡した。これで、【ツクヨミ】のアップデート時にこれらが使えなくなるようにできるだろう。とにかく、私はこの自作プログラムを一切悪用する気は無い事を示してアカBANだけは回避しなくてはならない…!

 

とはいえ、【ツクヨミ】で最強の殺生与奪の権利を持っているのはヤチヨである。彼女が「滅っ!」と言ったら私は消え去るしかないのだ。我がツクヨミライフの行方はヤチヨの手のひらの上、俎板の上の鯉なのだ。

 

判決を下される被告人のような気持ちでヤチヨの反応を待っていると、

 

「【ツクヨミ】をクラックするようなプログラムは入ってないみたいだね。今回はヤッチョの権限で特別に許してあげましょう」

 

というなんとも慈悲深い沙汰が下された。もう私はヤチヨに足を向けて寝られないねぇ…。毎日五体投地してヤチヨを崇めなければならないかもしれない。

 

私は寛大な処置への感謝をヤチヨに伝えると、一度【ツクヨミ】からログアウトすることにした。ここから地上まで戻るよりも、再ログインして初期位置に戻る方が良いと判断したからだ。

 

再ログイン時の挙動についてはヤチヨにも確認したから大丈夫だ。再び私のアバターが空中に現れるという事態にはならないというお墨付きをいただいている。

 

そうして一度私は【ツクヨミ】からログアウトをする。ログアウトする寸前に何故かヤチヨが口を開きかけたように見えたが、きっと気のせいだろう。あれ以上私と話すネタなどないだろう。私は所詮、()()()()()()()においては脇役未満の存在なのだから。

 

だが、再ログインした私はあり得ない状況に陥ってしまう。

 

 

悲報:【ツクヨミ】に再ログインしたら、【ツクヨミ】内のヤチヨ専用のエリア(寝殿造り風の内装のタワーマンションとでも呼べば良いのだろうか、「超かぐや姫!」の終盤で彩葉が訪れた部屋)に居る件について。

 

 

これはあれだろうか。ヤチヨは私の所業を許すとは言ったがお説教はあるとかそういう事なのだろうか。それならば、ログアウトして去ろうとしていた私にヤチヨが声を掛けようとしていた件についても納得ができる。

 

ここは土下座でもして話が終わっていない内に勝手に去ろうとしたことを詫びるべきかと考えていると、

 

「せっかくだから、ヤチヨともう少しお話しませんか?」

 

そうヤチヨが言った。どうやら私は彼女に興味を持たれたらしい。私の何が彼女の琴線に触れたのだろうか…

 

とはいえ、この申し出を断る理由もない。むしろ向こう側から交流を求めてくれるのは「超かぐや姫!」のファンとしては願ったりかなったりである。

 

瞳を閉じて深呼吸して気分を落ち着けてから、私はヤチヨの申し出を快く受け入れたのだった。

 

 

 


 

 

 

それから、私とヤチヨは取り留めもない話をした。と言ってもヤチヨが私のことについて聞いて、それに私が答えるという形がほとんどだったが。

 

私の好きなもの、好きな創作物や音楽、食べ物についてだとか、「今まで生きてきた中で一番〇〇だったこと」についてだとか。流石に私の前世の話をするわけにもいかないので今生での経験に絞って答えてはいたが、どうしても前世と混線した内容を言ってしまうこともあった。

 

その結果、ヤチヨからは"年齢の割にやけに昔のまで体験したかのように話す変な子"だと認識されたようで、

 

「ナギ君って、本当はおじさんなんじゃないの~」

 

とヤチヨに言われてしまった。うるさいぞ、8000歳児め。

 

だが、ヤチヨの部屋のベランダで話すこの時間は悪くないものだった。ヤチヨは常にニコニコ顔で、おそらく余所行きの顔ではあったのだろうが、それでもこうして()()で話せるというは贅沢な経験だったと思う。

 

もし、仮に今日の事を彩葉が知ることになったら彼女は羨ましいと嫉妬するのだろうか、それとも正妻(もしくは正夫?)の余裕で自分はもっと凄い事をしているとドヤ顔で受け流すのだろうか、などと益体も無い事を考えて笑ってしまった。

 

笑うようなタイミングでも無いのに笑ってしまったのでヤチヨが不思議そうにしていたが、私は「少し思い出し笑いをしてしまった」と誤魔化すとともに、この場所から見下ろす【ツクヨミ】の景色をぼんやりと眺めた。

 

…ヤチヨは、最近「Remember」を生配信やライブでは歌わなくなった。視聴者からリクエストを受けても、「Rememberはいっぱい歌ったから、他の新しい曲を歌いたいな」といった感じでさらっと躱すようになっている。

 

ということは、もう彩葉は【ツクヨミ】に訪れるようになったということだ。「超かぐや姫!」の物語が本格的に動き出す、かぐやが地球にやってくる2030年も目前であるのだから、当然ではあるのだが。

 

ヤチヨの部屋という原作とあまりにも関係が深い場所に招かれてしまったからだろうか。転生してから今まであまり意識していなかった「原作」を強く意識してしまう。

 

「原作」は問答無用でハッピーエンドに向かうお話だ。主人公である彩葉がその超人的なスペックを己の意思で最大限に生かすようになってゴリゴリにゴリ押してビターエンドを否定してハッピーエンドまで持っていくお話である。

 

だから、私がそこに介入する余地などない。むしろ、何かをしようとする事の方が「余計なお世話」であり、避けるべきだと私は考えている。

 

でも、だが、しかし。原作でも「確定」していない事項ならどうだろうか。劇中の最後に彩葉の隣に揃った「かぐや」と「ヤチヨ」については、彼女たちがどういう存在なのか前世では色んな説があった。

 

有力な解釈の一つに、ヤチヨから「かぐや」の要素(魂?)を義体に移し、電脳生命体の「ヤチヨ」と実体を持つ「かぐや」に分離したという説があった。つまり、8000年を過ごしたヤチヨを「かぐや」と「ヤチヨ」の二つの存在に分けたという説だ。

 

だが、これが本当に完全無欠のハッピーエンドなのだろうか。確かに、この解釈なら8000年を過ごしたヤチヨは救われる。だが、かぐやがヤチヨになるというループは閉じられたまま永遠に続くと言って良い。

 

かぐやが8000年前に飛ばなければヤチヨが存在しない事になるから、そこについてはどうしようもないという理論なのだが、本当にそれで良いのだろうか。というか、それならヤチヨの義体を作るだけでは駄目なのだろうか。わざわざヤチヨをかぐやと分離する意味とは?

 

このかぐやとヤチヨのループを何とか解放し、タイムマシンが事故ってしまい8000年前に飛んでしまった「かぐや(=ヤチヨ)」と、80年後から無事に28歳になった彩葉の()()にたどり着いた「かぐや」の両方が存在する、そんな未来はあり得ないのだろうか。

 

否、断じて否。仮に無いのであればそういう未来を、そういう()()()を作れば良い。「未来は決まっている」、もしくは「過去を変えてしまうと未来が消滅してしまう」というタイムパラドックス理論とは異なる理論を展開したSF作品を私は知っているではないか。

 

そして、その作品は今生においてもリリースされていたことは確認している。残念ながら前世の分も含めての完全記憶のせいで「記憶を消してもう一度楽しむ」ということはできなかったものの、懐かしさの余り徹夜して読破したのは記憶に新しい。

 

あとは、あの作品の理論を実際に証明すれば良い。今の世界でも空想科学の域を出ない理論ではあるが、それは従来のタイムマシンも同じである。しかし、時間遡行を行う手段は既に()では確立されている。ヤチヨの存在こそがその証明だ。

 

ならば、彼女自身を手掛かりにすればよい。とはいえヤチヨが乗ってきたタイムマシンについて直接聞くわけにはいかない。彼女が時間遡行をしているという情報を私が知っている理由について説明がつかないからだ。最悪ヤチヨから最大限に警戒されて【ツクヨミ】から永久BANされる可能性まである。

 

だが、好きな作品という話題の話の流れでその理論があり得るものであるのか、また証明するにはどの分野を突き詰めれば良いのかを聞けば、何らかの答えをくれるのではないだろうか。

 

「ヤッチョよくわかんな~い」とはぐらかされる可能性も大いにあるが、ダメで元々だ。それに、仮に私がたった今思いついたこの計画が頓挫したところで、彩葉の方に何か影響が出るわけではない。あくまで私の方はサブ、あるいは補完的なものである。

 

ならば当たって砕けろだ。

 

「ヤチヨ。さっき話した好きな作品の中の話なんだけどさ*1

 

と私は切り出した。

 

「タイムマシンと、"世界線"っていう概念、この世界に存在すると思う?」

 

そう私が続けたとき、ヤチヨの笑顔の仮面が一瞬だけ剥がれた。

 

 

さぁ、ここが正念場だ。

 

 

 

 

*1
敬語が飛んでいるのはこの短時間でそれなりにヤチヨとは打ち解けたからである。ヤチヨの方から「敬語は禁止だよ?」と禁止されたからでもあるのだが。




シュタインズ・ゲート、好きなんですよね。
秋葉原のラジオ会館が古い時のお話なので、もう10年以上前になるんですよね…
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